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59.吉屋信子の戦前長編小説について(15)昭和5年から支那事変までの作品(13)~双鏡

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 前回が「講談倶楽部」の作品、今回は「キング」に載った話です。
 連載は一年半。結構長い。
 どっちかというと、この話が載った昭和初期、ジャンルの比重として、「講談倶楽部」にちゃんばら~時代もの、「キング」に探偵小説とか~の当時の現代モノが多かった感が。「キング」にももちろん時代小説は載ってましたが。

 んなとこに一度だけ載った長編ですが、吉屋信子が「吉屋信子」であるぎりぎりのとこのサスペンスかなあ、というものです。

 生き別れの双子ものですね! 
 戦後の少女マンガにも散々出ました定番ネタですね!
 少女小説のほうでは「乳姉妹の取替え」だったり、貴種流浪譚的なものもあったけど、大人ものでそれを露骨にやったのはこれですな。
 何だかんだでこのかた、「どうなるどうなる」と読ませるひとなので、面白く読んだんですが、残念ながら、これを収録した「選集」作者の言葉では、「こういう仕掛けのある話はこれまで」と言ってるんですな。
 いやそっちのほうが向いてるんですがアナタ、と本当に思ったんですがねえ。

 登場人物。
 双子さんは片や元少女囚、片や現在留学中の令嬢。
 流れは以下。

https://plaza.rakuten.co.jp/edogawab/diary/201806170005/

 だからこの最後の、「身を引く」あたりが吉屋信子の人物造形の戦前の限界だったかなあと。
 戦後の短編とかでは、なかなかな人でなしも出てくるんですがね。

 しかし「岩窟王/モンテ・クリスト伯」の影響で復讐を~というのは、やっぱり興味深いですな。
 このあたりも既にこの話は有名だったんだねえと。黒岩涙香の訳! 岩窟王ってタイトルがまた。
 でも放火すればどうなるか、ということは思いよらなかった模様。
 で、復讐は成功したけど、結局「本当の令嬢/はじめて会ったそっくりの姉妹」への罪悪感で、というのは逃げだなあ、と思うんだよな。

 いやまじ思うんだけど、向き合って対決して皆でいい方向に、というの無いんだよなこの人の作品。あんまり。
 全くないわけではないけど、どうも結末が「私が身を引けばいいんだ……」っていう、ある意味逃げだし勝手なんだよな……
 この話の霞の場合、やっと娘を見つけた育ての母も、姉妹が居てうれしい潮もおいていくんだけど、それでその人達が幸せになれるかっーの。

 そういう傾向がなあ。
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