未来史シリーズ⑥はいどあんどしーく/船内かくれんぼ

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
11 / 11

エピローグ だからそういうことかいっ!結

しおりを挟む
 ぷぷぷぷ、と吹き出す声に、隊長はうつ伏せのままのっそりと身体を起こした。そして横で何やら手に読んでいる男を軽くにらみ付ける。

「…何だよドギー… 一人で笑って…気持ち悪い…」
「いやあ、毎度毎度思うけれど、ムラサキ君の日誌って面白いんですよねえ」
「悪趣味」

 ばっさりと隊長は言い捨てる。

「だいたい、人の日記見て喜ぶ趣味あるのは、あんたくらいなもんだよ」
「おや、でも凄いですよムラサキ君。だって二時間ですよ、二時間。二時間でこれだけ書くってのは、確実に才能だっていうの、本人はまるで気がついていないのが不思議ですねー」
「…どれだけ書いたんだよ」

 ひょい、と隊長は日誌をのぞき込む。
 ちなみに彼自身が書く時には、「今日は何も無かった。終わり」という記述が非常に多い。たとえそれが、敵襲や何かがあったとしても、である。
 ぱらぱら、と船長は隊長に見せる様にページを繰った。

「げげっ、何だよこれ」
「でしょう?」

 ふっふっふ、と船長は笑う。

「しかもちゃあんとワタシの指示通り、前回に対して気を付けるべきところは気を付ける様になってるし。いやあ、人の成長っていうのは実にすがすがしいものですねえ…」

 隊長はそれには何も言わず、結局日誌をふんだくって、いつの間にかサイドランプをともしていた。

「…で? これ、どーすんの、ドギー」
「どーすんの、とはどういう意味ですか?」

 つつ、と船長は相手の背に指を滑らせる。隊長は呆れた様に肩をひょい、と上げ、好き者、とつぶやく。

「まあそうですね。実は二つ目的がありまして」
「二つ! …まあ一個は俺、当ててやろうか」
「はいどうぞ」

 細められた目と、大きく開かれた上目遣いが絡み合う。

「このままこーやって奴の時ばかりトラブル起こして書かせて、いーのがあったら、今年の帝都政府文化庁主催の文学賞のエンタテイメント部門に提出しようと思ってるんじゃないか?」
「さすがですね」

 ふっふっふ、とまたも船長の口元から、笑いがこぼれる。

「でももう一つは俺には判らん。何するつもりだよ、あんた」
「いや、暇潰しに論文でも、と思いましてねー」
「あんた幾つ博士号取れば、気が済むんだよ」
「おや、あれは資格と同じで、数への挑戦っていうのもあるんですよ」
「あっそ。何の… ああ、文学関係」
「いや、教育関係です」

 きょういく、と隊長の端正な顔が強烈にゆがめられた。聞くのも嫌な単語らしい。

「いやあ、自分を普通と自覚してる才能の眠る青年に、どの様な示唆を他者から精神的物理的に与えることで、才能を開花させることができるか、ということをですね…」
「バカかあんた」
「まあたぶん」

 あ、そ、とつぶやくと、隊長は日誌を放りだし、サイドランプを消した。

「俺は寝る。あんたもさっさと寝ろ」
「はいはい」
「それと、今度宴会開け」
「宴会ですか」
「あんたが鍵つけたんだろ… 俺に壊されたくなかったら…」

 ふぁ、という声が一つしたと思ったら、横の猫は既に眠りについていた。
 船長は仕方ないですね、とつぶやくと、とりあえずこの猫が身体を冷やさない様に、肩まで毛布を上げてやった。

「また明日も、楽しいことがあればいいですね」

 ふっふっふ、とルーシッドリ・ラスタ号の船長は笑った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。 白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

処理中です...