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建国 編【L.A 2064】
つよすぎる でこぴん
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「イネは長期保存が可能な穀物であり栄養価が高い。粉にすりつぶせば小麦同様、様々な食事の用途に用いることもできるし、小麦のみのパンより腹持ちがいい。ここにはイネが主食の一部として使われている……が、不味い、味をつけたぐらいじゃ誤魔化せないほど、不味い」
昨日はアオイによる魔術の授業、そして今日はあの筆頭とやらの授業。朝のように軽装ではあるが、やはりその首には大きな布が巻かれている。そして多くのものの視線もその首元に集中している……のか、仮面に向いているのか。その仮面にはただ模様が描かれているだけのもので、代わりとなる顔が描かれていない。その物珍しさもあるのだろう。
朝食をとり終わった後、皆がベネットによって招集された。家造りもまだ途中の段階で、昨夜は赤い狼と男たちは外で眠ったぐらいだというのに、その続きに掛かるわけでもない。
何をするのかと思えばあの筆頭が出てきて、告げたのは食に関すること。
イネについての評価に大きく頷いていたのは主にトーマとドレアスだった。
「……お前に言ってるんだぞ、アオイ」
「トーマくんがいじわるで言ってたかと思ってた」
けろりと言ってのける様子に、筆頭は呆れて分かりやすく大きなため息をついて頭を振っている。トーマは興奮して鼻息を荒くしながら殴りかかりそうだったのを、左右で挟んでいたドレアスとジェイソンでなんとか宥めた。
「次に食べ物だ。燻製にするのもいいが、凍らせるのも一つの手だ」
「水っぽくなるのでは?」
「瞬間的に一気に凍らせれば鮮度をそのままに保つことが出来る、外気に触れないよう包むと氷で焼けることもない」
「氷って焼けるのか?」
今いる場所が砂漠地帯であること、アラルや魔族領の近隣は気候が温暖の傾向が強い。凍らせる、という発想を容易くは受け入れられなかった。
「北部の農村は地面に穴を掘って、そこに食糧を保管するそうなのだよ。商人や領主ともなれば専用の蔵を持っているはずだ」
「ここは荒れ地のど真ん中だぜ? 雪が降るのだって3年に一度あるかだし、どうやって凍らせて保存するんだ」
冷凍保存するにはまず氷が必要になる。確かに、魔術の中に氷を作り出すものもあるにはあるが、食糧の保管のために使う大量の氷を作り出すことは難しい。
「あまりに暇で色々開発してるやつがいるだろう」
「ん~? 俺のことかな~? こないだ水路を整備したでしょ、それで水車を作りましたぁ」
「あのぐるぐるまわってるやつでしょ~!」
ドレアスは「頼むからお前は大人しくしててくれ」と再三言い含めてあったというのに、それをジェイソンが聞き入れることはないということを忘れかけていた。元より空返事であったものを信じてはいなかったが。
娼館から連れ出した娘たちに笑われていると気付き、ドレアスまで恥ずかしくなってきてしまった。
「この土地の結界は、大樹の魔力の巡りを水路の流れに合わせて常に魔術陣が作動するようにしてあります。つまり~?」
「結界でなくとも魔術陣を常時発動したままでおくことが可能になるなら……ですがアオイさま、ヒトが居ない状態で魔術を常時発動するなど可能なのでしょうか」
「そもそも魔術とは一度発動して、魔力を供給さえしていれば陣が崩れない限り動き続ける。魔力が断たれる、あるいは陣の一部が破損することがなければ作動したままにできるよ」
アオイとマテウスでどんどん話を進めていくが多くのものたちにはちんぷんかんぷんだった。
魔術についてを勉強したばかりで、使えるものは「水」と「土」くらいなのである。狼たちは筆頭が話していた序盤こそは聞いていたがアオイが語り始めると途端に脱力してしまった。分かりやすすぎる。
「もっと簡単にゆって!」
突然の大声に全員の目線がジェイソンに集中する。隣にいたトーマとドレアスは驚きのあまりひっくり返りそうになっていた。
「魔術が使えるなら氷も作れる。水車小屋の壁を断熱性の高いモル……タル……」
「煉瓦かな」
「そう、煉瓦で覆い食材を保管するんだ。水路で魔力を供給することが可能なら、水が止まらなければ実現は可能だ……もっとも、魔術に頼らないものが作ることが一番なんだが」
今なにか、筆頭が言葉につまってアオイに助けを求めたように見えた。互いに表情など見えていないだろうに。
「書庫にも食べ物を凍らせて保存する方法が書かれている本があります。お肉やお魚、果物に野菜も保存できるのだそうですよ。アラシさんの言う通り……魔術頼みになってしまいますが、それでもこれはとても革新的な案だと思います」
全く想像もつかない話にただ唸るばかりの民たちから悩みの色が薄れた。ヒトが増えれば今までのような生活はとてもじゃないが苦しすぎる。ベネットは民から賛成の声が次々上がる様子にほっと胸を撫で下ろした。
「……オレの名前」
「あっ、すみません。アオイさんがそう呼んでいたと思って……違いましたか?」
目や口の部分すら穴の開いていない仮面は、よく見れば様々な花が散りばめられたように繊細に彫られている。そしてほんのりと色も塗られていた。少しばかりの間を置いて、アラシは静かに首を横に振る。
「衣食住は生活する上で必須なものだ。衣と住は一つ確保できればしばらくもつ……しかし食は毎日必要だ。消耗が激しい」
「ヒトの配置を見直さなければいけませんね。みなさんと相談してみます」
「それじゃあベネットとマテウス、アラシと俺は書庫で補助になりそうなものを探してこよう」
名を呼ばれたマテウスはしっぽを棒のようにぴんと上向かせ、大きな瞳をさらに開いて爛々としていた。「はいっ!」と返事をしようと口を開いたものの、後ろから「ちょっと待てや!」と体中に響く大声を浴びたことでしっぽの毛はあっという間に逆立っている。
「あぁん!? なぁ~~に言ってんだ! おめーは肉体労働だ魔術師ィ!!」
わらわらとアオイの行く先に立ち塞がり、狼たちは凄みを利かせる。剣呑な空気なのは取り囲んでいる狼たちだけで、中心にされているアオイは腕を組み、うーんと首を横に倒すだけ。次の瞬間、アオイの目の前を陣取っていた狼が……勢いよく吹っ飛んだのだ。
「ひゃゎ……ひ、ひっとぉ」
「アオイは水車小屋と常時発動の魔術陣の整備がある。この中で一番知識量が豊富だ、肉体労働はお前たちに任せる。空いた時間はオレも手伝おう。他に文句があるやつはいるか」
有無を言わせず、という気迫に圧されて円陣を組んでいた彼らはあっけなく散り散りになった。
吹っ飛んだ狼がちょうど目の前まで滑ってきたので、ドレアスはとりあえず彼の体を起こしぺちぺちと軽く頬を叩く。アオイが何かしたのか、と観察してみれば彼の眉間は真っ赤になり心なしか煙っぽいものが出ている。白目を剥いたままだらりと動かない。
おそるおそる、アオイではなくアラシの方に目を向ける。親指と中指の先をくっつけた手を別の狼に向けていた。
まさか……指一本でこの巨体の狼を吹っ飛ばしたというのか。
「いやいやいや!! 筆頭はメシを作ってくだせえ!」
「そうか? オレも加わった方が早く終わると思うが」
「おめーら20人分の腕力あるやつだぞ、勝手にさせとけ」
「頭目ぅ~……」
これが精霊のいとしごの力か……そう思おうとしたが、きっと違う。これはもはやエレメンタルは関係ない。あの子供のような姿で身の丈に合わない力を持っている。一見細身だが、ヒト族と比べて遥かに腕力のあるエルフ族や獣人もいるがこれはその範疇を超えすぎているだろう。
「狼種族20人分……」
ごくりと唾をのんだドレアスは身震いした。逆らわない方がいい。自分はこうはなりたくない……腕に抱く、未だに気絶したままの哀れな狼を見下ろして、固く誓った。
昨日はアオイによる魔術の授業、そして今日はあの筆頭とやらの授業。朝のように軽装ではあるが、やはりその首には大きな布が巻かれている。そして多くのものの視線もその首元に集中している……のか、仮面に向いているのか。その仮面にはただ模様が描かれているだけのもので、代わりとなる顔が描かれていない。その物珍しさもあるのだろう。
朝食をとり終わった後、皆がベネットによって招集された。家造りもまだ途中の段階で、昨夜は赤い狼と男たちは外で眠ったぐらいだというのに、その続きに掛かるわけでもない。
何をするのかと思えばあの筆頭が出てきて、告げたのは食に関すること。
イネについての評価に大きく頷いていたのは主にトーマとドレアスだった。
「……お前に言ってるんだぞ、アオイ」
「トーマくんがいじわるで言ってたかと思ってた」
けろりと言ってのける様子に、筆頭は呆れて分かりやすく大きなため息をついて頭を振っている。トーマは興奮して鼻息を荒くしながら殴りかかりそうだったのを、左右で挟んでいたドレアスとジェイソンでなんとか宥めた。
「次に食べ物だ。燻製にするのもいいが、凍らせるのも一つの手だ」
「水っぽくなるのでは?」
「瞬間的に一気に凍らせれば鮮度をそのままに保つことが出来る、外気に触れないよう包むと氷で焼けることもない」
「氷って焼けるのか?」
今いる場所が砂漠地帯であること、アラルや魔族領の近隣は気候が温暖の傾向が強い。凍らせる、という発想を容易くは受け入れられなかった。
「北部の農村は地面に穴を掘って、そこに食糧を保管するそうなのだよ。商人や領主ともなれば専用の蔵を持っているはずだ」
「ここは荒れ地のど真ん中だぜ? 雪が降るのだって3年に一度あるかだし、どうやって凍らせて保存するんだ」
冷凍保存するにはまず氷が必要になる。確かに、魔術の中に氷を作り出すものもあるにはあるが、食糧の保管のために使う大量の氷を作り出すことは難しい。
「あまりに暇で色々開発してるやつがいるだろう」
「ん~? 俺のことかな~? こないだ水路を整備したでしょ、それで水車を作りましたぁ」
「あのぐるぐるまわってるやつでしょ~!」
ドレアスは「頼むからお前は大人しくしててくれ」と再三言い含めてあったというのに、それをジェイソンが聞き入れることはないということを忘れかけていた。元より空返事であったものを信じてはいなかったが。
娼館から連れ出した娘たちに笑われていると気付き、ドレアスまで恥ずかしくなってきてしまった。
「この土地の結界は、大樹の魔力の巡りを水路の流れに合わせて常に魔術陣が作動するようにしてあります。つまり~?」
「結界でなくとも魔術陣を常時発動したままでおくことが可能になるなら……ですがアオイさま、ヒトが居ない状態で魔術を常時発動するなど可能なのでしょうか」
「そもそも魔術とは一度発動して、魔力を供給さえしていれば陣が崩れない限り動き続ける。魔力が断たれる、あるいは陣の一部が破損することがなければ作動したままにできるよ」
アオイとマテウスでどんどん話を進めていくが多くのものたちにはちんぷんかんぷんだった。
魔術についてを勉強したばかりで、使えるものは「水」と「土」くらいなのである。狼たちは筆頭が話していた序盤こそは聞いていたがアオイが語り始めると途端に脱力してしまった。分かりやすすぎる。
「もっと簡単にゆって!」
突然の大声に全員の目線がジェイソンに集中する。隣にいたトーマとドレアスは驚きのあまりひっくり返りそうになっていた。
「魔術が使えるなら氷も作れる。水車小屋の壁を断熱性の高いモル……タル……」
「煉瓦かな」
「そう、煉瓦で覆い食材を保管するんだ。水路で魔力を供給することが可能なら、水が止まらなければ実現は可能だ……もっとも、魔術に頼らないものが作ることが一番なんだが」
今なにか、筆頭が言葉につまってアオイに助けを求めたように見えた。互いに表情など見えていないだろうに。
「書庫にも食べ物を凍らせて保存する方法が書かれている本があります。お肉やお魚、果物に野菜も保存できるのだそうですよ。アラシさんの言う通り……魔術頼みになってしまいますが、それでもこれはとても革新的な案だと思います」
全く想像もつかない話にただ唸るばかりの民たちから悩みの色が薄れた。ヒトが増えれば今までのような生活はとてもじゃないが苦しすぎる。ベネットは民から賛成の声が次々上がる様子にほっと胸を撫で下ろした。
「……オレの名前」
「あっ、すみません。アオイさんがそう呼んでいたと思って……違いましたか?」
目や口の部分すら穴の開いていない仮面は、よく見れば様々な花が散りばめられたように繊細に彫られている。そしてほんのりと色も塗られていた。少しばかりの間を置いて、アラシは静かに首を横に振る。
「衣食住は生活する上で必須なものだ。衣と住は一つ確保できればしばらくもつ……しかし食は毎日必要だ。消耗が激しい」
「ヒトの配置を見直さなければいけませんね。みなさんと相談してみます」
「それじゃあベネットとマテウス、アラシと俺は書庫で補助になりそうなものを探してこよう」
名を呼ばれたマテウスはしっぽを棒のようにぴんと上向かせ、大きな瞳をさらに開いて爛々としていた。「はいっ!」と返事をしようと口を開いたものの、後ろから「ちょっと待てや!」と体中に響く大声を浴びたことでしっぽの毛はあっという間に逆立っている。
「あぁん!? なぁ~~に言ってんだ! おめーは肉体労働だ魔術師ィ!!」
わらわらとアオイの行く先に立ち塞がり、狼たちは凄みを利かせる。剣呑な空気なのは取り囲んでいる狼たちだけで、中心にされているアオイは腕を組み、うーんと首を横に倒すだけ。次の瞬間、アオイの目の前を陣取っていた狼が……勢いよく吹っ飛んだのだ。
「ひゃゎ……ひ、ひっとぉ」
「アオイは水車小屋と常時発動の魔術陣の整備がある。この中で一番知識量が豊富だ、肉体労働はお前たちに任せる。空いた時間はオレも手伝おう。他に文句があるやつはいるか」
有無を言わせず、という気迫に圧されて円陣を組んでいた彼らはあっけなく散り散りになった。
吹っ飛んだ狼がちょうど目の前まで滑ってきたので、ドレアスはとりあえず彼の体を起こしぺちぺちと軽く頬を叩く。アオイが何かしたのか、と観察してみれば彼の眉間は真っ赤になり心なしか煙っぽいものが出ている。白目を剥いたままだらりと動かない。
おそるおそる、アオイではなくアラシの方に目を向ける。親指と中指の先をくっつけた手を別の狼に向けていた。
まさか……指一本でこの巨体の狼を吹っ飛ばしたというのか。
「いやいやいや!! 筆頭はメシを作ってくだせえ!」
「そうか? オレも加わった方が早く終わると思うが」
「おめーら20人分の腕力あるやつだぞ、勝手にさせとけ」
「頭目ぅ~……」
これが精霊のいとしごの力か……そう思おうとしたが、きっと違う。これはもはやエレメンタルは関係ない。あの子供のような姿で身の丈に合わない力を持っている。一見細身だが、ヒト族と比べて遥かに腕力のあるエルフ族や獣人もいるがこれはその範疇を超えすぎているだろう。
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