女性バンドPH7④やっていけそうなバンドのメンバーを集めるのは難しいもんだ。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
28 / 30

第28話 「それで『ロックバンドのリーダー』の第一印象は如何でしたか?」

しおりを挟む
「HISAKA、客…… あんたビジネスマンにお知り合いいたの?」

 ドラムのセッティングの最中、タイセイが呼んだ。HISAKAは何だろな、とつぶやきながら出口の方へ向かう。

「今日はあの子こないねえ」

 チューニングをしていたTEARは、立ち位置にガムテープを貼っていたMAVOに言う。

「ん?」
「あんたがエナちゃんと付けた方」
「さあどう出るかな」

 MAVOは首を傾げる。

「吉と出るか凶と出るか」
「吉の方がいいなあ…… 美味しいお茶は心のオアシスなのよっ」

 何と言ったものか。とりあえずMAVOはTEARに向かって渋茶を呑んだような表情をした。

「あんた別にあの子嫌いって訳じゃなかったんだ」
「別に嫌いなんて最初から言ってないじゃない」
「まあそうだけどさ」
「似ている奴が要領悪いと腹立つじゃない。それ」
「似ているかね」

 べん、と電気を切ったベースが音を立てる。

「似てるよ」
「そうは見えないけどね」
「HISAKAとP子さんが似てるくらい似てるよ」
「それっていまいちたとえが悪いぜ」

 TEARは肩をすくめた。



「PH7の代表のHISAKAと申しますが…… 失礼ですがどなたでしょう?」

 HISAKAは目の前にいる男に訊ねた。姿を認めた瞬間、自分の所へやってきそうなこの年代、この類の男を自分の記憶や予想される範囲かにピックアップしたが、そのどれも当てはまりそうになかった。

「タカハシトモコの父親です。娘がどうもいろいろご迷惑を」
「いえ、別に迷惑など。こちらこそお世話になっています」

 軽くHISAKAは会釈する。

「少しよろしいですか? さほど時間は取らせませんから」

 HISAKAは時計を見て、

「三十分以内でしたら。まだ楽器のセッティングがいま一つなものですから」

 なるほど、とトモコの父親はうなづいた。



 オキシドール7に最も近い喫茶店は「シタール」と言う。その名の通り、インドの楽器が店の所々に置かれている。

「……と言うことなんです」

 彼は先日の自宅で起きた会話を説明した。

「正直言って、あれがああ反論してくるとは思いませんでしたのでね。向こうが正面切って立ち向かってくるなら、それなりにこちらも知らないで済ませる訳にはいかないと思いましてね」
「そうですね」

 HISAKAはコーヒーを含む。濃いのでミルクではなく牛乳がついてくる。非常に熱くしたものに好きなだけ注ぐ。タイセイあたりはそれじゃカフェオレだ、と言うが、まあ悪いものではない。猫舌の相棒は結構喜んでいる。

「はっきり言いまして、私は今のロックについては軽蔑しているクチなんですよ」
「はい」
「私には騒音にしか聞こえない。昔のビートルズくらいならまだ判りますが…… 当時は結構好きでしたからね…… 今のは音ががーがー鳴っている分にしか聞こえないんですよ」
「そうですね」
「と言うことはあなたもそう思ってはいるんですか?」
「客観的にみて、そういう風に聞こえる人もいる、ということは認識しています。あたしだって数年前まではそうでしたし、あたしにすら騒音にしか聞こえない音だって氾濫してはいるんですから」
「ほお」
「でもその騒音を好きな人もいる訳で」
「そこらがよく判らない」
「単純に…… こう言ってしまうと失礼かもしれませんが、世代のずれ、とか慣れ、というものも確かにあると思います。タカハシさんがビートルズを好きだった若い時代、やはりあれを騒音だと言った人々は多かった訳ですし、当時の大半の文化批評家はあれが一過性のものだ、と評していました」
「確かに」
「更に昔に向かえば、戦前なぞ、あのようにドラムが曲の中に入ることすら大半の日本の人は予想もできなかった訳ですし、ジャズが発祥するまでの欧米だって同様です」
「つまりはそういう時代だ、と」
「と、あたしは思っています」
「詳しいですね」
「そんなことはないですよ。自分のしていることを正当化しようと思うと、ついつい理論武装するための知識というものを蓄えてしまう、それだけです」
「なるほど。では単純に、トモコの世代はあれが音楽として聞き取れる世代だ、と」
「世代半分、個人の資質半分、でしょうけどね」
「そうですか」

 HISAKAは残りのコーヒーを飲み干す。

「それで『ロックバンドのリーダー』の第一印象は如何でしたか?」

 そう来たか。彼は微かに笑った。

「正直言って戸惑っていますね」
「そうですか?」
「まずあなたが女性ということに驚いた。そして言葉に驚いた」
「言葉ですか」
「結構しっかりした方だと思われる」
「ありがとうございます」

 にっこりと笑いながらHISAKAはそれにも軽く会釈する。

「ほらそういう所ですよ。それにずいぶんと勉強家のようだ。興味本位ですがいいですか? HISAKAさん、あなたは何故このようなバンドをやっているのですか?」

 このような、ね。HISAKAはその言葉の裏を考える。

「まだロックが騒音だった昔はピアニストを目指してました。音大も途中まで行ってたし、マトモにやっていれば何処かの楽団に入ってたまではないですか」
「それは素晴らしい」

 なのに何故? と含まれている。ならばその問いに答えてあげましょう。別に自分のことなど知られたって困りはしない。

「だけどつまらなくなったんですよ」
「つまらない? クラシックがですか」
「何て言いましょうね」

 HISAKAは前に落ちてきた髪を軽くかきあげる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...