〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩

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180 発表会来たる①呼び寄せるポスター

 そして春未だ浅き頃。
 発表会当日。


 
 会場である「123」では、一ヶ月ほど前から「テンダー嬢の工房の春夏新作発表会」を知らせるポスターが大きく貼られていた。
 普段から演劇が「123」で行われる時にはポスターが貼られる。
 チケットの売買も取り扱っている。
 もともとがホールである「123」の壁はシンプルに広く、ポスターが映える。
 さてそうなると、ポスターの作り手にとっての腕の見せ場ともなる。
 例えばヒドゥン達の劇団が依頼している画家イーダ・シャラートは、第五の後輩の一人で、肖像画で糊口をしのいでいた。
 だが正確さにもう一筆客の望む姿、というものを載せなくてはならない肖像画ばかり描くことに彼女は辟易していた。
 続けていたのは生活と、肖像画を描くことで一応の技量の安定ができたからである。
 だがもともと彼女は絵画と並行して建築の硬質な美に惹かれる者でもあった。
 図面の幾何学的な美しさにときめく者でもあった。
 そんな彼女の思いを「宣伝さえ強烈にすることができれば画面の手段は問わない」という依頼は叶えてくれた。
 直線と曲線、製図にも似たそれをシンプルな色彩、それに文字で構成していくそれは、「123」に来る客の度肝を抜いた。
 これが広告作家としての彼女の始まりだった。
 依頼人の思いを想像して当人より良くしなくてはならない、という微妙なものよりも、分かり易く不特定多数に訴えるものを、という依頼は彼女にとって逆に表現の自由度を広げた。
 宣伝さえできれば良いのだ。画面がどれだけ実験的であろうと。
 いや、それこそ目を引くことが一番なのだから、どれだけ実験してもいい。
 彼女ははりきった。
 当初は本当に文字だけだったのに加え、次第にそこに極端に簡略化された演目をデザイン化して入れ込むようになる。
 時にはポスター自体がこっそり取られる様なことにも。
 そして評判を聞いた店や企業が彼女に声を架ける様になった。
 彼女の描き方を真似る同業者まで出る様になり、新聞の広告欄のデザインが次第に変わり始めた――
 そんなイーダ・シャラートに今回テンダーはポスターを頼んだ。

「発表会ですか!」

 テンダーがヒドゥンに連れられて彼女の元に出向いた時、その身に付けていたのは男性用の大きなズボンを思い切り腰で締め、足首の上辺りで裾を適当に切ったものだった。
 素材は作業者用の厚手の綿。
 元々は濃い藍の色だった様だが、何度も洗濯を繰り返したのか、色が剥げまくっている。
 その上に取れない絵の具がそのままで。
 それはそれでテンダーは綺麗だ、と思った。

「どんな内容ですか? 何を押し出したいですか?」
「普段の営業と並行してするの。お茶一杯でも大丈夫。そこでうちの工房の新作をただ見てくれること、それが大事なの」
「それだけですか?」
「花道の客席に近いところまで来てもらう」
「どんな服です?」
「たとえば」

 画帳とサンプル服を見せる。
 そして一言、失礼、と言いイーダ嬢の腰に鮮やかなプリント地のエプロンを真巻き付ける。

「それで回ってもらえますか?」

 ふん? と言いつつイーダはくるりと回る。
 プリントされた大きな花がその場に鮮やかに広がった。

「そんな感じ、だけでなく色んな鮮やかなスカートが今回はひらひらとします。ひらひらしない時にはそれはそれで」

 イーダはしばらくひらひらを楽しんでいたが、ふと。

「蝶のプリント地のこれはありますか?」

 そう問いかけてきた。

「蝶…… もあったわ。これかしら」

 画帳を開く。
 イーダは何度も頷く。

「南国の花、鮮やかな色、ひらひら……」
「あ、そのエプロンは差し上げます」
「そう? いいの?」
「お気に召されたようなので」
「わかりました?」
「汚せないけど」

 そう言ってポスターの問題は解決した。



 後日「123」に貼られたポスターの図案は、簡略化された花と少女と蝶をモチーフにしたものに一言「見るべし!」とい言葉が添えられていた。
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