18 / 38
第19話 さほどに「女の子」のラインではない「まほ」嬢。
しおりを挟む
そしてとりあえず彼女のことを「まほ」ちゃんと呼ぶことになった。当の呼ばれた本人は、とりあえずそう呼ぶ、という二人に、別に何だっていいわ、と答えた。
「いいの? 思い出せない?」
「別に思いだしたってそうでなくたって、どっちだっていいんだもの」
投げやりなコトバが返ってくる。そして翌日、四人はリゾート地から帰宅した。行きのはしゃぎ様とは一転して、新入りの「まほ」嬢に合わせたように皆、ぼんやりとして言葉少なだった。
*
ハルは彼女を妹の部屋に入れた。二間つながったその部屋の灯をつけて、何使ってもいいからね、と付けたす。まほはきょろきょろとその部屋を見渡すとハルに訊ねた。
「誰かの部屋なんでしょ?」
「うん」
「いいの?」
「少なくとも今は、誰も帰ってはこないわ」
―――そういえば変だな。
そんなことを思いながらハルは言葉を交わしていた。
あの朝以来、あの最初に彼女の口から漏れたコトバのような、半身をぞくりと震わせるような触感がない。
何だったんだろう、と思いながら、ついついその感触を求めて、彼女との接触を多くしようとしてしまう。
原因が彼女の声自体にあるのは間違いないのだが、だったらこれだけ毎日接触しているんだから、一度くらい同じ感触があってもいいのに、と。
あれはそれまでにない感触だったのだ。恐怖に似た快感とでもいうのだろうか。
それが予期しないテンポの中で起こったので、たまたまそう感じただけなのか、それとも彼女の声に何かそれを起こすものがあるのか、それが知りたくて。
「体型も似てるし。服もいいわよ」
「誰かのでしょう?」
「あ、下着くらいは新しく揃えるから」
「そうゆう意味じゃなくて」
とりあえず何か着てみれば、というので、まほはすすめられるままに元の持ち主のクローゼットを開けた。
中には結構な数のカラフルな服が入っていた。だが、彼女が自分の住んでいた部屋の中のの中身とは、まるで違ったものだった。
確かに体型は近いと思う。と、いうより、その服の持ち主も自分も、この国の少女に一番多いサイズがぴったりの人間だったようである。
だが自分の着ていた服は、実際にはそういうサイズを気にするタイプのものではない。サイズなどがあって無きがごとし、の殆ど「体型を見せない」重ね着タイプの服だった。
だがこのクローゼットの中に入っていたのは、それとは全く違っている。どちらかというと、体型を見せるタイプのものだった。とはいえ、肌を見せるタイプという訳でもない。むしろ肌は隠している。だがラインは強調している。すべきところは強調する、といったような。
どうしたものか、とまほは思う。だがどんな時でも「とりあえず」は必要だろう。ひとまずはその中でも大人しいリブニットとジーンズを取り出してみる。
「着てみれば? 結構似合いそう」
「えーと……」
そりゃ確かに女同士だから、いいんだろうけど…… そうまじまじと見られると、妙に身体が熱くなる。
たとえ女の子同士といっても、彼女はすぐその場でぱっぱと服を脱げるような生活はしてこなかった。服を抱えて、物陰に隠れると、手早く服をかえた。
「あらま」
別に恥ずかしがらなくともなあ、と経験はいくらかあるハルはこめかみをかりかりとひっかいた。
少しして、まほはやや照れくさそうに出てきた。
わりあいとすんなりとしている身体のラインは、ぴったりとした服でもよく似合っている。むしろ、彼女が着ていた服よりも似合っているんじゃないか、とハルは思った。
腕のラインだの、肩の丸みだのが、何処か奇妙なしなやかさを持っている。だがなよなよとした柳ではなく、所々は、またこれが妙にがっしりしているようにも見えるのだ。
全体のバランスからしたら、9号サイズの普通体型。足のラインにしても同様で、さほどに肉はないのだが、かと言って針金でもない。
あ、そうか。
そこまで考えていて、唐突にハルは気付いた。
さほどに「女の子」のラインじゃないんだ。
どちらかというと、少年のラインに近い。だが直線ぽくとも、線一つ一つは柔らかさを持っているのだし、何と言っても、胸にはそれでも曲線が綺麗なカーブを描いている。それで全体的には女の子だ、と言われて納得するのだ。
面白ーい。
くす、とハルは笑った。そしてしなやかな腕に視線をのばし――― その先の手首の包帯にやや痛々しいものを覚えた。
*
「可愛い子だよね」
ユーキは「まほ」嬢に対してそういう感想を述べた。
真帆子《マホコ》が妹の名前だったけど、あの子はただの「まほ」だ、という簡単な説明だけをされた彼は、それ以上の質問は加えない。
「ユーキくんの好み?」
「僕の好みはハルさんタイプでしょう? まあそれはどっちでもいいんだけど…… 何か覚えにくい顔だなあ、と」
「あ、ユーキ君もそう思います?」
マリコさんはちょっとばかり驚いた表情になって言った。
「うん」
「別荘」から戻ってきて何日かが過ぎた。しばらく用があって滞在する、とという言い訳を何処まで信用したか判らないが、ユーキは新入りの「まほ」嬢については追求はしなかった。
「手首に包帯」というのは、生命を奪う効果はともかく、一般的には、「私は自殺したかったほど苦しんでました」という無言の意思表示をする。それが当人の本意であるかというよりも、外側にはそう映るのだ。
ユーキはその件についても何一つ聞かない。そして別の面からこの新入りの少女を評する。
「何っか、奇妙なんだよね」
彼は首をかしげる。
「絵をやってる友達に見せたら、理由判るかもしれないけれど、僕にはよく判らない。だって、顔の中身の配置はいいと思うし、全体的に可愛いよね。でも、見た瞬間は覚えてるのに、一瞬後にはもう記憶していないんだ」
「そうですよね」
「ハルさんはわりあい、素っぴんは地味なんだけど、一度見たら忘れられないタイプだよね」
「あの人の場合は、本人気がついてないけど、顔の一つ一つのパーツのつくりがしっかりしているんですよ、だから化粧すると異常に映えるんですって」
そしてその「何度見ても忘れる」子と「一度見たら忘れられない」二人は、こんなふうにマリコさんとユーキが会話しているような日は、たいてい外へ出かけていた。
「ずいぶん気に入ってるようだよね」
「全く」
とりあえずは「マホ」の服を着せているが、「まほ」ちゃんにはきっとそれなりに好みがあるだろう、と二人で服の買い出しに行ったり、意味もなく暇つぶしに映画を見たり、レコード屋を漁りに行く。
妙なほどハルが楽しそうなんで、マリコさんも、無駄使いはよしなさいと言うこともできない。
当のまほ嬢は、そういったことには関心がないらしく、与えられるものは素直にもらっている。好みを訊ねられれば、素直に答える。少なくともハルはそれに対してケチをつけることはしない。
試着する服に対して、似合うかどうか位の採点はするが。だからまほ嬢は自分の好きなものの中でハルが似合うと思ったものを買ってもらっている。
「いいの? 思い出せない?」
「別に思いだしたってそうでなくたって、どっちだっていいんだもの」
投げやりなコトバが返ってくる。そして翌日、四人はリゾート地から帰宅した。行きのはしゃぎ様とは一転して、新入りの「まほ」嬢に合わせたように皆、ぼんやりとして言葉少なだった。
*
ハルは彼女を妹の部屋に入れた。二間つながったその部屋の灯をつけて、何使ってもいいからね、と付けたす。まほはきょろきょろとその部屋を見渡すとハルに訊ねた。
「誰かの部屋なんでしょ?」
「うん」
「いいの?」
「少なくとも今は、誰も帰ってはこないわ」
―――そういえば変だな。
そんなことを思いながらハルは言葉を交わしていた。
あの朝以来、あの最初に彼女の口から漏れたコトバのような、半身をぞくりと震わせるような触感がない。
何だったんだろう、と思いながら、ついついその感触を求めて、彼女との接触を多くしようとしてしまう。
原因が彼女の声自体にあるのは間違いないのだが、だったらこれだけ毎日接触しているんだから、一度くらい同じ感触があってもいいのに、と。
あれはそれまでにない感触だったのだ。恐怖に似た快感とでもいうのだろうか。
それが予期しないテンポの中で起こったので、たまたまそう感じただけなのか、それとも彼女の声に何かそれを起こすものがあるのか、それが知りたくて。
「体型も似てるし。服もいいわよ」
「誰かのでしょう?」
「あ、下着くらいは新しく揃えるから」
「そうゆう意味じゃなくて」
とりあえず何か着てみれば、というので、まほはすすめられるままに元の持ち主のクローゼットを開けた。
中には結構な数のカラフルな服が入っていた。だが、彼女が自分の住んでいた部屋の中のの中身とは、まるで違ったものだった。
確かに体型は近いと思う。と、いうより、その服の持ち主も自分も、この国の少女に一番多いサイズがぴったりの人間だったようである。
だが自分の着ていた服は、実際にはそういうサイズを気にするタイプのものではない。サイズなどがあって無きがごとし、の殆ど「体型を見せない」重ね着タイプの服だった。
だがこのクローゼットの中に入っていたのは、それとは全く違っている。どちらかというと、体型を見せるタイプのものだった。とはいえ、肌を見せるタイプという訳でもない。むしろ肌は隠している。だがラインは強調している。すべきところは強調する、といったような。
どうしたものか、とまほは思う。だがどんな時でも「とりあえず」は必要だろう。ひとまずはその中でも大人しいリブニットとジーンズを取り出してみる。
「着てみれば? 結構似合いそう」
「えーと……」
そりゃ確かに女同士だから、いいんだろうけど…… そうまじまじと見られると、妙に身体が熱くなる。
たとえ女の子同士といっても、彼女はすぐその場でぱっぱと服を脱げるような生活はしてこなかった。服を抱えて、物陰に隠れると、手早く服をかえた。
「あらま」
別に恥ずかしがらなくともなあ、と経験はいくらかあるハルはこめかみをかりかりとひっかいた。
少しして、まほはやや照れくさそうに出てきた。
わりあいとすんなりとしている身体のラインは、ぴったりとした服でもよく似合っている。むしろ、彼女が着ていた服よりも似合っているんじゃないか、とハルは思った。
腕のラインだの、肩の丸みだのが、何処か奇妙なしなやかさを持っている。だがなよなよとした柳ではなく、所々は、またこれが妙にがっしりしているようにも見えるのだ。
全体のバランスからしたら、9号サイズの普通体型。足のラインにしても同様で、さほどに肉はないのだが、かと言って針金でもない。
あ、そうか。
そこまで考えていて、唐突にハルは気付いた。
さほどに「女の子」のラインじゃないんだ。
どちらかというと、少年のラインに近い。だが直線ぽくとも、線一つ一つは柔らかさを持っているのだし、何と言っても、胸にはそれでも曲線が綺麗なカーブを描いている。それで全体的には女の子だ、と言われて納得するのだ。
面白ーい。
くす、とハルは笑った。そしてしなやかな腕に視線をのばし――― その先の手首の包帯にやや痛々しいものを覚えた。
*
「可愛い子だよね」
ユーキは「まほ」嬢に対してそういう感想を述べた。
真帆子《マホコ》が妹の名前だったけど、あの子はただの「まほ」だ、という簡単な説明だけをされた彼は、それ以上の質問は加えない。
「ユーキくんの好み?」
「僕の好みはハルさんタイプでしょう? まあそれはどっちでもいいんだけど…… 何か覚えにくい顔だなあ、と」
「あ、ユーキ君もそう思います?」
マリコさんはちょっとばかり驚いた表情になって言った。
「うん」
「別荘」から戻ってきて何日かが過ぎた。しばらく用があって滞在する、とという言い訳を何処まで信用したか判らないが、ユーキは新入りの「まほ」嬢については追求はしなかった。
「手首に包帯」というのは、生命を奪う効果はともかく、一般的には、「私は自殺したかったほど苦しんでました」という無言の意思表示をする。それが当人の本意であるかというよりも、外側にはそう映るのだ。
ユーキはその件についても何一つ聞かない。そして別の面からこの新入りの少女を評する。
「何っか、奇妙なんだよね」
彼は首をかしげる。
「絵をやってる友達に見せたら、理由判るかもしれないけれど、僕にはよく判らない。だって、顔の中身の配置はいいと思うし、全体的に可愛いよね。でも、見た瞬間は覚えてるのに、一瞬後にはもう記憶していないんだ」
「そうですよね」
「ハルさんはわりあい、素っぴんは地味なんだけど、一度見たら忘れられないタイプだよね」
「あの人の場合は、本人気がついてないけど、顔の一つ一つのパーツのつくりがしっかりしているんですよ、だから化粧すると異常に映えるんですって」
そしてその「何度見ても忘れる」子と「一度見たら忘れられない」二人は、こんなふうにマリコさんとユーキが会話しているような日は、たいてい外へ出かけていた。
「ずいぶん気に入ってるようだよね」
「全く」
とりあえずは「マホ」の服を着せているが、「まほ」ちゃんにはきっとそれなりに好みがあるだろう、と二人で服の買い出しに行ったり、意味もなく暇つぶしに映画を見たり、レコード屋を漁りに行く。
妙なほどハルが楽しそうなんで、マリコさんも、無駄使いはよしなさいと言うこともできない。
当のまほ嬢は、そういったことには関心がないらしく、与えられるものは素直にもらっている。好みを訊ねられれば、素直に答える。少なくともハルはそれに対してケチをつけることはしない。
試着する服に対して、似合うかどうか位の採点はするが。だからまほ嬢は自分の好きなものの中でハルが似合うと思ったものを買ってもらっている。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~
楠富 つかさ
恋愛
中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。
佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。
「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」
放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。
――けれど、佑奈は思う。
「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」
特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。
放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。
4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末
松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰
第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。
本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。
2025年11月28書籍刊行。
なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる