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魔王と勇者 編【L.A 2034】
ただごとではない
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何度か、雪が降る季節と草花が鮮やかに色付く季節が交互に過ぎていった。
ベネットに初めて繕ってもらった衣類はもう小さくなってしまい袖を通すことなどできず、新しい服ばかりが増えていく。
城内は見違えるほど綺麗に掃除も行き届くようになり、各自の部屋も宛がわれている。外は相変わらず砂漠が広がっているけれど、小さな畑を作って毎日水やりをしているうちに芽が出た日は全員で飛び跳ねながら喜んだ。
穏やかな日々がこんなにも心安らぐものだとは知らなかった。しかし、ずっと陽気な気分というわけでもなく……むしろ時間が経つにつれ焦燥感は募っている。
「城内もまぁ……大分片付き、小さいですが畑も水を欠かさず与えれば機能することが実証できました。地図でのここの場所も把握できています…………しかし」
「そろそろ民を増やす頃合いかなとは……あたしも思ってる。思ってるさ」
「二人ともちゃんと地図見えてる?」
ベネットと出会った頃の二倍……は言い過ぎだが、成長期も終わり身長の伸びもおさまった面々は立派な大人の姿であった。
唸りながら腕を組み、重そうな瞼でぎゅっと閉じられている目はサイロンのようで。だからジェイソンはトーマとドレアスの顔の前で手の平をプラプラと振っているのだ。
「やぁやぁ、そろそろ君たちが動き出したい頃かなと思っていたけれど、何を迷っているんだい?」
成長してもその目が開いたところは見たことがない。ついでに言えば、前世でも見たことがない。柔らかそうにうねる髪をリボンで後ろに括り、ベネットに仕立ててもらった装いは黒の燕尾服と白いシャツ。執事か、と三人揃えて突っ込んだのはついこの間のこと。
サイロンの服に意見をしているドレアスだが、彼女も彼女だ。成長するにしたがって、大きくなる場所はまだ育つのか、と思うくらいに育ち、くびれは何故あんなに食べていてそんなに凹むんだというくらいにくびれている。そしてそれを本人は隠そうともしないし、服を仕立てるたびに布面積が少なくなっているのは絶対に気のせいではない。トーマだけが「ビキニか!」と叫んでいたのもついこの間のこと。
「私も貴方が気付いているということは大分前から察していましたよ」
サイロンだけに隠し事をしていたわけではない、ただ……あの日からなんとなく、あの話をしなくなっていたのだ。まずは生活の基盤を整えなければならなかったし、自給自足だし、慣れないことばかりだったものだから。
自分たちがこの面々だけで生活するために地図を作ったり、畑を作っていたわけではないということをサイロンは気付いていた。同じことを考えていたのか、付き合いの長さのせいか……それは分からないけれど。
「知らねーのはベネット様だけだろうな」
「かくしごと……つらい」
ジェイソンは体ばかり大人になってしまって、態度は子供のまま。たまに良さげなことを言うには言うが、それ以外が幼いのだ。前世も同じであったから慣れてはいるのだが。
「はっは、なら言ってしまいなさい。移動魔術は現状で、ベネットお嬢様しか使えないのだから」
「それなんですよッッッ!!」
「うわっ声でかっ」
地図で確認したところ、城の位置は予想通りというか、的中してほしくなかったというか。つまり、砂漠のド真ん中だったのだ。確かに砂嵐の多い地帯でここを抜けるようなものはいない、隠れ蓑としては好都合。しかし、これではヒトの呼び込みもできやしない。そもそも周辺の集落から歩いて辿り着けるような場所ではないのだ。なので自分たちは、狩りに行くにも洞窟に行くにもベネットの移動魔術に頼りきりの状態である。
「私も……私だって!王国最強の魔術師だったんです!自称ではなく!なのにっ、転生したら!!剣の才の方があったなんて!!」
多くの魔術の知識を有し、次々に繰り出すことができる魔術師は数少ない。しかし転生というものは、知識を有していても体が変われば魔術の度合いも変わってくる。一度の魔術で噴水を満たす大きな水を操れた前世であっても、転生すれば桶一杯分くらいの水しか操れないということもざらにあるのだ。
「え?おばかになったの?」
「剣士もおめーにはばか呼ばわりされたくねえだろうよ」
トーマは毎日のように魔術と剣の鍛錬を欠かさなかった。それは意地でもある。以前は自分の思い通りの威力で調整できていたはずの魔術が発動できなくなっていた。前世でも剣は使えたがほぼ魔術に頼り切っていたのもあって、狩りで失敗すれば丸三日はドレアスにからかわれていたのだ。
そのかいあってか、体を鍛えているサイロンもかなり逞しい体格だが、それに劣らない隆々たる肉体になっている。
「私は魔術も剣も使えます!いわば魔剣士です!」
この前落とし穴の紐を切ろうとして獲物の首をスパッと切り落とし、そこらじゅう血まみれにしたのはどこのどいつだよ、と言いたい気持ちをドレアスはぐっと堪えた。
「この城の本だって半分は読破しました……読めないと思っていたらただ旧字体だったというだけで……しかし旧字体ついでに文法も古めかしくて中々読み進められないし!」
「言い訳はみっともないのだよ」
「ブッ飛ばしますよ、サイロン」
読破したといっても、流して読んだも同然で、どれがどんな内容だったかはさほど頭に残っていない。
本を読んだというより、眺めた、の方が正しいのだがトーマは頑なに認めようとしなかった。
「まぁ、あたしもいくつか読んだけどスラスラ頭に入るもんじゃないな。でもベネット様は絵本感覚で読んでるんだよ」
旧字体だと真っ先に気付いたのは、実のところベネットだったのだ。それからは読む速さもぐんと上がり、ドレアスが探したい本を訪ねるとどこにあるか教えられるほどに。流しながら読んでいるトーマとは大違いだ。
「……読み方がだめなんじゃないのかい」
ピクリと上がった眉の下にある瞳はその中心に怒りを揺らめかせている。トーマは静かに言葉の続きを待った。
「僕たちは戦いの教本として魔術書を読んで、学んできた。お嬢様を見てみなさい、あの方は生活の中に魔術を組み込んでいる」
魔術の教本を手に取れる者たちは限られている。そしてその書物とは、どれも同じようなものを記していた。戦法を共に添えて。
「たとえば水だとしたら僕たちはどう扱ってきた?火の魔術に対抗するため、大量の水で敵を窒息させるため、毒を混ぜて気化させて鎮圧するため……そう使うものだと、刷り込まれているのだよ」
ベネットはそのようなことになど使わない。魔術を使えるようになってからは、桶を使わず魔術で水を運び時間の短縮に用いている。そしてその水を雨のように降らせて畑を潤わせる。そんな使い方をする魔術師など、見たことが無かったのだ。
「ベネットは……今まで転生する中で、魔術なんて使ったことないって言ってた。だから本で読むまま、そのままを吸収してる……あれっ」
「なんですか」
目を瞑っているのに見えているサイロンとは逆に、目を開けているのに寝ている技を習得しているジェイソンが珍しく起きて話を聞いていることに、三人はまず驚いた。そして突然語りだしたと思えば、これまた突然に目をパチパチ瞬かせながら震えだす。
「オレって……本読むの苦手だから……魔術あんまり勉強してこなかった」
「ジェイソンは鞘や弓も武器にするようなやつだもんな」
魔術の腕はからきしだめでも、戦闘センスに関してジェイソンはこの中で一番ずば抜けている。魔術の補助がなくとも、周りにあるものを何でも武器とするのだ。そしてどの武器の扱いも心得ている。
「つまり……今から勉強すれば、オレもベネットみたいに、魔術を使えるかも……!!オレ、天才……!?」
「いえ、普通におばかです」
ドレアスとトーマは同じように指先を眉間に当てて大きくため息をついていた。
「いい線いってると思うよ。今からジェイソンくんが旧字体の勉強をできるならね」
「ベネットとおべんきょしよ」
上機嫌になったジェイソンは軽い足取りでリズムを刻みながらスキップする。
「いい年してかわいこぶらないでくれません!?ただでさえ顔が似てて気持ち悪いんですから!!」
「ま、ジェイソンは確かに可愛げあるな、トーマより」
「君は頑張って自身の称し方と服装を女性らしくしてるようですが可愛げがありませんね」
「あ゛?」
ジェイソンは前世も今も、変わらない。体の年齢に問わず、中身がずっと子供のようで。そして素直で。
変わらないジェイソンとは違って、変わろうとした者もいる。ドレアスはスカートこそは穿かないものの、自身のことを『あたし』と言い、衣類も男物を着るのをやめた。だが性格はやはり変えることはできなかったのだ。これよりさらに女性らしく、というのを諦めたドレアスは現状を良しとしている。
「トーマッ!!」
「なんですか珍しくでかい声出して!」
ベネットの元へ走って行ったはずのジェイソンが、見たこともないような顔をして戻ってきた。一触即発のところだったトーマとドレアスは同時に声が挙がった方向を見る。そして、その瞬間とサイロンが駆け出したのは同時に起こった。
「アレ、誰!?」
「なにっ……!!」
指の先の方向では既に火花が飛び散っていた。サイロンの握る大剣は空気に震え、鳴りながら軽々と連撃を繰り出している。火花は、相手が武器を突き合わせているからではない。相手が避けているから、柱にこすれ火花が散るのだ。ジェイソンが『誰』とヒトのように称したが、二人はそれに合意できない。頭部は獣の頭蓋骨を被り毛皮や装飾を取り付け、首から膝下までボロ衣のような黒いマントで覆っている。脚だけは、ヒトと同じように、かろうじて見えているが。
「……なんだ、これは」
「あたしにも分かるぜ……あの気配も、匂いも、異質すぎるってなぁ!!」
ベネットに初めて繕ってもらった衣類はもう小さくなってしまい袖を通すことなどできず、新しい服ばかりが増えていく。
城内は見違えるほど綺麗に掃除も行き届くようになり、各自の部屋も宛がわれている。外は相変わらず砂漠が広がっているけれど、小さな畑を作って毎日水やりをしているうちに芽が出た日は全員で飛び跳ねながら喜んだ。
穏やかな日々がこんなにも心安らぐものだとは知らなかった。しかし、ずっと陽気な気分というわけでもなく……むしろ時間が経つにつれ焦燥感は募っている。
「城内もまぁ……大分片付き、小さいですが畑も水を欠かさず与えれば機能することが実証できました。地図でのここの場所も把握できています…………しかし」
「そろそろ民を増やす頃合いかなとは……あたしも思ってる。思ってるさ」
「二人ともちゃんと地図見えてる?」
ベネットと出会った頃の二倍……は言い過ぎだが、成長期も終わり身長の伸びもおさまった面々は立派な大人の姿であった。
唸りながら腕を組み、重そうな瞼でぎゅっと閉じられている目はサイロンのようで。だからジェイソンはトーマとドレアスの顔の前で手の平をプラプラと振っているのだ。
「やぁやぁ、そろそろ君たちが動き出したい頃かなと思っていたけれど、何を迷っているんだい?」
成長してもその目が開いたところは見たことがない。ついでに言えば、前世でも見たことがない。柔らかそうにうねる髪をリボンで後ろに括り、ベネットに仕立ててもらった装いは黒の燕尾服と白いシャツ。執事か、と三人揃えて突っ込んだのはついこの間のこと。
サイロンの服に意見をしているドレアスだが、彼女も彼女だ。成長するにしたがって、大きくなる場所はまだ育つのか、と思うくらいに育ち、くびれは何故あんなに食べていてそんなに凹むんだというくらいにくびれている。そしてそれを本人は隠そうともしないし、服を仕立てるたびに布面積が少なくなっているのは絶対に気のせいではない。トーマだけが「ビキニか!」と叫んでいたのもついこの間のこと。
「私も貴方が気付いているということは大分前から察していましたよ」
サイロンだけに隠し事をしていたわけではない、ただ……あの日からなんとなく、あの話をしなくなっていたのだ。まずは生活の基盤を整えなければならなかったし、自給自足だし、慣れないことばかりだったものだから。
自分たちがこの面々だけで生活するために地図を作ったり、畑を作っていたわけではないということをサイロンは気付いていた。同じことを考えていたのか、付き合いの長さのせいか……それは分からないけれど。
「知らねーのはベネット様だけだろうな」
「かくしごと……つらい」
ジェイソンは体ばかり大人になってしまって、態度は子供のまま。たまに良さげなことを言うには言うが、それ以外が幼いのだ。前世も同じであったから慣れてはいるのだが。
「はっは、なら言ってしまいなさい。移動魔術は現状で、ベネットお嬢様しか使えないのだから」
「それなんですよッッッ!!」
「うわっ声でかっ」
地図で確認したところ、城の位置は予想通りというか、的中してほしくなかったというか。つまり、砂漠のド真ん中だったのだ。確かに砂嵐の多い地帯でここを抜けるようなものはいない、隠れ蓑としては好都合。しかし、これではヒトの呼び込みもできやしない。そもそも周辺の集落から歩いて辿り着けるような場所ではないのだ。なので自分たちは、狩りに行くにも洞窟に行くにもベネットの移動魔術に頼りきりの状態である。
「私も……私だって!王国最強の魔術師だったんです!自称ではなく!なのにっ、転生したら!!剣の才の方があったなんて!!」
多くの魔術の知識を有し、次々に繰り出すことができる魔術師は数少ない。しかし転生というものは、知識を有していても体が変われば魔術の度合いも変わってくる。一度の魔術で噴水を満たす大きな水を操れた前世であっても、転生すれば桶一杯分くらいの水しか操れないということもざらにあるのだ。
「え?おばかになったの?」
「剣士もおめーにはばか呼ばわりされたくねえだろうよ」
トーマは毎日のように魔術と剣の鍛錬を欠かさなかった。それは意地でもある。以前は自分の思い通りの威力で調整できていたはずの魔術が発動できなくなっていた。前世でも剣は使えたがほぼ魔術に頼り切っていたのもあって、狩りで失敗すれば丸三日はドレアスにからかわれていたのだ。
そのかいあってか、体を鍛えているサイロンもかなり逞しい体格だが、それに劣らない隆々たる肉体になっている。
「私は魔術も剣も使えます!いわば魔剣士です!」
この前落とし穴の紐を切ろうとして獲物の首をスパッと切り落とし、そこらじゅう血まみれにしたのはどこのどいつだよ、と言いたい気持ちをドレアスはぐっと堪えた。
「この城の本だって半分は読破しました……読めないと思っていたらただ旧字体だったというだけで……しかし旧字体ついでに文法も古めかしくて中々読み進められないし!」
「言い訳はみっともないのだよ」
「ブッ飛ばしますよ、サイロン」
読破したといっても、流して読んだも同然で、どれがどんな内容だったかはさほど頭に残っていない。
本を読んだというより、眺めた、の方が正しいのだがトーマは頑なに認めようとしなかった。
「まぁ、あたしもいくつか読んだけどスラスラ頭に入るもんじゃないな。でもベネット様は絵本感覚で読んでるんだよ」
旧字体だと真っ先に気付いたのは、実のところベネットだったのだ。それからは読む速さもぐんと上がり、ドレアスが探したい本を訪ねるとどこにあるか教えられるほどに。流しながら読んでいるトーマとは大違いだ。
「……読み方がだめなんじゃないのかい」
ピクリと上がった眉の下にある瞳はその中心に怒りを揺らめかせている。トーマは静かに言葉の続きを待った。
「僕たちは戦いの教本として魔術書を読んで、学んできた。お嬢様を見てみなさい、あの方は生活の中に魔術を組み込んでいる」
魔術の教本を手に取れる者たちは限られている。そしてその書物とは、どれも同じようなものを記していた。戦法を共に添えて。
「たとえば水だとしたら僕たちはどう扱ってきた?火の魔術に対抗するため、大量の水で敵を窒息させるため、毒を混ぜて気化させて鎮圧するため……そう使うものだと、刷り込まれているのだよ」
ベネットはそのようなことになど使わない。魔術を使えるようになってからは、桶を使わず魔術で水を運び時間の短縮に用いている。そしてその水を雨のように降らせて畑を潤わせる。そんな使い方をする魔術師など、見たことが無かったのだ。
「ベネットは……今まで転生する中で、魔術なんて使ったことないって言ってた。だから本で読むまま、そのままを吸収してる……あれっ」
「なんですか」
目を瞑っているのに見えているサイロンとは逆に、目を開けているのに寝ている技を習得しているジェイソンが珍しく起きて話を聞いていることに、三人はまず驚いた。そして突然語りだしたと思えば、これまた突然に目をパチパチ瞬かせながら震えだす。
「オレって……本読むの苦手だから……魔術あんまり勉強してこなかった」
「ジェイソンは鞘や弓も武器にするようなやつだもんな」
魔術の腕はからきしだめでも、戦闘センスに関してジェイソンはこの中で一番ずば抜けている。魔術の補助がなくとも、周りにあるものを何でも武器とするのだ。そしてどの武器の扱いも心得ている。
「つまり……今から勉強すれば、オレもベネットみたいに、魔術を使えるかも……!!オレ、天才……!?」
「いえ、普通におばかです」
ドレアスとトーマは同じように指先を眉間に当てて大きくため息をついていた。
「いい線いってると思うよ。今からジェイソンくんが旧字体の勉強をできるならね」
「ベネットとおべんきょしよ」
上機嫌になったジェイソンは軽い足取りでリズムを刻みながらスキップする。
「いい年してかわいこぶらないでくれません!?ただでさえ顔が似てて気持ち悪いんですから!!」
「ま、ジェイソンは確かに可愛げあるな、トーマより」
「君は頑張って自身の称し方と服装を女性らしくしてるようですが可愛げがありませんね」
「あ゛?」
ジェイソンは前世も今も、変わらない。体の年齢に問わず、中身がずっと子供のようで。そして素直で。
変わらないジェイソンとは違って、変わろうとした者もいる。ドレアスはスカートこそは穿かないものの、自身のことを『あたし』と言い、衣類も男物を着るのをやめた。だが性格はやはり変えることはできなかったのだ。これよりさらに女性らしく、というのを諦めたドレアスは現状を良しとしている。
「トーマッ!!」
「なんですか珍しくでかい声出して!」
ベネットの元へ走って行ったはずのジェイソンが、見たこともないような顔をして戻ってきた。一触即発のところだったトーマとドレアスは同時に声が挙がった方向を見る。そして、その瞬間とサイロンが駆け出したのは同時に起こった。
「アレ、誰!?」
「なにっ……!!」
指の先の方向では既に火花が飛び散っていた。サイロンの握る大剣は空気に震え、鳴りながら軽々と連撃を繰り出している。火花は、相手が武器を突き合わせているからではない。相手が避けているから、柱にこすれ火花が散るのだ。ジェイソンが『誰』とヒトのように称したが、二人はそれに合意できない。頭部は獣の頭蓋骨を被り毛皮や装飾を取り付け、首から膝下までボロ衣のような黒いマントで覆っている。脚だけは、ヒトと同じように、かろうじて見えているが。
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