地球人のふり

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第9章 様々な困難

43話

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サンコ星では、何か指示をされた時に
「はい」と声を出して答える習慣が無かった。






相手の目を見て大きく頷く、

それだけでよかった、
それだけで充分敬意も示せていた。




しかし地球ではそうはいかない。








「駒井さん、頷くんじゃなくて"はい"でしょ、
そんなんじゃ分かってるのか分からないよ
ほら、言って"はい"って」






頷いているんだから分かってるって分かるでしょう?

何故わざわざ声を出して無駄な体力を消費しなければならないのだろう。







「駒井さん、先輩に書類を渡すときは"お願いします"だよ」







何故渡すだけなのにお願いしますなんだろう、

私は何をお願いするのだろう。









「駒井さん、例え心の中では変だなって思う考えでも、先輩が言ったら良い考えですねって言わないといけないんだよ」





何故嘘をつく必要があるのだろう、

何故自分の意見を言っては行けないのだろう。








「駒井さん、暗黙の了解っていうものがあるんだよ」







"アンモク"とはなんだろう。








「駒井さん、指示待ってばかりじゃなくて
自分から率先して動かないと」






何故指示を待ってはいけないのだろう、


勝手にやって間違っていたらどうするつもりなのだろう。








「駒井さん、先輩に聞かずにあれこれ勝手にやっちゃだめだよ」






さっき指示を待ってないで率先してやれと言ったのに、

どういうことなのだろう。








地球で、社会人として上手く生き延びていくためのスキル、


それがキヨからはゴッソリと抜け落ちていた。






やはりキヨは人間ではなくサンコ星人だからなのか、







些細なことでも、全て教えてもらわないと分からない、


教えてもらっても、
受け入れることが難しい。








「人間って…あんな大量のルールを覚えながら生きているの……?
そもそもあのルール達はどこで学んだの…?
私親からもきちんと教育受けてたし、学校も行ってたけど、そんなこと誰も教えてくれなかった」








キヨは、ついついヨルに愚痴を溢した。








「恐らく、ルールだと意識していないのだと思います、無意識に覚え、身につけたのではないかと、
人間はとても適当でとても器用な生き物なんです」










周りの人達は無意識に身につけている社会のルール、


教えられてもいまいち理解できない社会のルール、




次から次へと増えていく
大量のルールや暗黙の了解、





キヨはそれらと共に生きていかなければならない、


生きて自分の力を見つけなければならない、






自分の力はどこにあるのだろうか、





一向に見つかる気配は無い。








このまま見つからないのでは?

いいやきっと見つかるはず!




2つの気持ちに行ったり来たりしながら
キヨは今日もなんとか生きた、

大きな問題は起こさず生きた、



これを後何年続けるのだろう。







キヨは疲れ、

大きくため息をついた。







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