マスクドアセッサー

碧 春海

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七章

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 翌日の朝比奈法律事務所、手の進まない糸川美紀の姿を見て朝比奈麗子が近づいた。
「美紀ちゃん、優作とデートだったんでしょ」
 麗子は、右手に持っていたコーヒーを美紀の目の前に置いた。
「優作さんとは会いましたが・・・・・・・」
 コーヒーを両手で包み込んだ。
「あっ、そういうことなのね。だから、昨日は帰ってこなかったんだ」
 麗子は小さく何度も頷くと勝手に想像していた。
「えっ、帰っていないのですか」
 動揺して手が震えコーヒーを溢しそうになった。
「あれ、昨夜は、美紀ちゃんとずっと一緒じゃなかったの。一体、どういうこと」
 意外な返事に、空いていた椅子を引き寄せて腰を下ろした。
「優作さんとは、昨夜ゼア・イズで7時に待ち合わせしていたのですが、その場にはもう1人女性がいたのです」
 眼鏡を掛けた山咲夏海にそっくりな月見里恵子のことを思い出していた。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。優作が美紀ちゃん以外に同時に女性を誘っていたってこと。いやいや、そんなことは有り得ない」
 美紀から出た言葉ではあったが、とても信じられなかった。
「その女性は、月見里恵子さんと言って同じ裁判を担当する裁判員だそうで、先日優作さんが会っていた山咲夏海さんとソックリでとても綺麗な人でした」
 『恵子さんを送って行くから』の言葉が蘇り、妄想が妄想を呼んだ。
「美紀ちゃん、変な想像したでしょ。大体そんな気なら、美紀ちゃんに月見里さんを会わせる訳がないでしょ。優作には何か目的があったんじゃないかな」
 頭の後ろで両手を組んで天井を向いた。
「それは・・・・・・」
 話していいのかどうか迷っていた。
「まぁ、1つは先日美紀ちゃんが目撃した山咲夏海との誤解を解く為だと思うけど、他に優作に頼まれたことがあるんじゃないの」
 長年付き合っている弟の考えは大体予想がついた。
「実は、調査するように依頼を受けました」
 カバンの中から用紙を取り出して麗子に渡した。
「吉田鋼鉄弁護士の身辺調査じゃないの。交友関係に、5年前の事務所設立時の資金について・・・・・それに事件で亡くなった石川さんの交友関係も。ここは、探偵事務所じゃないって。これを美紀ちゃんに調べるように頼んだ訳ね。でも、これは優作が関わった事件の調査なんだから、忙しい美紀ちゃんに任せるより、バイトも減らされて暇を持て余しているんだから、自分で調べればいいことなんじゃないの」
 呆れ顔で答えた。
「私もそう思ったのですが、朝から夜までずっとバイトをしていて忙しいと言ってました。先生なにか聞いていませんか」
 ひょっとして、その仕事で家に帰って来れないのではと思っていた。
「あいつ何にも言わないんだよね。でも、遅くなる時は、必ず連絡が入っていたけど、昨夜は美紀ちゃんとずっと一緒だと思っていたから、全然気にしていなかった」
 頭を傾げた。
「優作さんは食事が済むと、月見里さんと一緒に先に帰ってしまったんです」
「えっ、えっ、ちょっと待って、優作は美紀ちゃんを店に残して、月見里さんを送って行ったってこと。有り得ない、絶対に有り得ない」
 朝比奈の顔を思い浮かべたが、その顔を振り払うように顔を左右に振った。
「私も気になったので、昨夜から何度も優作さんのスマホに連絡しているのですが、電源が切られているようなのです」
「まさか、月見里さんの住所や携帯の番号は知らないよね」
 麗子の言葉に小さく頷いた。
「でも、電源が入ってないのは心配だわね。何かあったことには間違いない、あの夜のことを知っているのは月見里恵子さんだとすると、その人から事情を聞くしかないってこと、そうなると連絡を取る方法はお姉さんの事務所に連絡を取るしかないわね。ちょっと待っててね」
 麗子は色々な所に連絡を取り、山咲夏海の携帯の番号を突き止めた。
「もしもし、弁護士の朝比奈麗子と申します。申し訳ありませんが、妹さんの連絡先を教えて頂けないでしょうか」
「えっ、妹の連絡先ですか・・・・・・・」
 突然の申し入れに戸惑っていた。
「実は、弟の優作が昨夜妹さんを家まで送っていたはずなのですが、その後連絡が取れないのです」
「えっ、朝比奈さんの行方が、分からないということなんですか」
「そうなんです、何か妹さんからお聞きになっていませんか」
「いえ、その時は私も家にいまして、朝比奈さんから頂いたすき焼きを肴に2人でビールを飲んだのですけど、あれから家に戻らなかったということなんですか」
「と言うことは、妹さんを家に送ってから、家に戻る途中で何かあったということですね。分かりました、ありがとうございます」
 スマホを切ると、麗子の頭の中には色々な状況が思い描かれたその時、名古屋市中区にある帝王グループ本社の取締役社長室に吉田鋼鉄弁護士が呼び出されていた。
「吉田君、先日の評議会でも判決が出なかったそうじゃないか。一体どうなっているんだね。私は早くしてくれと言ったはずなんだけどね」
 秘書が立ち去った後で発した言葉は、苛立ちを隠しきれなかった。
「それがですね、裁判長によると先日お話した朝比奈が、以前よりまして強引に他の裁判員を誘導したようで、全員が朝比奈に賛同して採決に至らなかったのです」
 持参したハンカチを額に当てた。
「それでは困るんだよ」
 鋭い視線で睨み付けた。
「それがですね、念の為に朝比奈のことを調べてみたのですが、姉は朝比奈法律事務所の所長で、なんと父親は最高検察庁の次席検事、検察庁のナンバー2の存在だったのです。ですからどうしても慎重にならざるを得なかったのです」
 緊張して汗が止まらない。
「どうするつもりなんだ」
 ヤクザの親分のようなドスのきいた声が室内に響いた。
「そっ、それで、知り合いの金融業者の、まぁ取り立て屋に依頼して、裁判員から降りてもらうようにしてもらいました」
 話し終えてお茶を口にした。
「確かに何とかしてくれとは言いましたが、どうしろ、こうしろと、具体的に指示した訳ではないからね。あくまでの君の判断でしたことだから誤解の無いように、いいね」
 話のトーンは落ち着いたが、言葉の1つ1つの凄みは衰えることはなかった。
「はい、分かっております。総帥にはご迷惑が掛からないように、誠心誠意を尽くし、また細心の注意を払っております」
 両手をテーブルに置き、頭を下げた。
「今回の事件の真実が明るみになれば、君の弁護士での立場は崩壊するばかりか、私を除く関係者にも多大な『負債』を負わせることになるんだからね。まぁ、いい、君のことだから上手く処理してくれると信じているよ」
 最悪の場合でも自分のところには及ばないようにしろと念を押されている気持ちが言葉に現れていた。
「ありがとうございます。ただ、裁判で正当防衛が認められると、良二さんが解放されることになります。今までの事件とは違い、マスコミの関心にもなると思います」
 頭を抱えた。
「ああっ、そうだな。本当に白井家の疫病神、何をしでかすかわからない、今のうちに手を打つのが善策だろうな。そうだ、良二が戻ってきたら留学か経営の勉強を理由に、海外へ出してしまおう。良二は私より君のことを信頼し恩も感じているから、上手く話してくれないか」
「あっ、いえ、今回は立場が逆ですので、私の方から依頼するのはちょっと難しいと思いますので、是非総帥から指示していただければと思います」
「そうだな、少しご褒美を与える意味も込めて、しばらくハワイの別荘で過ごさせることにしようか。お小遣いもねだられるだろうが、まぁ、仕方ないだろうな」
 白井が納得して立ち上がったちょうどその頃、愛知県警の人材の墓場と呼ばれる大神班の室内では、4人の男が集まっていた。
「それではこれから捜査会議を開きます」
 朝比奈が席から立ち上がると、ホワイトボードの右横で声を発した。
「おいおい、何でお前が仕切るんだ」
 大神も立ち上がり続く言葉を制した。
「どうして。この事件に関して今の段階では、一番情報を持っていると思いますけど」
「あのね、その前に、2人に対する暴行事件について聞かせてもらいたいんですけど」
 大神は呆れ顔で尋ねた。
「襲われたので、仕方なく防衛させていただきました。2人の目的は俺を病院送りにして、評議会に参加させないことだろうけど、反対に病院送りにさせていただきました。でも、これこそ、2対1でしたので、刑法に準ずる正当防衛ではないでしょうか」
 当然という表情で答えた。
「そういう訳にはいかないんです。お前は、柔道と空手は合気道黒帯、剣道は有段者。いわゆる歩く凶器なんだからな」
「おい、空手と一括りしないでくれよ。俺は、あの空手バカ一代で有名な、大山倍達先生が開かれた極真空手なんだ。それに、ボクシングが抜けているぞ」
 怒った表情で言い返した。
「そういうことじゃなくて、あれほどにボコボコにする必要があったのかということ。骨折しているかもしれないそうだ」
「一応手加減はしたつもりだけど、1人は気絶するほどにしないと逃げられてしまうからね。まぁ、あの時点では仕方なかったと思います。はい」
「もういい、進めてくれ」
 諦めて席に着いた。
「被害者の石川由幸さんを殺害した犯人が、白井良二ではないことは間違いない。調べてもらった通話記録から、身代わりを指示したのは吉田鋼鉄弁護士でしょう。ただ、誰の身代わりになったのか、その理由は何だったのかなのですが、1番身近な存在の家族が考えられますね」
 ホワイトボードを順に指差しながら川瀬刑事を見た。
「白井健吾と良一の親子は中区の料亭『水月』で会食、母親は会社で会議中でそれぞれアリバイが成立しています」
 手帳を取り出して川瀬刑事が答えた。
「そうですか・・・・・石川さんのパソコンのデータは無理でしたが、白井良二のについてはどうでしたか」
 しばらく考えたから視点を変えて尋ねた。
「白井のパソコンのパスワードは、サイバーセキュリティ課で直ぐに解読して中身を確認したのですが、変わったものはなくほとんどが淫らに映し出された女性の映像ばかり。示談で済ませているようですが、裁判になればこんな映像が流されると反対に脅されたんでしょうね」
 川瀬がパソコンの画像を次々と送っていく。
「ちょっ、ちょっと、止めてください」
 朝比奈はパソコンの画面に釘付けとなった。
 「そういうことだったのですね。お蔭で、1つ謎が解けました。やはり、嘆願書に書かれている人物像とは掛け離れていますね。姉の事務所にも依頼してありますが、吉田鋼鉄弁護士が5年前に検察を辞めた理由はなんだったんですか」
 ホワイトボードの横に戻り吉田鋼鉄の写真を示して尋ねた。
「一応、依願退職にはなっているけど、政財界との癒着などの噂が絶えなくて、それが表沙汰になる前に辞めたのだと当時は言われていたそうだ」
 大神が資料を手に応えた。
「姉の話では、検察を退任した後直ぐに、栄町の一等地のビルに事務所を開いたそうです。資産家の息子でもないそうですが、国家公務員の検事さんはそんなに儲かるのでしょうか」
 嫌味を込めて尋ねた。
「銀行からの融資がなけれは、高検の長官でも無理だろうな。だけど、借り入れは全くされていない。初期投資で最低でも3000万円は必要、優秀な弁護士を採用するなると5000万円は超える。打出の小槌でもなければ無理だな」
 大神は川瀬に合図を送った。
「先程、班長が吉田鋼鉄弁護士の政界との癒着の件を話しましたが、退官する直前の吉田検事が関わった案件で、ある芸能プロダクションの脱税及び水増し請求があったのですが、重要種類が隠滅されていたようでガサ入れに失敗しているのです。どうも、事前に情報が漏れていて、それが吉田検事だったのではないかと言われていたそうです」
「そのプロダクションはもしかして」
「はい、『オメガシールド』です。勿論、帝王グループの傘下ですので、顧問弁護士は吉田弁護士なのですが、2人の関係は根深いものがあったのです」
 川瀬が意味ありげに答えた。
「ずっと以前からあったということですか」
「実は、帝国グループの取締役社長の白井健吾の父親と、吉田鋼鉄の父親は高校大学と同期で親友だったそうなんです。吉田鋼鉄の父親も弁護士で、白井健吾の父親の会社の顧問弁護士をやっていたんです」
 ドヤ顔で朝比奈を見た。
「愛知県警の人材の墓場と呼ばれている大神班にしては、珍しく丁寧で素早い対応ですね。父親どうしの繋がりでガサの情報を漏らし、その見返りに事務所の開店資金を援助してもらったってことだった。でも、調べれば分かることだったのに、懲戒免職にしていれば弁護士資格も剥奪されていたでしょうに、検察も身内に甘いって事なんですかね。確か、帝王グループは、15年前に白井健吾に作られた会社ですよね。父親の会社を引き継いだのでしょうか」
 朝比奈はドヤ顔で返した。
「そっ、それは今回の事件とは関係ないでしょう」
 川瀬は視線を逸らした。
「まぁ、想定内のことですので、いずれ分かると思います。兎に角、白井家と吉田家は深い繋がりが有り、いわば家族のようなもで身代わりになってもおかしくないが、殺害の動機がはっきりしないな。あっ、そう言えば、この前もらったリストのコピーなんだけど、ちょっと違和感を持ちました。コピーの性能かもしれませんが、文字の濃さが違うように思えるのです」
 カバンからコピーされたリストを見せた。
「ああ、原本は名前が色分けしていたな。確か、赤と青と黒。お前の姉さんは黒色だったはずだ」
 大神は立ち上がって、デスクの上にあった分厚い書類を持って来た。
「なるほど、下手に記号を付けると分かってしまうから、色分けしたって事だな。コピーしたら分からない、単純な方がかえってバレにくいかもな。姉さんが黒というのがヒントになるだろう。全部とは言わないが、どのようにランクされているのか調べてみてくれないか。石川さんが残した唯一の証拠なんだからしっかり調べてくれよ」
 いつものことではあるが、素人が何で命令してるんだよと3人の刑事はそれぞれ思っていたその時、大神のスマホが着信音を奏でた。
「おい、お前の姉貴からだぞ。どうするんだ」
 発信先を確認して朝比奈に尋ねた。
「上手く話しといてくれ、じゃあ、後はよろしく」
 朝比奈は慌てて立ち上がり背を向けた。
「よろしくって、どこ行くんだよ」
 鳴っているスマホを手に戸惑っていた。
「ちょっと、出張です」
 振り返って、右手でグーを作って示した。
「おいおい、人に仕事ばかり頼んどいて、姉さんへの対応、どうなってんだ」
 怒りを示す大神を残して朝比奈は、名古屋駅へと向かった。それから何時間たっただろう、朝比奈は久しぶりに父親と待ち合わせて外食を済ませた後、マンションのリビングで、テーブルを前に腰を下ろしていた。
「麗子にあまり心配かけさせるなよ。行方不明になったって電話してきてびっくりしたよ」
 水割りを手に苦言を呈した。
「えっ、父さんにまで電話するなんて想定外だったな。でも、暫くは音信不通の状態を作る必要があったからね」
 朝比奈は暖かいミルクティーを口にした。
「行方不明や音信不通。また何か訳の分からない変な事件に首を突っ込んでるんじゃないだろうな。走りだしたら止まれない、お前の性格は分かっているけど、毎回毎回本当に勘弁してくれよ」
 そう言いながら、カバンから資料を取り出した。
「最近良く聞きますよね。ああっ、不味いと思ってブレーキを踏むつもりが、何故かアクセルだったっなんて」
 首を傾げた。
「それとこれとは全然違うと思うけど。まぁいい、今回だけだぞ。お前から調査依頼を受けた帝王グループの件については、当時、名古屋地検で担当した案件でよく覚えているよ。今の取締役社長の白井健吾が立ち上げ急成長させたとなっているが、父親がある意味帝王グループの基礎部分を作っていたと言われている」
 資料を渡しながらも簡単に説明した。
「会社をそのまま引き継いだのですか」
「今ほどではないが、ホテルやレストランを主事業として規模を広げたんだが、15年程前に倒産しているんだ」
「倒産したのに、直ぐに復活して息子が同じ事業で成功している。何か、そこには謎があるようですね」
 書類に目を通しながら尋ねた。
「父親の会社の白井グループは、20億円以上の負債を抱え倒産したんだが、関連業者への水増しと人件費や経費の詐称などで作った裏金や、億単位の脱税をしていると調査を始めた時の倒産だったので、内部からの情報漏洩があったのではないかと一応調べたが、決定的な証拠は得られなかった。調査の間に、父親本人の自己破産も認められ、それ以上の追求はされなかった」
 父親も違う資料に目を通し始めていた。
「連鎖倒産した会社も多かったのではないですか」
「ああっ、小さい会社も含めれば、20社以上あったんじゃないかな」
 資料のページを捲って朝比奈に渡した。
「旅行代理店に食品関係の会社が多いですね・・・・・・えっ、これは」
 なぞっていた右手の人差し指が止まった。
「知ってる会社があったのか」
 朝比奈の余にも驚いた表情が気になった。
「あっ、いえ。検察庁は当時、白井グループの倒産は意図的なものがあったと考えていたのですね」
 そのリストをスマホに取り込んだ。
「今でも、計画倒産だったと思っているよ。残念ながら当時はまだ、俺にはそんな力はなかったからな。恐らく、海外に資産を隠していて、それを元手に帝王グループを立ち上げたのだろうな」
「5年前の芸能プロダクション『オメガシールド』の脱税の容疑も、内部情報が漏れていたと思われていますよね」
「確か、『オメガシールド』は奥さんが経営しているんだよな。ちょっと待ってくれよ」
 父親は立ち上がるとパソコンを持ってきて操作を始めた。
「えっ、父さんパソコン器用に扱うね」
 手際よく操作する父親の姿を見て驚いた。
「馬鹿か、これでも一応次席検事だぞ」
 顔を見ないで操作を急いだ。
「でも、政府デジタル庁の長官がパソコンに触ったことがないって言ってたでしょ。それに比べれば大したものですよ」
「お前に褒められても、余り嬉しくないな。あっ、これだ、その当時は、東京地検に移っていたから、その資料を送ってもらったんだが、15年前も5年前も吉田鋼鉄が担当者の中に居たようだ。それは偶然だろうかな」
 画面を指差して見せた。
「利害関係にあった訳ですね。父さんもたまには役に立ちますね」
「たまにとはなんだ。たまにとは」
「あっ、ついでにもう1つお願いしたいことがあります」
「ついでに・・・・・」
 嫌な予感がした。
「姉さんから聞いているとは思いますが、僕は裁判員に選ばれて今傷害致死事件を担当しているのですが、その被告人が白井健吾の次男坊で、どうも身代わりで出頭してきたみたいなのです。その案件を担当している検事は沢田優子で、弁護士は吉田鋼鉄なんですよ。裁判を傍聴したのですが、公判前手続の時点でほぼ決まっていたようです。傷害致死ではなく正当防衛でね」
 左の顳かみを叩きながら残念そうに言った。
「それで、正当防衛の判決が出てしまったのか」
「あっ、いえ、納得できなくて抵抗した結果、裁判員の全員が僕の意見に賛同してくれてはいますが、裁判官の3人は正当防衛を認めていますので、裁判員の1人が寝返れば正当防衛の判決が出てしまうでしょうね。何せ、大金持ちなんですから」
 自分を病院に送ろうとした相手、次に何をしてくるのか予想がついた。
「そうでもないんだな。新型ウィルスの影響で本業のホテルとレストラン業務が大赤字。主要銀行の名古屋第一銀行からの借り入れも随分増えていて、追加融資を依頼しているようだが、難航しているようだ」
 別の資料を見せた。
「父さん、このリストを見せてもらえませんか、赤、青、黒に色分けされていますが、この人たちの中に知っている人はいませんか」
 カバンの中からカラーコピーしたリストを見せた。
「ちょっと待ってくれよ。赤色は政治関係者や財界などの有名人が多いな。青色は知名度はある程度の人物。黒色は麗子以外は知らない人物が多いな」
 ゆっくり目を通して答えた。
「そういうランクなのですかね・・・・・・」
 納得できずに頭を傾げた。
「あっ、聞き忘れたが、お前の担当する案件の裁判官は誰なんだ」
公判前手続で決まっていたという朝比奈の言葉が蘇った。
「佐藤正裁判長と林一郎と二宮和成裁判官ですけど」
「2人の裁判官は裁判長には逆らえない。出世を考えれば、長い物には巻かれろという訳なんだろうな。お前がわざわざ東京まで来た本当の意味が分かったよ。ああっ、そうだ、関係ないかもしれないが『オメガシールド』について悪い噂があるんだ。定期的に、パーティーを開き、そこには地方の財界のおエライ様とか、財務省の幹部が参加しているんだが、その後『オメガシールド』の若手の女性タレントや新人の女性社員が自殺しているんだ。発表はされていないが、体内から合成カンナビ系の危険ドラッグが発見されたそうだ。殆どは、睡眠薬と同じく意識をなくす程度で済むが、少しでも量を間違えると、全身けいれんをお越し脳内出血などで死亡してしまう」
「ちょっと調べてみましょうか」
 心に熱いものが湧き上がってきた。
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