〈とりあえずまた〆〉婚約破棄? ちょうどいいですわ、断罪の場には。

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
115 / 168
辺境伯令嬢の婚約者は早く事件を解決したい

12 皇帝陛下への謁見②

しおりを挟む
「まあ儂としては、正直チェリ王家がどうなってもいいが、そこから麻薬が広がるのは困る。北は其方等の辺境領だからいいが、トアレグとチェリが下手に組んでその南や、帝国本土の各部族にじわじわ麻薬を売り込まれると困るんでね」
「チェリやトアレグは防波堤なんですね?」

 バルバラは問いかけた。
 そうだ、と陛下は軽くうなづいた。

「大陸の東、向こうには海を越えてまた別の国がある。そちらからの脅威に対しては、海岸線の属国は何事においても防波堤であってくれねばならない。そして常にその意識もな。こんなことでゆるゆるになってもらっても困る。時には気を引き締めろ、というところだな。あとやはり、この実行犯の一人であるデタームの意図が知りたい」
「何故そこまで?」
「此奴に利が無い。こんな分かり易く違法な取引をやっていたなら、いずれ判るのは目に見えてる。わざわざそう見せたい様な気もする」
「彼だけではないと」
「そこで資料にもあったな? デタームの旧友、やはり王室に教師として入っている元留学生、セルーメ。確かお前等のところに一年程滞在していたろう?」
「はい」
「どう思った?」
「聡明なひとでした」
「それだけか?」
「留学生だった流刑者に本を渡していました」
「その後何かあっただろう?」
「お恥ずかしい。まさかと思っていましたが、脱走者が出ました。その後捕らえた者もおりますが、完全に見失った者も」
「ラルカ・デブンだな。セルーメが手引きした可能性は」
「大です」

 バルバラは淡々と答えた。
 正直、あのセルーメさんの名が資料の中に出てきた時には俺達二人とも驚いてあたふたした。
 まさか、と何度も資料を見直した。
 だが、確かにセルーメさんが本を渡した後、妙な音が響き渡ることが時々あった。
 セルーメさんも不自然に窓を開けてハモニカを吹いていた。
 その音色が良いので、後で俺達はそれをまとめて送ってもらったことがあるくらいだ。
 だがそれが脱走につながっていたとは。

「通常なら脱走者は春か秋の祭りの騒ぎに乗じるのに、と時期的にもおかしく思いました。でも確かに、普通の脱走者はその後のことを考えないので道中で発見されることが大半でした。生死問わず」

 そう、春秋のどさくさに紛れて脱走する者は、辺境伯領の広さを頭に入れずに行く者が大半だ。
 何故ここに流刑者が集められるか。
 それは厳しい自然という広大な檻が存在するからだ。
 歩いて行くだけでは簡単に行けない距離、唐突に現れる凶暴な獣、そして秋に脱走したならば、すぐにでも訪れる季節の変化。
 それらを突破するには、外部からの支援が必要なのだ。
 その支援をセルーメさんがしていたというのは、彼と結構な時間過ごしてきて、敬愛もしてきた俺達には相当な衝撃だった。
 だが、デタームの親友であるという帝都時代の聞き取り調査の資料もある。
 そして帝都時代には二人とも将棋の名手だったことも。

「おお、そう言えば、バルバラは将棋はできるか?」
「駒を動かす程度です。私より彼の方がまだましかと」

 そう言って俺は四角八路盤で陛下と手合わせすることになってしまった。
 あっさり負けたが。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...