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27.内調局員の微妙な嫌がらせ
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第二層から第一層に向かうチューブの入り口では、数名の管理局員が気を失って倒れていた、ということで人だかりがしていた。
正確に言えば、それを発見し、その場の捜索をしている数名の管理局員と、大多数の野次馬である。
その野次馬の中に紛れ込み、内調局員達は車から降りて、合流した。
「一体何があったんですか」
とキムは人懐っこい口調で、背伸びをして見ていた物見高い中年女性に向かって訊ねる。
「いやね、何かこのチューブの出入りを管理する局員さん達が、変な倒れ方していたっていうんだよ」
「変な倒れ方?」
「何か首に巻き付けられたような…… でも別に命に別状はないっていうし……」
「首に」
ありがとね、と軽く礼をいい頭を下げると、中年女性はにっこりと笑い、油で染みのできた手をひらひらと振った。キムは振り向かなかったので、その女性がその後にどんな表情になったのかまでは気付かなかった。
そして内調組に近づいて訊ねる。
「あれは、あんたらの仲間のせいか?」
「人聞きの悪いことを言わないでよ」
ニイはにっこりと満面の笑みを浮かべる。殺すな、と言ったというのはこのことか、とキムは思う。一応連絡員は、シャンブロウ種というものがどういうものかは知っていた。知識として、知っていた。
だが実際見たことはない。それは口に出さない類の事項だ。そんな機密事項をべらべらと喋ってしまうなぞ、一体この内調局員は何を考えているのだろうか、とさすがのキムも思わない訳ではない。
「さて行くか」
物騒な笑みを口元に浮かべると、鷹はポケットから薄い手袋を出すと、それをきゅっとはめた。
「行くって……」
「俺達の任務は、情報を得ることだ。他の何でもない。何処かに居るはずの居る本物のエビータを探し出し、明らかにすること。それが俺達の今回の役目なんだよ」
「それで『目』を送り込んだな」
「その時本物のエビータは、それを楽しんで見ているはずだ。それに奴もそろそろお腹を空かせている頃だろうからね。君も来るだろう? 大切な友達が貞操の危機だよ」
そしてにやり、と鷹は笑う。
「なるほど」
キムはようやくこの内調局員が自分をからかうのを楽しがっているのだ、というのに気付いた。
自分に、Mが何をしてきたのか、など説いても無駄なことを、この男は知っている。知っていて、わざわざ突きつけているのだ。キムにとって、Mがどんな者であり、何をしてきたか、そして何をするつもりなのか、ということは、どうでもいいことなのだ。
連絡員にとって、盟主はその存在だけで絶対だ。
キムにとってMは、この世界にひきずり戻してくれた、たった一人の人間なのだ。
どんな策略をもって何をしてかすつもりなのか、など幾らでも疑問を持とうと思えば持てるのだ。実際、そんな謎すぎる命令は多すぎるし、結果として起こしたことが決して人道的に許せることなのか、と言われれば判らなくなることだって多い。だがそんなことは、どうだっていいのだ。
それは自分の愛人にしても同じだろう。そこに意味は無いのだ。
そしてそのことをこの内調局員は知っていて、わざわざ突きつけるのだ。……何故か。
キムは考える。わざわざ、何故今何で俺に。
*
背後で布のさわ、とずれる音がした。幕が上がった。
布は降りたのに、幕は上がったのだ、と彼は思った。
入り込んだ白い幕の中は、さらに幕が広がっていた。いや、雲だ、と彼はこんな折りであるのに思っていた。広い、天井の高い部屋全体にやはり白い、薄い布が垂れ、広がり、敷き詰められている。
一体何処に光源があるのだろう、と思うくらい、その広い部屋の中は明るかった。だが何処に灯りの元があるのか判らない。Gとオリイは兎にも角にも、足を進めるしかなかった。
素足に触れる床は、今まで歩いてきたところと同様、板張りである。生の樹木からできたものである。
あの香りは一層濃くなっていた。何処から来るものだろう、と彼は視線をめぐらす。
……花の姿が見えた。
白い布の陰に、白い、細かな花がレースのように広がっている。だがこの花に香りが無いことは彼も知っている。それにこの香りは花よりはむしろ木の香だ。甘すぎる、毒々しい匂いに混じった、何処か奇妙に清々しい香りは、木のものだった。
「来たか」
不意に男の声がした。
その声の方を向く。ありふれた声だ、と彼は思う。薄い布の向こう側に、いつの間にか、人の姿があった。
「……お呼びに預かりまして……」
彼は語尾をぼかす。さて、とひとまず疑問は棚に置く。
「話は聞いている。こちらに来るがいい」
正確に言えば、それを発見し、その場の捜索をしている数名の管理局員と、大多数の野次馬である。
その野次馬の中に紛れ込み、内調局員達は車から降りて、合流した。
「一体何があったんですか」
とキムは人懐っこい口調で、背伸びをして見ていた物見高い中年女性に向かって訊ねる。
「いやね、何かこのチューブの出入りを管理する局員さん達が、変な倒れ方していたっていうんだよ」
「変な倒れ方?」
「何か首に巻き付けられたような…… でも別に命に別状はないっていうし……」
「首に」
ありがとね、と軽く礼をいい頭を下げると、中年女性はにっこりと笑い、油で染みのできた手をひらひらと振った。キムは振り向かなかったので、その女性がその後にどんな表情になったのかまでは気付かなかった。
そして内調組に近づいて訊ねる。
「あれは、あんたらの仲間のせいか?」
「人聞きの悪いことを言わないでよ」
ニイはにっこりと満面の笑みを浮かべる。殺すな、と言ったというのはこのことか、とキムは思う。一応連絡員は、シャンブロウ種というものがどういうものかは知っていた。知識として、知っていた。
だが実際見たことはない。それは口に出さない類の事項だ。そんな機密事項をべらべらと喋ってしまうなぞ、一体この内調局員は何を考えているのだろうか、とさすがのキムも思わない訳ではない。
「さて行くか」
物騒な笑みを口元に浮かべると、鷹はポケットから薄い手袋を出すと、それをきゅっとはめた。
「行くって……」
「俺達の任務は、情報を得ることだ。他の何でもない。何処かに居るはずの居る本物のエビータを探し出し、明らかにすること。それが俺達の今回の役目なんだよ」
「それで『目』を送り込んだな」
「その時本物のエビータは、それを楽しんで見ているはずだ。それに奴もそろそろお腹を空かせている頃だろうからね。君も来るだろう? 大切な友達が貞操の危機だよ」
そしてにやり、と鷹は笑う。
「なるほど」
キムはようやくこの内調局員が自分をからかうのを楽しがっているのだ、というのに気付いた。
自分に、Mが何をしてきたのか、など説いても無駄なことを、この男は知っている。知っていて、わざわざ突きつけているのだ。キムにとって、Mがどんな者であり、何をしてきたか、そして何をするつもりなのか、ということは、どうでもいいことなのだ。
連絡員にとって、盟主はその存在だけで絶対だ。
キムにとってMは、この世界にひきずり戻してくれた、たった一人の人間なのだ。
どんな策略をもって何をしてかすつもりなのか、など幾らでも疑問を持とうと思えば持てるのだ。実際、そんな謎すぎる命令は多すぎるし、結果として起こしたことが決して人道的に許せることなのか、と言われれば判らなくなることだって多い。だがそんなことは、どうだっていいのだ。
それは自分の愛人にしても同じだろう。そこに意味は無いのだ。
そしてそのことをこの内調局員は知っていて、わざわざ突きつけるのだ。……何故か。
キムは考える。わざわざ、何故今何で俺に。
*
背後で布のさわ、とずれる音がした。幕が上がった。
布は降りたのに、幕は上がったのだ、と彼は思った。
入り込んだ白い幕の中は、さらに幕が広がっていた。いや、雲だ、と彼はこんな折りであるのに思っていた。広い、天井の高い部屋全体にやはり白い、薄い布が垂れ、広がり、敷き詰められている。
一体何処に光源があるのだろう、と思うくらい、その広い部屋の中は明るかった。だが何処に灯りの元があるのか判らない。Gとオリイは兎にも角にも、足を進めるしかなかった。
素足に触れる床は、今まで歩いてきたところと同様、板張りである。生の樹木からできたものである。
あの香りは一層濃くなっていた。何処から来るものだろう、と彼は視線をめぐらす。
……花の姿が見えた。
白い布の陰に、白い、細かな花がレースのように広がっている。だがこの花に香りが無いことは彼も知っている。それにこの香りは花よりはむしろ木の香だ。甘すぎる、毒々しい匂いに混じった、何処か奇妙に清々しい香りは、木のものだった。
「来たか」
不意に男の声がした。
その声の方を向く。ありふれた声だ、と彼は思う。薄い布の向こう側に、いつの間にか、人の姿があった。
「……お呼びに預かりまして……」
彼は語尾をぼかす。さて、とひとまず疑問は棚に置く。
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