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第7話 サエナのたくらみ
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夏休みが終わると、サエナは森や美術準備室で、別の話題を持ち出してくるようになった。
「生徒会?」
最初にその単語が彼女の口から出た時、ワタシは問い返した。うん、と彼女はうなづいた。
「ここんとこ妙なもの持ち込んでたと思ったら」
「妙なものってあなたねえ」
サエナはそう言って口を尖らせたが、それはワタシから見たら妙なものでしかない。
彼女が準備室の隅の机の上に乗せて、頬杖をつきながら読んでいたのは、古びた資料の数々だった。
青焼きコピーのものもあれば、もっと古いものはガリ版、手書きといったものも多い。それらがそれぞれ、黒い固い表紙と、黒い綴じ紐でくくられている。年季が入りまくったそれらは、ほこりやら、焼けた端の紙がぽろぽろと落ちてきそうな勢いである。
印刷されていても元原稿が手書きのものばかりだから、ワープロ文字に慣れた身にはひどくよみにくい。それに最近の高校生の字体とはあきらかに違う。
「いつ頃の奴なの?」
「アリガが貸してくれたのは、そーねえ、……年くらい昔からのかなあ」
「げ。生まれてない頃じゃないか」
「そのあたりから、生徒会ができたっていうから」
「生徒会の資料?」
そう、と彼女はうなづく。
「そのくらい前、っていうと、何があったんだろ」
「私もよくは知らないけど、結構その頃の言葉って過激よね。ほら」
サエナはガリ版の一枚を広げて指す。確かに。「…せよ!」とか、「…なのだ!」という口調が文のあちこちに見られる。太い、漢字が多い書き文字は、ひどく勢いがある。
「そんな頃もあったんだね」
「うん。何か『長老』にも聞いたんだけど、当時は回りの余波が露骨にやってきたみたいね」
「長老」というのは、この学校の生き字引と言われている定年越えて非常勤講師で来ているササキ先生のことだった。
ワタシも彼女も、ササキ先生をアリガのように呼び捨てにすることはない。彼に対してはそれなりの敬意を皆払っている。
「立て看板を夜中まで書こうとしていたから学校中の電源を切ったとか、窓を割って中に夜中入り込もうとする生徒を待ちかまえたとか、結構話してくれるものよね」
「へえ。長老がそういうこと話すんだ」
「あまり聞かれることないみたいだけどね」
そりゃそうだ、とワタシは思う。かなりそれは物好きの部類だ。ササキ先生は、昔はともかく、今は穏やかな無関心を決め込んでいるかのようだ。
「で、長老からは、あんたが聞きたいことは聞けたの?」
「まあね」
サエナはにっ、と口元を上げる。
「何?」
「聞きたい?」
うん、とワタシはうなづく。何やらサエナがひどく楽しそうだったからだ。
「秋が来れば、生徒会の選挙があるのよ」
「あるね」
「立候補しようと思うの。生徒会長」
ほ、とワタシは目を広げた。
「誰が」
「私が」
まじ? と思わずワタシは問い返していた。
「何よ、そんなに意外?」
「いや」
言われてみれば、おかしくはない。サエナはとりあえず、今の一年生の中では、才色兼備、という言葉が一番合う。ただ。
「でも女子は基本的にあまり……」
「だからそれはここの学校ではまずいのかしら、と思って、調べていたんじゃないの」
ああ全く、という顔をして机の上の資料を彼女は見る。
「全く。確かに一度も女子が会長だったことはないのよ。今時! だけど別に会長になっちゃいけないってことはないわ」
「それでなろうっていうの?」
「似合わないかしら?」
ワタシは首を横に振る。
「生徒会?」
最初にその単語が彼女の口から出た時、ワタシは問い返した。うん、と彼女はうなづいた。
「ここんとこ妙なもの持ち込んでたと思ったら」
「妙なものってあなたねえ」
サエナはそう言って口を尖らせたが、それはワタシから見たら妙なものでしかない。
彼女が準備室の隅の机の上に乗せて、頬杖をつきながら読んでいたのは、古びた資料の数々だった。
青焼きコピーのものもあれば、もっと古いものはガリ版、手書きといったものも多い。それらがそれぞれ、黒い固い表紙と、黒い綴じ紐でくくられている。年季が入りまくったそれらは、ほこりやら、焼けた端の紙がぽろぽろと落ちてきそうな勢いである。
印刷されていても元原稿が手書きのものばかりだから、ワープロ文字に慣れた身にはひどくよみにくい。それに最近の高校生の字体とはあきらかに違う。
「いつ頃の奴なの?」
「アリガが貸してくれたのは、そーねえ、……年くらい昔からのかなあ」
「げ。生まれてない頃じゃないか」
「そのあたりから、生徒会ができたっていうから」
「生徒会の資料?」
そう、と彼女はうなづく。
「そのくらい前、っていうと、何があったんだろ」
「私もよくは知らないけど、結構その頃の言葉って過激よね。ほら」
サエナはガリ版の一枚を広げて指す。確かに。「…せよ!」とか、「…なのだ!」という口調が文のあちこちに見られる。太い、漢字が多い書き文字は、ひどく勢いがある。
「そんな頃もあったんだね」
「うん。何か『長老』にも聞いたんだけど、当時は回りの余波が露骨にやってきたみたいね」
「長老」というのは、この学校の生き字引と言われている定年越えて非常勤講師で来ているササキ先生のことだった。
ワタシも彼女も、ササキ先生をアリガのように呼び捨てにすることはない。彼に対してはそれなりの敬意を皆払っている。
「立て看板を夜中まで書こうとしていたから学校中の電源を切ったとか、窓を割って中に夜中入り込もうとする生徒を待ちかまえたとか、結構話してくれるものよね」
「へえ。長老がそういうこと話すんだ」
「あまり聞かれることないみたいだけどね」
そりゃそうだ、とワタシは思う。かなりそれは物好きの部類だ。ササキ先生は、昔はともかく、今は穏やかな無関心を決め込んでいるかのようだ。
「で、長老からは、あんたが聞きたいことは聞けたの?」
「まあね」
サエナはにっ、と口元を上げる。
「何?」
「聞きたい?」
うん、とワタシはうなづく。何やらサエナがひどく楽しそうだったからだ。
「秋が来れば、生徒会の選挙があるのよ」
「あるね」
「立候補しようと思うの。生徒会長」
ほ、とワタシは目を広げた。
「誰が」
「私が」
まじ? と思わずワタシは問い返していた。
「何よ、そんなに意外?」
「いや」
言われてみれば、おかしくはない。サエナはとりあえず、今の一年生の中では、才色兼備、という言葉が一番合う。ただ。
「でも女子は基本的にあまり……」
「だからそれはここの学校ではまずいのかしら、と思って、調べていたんじゃないの」
ああ全く、という顔をして机の上の資料を彼女は見る。
「全く。確かに一度も女子が会長だったことはないのよ。今時! だけど別に会長になっちゃいけないってことはないわ」
「それでなろうっていうの?」
「似合わないかしら?」
ワタシは首を横に振る。
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