130 / 168
辺境伯令嬢の婚約者は早く事件を解決したい
27 一見すると長閑な日々
しおりを挟む
一見すると長閑な日々がそこから始まった。
側妃達のもとへはこちらから訪問することもあったが、王子王女達は訪問してくることが多かった。
「こちらではお茶会とかは開かないので、前触れだけしてくれればその時間に居る様にするので来てくれれば構わない」
バルバラは各側妃のところへそう伝えた。
まあすると下の王子二人が実によくやってくる。どうやら本当に俺に体術を教えてもらいたがっている様だった。
「そこまで筋肉がつくにはどうすればいいの?」
「いやそれは、元々の体質もあるし……」
「でも護衛騎士になるまで訓練したんだよね」
なので、俺はともかく弓矢の技術に関してはちょくちょく教える様になった。
「へえ、こんなこつがあるんだ」
「教えてくれませんか?」
「僕等の先生は、何かあまり狩りで的に当てることに熱心じゃないんだ。止まってる的に当てることは教えてくれるんだけど」
「止まっているのが基本ですよ。あとはちゃんと馬に乗っているなり、とっさの時とか不安定な状態でできるか、ということです。基本は大事ですよ」
二人の王子は素直に聞き入れてくれる。
エルデ王女はゼムリャも託児所育ちということで、その時の様子や場所や食事や人員や衣服、それに子供達にどの様なことを教えるのか、ということにずいぶんと興味を持ち、帳面持参でやってきて外のテーブルでよく話し込む様になった。
「救貧院の状態が今一つなのだけど、託児所が別についていたら、もう少し状況が変わるかと思って」
食べることができずに駆け込んできた者達が、ともかく働く手段を身につけることに集中して欲しいのだけど、子供のことが気になって手につかない、ということが多いらしい。
「独立したものは無いんですか?」
「そこまで手が回っていないのが現状ね。どうしてそっちは、それができたの?」
「必要があったから、としか言い様が無いですね。この国と土台が異なっていますから」
そう、チェリは一応真冬で無い限りは、そう簡単に死ぬことはない。
誰かが食料を与えないなら、誰かから盗み取って逃げ去るということができる。
だが北の地ではそうはいかない。
「放っておくと寒さで死ぬ子が殆どです。だから保護する。そして育てて、また皆のために働く。そうしていかないと、あの土地では生きていくのが難しいんです」
「あの辺りでないといけないのかしら? 辺境伯領はこちらとの国境近くの川の辺りまであるのでしょう?」
エルデ王女はその辺りの地政学をきちんと教わっている様だ。
ただやはりそこは学問上のものでしかない。
「森林と山。そして土。これらが大きな壁となっています。未だ、そちらとの間にある大きな山脈を直接まっすぐに越えることはできません。海路を取るのはそのためです」
成る程、とそれもまた帳面につける。本当にエルデ王女は生真面目なのだろう。
一方、ユルシュ王女はバルバラの服をじっと見ては、やはり帳面を持ち出し、細かく細かくその図案を絵にしていた。
「刺繍に対する根本的な考え方が私達と異なるのね。あ、それとこの椅子いいわね! 誰が作ったの?」
指さす先に居たゲイデンはその日、丸太を組んだ大きなテーブルを作っている最中だった。
「野性味があっていいわ! ちょっとこれも見ていていい?」
彼女の頭の中ではどういう計算が繰り広げられているのだろう、と俺は思った。
側妃達のもとへはこちらから訪問することもあったが、王子王女達は訪問してくることが多かった。
「こちらではお茶会とかは開かないので、前触れだけしてくれればその時間に居る様にするので来てくれれば構わない」
バルバラは各側妃のところへそう伝えた。
まあすると下の王子二人が実によくやってくる。どうやら本当に俺に体術を教えてもらいたがっている様だった。
「そこまで筋肉がつくにはどうすればいいの?」
「いやそれは、元々の体質もあるし……」
「でも護衛騎士になるまで訓練したんだよね」
なので、俺はともかく弓矢の技術に関してはちょくちょく教える様になった。
「へえ、こんなこつがあるんだ」
「教えてくれませんか?」
「僕等の先生は、何かあまり狩りで的に当てることに熱心じゃないんだ。止まってる的に当てることは教えてくれるんだけど」
「止まっているのが基本ですよ。あとはちゃんと馬に乗っているなり、とっさの時とか不安定な状態でできるか、ということです。基本は大事ですよ」
二人の王子は素直に聞き入れてくれる。
エルデ王女はゼムリャも託児所育ちということで、その時の様子や場所や食事や人員や衣服、それに子供達にどの様なことを教えるのか、ということにずいぶんと興味を持ち、帳面持参でやってきて外のテーブルでよく話し込む様になった。
「救貧院の状態が今一つなのだけど、託児所が別についていたら、もう少し状況が変わるかと思って」
食べることができずに駆け込んできた者達が、ともかく働く手段を身につけることに集中して欲しいのだけど、子供のことが気になって手につかない、ということが多いらしい。
「独立したものは無いんですか?」
「そこまで手が回っていないのが現状ね。どうしてそっちは、それができたの?」
「必要があったから、としか言い様が無いですね。この国と土台が異なっていますから」
そう、チェリは一応真冬で無い限りは、そう簡単に死ぬことはない。
誰かが食料を与えないなら、誰かから盗み取って逃げ去るということができる。
だが北の地ではそうはいかない。
「放っておくと寒さで死ぬ子が殆どです。だから保護する。そして育てて、また皆のために働く。そうしていかないと、あの土地では生きていくのが難しいんです」
「あの辺りでないといけないのかしら? 辺境伯領はこちらとの国境近くの川の辺りまであるのでしょう?」
エルデ王女はその辺りの地政学をきちんと教わっている様だ。
ただやはりそこは学問上のものでしかない。
「森林と山。そして土。これらが大きな壁となっています。未だ、そちらとの間にある大きな山脈を直接まっすぐに越えることはできません。海路を取るのはそのためです」
成る程、とそれもまた帳面につける。本当にエルデ王女は生真面目なのだろう。
一方、ユルシュ王女はバルバラの服をじっと見ては、やはり帳面を持ち出し、細かく細かくその図案を絵にしていた。
「刺繍に対する根本的な考え方が私達と異なるのね。あ、それとこの椅子いいわね! 誰が作ったの?」
指さす先に居たゲイデンはその日、丸太を組んだ大きなテーブルを作っている最中だった。
「野性味があっていいわ! ちょっとこれも見ていていい?」
彼女の頭の中ではどういう計算が繰り広げられているのだろう、と俺は思った。
2
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる