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エピローグ だからそういうことかいっ!結
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ぷぷぷぷ、と吹き出す声に、隊長はうつ伏せのままのっそりと身体を起こした。そして横で何やら手に読んでいる男を軽くにらみ付ける。
「…何だよドギー… 一人で笑って…気持ち悪い…」
「いやあ、毎度毎度思うけれど、ムラサキ君の日誌って面白いんですよねえ」
「悪趣味」
ばっさりと隊長は言い捨てる。
「だいたい、人の日記見て喜ぶ趣味あるのは、あんたくらいなもんだよ」
「おや、でも凄いですよムラサキ君。だって二時間ですよ、二時間。二時間でこれだけ書くってのは、確実に才能だっていうの、本人はまるで気がついていないのが不思議ですねー」
「…どれだけ書いたんだよ」
ひょい、と隊長は日誌をのぞき込む。
ちなみに彼自身が書く時には、「今日は何も無かった。終わり」という記述が非常に多い。たとえそれが、敵襲や何かがあったとしても、である。
ぱらぱら、と船長は隊長に見せる様にページを繰った。
「げげっ、何だよこれ」
「でしょう?」
ふっふっふ、と船長は笑う。
「しかもちゃあんとワタシの指示通り、前回に対して気を付けるべきところは気を付ける様になってるし。いやあ、人の成長っていうのは実にすがすがしいものですねえ…」
隊長はそれには何も言わず、結局日誌をふんだくって、いつの間にかサイドランプをともしていた。
「…で? これ、どーすんの、ドギー」
「どーすんの、とはどういう意味ですか?」
つつ、と船長は相手の背に指を滑らせる。隊長は呆れた様に肩をひょい、と上げ、好き者、とつぶやく。
「まあそうですね。実は二つ目的がありまして」
「二つ! …まあ一個は俺、当ててやろうか」
「はいどうぞ」
細められた目と、大きく開かれた上目遣いが絡み合う。
「このままこーやって奴の時ばかりトラブル起こして書かせて、いーのがあったら、今年の帝都政府文化庁主催の文学賞のエンタテイメント部門に提出しようと思ってるんじゃないか?」
「さすがですね」
ふっふっふ、とまたも船長の口元から、笑いがこぼれる。
「でももう一つは俺には判らん。何するつもりだよ、あんた」
「いや、暇潰しに論文でも、と思いましてねー」
「あんた幾つ博士号取れば、気が済むんだよ」
「おや、あれは資格と同じで、数への挑戦っていうのもあるんですよ」
「あっそ。何の… ああ、文学関係」
「いや、教育関係です」
きょういく、と隊長の端正な顔が強烈にゆがめられた。聞くのも嫌な単語らしい。
「いやあ、自分を普通と自覚してる才能の眠る青年に、どの様な示唆を他者から精神的物理的に与えることで、才能を開花させることができるか、ということをですね…」
「バカかあんた」
「まあたぶん」
あ、そ、とつぶやくと、隊長は日誌を放りだし、サイドランプを消した。
「俺は寝る。あんたもさっさと寝ろ」
「はいはい」
「それと、今度宴会開け」
「宴会ですか」
「あんたが鍵つけたんだろ… 俺に壊されたくなかったら…」
ふぁ、という声が一つしたと思ったら、横の猫は既に眠りについていた。
船長は仕方ないですね、とつぶやくと、とりあえずこの猫が身体を冷やさない様に、肩まで毛布を上げてやった。
「また明日も、楽しいことがあればいいですね」
ふっふっふ、とルーシッドリ・ラスタ号の船長は笑った。
「…何だよドギー… 一人で笑って…気持ち悪い…」
「いやあ、毎度毎度思うけれど、ムラサキ君の日誌って面白いんですよねえ」
「悪趣味」
ばっさりと隊長は言い捨てる。
「だいたい、人の日記見て喜ぶ趣味あるのは、あんたくらいなもんだよ」
「おや、でも凄いですよムラサキ君。だって二時間ですよ、二時間。二時間でこれだけ書くってのは、確実に才能だっていうの、本人はまるで気がついていないのが不思議ですねー」
「…どれだけ書いたんだよ」
ひょい、と隊長は日誌をのぞき込む。
ちなみに彼自身が書く時には、「今日は何も無かった。終わり」という記述が非常に多い。たとえそれが、敵襲や何かがあったとしても、である。
ぱらぱら、と船長は隊長に見せる様にページを繰った。
「げげっ、何だよこれ」
「でしょう?」
ふっふっふ、と船長は笑う。
「しかもちゃあんとワタシの指示通り、前回に対して気を付けるべきところは気を付ける様になってるし。いやあ、人の成長っていうのは実にすがすがしいものですねえ…」
隊長はそれには何も言わず、結局日誌をふんだくって、いつの間にかサイドランプをともしていた。
「…で? これ、どーすんの、ドギー」
「どーすんの、とはどういう意味ですか?」
つつ、と船長は相手の背に指を滑らせる。隊長は呆れた様に肩をひょい、と上げ、好き者、とつぶやく。
「まあそうですね。実は二つ目的がありまして」
「二つ! …まあ一個は俺、当ててやろうか」
「はいどうぞ」
細められた目と、大きく開かれた上目遣いが絡み合う。
「このままこーやって奴の時ばかりトラブル起こして書かせて、いーのがあったら、今年の帝都政府文化庁主催の文学賞のエンタテイメント部門に提出しようと思ってるんじゃないか?」
「さすがですね」
ふっふっふ、とまたも船長の口元から、笑いがこぼれる。
「でももう一つは俺には判らん。何するつもりだよ、あんた」
「いや、暇潰しに論文でも、と思いましてねー」
「あんた幾つ博士号取れば、気が済むんだよ」
「おや、あれは資格と同じで、数への挑戦っていうのもあるんですよ」
「あっそ。何の… ああ、文学関係」
「いや、教育関係です」
きょういく、と隊長の端正な顔が強烈にゆがめられた。聞くのも嫌な単語らしい。
「いやあ、自分を普通と自覚してる才能の眠る青年に、どの様な示唆を他者から精神的物理的に与えることで、才能を開花させることができるか、ということをですね…」
「バカかあんた」
「まあたぶん」
あ、そ、とつぶやくと、隊長は日誌を放りだし、サイドランプを消した。
「俺は寝る。あんたもさっさと寝ろ」
「はいはい」
「それと、今度宴会開け」
「宴会ですか」
「あんたが鍵つけたんだろ… 俺に壊されたくなかったら…」
ふぁ、という声が一つしたと思ったら、横の猫は既に眠りについていた。
船長は仕方ないですね、とつぶやくと、とりあえずこの猫が身体を冷やさない様に、肩まで毛布を上げてやった。
「また明日も、楽しいことがあればいいですね」
ふっふっふ、とルーシッドリ・ラスタ号の船長は笑った。
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