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第4話 そのむかしの身体の事情。
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「あのねー、お前そんなに強くないんじゃなかったっけ?」
よれよれになっているFAVを半ば支えるようにしてイキは言う。
「気持ち悪いーっ…… 強くはねーけどさぁ……」
何っか、楽しかったんだもの。
FAVは思う。ついその場の調子につり込まれて、自分の限界忘れるくらいに。
そしてイキに向かっては、
「いーんだよぉ? あんた家逆方向なんだしぃ、もうここからなら行けるからぁ」
「本当?」
そう言って奴は手を放す。と、途端にFAVはぐらん、と街灯が回るのを感じた。慌てて奴は手を戻して、
「やっぱ駄目だこりゃ」
「ごめんよーっ」
「慣れてる」
慣れてる、ね。確かにこの男、そうだった。彼がFAVの前で羽目を外したことは一度もない。それこそ、彼女達が高校の頃から。
「そーいえば、あんたねぇ、全然呑んでなかったじゃん、あれから」
「あのねえ、あの場の状態見ててあれ以上呑めるかっての」
確かに。あの後は、もうごちゃまぜだった。
何だか知らないうちに、あの大柄な女達の中に混じって、初対面だというのに、妙に話は合うわテンポは合うわギャグは飛ばすわ。
笑い死にしそうになったのは本当に久しぶりだった。アルコール入っていたとはいえ、こういうノリは本当に久しぶりだったのだ。
初対面の対バンなんだから、もう少し緊張するかと思ったのだけど、そんな感触何処にもなくて。彼女達の笑い声がまだFAVの耳に残っている。
「あのひと達あんた嫌い?」
「いや嫌いじゃあないな。上手いし、気が良さそうだし。でも女じゃねーなぁ」
「それってけなしてる?」
「いんや、ほめてる。女にしとくのが惜しいって奴」
「あんたもそう思う?」
「うん」
イキにしては何か含みのある言い方だった。
「でも」
「でも?」
「……いや、何でもない」
それから彼は黙った。黙ったままFAVを部屋まで送り、いつものようにドアの前でまたね、と言った。いつもと変わらない。
ある程度酔いは醒めたけれど、それでもまだ胃のあたりのむかむかは治まらない。
……早く寝ちまおう。
彼女は上着を取って、メイクを落として。
着替えながら彼女は、自分の身体をまじまじと見る。
……薄い。
あのバンド、PH7のベーシストの女のぼよんとした胸を思い出す。
確かTEARとか言ったあの女。
大柄だが、別に太っている訳ではない。スレンダーな方だ。出るべきところは出て、締まるところは締まっている、といった理想的体型。
上半身と下半身の比率が欧米人みたいだった。顔だって、かなり派手めで。メイクがなくてもあの目はくっきりしている。身長も高いし、モデルにでもなれるんじゃないかな、と彼女は思った。
ただ、腕が妙に筋肉質だな、と彼女は巻き付かれた時感じた。
その点は見栄えという点ではややマイナスかもしれない。そういうのも格好いいと思ったけれど。
それに対して自分は、確かに細いけれど、スリム、という奴だった。
TEARが出るべき所が出ているのに比べて、自分のそれは出るべきところまで平らなのだ。
胸無し腰無し。高校の半分から、ずっとそんな体型だった。だがそれ以前はそうではなかった。
高校の頃、バンドを始めた。それまでギターに触ってはいたけれど、本格的にバンド組んでやろうと思ったのは高校からだった。
そしてその頃までFAVは細くはなかったのである。細くはなかった。太かった。
*
太い、というのには、いろいろあるけれど、大きく分けて二種類ある。運動系筋肉太りと、文化系脂肪太りである。
彼女は後者だった。どういう姿だったか、は彼女も思い出したくはない。
ただいつもぴんぴんに張った肌と、締まりにくかった制服のスカートのスナップがいつも取れそうになっていたのは憶えている。
ブルマは食い込む、さかあがりは出来ない、極めつけはマラソンである。
例えばグラウンドを持久走のタイムを取るとする。
200mトラックを女子だから五周するとする。
次第に遅れていく。
別に手を抜いている訳ではない。本人一生懸命である。重いからその分疲れるのだ。
遅れは周を増すごとに増し、やがて一周先に行ってしまった者が再び彼女を抜かす。周りは五周回る。終わったと思ってトラックのライン上を悠々と横切る。
すると彼女はその連中を突き飛ばして蹴散らしてやりたい衝動にかられる。
どいてよ。あたしはまだ終わってない!
そして一周遅れでゴールすると、体育教師が拍手を強要する。
ざけんじゃねえ、と言いたいが言える状態ではない。
ひどい屈辱。まわりの、「普通の」体型の女の子も、体育が得意で体育教師になった奴も、全てその場に叩きのめしたいような衝動にかられたりもした。
思い出したくもない。
だからもう見ない。家族が保管している以外の殆どの手持ちの写真は捨ててしまった。
だがイキは当時のFAVを知っていた。
彼とバンドを組んだ当初は彼女も太かった。背は高いのだが、それより高いドラマーのイキよりも体重があったのだから、それはもう明らかに肥満と言えよう。
子供の頃に、甘いものや油っこいものばかり食べて育ったことや、家の中に閉じ込もってばかりいたのが丸判りな体型、という奴だ。
それでいて頭は結構回る方だったので、手に入れた知識であれこれと批評しまくる。語彙も結構豊富だったので、辛辣な言葉には事欠かない。
まぁそういう女の子をやっているとたいてい男は寄りつかない。下手すると同性の友達も少ないかもしれない。
どちらが先かは判らない。
頭がよく回ったので、先が見えすぎて何もしようという気が起きなかったのか、動く気がなかったので、頭でカバーしたのか。
ただ、彼女にしてみればこれだけは言えた。
その頃肥満しているということは、どんなプラスの点も打ち消してしまうくらいのマイナスの要素だったのだ。
よれよれになっているFAVを半ば支えるようにしてイキは言う。
「気持ち悪いーっ…… 強くはねーけどさぁ……」
何っか、楽しかったんだもの。
FAVは思う。ついその場の調子につり込まれて、自分の限界忘れるくらいに。
そしてイキに向かっては、
「いーんだよぉ? あんた家逆方向なんだしぃ、もうここからなら行けるからぁ」
「本当?」
そう言って奴は手を放す。と、途端にFAVはぐらん、と街灯が回るのを感じた。慌てて奴は手を戻して、
「やっぱ駄目だこりゃ」
「ごめんよーっ」
「慣れてる」
慣れてる、ね。確かにこの男、そうだった。彼がFAVの前で羽目を外したことは一度もない。それこそ、彼女達が高校の頃から。
「そーいえば、あんたねぇ、全然呑んでなかったじゃん、あれから」
「あのねえ、あの場の状態見ててあれ以上呑めるかっての」
確かに。あの後は、もうごちゃまぜだった。
何だか知らないうちに、あの大柄な女達の中に混じって、初対面だというのに、妙に話は合うわテンポは合うわギャグは飛ばすわ。
笑い死にしそうになったのは本当に久しぶりだった。アルコール入っていたとはいえ、こういうノリは本当に久しぶりだったのだ。
初対面の対バンなんだから、もう少し緊張するかと思ったのだけど、そんな感触何処にもなくて。彼女達の笑い声がまだFAVの耳に残っている。
「あのひと達あんた嫌い?」
「いや嫌いじゃあないな。上手いし、気が良さそうだし。でも女じゃねーなぁ」
「それってけなしてる?」
「いんや、ほめてる。女にしとくのが惜しいって奴」
「あんたもそう思う?」
「うん」
イキにしては何か含みのある言い方だった。
「でも」
「でも?」
「……いや、何でもない」
それから彼は黙った。黙ったままFAVを部屋まで送り、いつものようにドアの前でまたね、と言った。いつもと変わらない。
ある程度酔いは醒めたけれど、それでもまだ胃のあたりのむかむかは治まらない。
……早く寝ちまおう。
彼女は上着を取って、メイクを落として。
着替えながら彼女は、自分の身体をまじまじと見る。
……薄い。
あのバンド、PH7のベーシストの女のぼよんとした胸を思い出す。
確かTEARとか言ったあの女。
大柄だが、別に太っている訳ではない。スレンダーな方だ。出るべきところは出て、締まるところは締まっている、といった理想的体型。
上半身と下半身の比率が欧米人みたいだった。顔だって、かなり派手めで。メイクがなくてもあの目はくっきりしている。身長も高いし、モデルにでもなれるんじゃないかな、と彼女は思った。
ただ、腕が妙に筋肉質だな、と彼女は巻き付かれた時感じた。
その点は見栄えという点ではややマイナスかもしれない。そういうのも格好いいと思ったけれど。
それに対して自分は、確かに細いけれど、スリム、という奴だった。
TEARが出るべき所が出ているのに比べて、自分のそれは出るべきところまで平らなのだ。
胸無し腰無し。高校の半分から、ずっとそんな体型だった。だがそれ以前はそうではなかった。
高校の頃、バンドを始めた。それまでギターに触ってはいたけれど、本格的にバンド組んでやろうと思ったのは高校からだった。
そしてその頃までFAVは細くはなかったのである。細くはなかった。太かった。
*
太い、というのには、いろいろあるけれど、大きく分けて二種類ある。運動系筋肉太りと、文化系脂肪太りである。
彼女は後者だった。どういう姿だったか、は彼女も思い出したくはない。
ただいつもぴんぴんに張った肌と、締まりにくかった制服のスカートのスナップがいつも取れそうになっていたのは憶えている。
ブルマは食い込む、さかあがりは出来ない、極めつけはマラソンである。
例えばグラウンドを持久走のタイムを取るとする。
200mトラックを女子だから五周するとする。
次第に遅れていく。
別に手を抜いている訳ではない。本人一生懸命である。重いからその分疲れるのだ。
遅れは周を増すごとに増し、やがて一周先に行ってしまった者が再び彼女を抜かす。周りは五周回る。終わったと思ってトラックのライン上を悠々と横切る。
すると彼女はその連中を突き飛ばして蹴散らしてやりたい衝動にかられる。
どいてよ。あたしはまだ終わってない!
そして一周遅れでゴールすると、体育教師が拍手を強要する。
ざけんじゃねえ、と言いたいが言える状態ではない。
ひどい屈辱。まわりの、「普通の」体型の女の子も、体育が得意で体育教師になった奴も、全てその場に叩きのめしたいような衝動にかられたりもした。
思い出したくもない。
だからもう見ない。家族が保管している以外の殆どの手持ちの写真は捨ててしまった。
だがイキは当時のFAVを知っていた。
彼とバンドを組んだ当初は彼女も太かった。背は高いのだが、それより高いドラマーのイキよりも体重があったのだから、それはもう明らかに肥満と言えよう。
子供の頃に、甘いものや油っこいものばかり食べて育ったことや、家の中に閉じ込もってばかりいたのが丸判りな体型、という奴だ。
それでいて頭は結構回る方だったので、手に入れた知識であれこれと批評しまくる。語彙も結構豊富だったので、辛辣な言葉には事欠かない。
まぁそういう女の子をやっているとたいてい男は寄りつかない。下手すると同性の友達も少ないかもしれない。
どちらが先かは判らない。
頭がよく回ったので、先が見えすぎて何もしようという気が起きなかったのか、動く気がなかったので、頭でカバーしたのか。
ただ、彼女にしてみればこれだけは言えた。
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