51 / 168
六角盤将棋ミツバチ杯の顛末(セルーメとデタームとセレジュ)
13 それぞれのセレジュへの思い
しおりを挟む
一方。
バーデンは例の娼館の女とそれからもずいぶん長く続いていた。
奴は似ていない、と言ったが、あのセレジュと同じ髪と目の色の取り合わせは帝都ではそう無い。
帝都に元から住んでする人間はだいたい濃い色の髪と目をしている。
それは帝国の祖となった部族がそうだったとか、日差しが強い場所に住んでいるとか、理由は色々だ。
少なくとも彼女の様な色はチェリでは普通でも、ここでは異質な方だ。
だからどう見ても、バーデンの目当てはそこだとしか俺には思えない。
「なあバーデン、お前、セレジュのこと、どう思っていた?」
「いた? 過去形かよ」
「思っている、んだ」
「無論だ」
奴は言い切った。
「いつから?」
「最初から。女鞍に文句付ける令嬢っておもしれー、って思ったのが最初。後はもう、やっぱ俺、自分と対等に話せる女が好きだし」
「お姉さんや妹さんとはまるで違うよな」
「あれを見てるから、大概の女は嫌なんだ」
けっ、と奴は肩を竦めた。
「でも抱きたいとまで思えた?」
「お前はそういうこと、思ったことがないのか?」
「……無い」
は、と奴は両手を広げた。
「……だったらな、俺とセレジュを結婚させて、お前とは友達、それが一番俺等の間ではいい関係だったんじゃないか?」
俺は言葉に詰まった。どうなんだよ、と奴はこづいてくる。
「セレジュは俺達とずっと一緒に居たいとは言ってたけど、結婚まではどうかな……」
たぶん、それどころではなかったんだと思う。
彼女はあの頃あまりにも忙しすぎた。
普通の貴族の令嬢が恋やら愛やらを夢見る時間を将棋に費やしていたんだから。
俺達は勉学やら武術に将棋を加えても、ままだ色恋沙汰を多少なりとも考える時間はあった。
「そりゃ多分、誰かと結婚しなくてはならないから選べ、と言われたらお前か俺だったろうけど」
「だろ? で、お前にその気が無いなら俺でいいだろ?」
「それができていたなら、そうだったら良かっただろうね」
不服そうな顔で奴は俺を見た。
だってそうだ。
それはもう過ぎた夢だ。
セレジュは手の届かないところに行ってしまった。
「手が届かないから、お前は代わりの女を抱くんだろ?」
奴は何も言わず、ただ苦そうに笑った。
親父の方からは、伯爵家の事情が続けて届けられた。
そして伯爵夫人が死んだ一年後。
「……おい、伯爵まで亡くなったぞ」
親父は何ってことだ、とばかりに慌てて手紙をよこしてきた。
同時に、セレジュに二人目の子供が生まれたとも。最初が王子だったが、今度は王女だとも。
後ろ盾としてどうしたものか、と伯爵家は世代の引き継ぎにあたふたしている、とあった。
バーデンは例の娼館の女とそれからもずいぶん長く続いていた。
奴は似ていない、と言ったが、あのセレジュと同じ髪と目の色の取り合わせは帝都ではそう無い。
帝都に元から住んでする人間はだいたい濃い色の髪と目をしている。
それは帝国の祖となった部族がそうだったとか、日差しが強い場所に住んでいるとか、理由は色々だ。
少なくとも彼女の様な色はチェリでは普通でも、ここでは異質な方だ。
だからどう見ても、バーデンの目当てはそこだとしか俺には思えない。
「なあバーデン、お前、セレジュのこと、どう思っていた?」
「いた? 過去形かよ」
「思っている、んだ」
「無論だ」
奴は言い切った。
「いつから?」
「最初から。女鞍に文句付ける令嬢っておもしれー、って思ったのが最初。後はもう、やっぱ俺、自分と対等に話せる女が好きだし」
「お姉さんや妹さんとはまるで違うよな」
「あれを見てるから、大概の女は嫌なんだ」
けっ、と奴は肩を竦めた。
「でも抱きたいとまで思えた?」
「お前はそういうこと、思ったことがないのか?」
「……無い」
は、と奴は両手を広げた。
「……だったらな、俺とセレジュを結婚させて、お前とは友達、それが一番俺等の間ではいい関係だったんじゃないか?」
俺は言葉に詰まった。どうなんだよ、と奴はこづいてくる。
「セレジュは俺達とずっと一緒に居たいとは言ってたけど、結婚まではどうかな……」
たぶん、それどころではなかったんだと思う。
彼女はあの頃あまりにも忙しすぎた。
普通の貴族の令嬢が恋やら愛やらを夢見る時間を将棋に費やしていたんだから。
俺達は勉学やら武術に将棋を加えても、ままだ色恋沙汰を多少なりとも考える時間はあった。
「そりゃ多分、誰かと結婚しなくてはならないから選べ、と言われたらお前か俺だったろうけど」
「だろ? で、お前にその気が無いなら俺でいいだろ?」
「それができていたなら、そうだったら良かっただろうね」
不服そうな顔で奴は俺を見た。
だってそうだ。
それはもう過ぎた夢だ。
セレジュは手の届かないところに行ってしまった。
「手が届かないから、お前は代わりの女を抱くんだろ?」
奴は何も言わず、ただ苦そうに笑った。
親父の方からは、伯爵家の事情が続けて届けられた。
そして伯爵夫人が死んだ一年後。
「……おい、伯爵まで亡くなったぞ」
親父は何ってことだ、とばかりに慌てて手紙をよこしてきた。
同時に、セレジュに二人目の子供が生まれたとも。最初が王子だったが、今度は王女だとも。
後ろ盾としてどうしたものか、と伯爵家は世代の引き継ぎにあたふたしている、とあった。
12
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる