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第一章
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数日後、休養を終えた俺はついに学園へ戻ることになった。
「兄上、本当に大丈夫なんですか」
玄関先でカミーユが腕を組んで睨んでくる。
「無茶な言動は控えてください。僕が見張っていますから」
「わかってるって」
「……信じますからね」
弟は中等部なため見送りはここまでだ。
って弟に送り出されるなんて、どんな立場だよ俺。
馬車を降り、学園の門をくぐった瞬間、ざわ……っと視線が集まった。
「リュシアン様……?」
「なんだか雰囲気が違うような……」
「今日は取り巻きもいないし……」
(うわ、めちゃくちゃ見られてる!? いや俺が変なのは中身だけで、外見は元のままなんだけど!?)
教室へ向かう廊下を歩くとすれ違う生徒たちの視線が釘付けになる。
元々“傲慢で奔放なお坊ちゃん”として知られてる分、落ち着いてる今の俺はどうやら“異常事態”らしい。
そんなざわめきの中、すっと声がかかった。
「やあ、リュシアン。色々と大変だったね」
廊下に響く穏やかな声。
振り返った瞬間、俺は思わず息をのんだ。
そこにいたのは、爽やか優等生そのものの青年。
整った髪、端正な笑顔、きっちりと着こなした制服──どこからどう見ても、優等生。
……ただし。
(“ユリウス・アドラー・ヴァイゼン”。
ゲーム内でも屈指の人気攻略キャラ、優等生の仮面を被った腹黒策士だ!!)
彼は侯爵家の長男で、学園でも常に上位の成績を誇る完璧人間。
爽やかな笑顔で誰にでも親切、教師の信頼も厚く、クラスの女子からも人気絶大──
だがプレイヤーは知っている。
この笑顔の裏で彼は冷静に他人を観察し、時に策を巡らせる「仮面の腹黒」だということを。
そんなユリウスがにこやかに俺へと近づいてきて──
「随分と……雰囲気が変わったみたいだ」
(ぎゃああああ!! 一番ヤバいやつに見つかったぁぁ!!)
必死に平静を装い、ぎこちなく笑って返す。
「そ、そうかな……? きっと、気のせいだよ」
「ふふ、そうかもしれないね」
ユリウスの笑みがさらに深くなる。
目の奥がきらりと光り、俺は思わず背筋を伸ばした。
(うわああああ! 絶対見透かされてるやつだこれ! なんでよりによって最初に遭遇するのがコイツなんだよ!?)
周囲の生徒たちは「優等生ユリウス様がリュシアン様と話してる!」とざわついているが、
当の俺は「フラグが立った音」が背後でカーンと鳴った気がしてならなかった。
「うわー……学生なんて何年ぶりだろ」
ユリウスと別れ学園の石造りの廊下を歩きながら、俺はしみじみ呟いた。
机に座って授業を受けるなんて、社会人をやっていた身からすればもはや異世界体験。いや実際異世界なんだけど。
とりあえず読み書きと地頭はリュシアンのを借りられるから問題ない。
歴史や理論も多少はわかるし、授業はなんとかなる……はず。
ただな。
困ってしまうのは──魔法だ。
そう、このゲームは「魔法学園BLゲーム」。
当然聖女様は、テンプレの光属性である。
ちなみに俺は氷属性だ。珍しいのである。
そしてもうひとつ俺を悩ませるのが……よりによってその聖女様に夢中な、俺の婚約者だ。
(はぁ……これどう転んでも地雷しかないんだよなぁ……)
そう考えていると、前方からその“お二人様”が登校してきた。
ゲーム本編では、俺は真っ先に駆け寄って「どういうことですの!?」と王子に詰め寄っていたらしい。
けれど今の俺にはそんな余裕はない。視線を逸らして素通り。
……のつもりだった。
「おい」
え、ちょっと待って、呼ばれたんですけど。
恐る恐る振り返ると、第一王子が怪訝な顔でこちらを見ている。
「いつもなら問い詰めてくるお前が、なぜ黙っている」
「へ?!」
思わず素っ頓狂な声が出た。やばい、何か言わなきゃ。
「ご、ご機嫌よう~……」
空気が一瞬で凍りつく。
俺達のやり取りを見守っていた生徒たちも、何が起こったのか理解できないという顔だ。
第一王子は眉をひそめ、俺をじっと見つめた。
隣の聖女も目を瞬かせている。
「……お前、どうした」
「へ、へぇ!?」
「頭を打ったと聞いたが……まさか本当におかしくなったんじゃないだろうな」
え、王子様……普通に心配してくれてる!?
いや、聖女にメロメロなのはわかってるけど、婚約者のことも一応気にかけるんだ!?
「だ、大丈夫です! 全然おかしくなってません! あ、いや、その、多少……おかしいかも……」
言いながら自分で墓穴を掘ってる気しかしない。
王子は「ふむ……」と唸り、珍しく真剣そうな顔をする。
その横で、聖女がくすりと笑った。
「まぁ、でも確かに……前よりも落ち着いた雰囲気がありますね」
(やめろおおおお!!好感度チェック入れなくていいからぁぁ!! 俺はただ“投獄エンド回避”したいだけなんだって!!)
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