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四章
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翌日、朝比奈は公立がんセンターを訪ねていた。
「昨日は大変でしたね。解放された時間が違ったし、連絡先も伺っていなかったので、こうして伺わせていただきました」
応接室で事務員の出してくれたお茶を手に話を始めた。
「刑事ドラマではよく見るシーンでしたが、まさか自分が取り調べを受け指紋も取られるなんて本当にびっくりしました。でも、直ぐに解放されましたので、残念ながら食事を取る機会はありませんでした。あっ、そう言えば、女性の刑事さんから聞いたのですが、朝比奈さんが私の無実を警察に訴えてくれたそうですね。ありがとうございました」
如月は頭を下げた。
「いえ、警察の間違いを正しただけですよ」
当たり前のようにあっさりと答えた。
「そうですよね。アナフィラキシーショックに因る急性心不全だと若杉先生も言っていましたから、きっと病死だったんですよ」
そう自分にも言い聞かせた。
「多分、それは間違いないと思います。ですが、なぜアナフィラキシーショックを起こしたのか、それが問題なんです。そう簡単に他人のことを信じ・・・・・あっ、そうか、如月先生は、僕の特別授業の初めの方は聞いてなかったんですよね」
「はっ、はい、途中からでしたけど」
朝比奈の意味が分からなかった。
「アナフィラキシーショックについては、医師である三矢さんや如月先生の方が詳しいはずです。特に、亡くなった三矢さんは自分がアレルギーを持っていたから注意を払っていたと思います。手袋にしても、自分専用の特注品を使っていたくらいですから、糸川所長からもらった薬も当然成分をチェックしていたでしょう。そんな人物が、そう簡単にアナフィラキシーショックを起こすとは考えられません。そこに、故意がなければね」
部屋の中を見渡して1枚のポスターに目が止まった。
「朝比奈さんは、アナフィラキシーショックを利用して、誰かが三矢さんを殺害したと考えているのですか」
その視線を気にしながら尋ねた。
「まぁ、今のところは、それを裏付ける証拠は何もありません。でも、もし仮に、殺人事件だったと仮定すると、動機としては三矢さんの存在が邪魔な人、亡くなって一番得をする人物が犯人と考えられます。もしよろしければ、三矢さんとの関係を教えて頂けませんか」
「ちょっと待って下さい。まさか、朝比奈さんは私を疑っていらっしゃるのですか」
信じていた人の思いもよらない質問に戸惑った。
「えっ、そう感じてしまったら申し訳ないですね。昨夜も糸川所長から電話があり、如月さんのことをとても心配されて、僕にあなたの力になって欲しいと頼んでこられました。それに、あなたのことを信じたいと思うからこそ、あらかじめ知っておきたいのです」
如月へと視線を移した。
「そっ、そうですか。でも、もし事件だったとしても捜査するのは警察ですよね。朝比奈さんが調べる必要はないと思います」
「そうですね。このまま何もしなければ、北署は病死で済ませてしまうでしょう。それに、センター内で殺人事件が起きたことになれば管理責任も問われ、現場の状況を考えればセンター内の関係者が犯人の可能性、特に三矢さんと関係の深い人物が犯人と考えるのが常識です。ただ、早くしないと、ことを穏便に済ませようとする力が、このセンター内にも働きかねませんからね」
「ドラマじゃあるまいし、警察に圧力を掛けて事件を揉み消すなんてできませんよ」
朝比奈の真剣な眼差しに反して呆れ顔で返した。
「そうならいいのですが、僕は何度も目の当たりにしてきましたからね」
首を左右に降った。
「朝比奈さんは一体何者なんですか」
その言葉の重みに身が引き締まった。
「えーと、出身地は藤井君で有名な瀬戸市です。小学校は・・・・」
「あの、現在の職業で結構です」
朝比奈の言葉を遮って尋ね返した。
「それは、指を折る準備が必要ですので、今はこの事件の真実がただ知りたい、お節介な男ってことにしておきます。ですから、是非ご協力をお願いします」
朝比奈は軽く頭を下げた。
「わっ、分かりました。三矢さんは南城医科大学の同期で、三矢さんは公立がんセンターに私は国立新薬研究所に就職してたのですが、糸川所長の下で抗がん剤の開発を担当しました」
観念して語り始めた。
「医師免許をお持ちですよね。それなのに薬の研究ですか、何か深い事情がありそうですね。それではまず、出身地から伺いましょうか」
ポケットから、ちいさいノートとボールペンを取り出した。
「えっ、出身地ですか」
意外な質問に戸惑った。
「ちょっと興味が湧いてきました。とんでもない事情があったりしてね」
「変わってはいますが、今時は珍しいことではないと思います。私が生まれたのは、長久手市です」
「ああっ、日本で一番住民平均年齢が若い自治体ですよね。トヨタ博物館、モリコロパークに、サツキとメイの家。古い民家には今も火縄銃があるって本当ですか」
「母の実家には、昔から二丁飾ってありました」
「長久手の合戦で、羽柴軍と徳川軍が激しくぶつかり合った場所で、その合戦後に血の付いた刀や槍を洗って、その血の色で池が真っ赤になったとされる血の池も残されていて公園になっているんですよね」
「あっ、いえ、公園はありますが、池は埋め立てられてグランドになっています」
「それは勉強不足でした。でも、何かもったいないですね。真っ赤に染まる池が見てみたかったですね」
「あっ、話の方を続けてもいいですか」
「すみません。つい、脱線してしまいました。続けてください」
頭を掻いた。
「長久手で生まれ長久手で育ちましたが、高校も大学も名古屋でした。私、医師になるのが子供の頃からの夢で、母はその学費なども稼がなくてはならない上に、祖父母の介護も重なりで随分無理をしたようで、体の異変を感じた時にはすい臓がんのステージ3になっていました。一応ガンの摘出には成功したのですが、その後再発してその時は、祖父母の介護もあり母は外科手術ではなく、放射線や薬での治療を望んだのです」
その時の母親の表情が頭に浮かんできた。
「お母さんの為により良い抗がん剤を開発する為に、糸川所長にすがったのですね」
「糸川所長のお力を借りて新しい抗がん剤もでき、予想よりも1年以上長く生きることはできたのですが、2年前に祖父が亡くなった後を追うように逝ってしまいました。それで、糸川所長が役目を果たした私を気遣って医師に戻す為に、公立がんセンターに推薦してくれたのです」
「大体の事情は分かりましたが、話を聞いて1つ疑問が湧いてきました。あなたのお父さんはその時どうされていたのですか」
ペンを止めて尋ねた。
「父は、父はいません。付き合っていた人はいたようなのですが、何の理由か分かりませんが別れることになり、その時に既に母のお腹の中には私がいたのです。ですが、その相手が誰なのか最後まで教えてはくれませんでした。ですから、私は生まれた時から母子家庭なんです」
「もう1つ、如月さんはどうして医師になろうと思ったのですか」
「それは、母も医師になろうと大学の医学部に入ったのですが、私を生み育てる為に中退したのです。ですから、母の代わりに私が医師になろうと思ったのが1つと、私中学生になったばかりの頃、白血病になってしまったのです。今程抗がん剤や放射線治療も確立されていなくて、骨髄移植をする為にドナーを待つことになったのです」
「今は骨髄移植についても随分進歩しドナー数も増えましたが、その頃は大変だったんじゃないですか」
「はい、ちょっと難しい話になりますが、ヒトの持つ白血球の型、つまりHLAには多くの型がありますが、造血幹細胞移植では特に、HLA-A・HLA-B・HLA-C・HLA-DRを合わせる必要があります。ヒトはHLA-A・HLA-B・HLA-C・HLA-DRを2セット持っていて、合計8抗原が一致するのが望まれます」
「ああ、それは知っています。両親から1セットずつ遺伝的に受け継ぐ為、HLAが完全に一致する確率は兄弟姉妹間でも4分の1ですので、非血縁間では極めて低いんですよね」
「近年は、免疫抑制療法の工夫で、親子間などでHLAが1セットしか合っていないドナーからの移植も行われていますが、生着不全や免疫関連合併症のリスクは高くなりますので、出来る限り完全に適合するドナーからの移植が望まれるのです」
「お母さんとあなたのHLAは完全には一致しなかった」
「後で母に聞いたのですが、本当に奇跡的に私と全く同じHLAを持つドナーが見つかり、造血幹細胞移植を受けることができ、合併症もなく健康になることができました。その事もあって、病気の人を救う医師になりたいと思ったのだと思います」
母の顔がはっきりと頭に蘇った。
「完全に一致ですか。それは本当に奇跡ですね。あっ、話は変わりますが、如月さんは内科医ですよね」
「あっ、はい、そうですが」
突然質問が変わり驚いた。
「他の病院であっても、内科の先生同士が研修会や報告会などで集まったり意見することがあるのでしょうか」
「そうですね。月に何度か、新薬の効果や術式などについて、意見交換を目的にして多い時には、月に何度か集まったりしますよ」
「あの、澤田優子先生をご存知でしょうか」
「はい、知っています。東名医科大学の先生ですよね。大学は違いましたが、年齢も近いしプライベートでも親しくさせていただいていますが、どうして朝比奈さんがそのことをご存知なのですか」
「ああっ、僕も澤田さんとは親しくさせていただていまして、如月のことを聞いたことがあったものですから。やはり自分で確かめないと気がすまない性分ですのですみませんね。それで、澤田さんのご主人のことも聞いていらっしゃいますか」
「お会いしたことはありませんが、とても誠実で優しい方だそうです。確か、公務員だと言ってましたけど」
「誠実で、優しい方で公務員ですか・・・・・・あっ、それからもう1つお願いがあるのですが、公立がんセンターを少し調べてみたいのです。三矢さんの部屋とか、男子更衣室などを見せて頂けないでしょうか」
受付の女性と話す1人の男に目を移した。
「それは無理です。三矢さんの部屋は警察が既に調べていますし、他の施設も部外者が勝手に調べたりはできませんよ」
何を言い出すのか如月には理解できなかった。
「まぁ、そう言われると思いまして、手を打っておきました」
朝比奈が大きく振る手を見て男が近づいてきた。
「おいおい、呼び出すなんて一体どう言うつもりなんだ」
立ち上がった朝比奈に隠れるように座っていた如月に気付かず、本当に迷惑そうな言葉だった。
「まぁ、色々事情があって、あっ、こちらは、このセンターで働く内科の如月先生です」
その言葉に如月は慌てて立ち上がって頭を下げた。
「こいつは、大神崇。一応公務員だそうです」
大神を指差して紹介した。
「えっ、公務員。今日は平日ですけど」
「詳しく言えば、愛知県警捜査一課広域特別捜査班の班長で、付け加えれば澤田優子さんの旦那様です」
「えっ、優子さんのご主人は警察官だったのですか。でも、苗字が違いますよね」
「そうなんですよ。これは僕の想像なんですが、警察での嫌われ者ですからそれを気にして旧姓を名乗っているのではないかと思っています」
「そうなんですか・・・・・・」
改めて大神の顔を見た。
「あのね、お前が変な事件ばかり持ってくるから、警察の上層部に睨まれ『県警の離れ小島』なんて呼ばれることになってるんだ」
「それはそれは、申し訳ありません。それで頼んでいたものは持ってきていただけましたでしょうか」
言葉とは裏腹に右手を差し出した。
「この事件は北署の案件で、そう簡単に手に入れることはできないんだぞ。それに、一般人に見せる訳にはね」
なかなか渡そうとしなかった。
「分かったよ、吉井屋の牛丼を奢るよ」
手で催促した。
「そういう問題じゃないだろ」
渋々書類を差し出した。
「胃からは毒物は検出されなかった。検出されたものは、糸川所長から渡された薬の成分と同じ、つまり体内からの刺激でアナフィラキシーショックが起きたのではないってことか」
大神から受け取った解剖所見書を見ながら答えた。
「北署は病死と判断してるんだろ。下手に首を突っ込むなよ」
「やはりそうか。まぁ、病死なら病死でいいじゃないか。でも、誰かに殺害されたとしたら、三矢さんは悔しいだろうな。警察は、そんな人を作らないように、日々努力をされているんじゃないでしょうか。国民の税金の元でね。先ずは、真実がどこにあるか、取り敢えず検討してみましょうか」
その言葉で3人は席に着いた。
「検討もなにも、殺害を示す証拠は何もないんだぞ」
大神も渋々席に着いた。
「あっ、そうだ、もう1つ、三矢さんの部屋に残されていた薬瓶は持ってきてくれたんだろうな」
全く無視して、また手を向けた。
「あのね。そんな重要な証拠品を持ち出せる訳がないだろう」
呆れ顔で答えた。
「どうせ、お前のことだから、スマホで撮ってきてくれたんだろ。早く見せろよ」
手の平を何度も向けた。
「分かったよ」
観念してポケットからスマホを取り出し、薬瓶の写った画面を表示して渡した。
「やっぱりそうだったか」
画面を拡大して確信を得た。
「何が解ったんだよ」
戻されたスマホを受け取って尋ねた。
「如月さん、三矢さんは手術後に倒れたということですが、手術時に装着される帽子やマスクと手術着は回収されるのですよね」
大神の質問には全く反応しなかった。
「はい、毎回新品の物を使い、術後に処分します」
突然の振りに驚いた。
「手袋も特注だったから、後は靴ですね。やはり、一度更衣室に案内してください。一応捜査の一環として、刑事が付き添いますので改めてお願いします」
大神を指差した。
「わっ、分かりました。上司に聞いてみます」
如月は立ち上がると階段を使って2階へと駆け上がっていった。
「何で、優子のことまで話す必要があるんだ」
如月のその姿を目で追いながら尋ねた。
「あれ、俺もお前も優子さんから親しくしている友達だと聞いたはずだよ。いい加減に聞いていたんだな。大丈夫なのか」
心配そうに大神の顔を見た。
「そんなことは、心配していただかなくても結構です。でも、本当に事件に関わるつもりじゃないだろうな」
そうは言っても聞き入れるとは思ってはいなかった。
「お前だって気づいているんだろ。病院内で医師が急死したんだぜ、おかしいと思わない方がおかしいよな」
「そのおかしいところを説明してもらえますか」
「お力をお貸しいただければ説明できると思いますよ」
そう話していると、如月が1人の警備員を連れて戻ってきた。
「あの、警備員付き添いの条件で許可が出ました」
如月の紹介に警備員が頭を下げた。
「早速案内してもらえますか」
3人は警備員の後に付いて男子の更衣室に向かった。
「三矢さんも手術前にはこの更衣室を使われていました」
更衣室の前で如月が説明した。
「ちょっと失礼します」
扉を開け如月を残して中に入ると、いくつものロッカーが並んでいた。
「何を探すつもりなんだ」
ロッカーのネームを確認しながら尋ねた。
「手術の時にはサンダルに履き替えるのですよね」
外で見守る如月に声を掛けた。
「そうだと思います。私もそうですから」
「そうですか、やはり靴が残っていますね」
直ぐに三矢のロッカーは見つかり扉を開けて、白衣以外に靴も見つけた。
「この更衣室は男性の先生でしたら誰でも入ることはできるのですか」
朝比奈は、画鋲で四方を止められたポスターに目を止めて、今度は警備員に確認した。
「はい、鍵は掛けれませんので、入ろうと思えば誰でも入ることはできたと思います」
聞かれて質問に正直に答えた。
「そうですか・・・・・・あっ、このポスターは、廊下にも貼られていましたけど、どうされたんですか」
看護婦が、『相手の用紙に関する発言』・『お茶くみを女性の仕事とする』・『立場を利用した食事の誘い』・『体を寄せ触る』などの言葉が書かれたボードを持ったポスターを朝比奈が指差した。
「それは、先月顧問弁護士によるセクハラについてのセミナーがありまして、普段からの注意喚起を促す為に項目をポスターにしたものです」
更衣室を覗き込んで如月が答えた。
「このポスターって、女子の更衣室にも貼られていますか」
「あっ、はい。勿論、貼っています」
「ちょっと、見せていただいてもいいですか」
「おい、ちょっと待て、女子更衣室を見るのか」
大神も流石に驚いた。
「ちょっと確認するだけですので」
如月に首を傾げてお願いのポーズとった。
「わっ、分かりました。すぐ隣ですが、誰も使ってないのか確認しますので、少しお待ちください」
確認へと向かった。
「お前、そんな趣味があったのか」
思っても見ない依頼に大神も驚いていた。
「このポスターさ、廊下に貼られていたものと微妙に違うんだよね。女子の更衣室はどうかと思ってさ」
大神の言葉を全く気にしていなかった。
「今、誰も使っていませんのでどうぞ」
如月が招き入れた。
「やはりそうでしたか。それでは最後に、三矢さんの部屋も見てみましょうか、案内していただけませんか」
笑顔でそう言うとまた始まったかと大神は顔を左右に振った。
「こちらになります」
如月が進んで先を歩いた。
「広い部屋ですね。ちょっと時間が掛かるかもしれませんね」
朝比奈は部屋へ入ると早速、机の下や棚との隙間などを探し始めた。
「何を探せばいいんだ」
大神も手伝う姿勢を見せた。
「あっ、意外と早く見つかりました。如月さん、すみませんがピンセットを持ってきて頂けませんか」
その言葉に如月は頷き最も近い事務室へと向かった。
「昨日は大変でしたね。解放された時間が違ったし、連絡先も伺っていなかったので、こうして伺わせていただきました」
応接室で事務員の出してくれたお茶を手に話を始めた。
「刑事ドラマではよく見るシーンでしたが、まさか自分が取り調べを受け指紋も取られるなんて本当にびっくりしました。でも、直ぐに解放されましたので、残念ながら食事を取る機会はありませんでした。あっ、そう言えば、女性の刑事さんから聞いたのですが、朝比奈さんが私の無実を警察に訴えてくれたそうですね。ありがとうございました」
如月は頭を下げた。
「いえ、警察の間違いを正しただけですよ」
当たり前のようにあっさりと答えた。
「そうですよね。アナフィラキシーショックに因る急性心不全だと若杉先生も言っていましたから、きっと病死だったんですよ」
そう自分にも言い聞かせた。
「多分、それは間違いないと思います。ですが、なぜアナフィラキシーショックを起こしたのか、それが問題なんです。そう簡単に他人のことを信じ・・・・・あっ、そうか、如月先生は、僕の特別授業の初めの方は聞いてなかったんですよね」
「はっ、はい、途中からでしたけど」
朝比奈の意味が分からなかった。
「アナフィラキシーショックについては、医師である三矢さんや如月先生の方が詳しいはずです。特に、亡くなった三矢さんは自分がアレルギーを持っていたから注意を払っていたと思います。手袋にしても、自分専用の特注品を使っていたくらいですから、糸川所長からもらった薬も当然成分をチェックしていたでしょう。そんな人物が、そう簡単にアナフィラキシーショックを起こすとは考えられません。そこに、故意がなければね」
部屋の中を見渡して1枚のポスターに目が止まった。
「朝比奈さんは、アナフィラキシーショックを利用して、誰かが三矢さんを殺害したと考えているのですか」
その視線を気にしながら尋ねた。
「まぁ、今のところは、それを裏付ける証拠は何もありません。でも、もし仮に、殺人事件だったと仮定すると、動機としては三矢さんの存在が邪魔な人、亡くなって一番得をする人物が犯人と考えられます。もしよろしければ、三矢さんとの関係を教えて頂けませんか」
「ちょっと待って下さい。まさか、朝比奈さんは私を疑っていらっしゃるのですか」
信じていた人の思いもよらない質問に戸惑った。
「えっ、そう感じてしまったら申し訳ないですね。昨夜も糸川所長から電話があり、如月さんのことをとても心配されて、僕にあなたの力になって欲しいと頼んでこられました。それに、あなたのことを信じたいと思うからこそ、あらかじめ知っておきたいのです」
如月へと視線を移した。
「そっ、そうですか。でも、もし事件だったとしても捜査するのは警察ですよね。朝比奈さんが調べる必要はないと思います」
「そうですね。このまま何もしなければ、北署は病死で済ませてしまうでしょう。それに、センター内で殺人事件が起きたことになれば管理責任も問われ、現場の状況を考えればセンター内の関係者が犯人の可能性、特に三矢さんと関係の深い人物が犯人と考えるのが常識です。ただ、早くしないと、ことを穏便に済ませようとする力が、このセンター内にも働きかねませんからね」
「ドラマじゃあるまいし、警察に圧力を掛けて事件を揉み消すなんてできませんよ」
朝比奈の真剣な眼差しに反して呆れ顔で返した。
「そうならいいのですが、僕は何度も目の当たりにしてきましたからね」
首を左右に降った。
「朝比奈さんは一体何者なんですか」
その言葉の重みに身が引き締まった。
「えーと、出身地は藤井君で有名な瀬戸市です。小学校は・・・・」
「あの、現在の職業で結構です」
朝比奈の言葉を遮って尋ね返した。
「それは、指を折る準備が必要ですので、今はこの事件の真実がただ知りたい、お節介な男ってことにしておきます。ですから、是非ご協力をお願いします」
朝比奈は軽く頭を下げた。
「わっ、分かりました。三矢さんは南城医科大学の同期で、三矢さんは公立がんセンターに私は国立新薬研究所に就職してたのですが、糸川所長の下で抗がん剤の開発を担当しました」
観念して語り始めた。
「医師免許をお持ちですよね。それなのに薬の研究ですか、何か深い事情がありそうですね。それではまず、出身地から伺いましょうか」
ポケットから、ちいさいノートとボールペンを取り出した。
「えっ、出身地ですか」
意外な質問に戸惑った。
「ちょっと興味が湧いてきました。とんでもない事情があったりしてね」
「変わってはいますが、今時は珍しいことではないと思います。私が生まれたのは、長久手市です」
「ああっ、日本で一番住民平均年齢が若い自治体ですよね。トヨタ博物館、モリコロパークに、サツキとメイの家。古い民家には今も火縄銃があるって本当ですか」
「母の実家には、昔から二丁飾ってありました」
「長久手の合戦で、羽柴軍と徳川軍が激しくぶつかり合った場所で、その合戦後に血の付いた刀や槍を洗って、その血の色で池が真っ赤になったとされる血の池も残されていて公園になっているんですよね」
「あっ、いえ、公園はありますが、池は埋め立てられてグランドになっています」
「それは勉強不足でした。でも、何かもったいないですね。真っ赤に染まる池が見てみたかったですね」
「あっ、話の方を続けてもいいですか」
「すみません。つい、脱線してしまいました。続けてください」
頭を掻いた。
「長久手で生まれ長久手で育ちましたが、高校も大学も名古屋でした。私、医師になるのが子供の頃からの夢で、母はその学費なども稼がなくてはならない上に、祖父母の介護も重なりで随分無理をしたようで、体の異変を感じた時にはすい臓がんのステージ3になっていました。一応ガンの摘出には成功したのですが、その後再発してその時は、祖父母の介護もあり母は外科手術ではなく、放射線や薬での治療を望んだのです」
その時の母親の表情が頭に浮かんできた。
「お母さんの為により良い抗がん剤を開発する為に、糸川所長にすがったのですね」
「糸川所長のお力を借りて新しい抗がん剤もでき、予想よりも1年以上長く生きることはできたのですが、2年前に祖父が亡くなった後を追うように逝ってしまいました。それで、糸川所長が役目を果たした私を気遣って医師に戻す為に、公立がんセンターに推薦してくれたのです」
「大体の事情は分かりましたが、話を聞いて1つ疑問が湧いてきました。あなたのお父さんはその時どうされていたのですか」
ペンを止めて尋ねた。
「父は、父はいません。付き合っていた人はいたようなのですが、何の理由か分かりませんが別れることになり、その時に既に母のお腹の中には私がいたのです。ですが、その相手が誰なのか最後まで教えてはくれませんでした。ですから、私は生まれた時から母子家庭なんです」
「もう1つ、如月さんはどうして医師になろうと思ったのですか」
「それは、母も医師になろうと大学の医学部に入ったのですが、私を生み育てる為に中退したのです。ですから、母の代わりに私が医師になろうと思ったのが1つと、私中学生になったばかりの頃、白血病になってしまったのです。今程抗がん剤や放射線治療も確立されていなくて、骨髄移植をする為にドナーを待つことになったのです」
「今は骨髄移植についても随分進歩しドナー数も増えましたが、その頃は大変だったんじゃないですか」
「はい、ちょっと難しい話になりますが、ヒトの持つ白血球の型、つまりHLAには多くの型がありますが、造血幹細胞移植では特に、HLA-A・HLA-B・HLA-C・HLA-DRを合わせる必要があります。ヒトはHLA-A・HLA-B・HLA-C・HLA-DRを2セット持っていて、合計8抗原が一致するのが望まれます」
「ああ、それは知っています。両親から1セットずつ遺伝的に受け継ぐ為、HLAが完全に一致する確率は兄弟姉妹間でも4分の1ですので、非血縁間では極めて低いんですよね」
「近年は、免疫抑制療法の工夫で、親子間などでHLAが1セットしか合っていないドナーからの移植も行われていますが、生着不全や免疫関連合併症のリスクは高くなりますので、出来る限り完全に適合するドナーからの移植が望まれるのです」
「お母さんとあなたのHLAは完全には一致しなかった」
「後で母に聞いたのですが、本当に奇跡的に私と全く同じHLAを持つドナーが見つかり、造血幹細胞移植を受けることができ、合併症もなく健康になることができました。その事もあって、病気の人を救う医師になりたいと思ったのだと思います」
母の顔がはっきりと頭に蘇った。
「完全に一致ですか。それは本当に奇跡ですね。あっ、話は変わりますが、如月さんは内科医ですよね」
「あっ、はい、そうですが」
突然質問が変わり驚いた。
「他の病院であっても、内科の先生同士が研修会や報告会などで集まったり意見することがあるのでしょうか」
「そうですね。月に何度か、新薬の効果や術式などについて、意見交換を目的にして多い時には、月に何度か集まったりしますよ」
「あの、澤田優子先生をご存知でしょうか」
「はい、知っています。東名医科大学の先生ですよね。大学は違いましたが、年齢も近いしプライベートでも親しくさせていただいていますが、どうして朝比奈さんがそのことをご存知なのですか」
「ああっ、僕も澤田さんとは親しくさせていただていまして、如月のことを聞いたことがあったものですから。やはり自分で確かめないと気がすまない性分ですのですみませんね。それで、澤田さんのご主人のことも聞いていらっしゃいますか」
「お会いしたことはありませんが、とても誠実で優しい方だそうです。確か、公務員だと言ってましたけど」
「誠実で、優しい方で公務員ですか・・・・・・あっ、それからもう1つお願いがあるのですが、公立がんセンターを少し調べてみたいのです。三矢さんの部屋とか、男子更衣室などを見せて頂けないでしょうか」
受付の女性と話す1人の男に目を移した。
「それは無理です。三矢さんの部屋は警察が既に調べていますし、他の施設も部外者が勝手に調べたりはできませんよ」
何を言い出すのか如月には理解できなかった。
「まぁ、そう言われると思いまして、手を打っておきました」
朝比奈が大きく振る手を見て男が近づいてきた。
「おいおい、呼び出すなんて一体どう言うつもりなんだ」
立ち上がった朝比奈に隠れるように座っていた如月に気付かず、本当に迷惑そうな言葉だった。
「まぁ、色々事情があって、あっ、こちらは、このセンターで働く内科の如月先生です」
その言葉に如月は慌てて立ち上がって頭を下げた。
「こいつは、大神崇。一応公務員だそうです」
大神を指差して紹介した。
「えっ、公務員。今日は平日ですけど」
「詳しく言えば、愛知県警捜査一課広域特別捜査班の班長で、付け加えれば澤田優子さんの旦那様です」
「えっ、優子さんのご主人は警察官だったのですか。でも、苗字が違いますよね」
「そうなんですよ。これは僕の想像なんですが、警察での嫌われ者ですからそれを気にして旧姓を名乗っているのではないかと思っています」
「そうなんですか・・・・・・」
改めて大神の顔を見た。
「あのね、お前が変な事件ばかり持ってくるから、警察の上層部に睨まれ『県警の離れ小島』なんて呼ばれることになってるんだ」
「それはそれは、申し訳ありません。それで頼んでいたものは持ってきていただけましたでしょうか」
言葉とは裏腹に右手を差し出した。
「この事件は北署の案件で、そう簡単に手に入れることはできないんだぞ。それに、一般人に見せる訳にはね」
なかなか渡そうとしなかった。
「分かったよ、吉井屋の牛丼を奢るよ」
手で催促した。
「そういう問題じゃないだろ」
渋々書類を差し出した。
「胃からは毒物は検出されなかった。検出されたものは、糸川所長から渡された薬の成分と同じ、つまり体内からの刺激でアナフィラキシーショックが起きたのではないってことか」
大神から受け取った解剖所見書を見ながら答えた。
「北署は病死と判断してるんだろ。下手に首を突っ込むなよ」
「やはりそうか。まぁ、病死なら病死でいいじゃないか。でも、誰かに殺害されたとしたら、三矢さんは悔しいだろうな。警察は、そんな人を作らないように、日々努力をされているんじゃないでしょうか。国民の税金の元でね。先ずは、真実がどこにあるか、取り敢えず検討してみましょうか」
その言葉で3人は席に着いた。
「検討もなにも、殺害を示す証拠は何もないんだぞ」
大神も渋々席に着いた。
「あっ、そうだ、もう1つ、三矢さんの部屋に残されていた薬瓶は持ってきてくれたんだろうな」
全く無視して、また手を向けた。
「あのね。そんな重要な証拠品を持ち出せる訳がないだろう」
呆れ顔で答えた。
「どうせ、お前のことだから、スマホで撮ってきてくれたんだろ。早く見せろよ」
手の平を何度も向けた。
「分かったよ」
観念してポケットからスマホを取り出し、薬瓶の写った画面を表示して渡した。
「やっぱりそうだったか」
画面を拡大して確信を得た。
「何が解ったんだよ」
戻されたスマホを受け取って尋ねた。
「如月さん、三矢さんは手術後に倒れたということですが、手術時に装着される帽子やマスクと手術着は回収されるのですよね」
大神の質問には全く反応しなかった。
「はい、毎回新品の物を使い、術後に処分します」
突然の振りに驚いた。
「手袋も特注だったから、後は靴ですね。やはり、一度更衣室に案内してください。一応捜査の一環として、刑事が付き添いますので改めてお願いします」
大神を指差した。
「わっ、分かりました。上司に聞いてみます」
如月は立ち上がると階段を使って2階へと駆け上がっていった。
「何で、優子のことまで話す必要があるんだ」
如月のその姿を目で追いながら尋ねた。
「あれ、俺もお前も優子さんから親しくしている友達だと聞いたはずだよ。いい加減に聞いていたんだな。大丈夫なのか」
心配そうに大神の顔を見た。
「そんなことは、心配していただかなくても結構です。でも、本当に事件に関わるつもりじゃないだろうな」
そうは言っても聞き入れるとは思ってはいなかった。
「お前だって気づいているんだろ。病院内で医師が急死したんだぜ、おかしいと思わない方がおかしいよな」
「そのおかしいところを説明してもらえますか」
「お力をお貸しいただければ説明できると思いますよ」
そう話していると、如月が1人の警備員を連れて戻ってきた。
「あの、警備員付き添いの条件で許可が出ました」
如月の紹介に警備員が頭を下げた。
「早速案内してもらえますか」
3人は警備員の後に付いて男子の更衣室に向かった。
「三矢さんも手術前にはこの更衣室を使われていました」
更衣室の前で如月が説明した。
「ちょっと失礼します」
扉を開け如月を残して中に入ると、いくつものロッカーが並んでいた。
「何を探すつもりなんだ」
ロッカーのネームを確認しながら尋ねた。
「手術の時にはサンダルに履き替えるのですよね」
外で見守る如月に声を掛けた。
「そうだと思います。私もそうですから」
「そうですか、やはり靴が残っていますね」
直ぐに三矢のロッカーは見つかり扉を開けて、白衣以外に靴も見つけた。
「この更衣室は男性の先生でしたら誰でも入ることはできるのですか」
朝比奈は、画鋲で四方を止められたポスターに目を止めて、今度は警備員に確認した。
「はい、鍵は掛けれませんので、入ろうと思えば誰でも入ることはできたと思います」
聞かれて質問に正直に答えた。
「そうですか・・・・・・あっ、このポスターは、廊下にも貼られていましたけど、どうされたんですか」
看護婦が、『相手の用紙に関する発言』・『お茶くみを女性の仕事とする』・『立場を利用した食事の誘い』・『体を寄せ触る』などの言葉が書かれたボードを持ったポスターを朝比奈が指差した。
「それは、先月顧問弁護士によるセクハラについてのセミナーがありまして、普段からの注意喚起を促す為に項目をポスターにしたものです」
更衣室を覗き込んで如月が答えた。
「このポスターって、女子の更衣室にも貼られていますか」
「あっ、はい。勿論、貼っています」
「ちょっと、見せていただいてもいいですか」
「おい、ちょっと待て、女子更衣室を見るのか」
大神も流石に驚いた。
「ちょっと確認するだけですので」
如月に首を傾げてお願いのポーズとった。
「わっ、分かりました。すぐ隣ですが、誰も使ってないのか確認しますので、少しお待ちください」
確認へと向かった。
「お前、そんな趣味があったのか」
思っても見ない依頼に大神も驚いていた。
「このポスターさ、廊下に貼られていたものと微妙に違うんだよね。女子の更衣室はどうかと思ってさ」
大神の言葉を全く気にしていなかった。
「今、誰も使っていませんのでどうぞ」
如月が招き入れた。
「やはりそうでしたか。それでは最後に、三矢さんの部屋も見てみましょうか、案内していただけませんか」
笑顔でそう言うとまた始まったかと大神は顔を左右に振った。
「こちらになります」
如月が進んで先を歩いた。
「広い部屋ですね。ちょっと時間が掛かるかもしれませんね」
朝比奈は部屋へ入ると早速、机の下や棚との隙間などを探し始めた。
「何を探せばいいんだ」
大神も手伝う姿勢を見せた。
「あっ、意外と早く見つかりました。如月さん、すみませんがピンセットを持ってきて頂けませんか」
その言葉に如月は頷き最も近い事務室へと向かった。
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