〈完結〉暇を持て余す19世紀英国のご婦人方が夫の留守に集まったけどとうとう話題も尽きたので「怖い話」をそれぞれ持ち寄って語り出した結果。

江戸川ばた散歩

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24 ウェブル伯爵夫人ポーレットが語る①

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 童話、で怖い、ですの……
 まあそれを言ったら私なぞは、「眠りの森の美女」ですわね。
 あれは結構めでたしめでたしで終わってると思われてますが、グリムの前、ペローが作った時には、王子と結婚した後のことが出てきますのよ。
 王女は王子と結婚して嫁いでいって子供を儲けるんですよ。
 その後父王が亡くなって、王子は王になって茨姫は王妃になるんですね。
 ところがこの夫の母が実は魔女だったんですよ。
 で、夫の王が遠征で留守の時に、ある日色んな肉を食い飽きたから、孫が食いたいと言うんですね。
 そこで部下は仕方が無いので子供は逃がして、できるだけ柔らかい子ヤギだったか…… そういう肉を代わりに出すんですよ。
 それで終わればいいのに、今度は王妃、姫の肉を、とまた言うんですね……
 で、そこで子供が殺されたなら自分も、と言い出す王妃、元姫ですけど、やはり助けられて、別の肉を出して事なきを得るんです。
 でもその後見つかって! 
 今度こと皆まとめて殺されそうになる時に、遠征に出ていた王がやっと帰ってくると!
 で、魔女な母親をその時思いっきり罰するんですよ。
 グリムの方ではこの部分はカットされているんですわね。
 そりゃあまあ、はっきり言ってこれ、嫁いびりというか嫁殺しですもの。
 子供向けの話ではカットしたいところですわね。
 でも私達からしたら、よくあることだと思いません?
 無論、全く別居することができたならともかく、結婚した相手の両親と同居して、でもその相手、特に母君から本当に、殺したい程憎まれているって……
 ありそうですよね?
 実際そういう話、思い出しましたの。
 私の友人の友人なんですがね、家柄はともかく、少々お金は無くて。
 そういうお家だと、結構身分は下でも良い血統を求めて娘を欲しがるっていう結婚多いじゃないですか。
 ところがこのお家の場合、同じくらい質素な暮らしのところで縁づいてしまったのですね。
 まあ彼女は良かったのですよ。
 何はともあれ、相手を愛していたのですから。
 そして次々に子供が生まれる訳です。
 相手の男性は、善良な医者でした。
 そして善良故に、自分の貧しさをまた顧みず、更に貧しい者達への診療などをせっせと続ける方だったんですね。
 で、彼女もそんな夫を家庭で支えるというけなげな姿が見られたんです。
 ところが、舅が亡くなってから、がらりと様相が変わるんですね。
 それまで舅が押さえてくれたんでしょう、嫁へのいびりを始めるんですよ。
 貧乏までいかなくとも、メイドがオールワークスが二名しか雇えない様な貴族ですのよ。
 そして子供がその時七人も居たんですって!
 医者の御主人のおかげで、上手く分娩できたのか、産後の肥立ちが良かったのか、そのあたりは判らないのですが、乳母を雇うこともなく、一人も死なせず、よく育ったそうですの。
 舅が亡くなったのが、一番上が寄宿学校に入る頃でしたの。
 それから姑が孫に対して、ぴりぴりしだしたんですね。
 友人の友人、夫人としましょうか。
 彼女の上の子供は下の子供の世話を焼いたりして、けなげなものですよ。
 彼女自身も学があったので、できるだけ勉強も自分で見てやって。
 そしてメイドの手の足りないところは自分もがんばって手伝ったり、子供達にも自分のことは自分でさせたり。
 でも姑はそれがまた気に食わないんですね。
 姑は舅の前の代が散財してしまったので、家が大きなものから小さなものに変わってしまったことを覚えているんですね。
 嫁いできた頃はそれでもまだ朝起きたら顔を洗うお湯もタオルも皆用意されているという生活。
 それ以前に、毎日毎日ベッドメイクが綺麗にされて、しなくていいなら自分で何一つ動かなくてもいい様な。
 そういう生活をそれでも生まれてから三十年がところ続けてくると、没落した後の暮らしというのは悪夢の様にしか思えない様ですね。
 ところが嫁いできたこの嫁ときたら、そもそもが家柄だけで豊かでない家の育ちだから、自分で自分のことを何とかすることができる。
 そもそも自分で家庭教師のまねごとを息子達であってもするなんて、信じられないですよ。
 それでもうどんどんその嫁の姿は、怒りに変わって行くんですね。
 その嫁が居なければ、自分の生活もおぼつかないっていうのに。
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