〈完結〉暇を持て余す19世紀英国のご婦人方が夫の留守に集まったけどとうとう話題も尽きたので「怖い話」をそれぞれ持ち寄って語り出した結果。

江戸川ばた散歩

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22 エッセン文学博士夫人マーゴットが語る①

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 あら、ヘンゼルとグレーテルと言えばグリム童話ですね?
 ええ、私も読んだことありますのよ。
 それもいいですが私はアンダーソンの方が好きですわね。
 特に「赤い靴」とか「パンを踏んだ娘」とかは怖くていいですわね……
 そう言えば、その「赤い靴」みたいなお話は聞いたことがあるんですのよ。
 あのお話、貧しい少女の靴が常にぼろぼろなのをまず靴屋のおかみさんが赤いラシャ地で靴を作ってやるってとこからなんですよね。
 で、この時点の赤い靴は、まだ幸運を呼んで来るものなんですよ。
 だって、実の母親の葬儀に、ああいう場所では黒い靴でないといけないのは当然でしょう? 
 だけど主人公のカーレンはそれしかないから赤い靴を履いていって。
 それがきっかけで、裕福な老婦人に引き取られるんですもの。
 だけどそこで一度贅沢を覚えてしまった彼女、よりによって堅信礼の時用にと靴を用立ててくれる時に、エナメルの赤い靴を買ってしまうのね。
 その老婦人が目が悪いから、エナメルがぴかぴかか? くらいしか聞かないの。
 そもそもその老婦人、赤い靴を買ったなんて思いもしなかった訳よ。
 それをまあ履いて行くから、大騒ぎ。
 そのうち老婦人が病気になっても、ダンスに赤い靴を履いて行く様になってしまって。
 そしたらとうとう脱げなくなって!
 病気の老婦人のところにも帰れなくなってずっと朝から晩まで踊り続ける呪いがかかってしまったのね。
 それで途中、老婦人のお葬式をしているんだけど、それにも参加できないの。
 で、とうとう首切り役人のところで足首を切ってもらって、何とか踊るのは止められるのね。
 首切り役人も気の毒に、と義足と松葉杖作ってやって送り出す訳よ。
 そして改心したカーレン、教会で働く訳。 
 ただそれで不思議なのは、最後が神様に許された、と感じた時に胸が一杯になって死んでしまう…… だったかしら。
 喜びの絶頂で死んでしまう感じなのね。
 何っか私、そのあたりがどうも、と夫に言ったことがあるんだけど。
 まあ教訓入っているから仕方ないね、とは言われたのね。
 で、それに似た話ってのは、その夫の学校時代の友人のお嬢さんなんだけど。
 夫の友達ってのは、何というか…… 浮世離れしたひとが結構多いのよ。
 イヴリン様のお話にあったほら、画家氏やフルート氏が揃ってる様な……
 ただ、そのお友達自体は、そういうのをちゃんと趣味として、お仕事はきちんとやっている方なのね。
 ただそこのお嬢さんがね……
 カーレンじゃないけれど、素敵な靴がある、というと飛びついてしまう様な子だったというのよ。
 しかもダンスが大好き!
 それもワルツとかじゃなくって、ギャロップだのマズルカだの、まあばたばたと騒がしいものばかり!
 舞踏会の都度足をくじいちゃ、また出かけて行くって繰り返しですのよ。
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