女性バンドPH7①エスニックデコスリムのギタリストがボンキュッポンのベーシストに落とされるに至るまでの話。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
4 / 23

第4話 そのむかしの身体の事情。

しおりを挟む
「あのねー、お前そんなに強くないんじゃなかったっけ?」

 よれよれになっているFAVを半ば支えるようにしてイキは言う。

「気持ち悪いーっ…… 強くはねーけどさぁ……」

 何っか、楽しかったんだもの。
 FAVは思う。ついその場の調子につり込まれて、自分の限界忘れるくらいに。
 そしてイキに向かっては、

「いーんだよぉ? あんた家逆方向なんだしぃ、もうここからなら行けるからぁ」
「本当?」

 そう言って奴は手を放す。と、途端にFAVはぐらん、と街灯が回るのを感じた。慌てて奴は手を戻して、

「やっぱ駄目だこりゃ」
「ごめんよーっ」
「慣れてる」

 慣れてる、ね。確かにこの男、そうだった。彼がFAVの前で羽目を外したことは一度もない。それこそ、彼女達が高校の頃から。

「そーいえば、あんたねぇ、全然呑んでなかったじゃん、あれから」
「あのねえ、あの場の状態見ててあれ以上呑めるかっての」

 確かに。あの後は、もうごちゃまぜだった。
 何だか知らないうちに、あの大柄な女達の中に混じって、初対面だというのに、妙に話は合うわテンポは合うわギャグは飛ばすわ。
 笑い死にしそうになったのは本当に久しぶりだった。アルコール入っていたとはいえ、こういうノリは本当に久しぶりだったのだ。
 初対面の対バンなんだから、もう少し緊張するかと思ったのだけど、そんな感触何処にもなくて。彼女達の笑い声がまだFAVの耳に残っている。

「あのひと達あんた嫌い?」
「いや嫌いじゃあないな。上手いし、気が良さそうだし。でも女じゃねーなぁ」
「それってけなしてる?」
「いんや、ほめてる。女にしとくのが惜しいって奴」
「あんたもそう思う?」
「うん」

 イキにしては何か含みのある言い方だった。

「でも」
「でも?」
「……いや、何でもない」

 それから彼は黙った。黙ったままFAVを部屋まで送り、いつものようにドアの前でまたね、と言った。いつもと変わらない。
 ある程度酔いは醒めたけれど、それでもまだ胃のあたりのむかむかは治まらない。

 ……早く寝ちまおう。

 彼女は上着を取って、メイクを落として。
 着替えながら彼女は、自分の身体をまじまじと見る。

 ……薄い。

 あのバンド、PH7ペーハーセブンのベーシストの女のぼよんとした胸を思い出す。
 確かTEARテアとか言ったあの女。
 大柄だが、別に太っている訳ではない。スレンダーな方だ。出るべきところは出て、締まるところは締まっている、といった理想的体型。
 上半身と下半身の比率が欧米人みたいだった。顔だって、かなり派手めで。メイクがなくてもあの目はくっきりしている。身長も高いし、モデルにでもなれるんじゃないかな、と彼女は思った。
 ただ、腕が妙に筋肉質だな、と彼女は巻き付かれた時感じた。
 その点は見栄えという点ではややマイナスかもしれない。そういうのも格好いいと思ったけれど。
 それに対して自分は、確かに細いけれど、スリム、という奴だった。
 TEARが出るべき所が出ているのに比べて、自分のそれは出るべきところまで平らなのだ。
 胸無し腰無し。高校の半分から、ずっとそんな体型だった。だがそれ以前はそうではなかった。
 高校の頃、バンドを始めた。それまでギターに触ってはいたけれど、本格的にバンド組んでやろうと思ったのは高校からだった。
 そしてその頃までFAVは細くはなかったのである。細くはなかった。太かった。



 太い、というのには、いろいろあるけれど、大きく分けて二種類ある。運動系筋肉太りと、文化系脂肪太りである。
 彼女は後者だった。どういう姿だったか、は彼女も思い出したくはない。
 ただいつもぴんぴんに張った肌と、締まりにくかった制服のスカートのスナップがいつも取れそうになっていたのは憶えている。
 ブルマは食い込む、さかあがりは出来ない、極めつけはマラソンである。
 例えばグラウンドを持久走のタイムを取るとする。
 200mトラックを女子だから五周するとする。
 次第に遅れていく。
 別に手を抜いている訳ではない。本人一生懸命である。重いからその分疲れるのだ。
 遅れは周を増すごとに増し、やがて一周先に行ってしまった者が再び彼女を抜かす。周りは五周回る。終わったと思ってトラックのライン上を悠々と横切る。
 すると彼女はその連中を突き飛ばして蹴散らしてやりたい衝動にかられる。

 どいてよ。あたしはまだ終わってない!

 そして一周遅れでゴールすると、体育教師が拍手を強要する。
 ざけんじゃねえ、と言いたいが言える状態ではない。
 ひどい屈辱。まわりの、「普通の」体型の女の子も、体育が得意で体育教師になった奴も、全てその場に叩きのめしたいような衝動にかられたりもした。

 思い出したくもない。

 だからもう見ない。家族が保管している以外の殆どの手持ちの写真は捨ててしまった。
 だがイキは当時のFAVを知っていた。
 彼とバンドを組んだ当初は彼女も太かった。背は高いのだが、それより高いドラマーのイキよりも体重があったのだから、それはもう明らかに肥満と言えよう。
 子供の頃に、甘いものや油っこいものばかり食べて育ったことや、家の中に閉じ込もってばかりいたのが丸判りな体型、という奴だ。
 それでいて頭は結構回る方だったので、手に入れた知識であれこれと批評しまくる。語彙も結構豊富だったので、辛辣な言葉には事欠かない。
 まぁそういう女の子をやっているとたいてい男は寄りつかない。下手すると同性の友達も少ないかもしれない。
 どちらが先かは判らない。
 頭がよく回ったので、先が見えすぎて何もしようという気が起きなかったのか、動く気がなかったので、頭でカバーしたのか。
 ただ、彼女にしてみればこれだけは言えた。

 その頃肥満しているということは、どんなプラスの点も打ち消してしまうくらいのマイナスの要素だったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

処理中です...