〈完結〉夫を亡くした男爵夫人、実家のたかり根性の貧乏伯爵家に復讐する

江戸川ばた散歩

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男爵未亡人は語る

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 何処から話したらいいかしら。
 そうね、まずはあの事件のことからかしら。
 夫のブルックスが亡くなったのは、今から二ヶ月ほど前のことだったかしら。
 ああ、もうこれは本当に信じられない程のことだったわ。
 新聞にも出ていた? 
 そうね、私も聞かれたりしたけど、見ていた人も多くて、そっちにもずいぶん話を聞いたらしいから、かなりあの記事は正確だったんじゃないかしら。

 夫はその日、銀行に用事があったの。
 事業の方も順調だったから、その関係でね。
 だから金融街の方へと馬車で出向いていたのね。
 で、その後すぐに家や会社には戻らず、久しぶりの街中を少しばかり自由にふらついていたという訳。
 銀行での話が早く終わったからということもあったんでしょうけど。
 そうしたら、どうも雲行きが怪しくなってきて。
 夫は慌てて店の一つに入ったけど、なかなか止む様子もなかったのね。
 辻馬車を呼んだのだけど、やっぱり皆考えることは同じらしくて、なかなか来なかったのよ。
 それで、ようやく御者が呼びに来たのだけど、道がやや立て込んでいたから、多少濡れることを我慢してそこまで走ることにしたのね。
 夫は学校時代スポーツマンとして鳴らしたものだから、フットワークが軽いひとだったの。
 ただ、大粒の雨に、建物風ってのがいけなかったわ。
 視界が悪くて、あのひとの眼鏡も濡れてしまうし、建物風で、帽子がふわっと舞い上がってしまったの。
 あっと思った時にはもう遅くて、帽子は道の真ん中の方へころころと転がって行くばかり。
 ほら、貴女も判るでしょう? 
 帽子はきちんとした店で作らせた場合、一人として同じものが無いのよ。夫もたいそう大事にしていたわ。
 だからつい、足が出てしまったのね。
 ただやっぱり視界が悪かったのよ。
 雨に濡れた眼鏡を取ったら、彼は本当に周囲がほんやりとしか見えなくて。
 そこに、濡れた路面に、いつもより車輪の滑りが良い馬車がやってきてしまったの。
 だから何って言うか。
 それ自体は本当に不運なのよ。
 誰がどう悪いってものじゃないわ。
 雨が降ったから? でもそれはよくあることよ。
 風が吹いたから? 
 だったら建物を皆低くしなくちゃならないわ。
 街の建物が高くなっていくのは、狭い街中では仕方がないことなのよ。
 それに、そんな天気だからと言って、風が吹くとは限らないでしょう? 
 馬車にしたって、急に夫が飛び出したのに気付いて、すぐに止めようとしたのよ。
 でもそう、さっきも言ったけど、雨だったのよ。
 馬もいつもの調子ではなかったし、車輪もすぐに止まる訳でもない。
 ともかくそれで、夫は跳ねられてしまったという訳。
 ……よくあると言えば、よくある話よ。
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