未来史シリーズ⑥はいどあんどしーく/船内かくれんぼ

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
10 / 11

第9話 だからそういうことかいっ!転

しおりを挟む
「ああ、そう言えばそろそろムラサキ君、君は引き上げて下さいな」

 しばらくして、器に盛られた抹茶白玉だんごをもぐもぐと口にしながら、船長は言った。
 いい加減酒のつまみも、辛いものばかりでなく、こんなお菓子まで出てきている。ナヴィと王子は嬉しがっているが、フランドは先刻ウエストのことを指摘されたので、何となく手が出しにくくて悔しがっている。
 そしてボマーは。

「おい船長、何だよそれ! 今からがこいつ呑ませ時だって言うのにっ!」
「いや、今日彼、『日誌』当番なんですよ」

 ちぇ、と彼は舌打ちをする。僕は内心ほっとした。…今だって結構呑んでいると思うのにこれ以上呑ませられたらどうなるって言うんだ?
 立ち上がると、おかみさんが声を掛けてくた。

「あ、ムラサキ、行くのかい? じゃあそこのトレイ持って行っておくれよ。キッチンの流しに置いておいておくれ」

 彼女の指の先には、山の様な皿を積んだトレイがあった。

「はい。明日まとめて洗いますね… あ、そう言えば船長」
「はい?」

 そう言えば、これを聞いておこう、と僕は思ったんだ。

「…この『隠れんぼ』って… いつまで続くんですか?」
「あー… 一応、全員ゲームオーバー、という事になっていますが…」

 船長は天井を見上げる。

「無理ね」
「無理じゃな」
「無茶だぜ」
「駄目ですよ」

 最後はぶるんぶるん、と首を振るナヴィ。
 でしょうね、と当の船長も肩をすくめた。何せ残っているのは只一人、ドクターなのだ。
 あのフルーツ・イーターのドクターが、酒蔵の存在を知っているのか、酒に関することを考えついたりするんだろうか、それすら僕には想像がつかなかった。

「うーん、どうしましょうねえ」

 さすがの船長も、笑顔のまま困っているようだ。
 と、その手の中のものに目をやった時、ふと僕の中に、稲妻が走った。

「…も、もしかして、船長… ピクルスって、苦手ですか?」
「ん? 漬かりすぎのものはね。それが何か?」

 …まさか。

 もしかして、船長を困らせた、という意味では、…いやそれ以上に、ドクターはこのゲームの勝者だったんじゃないか?

**


 …と言う訳で、長い長い一日が終わりました。

 えー… と、ドクターですが。どうなんでしょう。あの部屋って、船長と隊長しか開けられないんですよね… あのままソファで眠っていて… うーむ…
 まあいいです。明日のことは明日考えましょう。それはこの船で僕が学んだ教訓の一つです。
 それにしても。
 「隠れんぼ」としての勝者は今回、あれは船長の次に見付けた、という意味では、ナヴィが一番、ってことなんですかね。ドクターは見付けられないからまあ、最後ってことで…
 でもドクターは今回船長に対しては最大の勝者だと思うし…
 そもそもゲーム自体の性格が隊長への罰、って言ったって、全然隊長、へこたれてないじゃないですか! 結局あーやって猫の様に船長とごろごろして…

 …だから…

 ってことは、…ちょっと待って下さいよ。もしかして、最大の被害者って僕じゃないですか?
 そうです、何っか船長の説明で釈然としなかったのも、結局そのせいです。
 確かに僕は「隠れんぼ」では良くない成績でしたが… それ以上に、かーなーりーの精神的被害を被っているじゃないですか!
 まず! いつもだったら労働の後の最大の楽しみである朝ご飯にありつけなかったこと(サンドイッチ? だってあれは昼ご飯だったし)。
 そして皆の心配をしまくったこと。
 ボマーさんに脅されたこと。
 隊長と向き合う恐怖を味わったこと。
 そして闇の中での襲撃。
 …止めどなく僕は理不尽さを感じるんですが、…違いますか?
 でもきっと、この船のクルーが取り合ってくれる訳ないですね。
 はい。僕もまだまだ甘いです。アリさん見習って、物事は一つ一つ精進します。
 あ、ただいいことも一つだけありました。
 と言うのも、僕はこれまで霊だの怪談だの呪いだのといったオカルトの類が怖くて仕方がなかったんですが、…どーやら今日のこの事件を境に、何処かへ消えていきそうです。
 だってそうじゃないですか。
 ボマーさんも言ったけど、…現実で一番恐ろしいものに出会ってしまったら…そんなもの…

 あ、もう日付が変わります。良かった、何とかぎりぎりセーフです。書き方が多少乱雑でも許して下さい。

 それではお休みなさい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。 白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

処理中です...