〈完結〉暇を持て余す19世紀英国のご婦人方が夫の留守に集まったけどとうとう話題も尽きたので「怖い話」をそれぞれ持ち寄って語り出した結果。

江戸川ばた散歩

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23 エッセン文学博士夫人マーゴットが語る②

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 ほら私達のドレスって重いでしょう? 
 ねえローズマリー様、そちらのものとは大違い。
 だけど足はよく動きましたのよ、シャーロット様、そんなにつぼまっておりませんもの。
 裾をわさわさとさせて、ひたすら踊り狂う娘というのは案外おりましたのよ。
 ところでそのお嬢さん、少し東洋趣味のお友達がやっぱり居ましてね。
 そこで東の清帝国の女性の写真を見せてもらったのですよ。
 貴重なものだ、ということでね。
 するとびっくり。
 もの凄く足が小さいんですの。
 細いズボンの下の足は、自分達が高いかかとの靴を履いたのと同じくらいで。
 それで歩けるの? と聞いたらしいんですが、さすがにそこまで知ってる者は無かった様で。
 さあそこでお嬢さん、何故かその写真にある様な靴が履けないものか、という思いに取り憑かれてしまったのですね。
 まあブリジット様とか、後にはご存じでしょうけど、向こうの女性のそれって、ほんの小さな娘の頃から足をまとめにまとめて、足自体を靴の様な形に変形させてしまうんでしたわよね。
 だけど当時の彼女はそんなこと知りませんから、伝手をたどって向こうの靴を取り寄せて、それに近い形のものを作らせるんですね。
 そしてそれに自分の足が入らないか、と努力する訳ですよ。
 無理に決まってるじゃないですか!
 向こうの女性だって、あの足は、歩くも踊るも無し、逆に歩かせないためのものだったということですのよ。
 だけど彼女はその小さい足で踊ったらさぞ可愛らしいだろうな、と思ってしまったんですって。
 だったらそれこそ、バレエを習った方が良かったのですよ。
 だってあれでしたら、足そのものでなくてつま先だけで踊るでしょう? 
 そりゃあ足首を見せるなんて、はしたないとは思いますけど、……その後彼女がしたことに比べれば。
 私は先ほどアンダーソンの赤い靴の話をしましたでしょう? 
 童話って残酷ですわね。
 でもグリムの方など、昔むかしの話の採話ですから、もっとえげつないものもあるんですのよ。
 灰かぶりにしたって、足が小さくない姉達が靴を合わせるにどうしました?
 お妃になればもう歩かなくていいよ、と指だかかかとだかを切ってしまうんですよ?
 まあそれで血がにじんであふれて気付かれるんですがね。
 ええそう。
 赤い靴ですのよ。
 彼女、何処かで一本ネジが飛んでしまったのですね。
 とっても綺麗な纏足靴を真っ赤に染めてしまった、ということなんですよ。
 ……見つかった時には、赤い靴に見えたんですって。
 元々は刺繍が美しい、淡い色の靴だったのに、と……
 結局それ以来、彼女は踊ることは全くできなくなったってことですのよ。
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