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エピローグ 事件のあとのサイボーグとレプリカントの無駄話。
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「なあんとか、あの惑星の騒乱は未然に終わったってさ」
訊ねてきた連絡員は立ったまま、出しすぎた茶をすすりながら何気なく告げた。ああそう、とカウチで大判のグラフ誌を読んでいた中佐もまた、シガレットを口にしながら何気なく答え、そして訊ねる。
「何お前、奴にあれから会ったのか?」
「用事はあったからね。何か今度は帝都付近の仕事が入ってるんだけど」
「それはまた厄介な」
「でもお仕事でしょ。それが俺達の」
まあな、と中佐はうなづく。そして何となし、奇妙なことに気付いた。彼はひどく面白くなって、会心の笑みを浮かべながら自分の愛人に訊ねる。
「もしかしてお前、今多少機嫌悪くないか?」
「悪い」
「へえーっ」
中佐は実に楽しそうに声を立てた。そんな風に笑われるのは実にキムにとっては心外なのだが、これがこの男の性格なのだから仕方がない。
「で、何があったわけーっ?」
雑誌を放り出し、にたにた、と壁に張り付いた猫の様な笑みのまま、中佐は話をうながす。
何しろそうそう滅多にそういう事態はないのだ。意外とくわせ者のこの連絡員は、本当に困ったり怒ったりすることがそうそう露骨にはない。
いや表面上は短気なのだが、何処まで本気かというとこれがまた判らないものだから。
「いやそれでさ、まあお久しぶりだから、とちょいと奴と遊んだ訳よ」
「ふむふむ」
わざとらしい程彼は首を縦に振る。赤い髪がゆさゆさと揺れた。
「でまあ奴のご期待に応えましょうと、こないだちょっと温度調整したんだけど」
「あ、したのか」
「したの。あんたはその辺どーでもいいと思ってるから判らないんだろーけど!」
「そりゃあ俺は、そんなことはどうでもいいからな」
中佐はいけしゃあしゃあと答えて、まあこっちへお座りなさい、とわざとらしい程丁寧に言いながらぽんぽんと自分の横をはたいた。キムは茶を持ったまま、それでも器用に、こぼしもせずに身体を投げ出した。
「何か向こうじゃあいろいろあったみたいだよ?」
「聞いたのか?」
「聞くも聞かないも。身体に大きな斜めの線!」
「切られたのか」
「もう治ってはいたけどね」
ああ、と中佐はうなづく。
「じゃあ気付いたかな。奴は自分が何なのか」
「だろーね。あれで気付かなかったら馬鹿だよ」
「いや馬鹿はもとから馬鹿だと思うけどさ」
ずずっ、と連絡員は眉を寄せ、わざとらしい程音を立てて両手で持った茶をすする。
「で?」
たった一言になのに、わくわくしている様子が実にその言葉にはにじみ出ていた。
「ん? だからさ、まあお久しぶりだし、親密なお付き合いもしたんだけどさ、そん時奴が何って言ったと思う?!」
「何?」
中佐は即問する。
「『熱いのは一人でいい』だってさ。まあったく」
「は」
一拍の空白ののち、中佐は大声を上げて笑い出した。息も絶え絶えになりながら、それでも内容が聞きたいので、彼はかろうじて声を絞り出す。
「……何だよ…… そ、それ」
「だから、そういうことじゃない?」
キムは再び茶をずずっとすすった。
「なあんか、昔の知り合いと再会したらしいのよ。どういう奴とかは別に何も奴は言わなかったけどさ。何やらそれで『再び燃え上がった』んじゃない?」
喩えが妙に彼のツボをついたらしい。カウチを思いきりはたきながら、今度は次の問いもなかなか出せないほど、中佐は笑い狂っていた。その様子をちら、と横目で見ながらキムは立ち上がって二杯目の茶を入れに行った。
入れて戻ってみると、まだ自分の愛人は延々笑い続けている。いい加減にせんかい、と震えている赤い髪をぺし、とはたいた。
「で、それからお前どうしたの?」
中佐は涙を浮かべながら訊ねる。ようやく笑いが治まったらしい。
「べーつーに。言われていちいち変えるのもしゃくだから、もう放っとく」
「ほお」
中佐はそれを聞くと片眉を上げて、ぐいん、と腕を横の連絡員の肩に回した。キムはちら、と横目で中佐を見ながら平然と訊ねる。
「何なの一体」
「いやそれならも少し確かめてみようかな、と」
「よそーぜ。茶がこぼれる」
「じゃ待つ。さっさと呑め」
「勝手にすれば?」
さて彼がどれだけの時間をかけて茶を呑んだかは定かではない。
訊ねてきた連絡員は立ったまま、出しすぎた茶をすすりながら何気なく告げた。ああそう、とカウチで大判のグラフ誌を読んでいた中佐もまた、シガレットを口にしながら何気なく答え、そして訊ねる。
「何お前、奴にあれから会ったのか?」
「用事はあったからね。何か今度は帝都付近の仕事が入ってるんだけど」
「それはまた厄介な」
「でもお仕事でしょ。それが俺達の」
まあな、と中佐はうなづく。そして何となし、奇妙なことに気付いた。彼はひどく面白くなって、会心の笑みを浮かべながら自分の愛人に訊ねる。
「もしかしてお前、今多少機嫌悪くないか?」
「悪い」
「へえーっ」
中佐は実に楽しそうに声を立てた。そんな風に笑われるのは実にキムにとっては心外なのだが、これがこの男の性格なのだから仕方がない。
「で、何があったわけーっ?」
雑誌を放り出し、にたにた、と壁に張り付いた猫の様な笑みのまま、中佐は話をうながす。
何しろそうそう滅多にそういう事態はないのだ。意外とくわせ者のこの連絡員は、本当に困ったり怒ったりすることがそうそう露骨にはない。
いや表面上は短気なのだが、何処まで本気かというとこれがまた判らないものだから。
「いやそれでさ、まあお久しぶりだから、とちょいと奴と遊んだ訳よ」
「ふむふむ」
わざとらしい程彼は首を縦に振る。赤い髪がゆさゆさと揺れた。
「でまあ奴のご期待に応えましょうと、こないだちょっと温度調整したんだけど」
「あ、したのか」
「したの。あんたはその辺どーでもいいと思ってるから判らないんだろーけど!」
「そりゃあ俺は、そんなことはどうでもいいからな」
中佐はいけしゃあしゃあと答えて、まあこっちへお座りなさい、とわざとらしい程丁寧に言いながらぽんぽんと自分の横をはたいた。キムは茶を持ったまま、それでも器用に、こぼしもせずに身体を投げ出した。
「何か向こうじゃあいろいろあったみたいだよ?」
「聞いたのか?」
「聞くも聞かないも。身体に大きな斜めの線!」
「切られたのか」
「もう治ってはいたけどね」
ああ、と中佐はうなづく。
「じゃあ気付いたかな。奴は自分が何なのか」
「だろーね。あれで気付かなかったら馬鹿だよ」
「いや馬鹿はもとから馬鹿だと思うけどさ」
ずずっ、と連絡員は眉を寄せ、わざとらしい程音を立てて両手で持った茶をすする。
「で?」
たった一言になのに、わくわくしている様子が実にその言葉にはにじみ出ていた。
「ん? だからさ、まあお久しぶりだし、親密なお付き合いもしたんだけどさ、そん時奴が何って言ったと思う?!」
「何?」
中佐は即問する。
「『熱いのは一人でいい』だってさ。まあったく」
「は」
一拍の空白ののち、中佐は大声を上げて笑い出した。息も絶え絶えになりながら、それでも内容が聞きたいので、彼はかろうじて声を絞り出す。
「……何だよ…… そ、それ」
「だから、そういうことじゃない?」
キムは再び茶をずずっとすすった。
「なあんか、昔の知り合いと再会したらしいのよ。どういう奴とかは別に何も奴は言わなかったけどさ。何やらそれで『再び燃え上がった』んじゃない?」
喩えが妙に彼のツボをついたらしい。カウチを思いきりはたきながら、今度は次の問いもなかなか出せないほど、中佐は笑い狂っていた。その様子をちら、と横目で見ながらキムは立ち上がって二杯目の茶を入れに行った。
入れて戻ってみると、まだ自分の愛人は延々笑い続けている。いい加減にせんかい、と震えている赤い髪をぺし、とはたいた。
「で、それからお前どうしたの?」
中佐は涙を浮かべながら訊ねる。ようやく笑いが治まったらしい。
「べーつーに。言われていちいち変えるのもしゃくだから、もう放っとく」
「ほお」
中佐はそれを聞くと片眉を上げて、ぐいん、と腕を横の連絡員の肩に回した。キムはちら、と横目で中佐を見ながら平然と訊ねる。
「何なの一体」
「いやそれならも少し確かめてみようかな、と」
「よそーぜ。茶がこぼれる」
「じゃ待つ。さっさと呑め」
「勝手にすれば?」
さて彼がどれだけの時間をかけて茶を呑んだかは定かではない。
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