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60.双鏡/美しき女囚人

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 で、別口で書いたこの作品についてもここで。



―――が、主人公です。

 正確に言えば、冒頭で女囚だった主人公が、出所後すぐにトラブルに巻き込まれて、まあともかく一生懸命ある金持ちの相続人である令嬢に、祖母すら間違えるほど「そっくり」なひとに、成り替わるべく行動していく話です。
 ただそこでアレが出てくる。
 「実は……!」
 ってアレですよ。



 まずは女子刑務所から始まります。
 吉屋信子は女囚刑務所に以前、『主婦之友』の取材で行ったことがあります。その辺りからテーマをもってきたと。
 掲載誌は『キング』。婦人雑誌ではなく、講談社の一般向け娯楽雑誌です。吉屋信子にとっては唯一のこの雑誌での連載でした。

 美しい女主人公・村上かすみさんは「九十八号」として紹介。彼女の罪状は「放火」です。
 奉公先の息子に心も身体も弄ばれた挙句捨てられた彼女は、恨みでもってその屋敷に放火。
 未遂に終わって捕まって、刑務所内では模範囚。それで二年で出られることに。
 ちなみに一緒に出る予定の「六十二号」は堕胎の罪で収監されてました。
 彼女は親に売り飛ばされて、「あいまい屋」に。
 で、一晩に三人客を取る様な状態にされてしまい、果てに誰のか分からない子供ができてしまいました。
 で、業者は無理やり薬を飲ませ堕胎させてしまったと。だけど業者は発覚すると、彼女に情人ができたから、と言って罪を押しつけてしまった訳です。

 「海の極みまで」の時に書いたと思いますが、堕胎は犯罪でしたから。この時代。

 さて出るはいいけど、父親は既に死亡、和歌山にいるはずの母親は行方不明ときた。
 ということで、「六十二号」お蝶に甘えて東京へ出ようと決意。
 そもそも彼女は和歌山を出奔して東京で奉公していた訳です。
 母親は最初の夫と死に別れると、今度は酒飲みな男とくっつくのですが。
 この男が霞さんにセクハラをしまくるので、
「まるで畜生のやうな人と思ふと、一日も家にゐるのが恐しくて」
 貯金を持って出奔したと。
 さて東京に出てみたら、お蝶の勧めてくれた場所は既に無く。
 で、そもそも奉公先でひどい目にあったせいで刑務所行きとなった訳で。だからもう奉公には出たくない。さりとてカフエーの女給にもなりたくない。
 どうしたものか、浅草の観音さまに祈っていた時に、ことは起こったのであります。
 一人の老貴婦人が、彼女の手を取って涙します。

​「うしお! 潮、お前はまあどうして此処に?」​

 これが霞さんの転機となります。

***

 でまあ、霞さん、潮さんになりかわって、自分の復讐もするし、好きな人もできるだけど、その後本当に自分がその身代りの彼女の双子だったことが分かるんですねー。
 それで育てのお母さんが出てきても、実のお姉さんが優しくしてくれても身を消して、どうやら自殺した、という展開。
 何というか。
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