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5 王子の家庭教師バーデン・デターム子爵は何処に②
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「次にコイゼル子爵」
はい、と三十代半ばに見える小柄な男性が立ち上がった。
「コイゼル子爵家後継者のトルクです。義父が今回出席する予定でしたが、義母が急病のため、自分と妻が出席することとなりました。バーデン・デタームとは去年辺りまでちょいちょい各地で顔を合わせておりました」
周囲がややざわめく。
「各地、なのですか? 彼の領地の近くでもなく、王都でもなく」
「自分はコイゼル子爵家に婿に入った身でして、血縁の方はございません。ただ歳も近いこともあり、趣味の会合が行われる場所で会うことがありました」
「趣味の会合と言うと?」
「利き茶です」
「詳しく」
「あ、はい。茶には様々な種類があるのは皆様ご存じかと思われますが、その中でも、隣国他国、時には遠方の国からはるばる輸入する茶というものがございます。そういうものを好み、伝手をたどり、会合で持ち寄り味わう会です」
「風流ですね」
「お褒めに預かり恐縮です。自分は狩猟などの逞しい趣味は合わず、また学問に関しても大した力量は無いのですが、この分野においてだけは、熱が入りまして。そしてそのおかげで、現在茶の販路を入手することもできました。その意味では彼は趣味の道を示唆してくれた恩人とも言えるのですが」
「ではデターム子爵と最後に会ったのはいつですか?」
「去年の半ばの会合です。そう、それは王都で行われたものです」
バルバラは片手を上げた。
すると配下の一人がさっとその場から立ち去った。
「わかりました。では一旦お下がり下さい」
マクラエン侯爵とその一族にあたる三人は、席に戻った。
「現在ここに臨席している方々にお聞き致します。その利き茶の会に参加している方、もしくは家族が参加している方はお立ち下さい」
すると全部で十名が立ち上がった。
「そこでデターム子爵との趣味上の交流があった方は居ますか? あくまで趣味の範疇の話ですので、それ以上のことはありません。無論後で調べれば判ることなので、その辺りを早くしておこうということだけです」
「自分が」
一人が手を挙げた。
「自分はマレガ男爵です。彼は特にトアレグ王国の高地の茶について詳しいので、自分はその件についてよく質問しました」
「トアレグ王国の茶というのは、美味しいのですか? マレガ男爵」
「そこは微妙なところです。不思議な風味ではありますが」
「トアレグ王国以外の他国原産の茶について、デターム子爵が話すことはありましたか?」
「彼に関しては、詳しいのはトアレグのお茶についてのみでした。他国の茶について詳しいのは、むしろそちらの、タバイテ侯爵ではなかったかと」
マレガ男爵が顔を向けた側には、しぶしぶ、という様に立ち上がっていたタバイテ侯爵が居た。
「判りました。では一旦休憩と致します。一時間後にもう一度集合して下さいませ」
大広間の臨時裁判所に安堵の空気が流れた。
はい、と三十代半ばに見える小柄な男性が立ち上がった。
「コイゼル子爵家後継者のトルクです。義父が今回出席する予定でしたが、義母が急病のため、自分と妻が出席することとなりました。バーデン・デタームとは去年辺りまでちょいちょい各地で顔を合わせておりました」
周囲がややざわめく。
「各地、なのですか? 彼の領地の近くでもなく、王都でもなく」
「自分はコイゼル子爵家に婿に入った身でして、血縁の方はございません。ただ歳も近いこともあり、趣味の会合が行われる場所で会うことがありました」
「趣味の会合と言うと?」
「利き茶です」
「詳しく」
「あ、はい。茶には様々な種類があるのは皆様ご存じかと思われますが、その中でも、隣国他国、時には遠方の国からはるばる輸入する茶というものがございます。そういうものを好み、伝手をたどり、会合で持ち寄り味わう会です」
「風流ですね」
「お褒めに預かり恐縮です。自分は狩猟などの逞しい趣味は合わず、また学問に関しても大した力量は無いのですが、この分野においてだけは、熱が入りまして。そしてそのおかげで、現在茶の販路を入手することもできました。その意味では彼は趣味の道を示唆してくれた恩人とも言えるのですが」
「ではデターム子爵と最後に会ったのはいつですか?」
「去年の半ばの会合です。そう、それは王都で行われたものです」
バルバラは片手を上げた。
すると配下の一人がさっとその場から立ち去った。
「わかりました。では一旦お下がり下さい」
マクラエン侯爵とその一族にあたる三人は、席に戻った。
「現在ここに臨席している方々にお聞き致します。その利き茶の会に参加している方、もしくは家族が参加している方はお立ち下さい」
すると全部で十名が立ち上がった。
「そこでデターム子爵との趣味上の交流があった方は居ますか? あくまで趣味の範疇の話ですので、それ以上のことはありません。無論後で調べれば判ることなので、その辺りを早くしておこうということだけです」
「自分が」
一人が手を挙げた。
「自分はマレガ男爵です。彼は特にトアレグ王国の高地の茶について詳しいので、自分はその件についてよく質問しました」
「トアレグ王国の茶というのは、美味しいのですか? マレガ男爵」
「そこは微妙なところです。不思議な風味ではありますが」
「トアレグ王国以外の他国原産の茶について、デターム子爵が話すことはありましたか?」
「彼に関しては、詳しいのはトアレグのお茶についてのみでした。他国の茶について詳しいのは、むしろそちらの、タバイテ侯爵ではなかったかと」
マレガ男爵が顔を向けた側には、しぶしぶ、という様に立ち上がっていたタバイテ侯爵が居た。
「判りました。では一旦休憩と致します。一時間後にもう一度集合して下さいませ」
大広間の臨時裁判所に安堵の空気が流れた。
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