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十章
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翌日の朝早く、タートルネックと黒のジャケットにジーンズ姿の如月碧が『ゼア・イズ』の扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
扉に付けられたベルの乾いた音に反応して、職業的な反応で朝比奈がコーヒーを点てながら声を発した。
「朝比奈さん、本当にここで働いていらしたのですね」
カウンターまで足を運んで言葉を掛けた。
「えっ、どうして居場所が分かったのですか」
顔を上げた朝比奈は、如月を見て流石に驚いた。
「それは・・・・・・」
正直に答えるべきか一瞬戸惑った。
「僕と如月さんの接点を考えれば、糸川所長しか考えられませんね」
コーヒーを、60度の湯煎で温めてあったコーヒーカップに注ぎ、小倉トーストと共にテーブルに腰掛けていたお客へと運んでいった。
「あの、そもそも朝比奈さんと糸川所長は、どのような関係なのですか」
如月はテーブルに腰掛け、戻ってきた朝比奈に尋ねた。
「あっ、それは、話せば長くなりますので、時間がある時にお話します」
朝比奈はからくり時計を指差した。
「私、今日はお休みなので、時間はたっぷりありますけど」
メニューをを手に答えた。
「あっ、そうですよね。休まれた方がいいですよ」
「えっ、どう言う意味ですか」
「別に深い意味はありません。ただ単純に、あなたの身体を心配しただけです。ところで、その貴重なお休みの日に、どうして僕に会いに来ていただけたのでしょう」
水が入ったコップを如月の前に置いた。
「それは・・・・若杉医師の件なんですが・・・・・」
会いに来てみたものの、本当に尋ねていいものか躊躇する自分も居た。
「一昨日の夜に起きた事件ですね。がんセンターからはどのように聞いていますか」
「がんセンターからは正式には何も伝えられていませんが、一部の人間から聞いた話では自殺の可能性が高く、それも・・・・・・・」
「三矢医師を殺害したことを後悔して、自らの命を絶ったなんて聞かされたんじゃないですか。まぁ、あの状況では仕方ないかもしれませんね」
「えっ、あの状況って、どういうことですか」
「ああっ、それは単純に、若杉さんが亡くなった現場に居たということです」
「えっ、ええっ、どうして朝比奈さんが、若杉さんの自宅にいたのですか」
「大神に呼ばれたからですよ。亡くなった若杉さんが、公立がんセンターの医師だったこともあったのでしょうが、現場の状況を不審に思って呼んだのでしょう。パソコンに残された遺書には、三矢医師を殺害したことは書かれていましたが、その殺害の動機などは残されていなかった、大神はそのことが引っかかったんじゃないでしょうか」
店長が出勤してきたので、店のエプロンを外して交代した。
「しかし、一般人を現場に呼んでそれを見せるなんて、普通考えられませんよね。大神刑事とは何か特別な関係があるのですか」
「小、中、高の同級生ですが、詳しい関係を説明するのはまたの機会として、如月さんは朝食は取られましたか」
窓際のテーブル席に案内して尋ねた。
「いえ、朝比奈さんの勤務が朝までだと聞いていましたので、朝食は取らずに慌ててやってきました」
水の入ったコップを持って移った。
「そうですか。それでは、今から僕が出す問題に正解できたら、朝食をご馳走します。いいですか、春休み、ゴールデンウイーク、夏休み、年末年始の冬休み、1年の中で最も期間が長いのはどれでしょう」
どう応えを出すのか想像しながら微笑んだ。
「ちょっと待って下さい。朝比奈さんの出す問題ですから、単純に夏休みってことはない。当然、学生なら夏休みでしょうが、社会人全般を考えれば夏休みは存在しないから、年末年始の冬休みです」
朝比奈の表情を見ながら答えた。
「うーん、残念。答えは『1年』ですよ。休みの期間を尋ねてはいません。ただ単に、期間が長いのは1年なんです」
「朝比奈さんは、本当に意地悪なんですね」
朝比奈の説明に抗議した。
「先日、同級生になぜか苛立たせる達人と言われました。そんなつもりは全くないんですけど、怒らせたのならお詫びにマスター特性のモーニングセットをサービスさせていただきます。飲み物はコーヒーでいいですか」
如月が頷き、朝比奈は右手を上げてマスターに合図を送った。
「実はね、今日如月さんに会えたらなぁ、なんて思っていたんですよ。如月さんが訪ねてきてくれなかったから、病院に向かっていればお休みだった訳ですから、無駄足になっていました。まぁ、そのお礼も兼ねてです」
「朝比奈さんが私に会いにですか」
「如月さんに尋ねたいことがあったからです。骨髄移植を受ける予定だった白石萌ちゃんの手術が急に延期になったそうですね、どうしてなんでしょう」
朝比奈は、先にマスターの立てたコーヒーをテーブルに運んだ。
「それは、三矢医師が亡くなったからです」
少し迷ってから答えた。
「だからと言って、2週間以上も延期されるのはおかしい。それに、緊急に骨髄移植を受けられる女の子が入院されて、来週にもすでに採取された骨髄液を、点滴にて注入するそうではありませんか。それも白石さんの代わりにね」
朝比奈は立ち上がるとかきたま汁を運んでテーブルに置いたが、コーヒーの横に置かれたかきたま汁に如月は何度も開け閉めした。
「白石さんの代わりに入院してきた女の子のことは知っていますが、どうしてそんなことになったのか詳しいことは何も知らされてはいません。本当です」
次に運ばれた、小ぶりのうな丼には更に驚かされることになった。
「そうですか・・・・あの時、三矢医師が高橋医学部長と言い争っていたのは、このことだったかもしれませんね」
朝比奈は座り直すと早速うな丼に箸を付けた。
「あの、これって、コーヒーに付くモーニングセットですよね。これだと、メインはうな丼じゃないですか」
「ああっ、マスターの作るかきたま汁は、うな丼にとっても合いますから、どれもがメインになれますよ。でも、これは僕専用のスペシャルメニューなんですけどね」
店の雰囲気とは全く合わないうな丼を、がつがつ食べる朝比奈の姿も言葉も信じられなかった。
「そっ、そうなんですか」
それでも恐る恐るうなぎの部分を口に運ぶと、タレの香ばしい香りが鼻に抜け、ふわりとしたうなぎの身がツヤツヤした米と絡み合い、噛めば噛むほど口に広がって飲み込むのがもったいないくらいの美味しさだった。『本当にここは何の店なの』と叫びたいくらいだった。
「ちゃんと備長炭で焼いてますよ。だから、外はカリッと中はふわっとするんです。あっ、それから、うなぎは関東と関西ではさばき方が違うことを知っていました。関東では、うなぎをさばくとき背中側から包丁を入れます。その理由は、武士道を重んじた為『切腹』をイメージして背中側からさばく文化が根付いたのです。でも、背中側からうなぎをさばくことは、料理の仕方としてもメリットがあります。お腹側から包丁を入れた時と比較して、身崩れがしにくくなるので、家庭でさばく時は背開きの方がいいかもしれません。でも、マスターや僕は慣れていますので、勿論腹側の方からさばいています」
あっという間にうな丼を平らげて解説した。
「あの、話の続きなんですが、その女の子の入院には三矢医師は反対していたようです。朝比奈さんが言われたように、2人が言い争っていたのはその件だと思います。現に、三矢医師が亡くなった途端転移してきましたから、それに関しては高橋医学部長の指示によるものでしょうね」
「2つの殺人事件の動機の1つに、その骨髄移植が絡んでいるのかもしれませんね」
冷めてしまったコーヒーカップを手に頭をフル回転させた。
「それは朝比奈さんの考えで、三矢医師は病死ではないと、殺害方法の謎を解いてくれたのですが、若杉医師の場合は遺書に不審な点はあったとしても、警察は結局自殺と判断するんですよね」
残念そうにうな丼をテーブルに置いた。
「若杉さんも殺害されたんですよ。確かに、遺書もあり密室だとしてもう少しで自殺だとされていたでしょうが、僕の指摘が鑑識などで検証されれば、殺害だったと断定されるでしょう。丁度今頃、警察はあたふたしていると思いますよ」
「えっ、本当ですか?」
朝比奈の言葉に伏せていた顔を上げた。
「それについて如月さんにお尋ねしたいのですが、どうしてそんなに事件のことが気になるのですか」
「あっ、それは、同じ病院で勤務していた人間が2人もなくなったのですから、殺人事件だとすれば少しでも警察の協力がしたいからです」
朝比奈の言葉にドキッとした。
「如月さんは若杉医師の死に対しては、病院の方からは詳しく知らされていないと言われましたが、どうしてなくなった場所が自宅だと知っていたのですか。そのことを、誰から聞いたのですか」
如月の瞳を見詰めて尋ねた。
「誰だったのか忘れました」
朝比奈の目を外らしながら答えた。
「まぁ、良いでしょう。でも、三矢医師と若杉医師は、犯人にとって何か不味いこと知ってしまったから、命を奪われたと思います。僕みたいに事件に首を突っ込むと、危険があなたの身に及ぶかもしれません。実際、僕は何度も殺されそうになりましたからね」
朝比奈は立ち上がると、少し遅れて食べ終えた如月の器と自分の器を持ってカウンターの裏に回ると、ガラスの器に盛ったアイスクリームを持って現れた。
「そんな、私は大丈夫だと思います」
手渡されたそのアイスクリームの豪華さに驚いた。
「緊急入院した女の子のことを調べてもらったのですが、次期厚生労働大臣に就任すると噂される、大杉国会議員の孫だったのです。もし、今回の事件に大杉国会議員が関わっているとすれば、どんなことをしてくるか分かりません。これ以降は僕に任せて、如月さんは関わらない方がいいと思います」
朝日奈は生クリームの横に飾られたさくらんぼから食べ始めた。
「朝比奈さんの考えは理解できました。でも、朝比奈さんは事件のことを調べるんですよね。今日一日、そう、今日一日だけは付き添わせてください。お願いします」
如月は真剣な表情をして頭を下げた。
「そう言われても、僕夜勤明けなんですけど・・・・・・仕方ないですね。頑張ってみましょうか。でも、本当に今日一日だけですよ、約束してくださいね」
その言葉に如月は小さく頷いた。
「いらっしゃいませ」
扉に付けられたベルの乾いた音に反応して、職業的な反応で朝比奈がコーヒーを点てながら声を発した。
「朝比奈さん、本当にここで働いていらしたのですね」
カウンターまで足を運んで言葉を掛けた。
「えっ、どうして居場所が分かったのですか」
顔を上げた朝比奈は、如月を見て流石に驚いた。
「それは・・・・・・」
正直に答えるべきか一瞬戸惑った。
「僕と如月さんの接点を考えれば、糸川所長しか考えられませんね」
コーヒーを、60度の湯煎で温めてあったコーヒーカップに注ぎ、小倉トーストと共にテーブルに腰掛けていたお客へと運んでいった。
「あの、そもそも朝比奈さんと糸川所長は、どのような関係なのですか」
如月はテーブルに腰掛け、戻ってきた朝比奈に尋ねた。
「あっ、それは、話せば長くなりますので、時間がある時にお話します」
朝比奈はからくり時計を指差した。
「私、今日はお休みなので、時間はたっぷりありますけど」
メニューをを手に答えた。
「あっ、そうですよね。休まれた方がいいですよ」
「えっ、どう言う意味ですか」
「別に深い意味はありません。ただ単純に、あなたの身体を心配しただけです。ところで、その貴重なお休みの日に、どうして僕に会いに来ていただけたのでしょう」
水が入ったコップを如月の前に置いた。
「それは・・・・若杉医師の件なんですが・・・・・」
会いに来てみたものの、本当に尋ねていいものか躊躇する自分も居た。
「一昨日の夜に起きた事件ですね。がんセンターからはどのように聞いていますか」
「がんセンターからは正式には何も伝えられていませんが、一部の人間から聞いた話では自殺の可能性が高く、それも・・・・・・・」
「三矢医師を殺害したことを後悔して、自らの命を絶ったなんて聞かされたんじゃないですか。まぁ、あの状況では仕方ないかもしれませんね」
「えっ、あの状況って、どういうことですか」
「ああっ、それは単純に、若杉さんが亡くなった現場に居たということです」
「えっ、ええっ、どうして朝比奈さんが、若杉さんの自宅にいたのですか」
「大神に呼ばれたからですよ。亡くなった若杉さんが、公立がんセンターの医師だったこともあったのでしょうが、現場の状況を不審に思って呼んだのでしょう。パソコンに残された遺書には、三矢医師を殺害したことは書かれていましたが、その殺害の動機などは残されていなかった、大神はそのことが引っかかったんじゃないでしょうか」
店長が出勤してきたので、店のエプロンを外して交代した。
「しかし、一般人を現場に呼んでそれを見せるなんて、普通考えられませんよね。大神刑事とは何か特別な関係があるのですか」
「小、中、高の同級生ですが、詳しい関係を説明するのはまたの機会として、如月さんは朝食は取られましたか」
窓際のテーブル席に案内して尋ねた。
「いえ、朝比奈さんの勤務が朝までだと聞いていましたので、朝食は取らずに慌ててやってきました」
水の入ったコップを持って移った。
「そうですか。それでは、今から僕が出す問題に正解できたら、朝食をご馳走します。いいですか、春休み、ゴールデンウイーク、夏休み、年末年始の冬休み、1年の中で最も期間が長いのはどれでしょう」
どう応えを出すのか想像しながら微笑んだ。
「ちょっと待って下さい。朝比奈さんの出す問題ですから、単純に夏休みってことはない。当然、学生なら夏休みでしょうが、社会人全般を考えれば夏休みは存在しないから、年末年始の冬休みです」
朝比奈の表情を見ながら答えた。
「うーん、残念。答えは『1年』ですよ。休みの期間を尋ねてはいません。ただ単に、期間が長いのは1年なんです」
「朝比奈さんは、本当に意地悪なんですね」
朝比奈の説明に抗議した。
「先日、同級生になぜか苛立たせる達人と言われました。そんなつもりは全くないんですけど、怒らせたのならお詫びにマスター特性のモーニングセットをサービスさせていただきます。飲み物はコーヒーでいいですか」
如月が頷き、朝比奈は右手を上げてマスターに合図を送った。
「実はね、今日如月さんに会えたらなぁ、なんて思っていたんですよ。如月さんが訪ねてきてくれなかったから、病院に向かっていればお休みだった訳ですから、無駄足になっていました。まぁ、そのお礼も兼ねてです」
「朝比奈さんが私に会いにですか」
「如月さんに尋ねたいことがあったからです。骨髄移植を受ける予定だった白石萌ちゃんの手術が急に延期になったそうですね、どうしてなんでしょう」
朝比奈は、先にマスターの立てたコーヒーをテーブルに運んだ。
「それは、三矢医師が亡くなったからです」
少し迷ってから答えた。
「だからと言って、2週間以上も延期されるのはおかしい。それに、緊急に骨髄移植を受けられる女の子が入院されて、来週にもすでに採取された骨髄液を、点滴にて注入するそうではありませんか。それも白石さんの代わりにね」
朝比奈は立ち上がるとかきたま汁を運んでテーブルに置いたが、コーヒーの横に置かれたかきたま汁に如月は何度も開け閉めした。
「白石さんの代わりに入院してきた女の子のことは知っていますが、どうしてそんなことになったのか詳しいことは何も知らされてはいません。本当です」
次に運ばれた、小ぶりのうな丼には更に驚かされることになった。
「そうですか・・・・あの時、三矢医師が高橋医学部長と言い争っていたのは、このことだったかもしれませんね」
朝比奈は座り直すと早速うな丼に箸を付けた。
「あの、これって、コーヒーに付くモーニングセットですよね。これだと、メインはうな丼じゃないですか」
「ああっ、マスターの作るかきたま汁は、うな丼にとっても合いますから、どれもがメインになれますよ。でも、これは僕専用のスペシャルメニューなんですけどね」
店の雰囲気とは全く合わないうな丼を、がつがつ食べる朝比奈の姿も言葉も信じられなかった。
「そっ、そうなんですか」
それでも恐る恐るうなぎの部分を口に運ぶと、タレの香ばしい香りが鼻に抜け、ふわりとしたうなぎの身がツヤツヤした米と絡み合い、噛めば噛むほど口に広がって飲み込むのがもったいないくらいの美味しさだった。『本当にここは何の店なの』と叫びたいくらいだった。
「ちゃんと備長炭で焼いてますよ。だから、外はカリッと中はふわっとするんです。あっ、それから、うなぎは関東と関西ではさばき方が違うことを知っていました。関東では、うなぎをさばくとき背中側から包丁を入れます。その理由は、武士道を重んじた為『切腹』をイメージして背中側からさばく文化が根付いたのです。でも、背中側からうなぎをさばくことは、料理の仕方としてもメリットがあります。お腹側から包丁を入れた時と比較して、身崩れがしにくくなるので、家庭でさばく時は背開きの方がいいかもしれません。でも、マスターや僕は慣れていますので、勿論腹側の方からさばいています」
あっという間にうな丼を平らげて解説した。
「あの、話の続きなんですが、その女の子の入院には三矢医師は反対していたようです。朝比奈さんが言われたように、2人が言い争っていたのはその件だと思います。現に、三矢医師が亡くなった途端転移してきましたから、それに関しては高橋医学部長の指示によるものでしょうね」
「2つの殺人事件の動機の1つに、その骨髄移植が絡んでいるのかもしれませんね」
冷めてしまったコーヒーカップを手に頭をフル回転させた。
「それは朝比奈さんの考えで、三矢医師は病死ではないと、殺害方法の謎を解いてくれたのですが、若杉医師の場合は遺書に不審な点はあったとしても、警察は結局自殺と判断するんですよね」
残念そうにうな丼をテーブルに置いた。
「若杉さんも殺害されたんですよ。確かに、遺書もあり密室だとしてもう少しで自殺だとされていたでしょうが、僕の指摘が鑑識などで検証されれば、殺害だったと断定されるでしょう。丁度今頃、警察はあたふたしていると思いますよ」
「えっ、本当ですか?」
朝比奈の言葉に伏せていた顔を上げた。
「それについて如月さんにお尋ねしたいのですが、どうしてそんなに事件のことが気になるのですか」
「あっ、それは、同じ病院で勤務していた人間が2人もなくなったのですから、殺人事件だとすれば少しでも警察の協力がしたいからです」
朝比奈の言葉にドキッとした。
「如月さんは若杉医師の死に対しては、病院の方からは詳しく知らされていないと言われましたが、どうしてなくなった場所が自宅だと知っていたのですか。そのことを、誰から聞いたのですか」
如月の瞳を見詰めて尋ねた。
「誰だったのか忘れました」
朝比奈の目を外らしながら答えた。
「まぁ、良いでしょう。でも、三矢医師と若杉医師は、犯人にとって何か不味いこと知ってしまったから、命を奪われたと思います。僕みたいに事件に首を突っ込むと、危険があなたの身に及ぶかもしれません。実際、僕は何度も殺されそうになりましたからね」
朝比奈は立ち上がると、少し遅れて食べ終えた如月の器と自分の器を持ってカウンターの裏に回ると、ガラスの器に盛ったアイスクリームを持って現れた。
「そんな、私は大丈夫だと思います」
手渡されたそのアイスクリームの豪華さに驚いた。
「緊急入院した女の子のことを調べてもらったのですが、次期厚生労働大臣に就任すると噂される、大杉国会議員の孫だったのです。もし、今回の事件に大杉国会議員が関わっているとすれば、どんなことをしてくるか分かりません。これ以降は僕に任せて、如月さんは関わらない方がいいと思います」
朝日奈は生クリームの横に飾られたさくらんぼから食べ始めた。
「朝比奈さんの考えは理解できました。でも、朝比奈さんは事件のことを調べるんですよね。今日一日、そう、今日一日だけは付き添わせてください。お願いします」
如月は真剣な表情をして頭を下げた。
「そう言われても、僕夜勤明けなんですけど・・・・・・仕方ないですね。頑張ってみましょうか。でも、本当に今日一日だけですよ、約束してくださいね」
その言葉に如月は小さく頷いた。
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