未来で処刑さけれるはずだった令嬢は、氷の王子を選びました~ 巻き戻り令嬢の婚約から始まる逆転人生〜

あんこ

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帰還

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「――戻ったぞ!」

夜更けの王宮にその声が響いた瞬間、張り詰めていた空気が一気に弾けた。

拘束された反第一王子派閥の人間が運び込まれ、騎士たちが慌ただしく廊下を行き交う。誰もが口を揃えて言った。

「無事でよかった!」

リズは毛布を肩に掛けられながら、どこか他人事のようにその様子を眺めていた。

(こんなに大事になるとは)

報告はすぐに王族へ上がり済み。
犯人、動機――すべてが明るみに出る。

「今夜はここで休ませよう」
「これ以上外に出すべきではない」

結論は早かった。
今夜は最も安全な王宮で休む。

部屋に案内され、扉が閉まる。
久しぶりに何も考えずに横になる。

(生きてる)

そんな当たり前の事実に、胸の奥が少しだけ緩んだ。


翌朝。
扉を叩く控えめな音。
入ってきたのはセシルだった。

「……リズ」

昨日までのいたずらっぽさは影を潜め、八歳の王子は深く頭を下げる。

「ごめんなさい」

小さな声だった。

「僕が……目立たせたから」

周りの大人から、リズが誘拐された事情を聞いたのだろう。一瞬、驚いたあと静かに首を振った。

「殿下のせいではありません」

それは本心だった。

「悪いのは、利用しようとした大人たちです」

セシルは唇を噛みしめる。それでも逃げなかった。

「でも、もう二度とこんなことは起こさせない」

その言葉は、子どもの宣言にしては少し重かった。


その日のうちに王宮で協議が行われた。
結論は明確だった。

「王国として、彼女の安全を最優先する」
「反第一王子派閥の動きがある以上、国内は危険だ」

そして――

「同盟国、ヴァイスハイム王国へ」
「第一王子リヒトのもとへ、身を置かせる」

その名を聞いてリズの胸がわずかに波打つ。

(やっぱりそうなるか)

それは避けられない流れだった。

「しばらくの間、正式な保護という形で滞在してもらう。すぐにヴァイスハイム王国へ伝令の騎士を派遣しろ」

王宮の判断は、早くそして重い。
リズは静かに頷いた。

(次は、王宮じゃない戦場、か)

だが不思議と恐怖はなかった。
むしろ――あの氷の王子の顔が、ふと脳裏をよぎる。

(ちゃんと話を聞いてくれるって感じだったしな)

こうして物語はヴァイスハイムへと動き出す、のだがそれは私の予想を裏切る形となる。


伝令の騎士がヴァイスハイムに到着し承諾を得るまで、何週間かは王宮で静かに過ごすことになるのだと思っていた。

だがその予想は、慌ただしい足音と共に崩れる。
廊下の向こうから聞こえる足音は、どうもこちらに近づいてきており、それは見知った気配のものであった。  その人物は部屋の前で止まると、かちゃり、と扉を開く。

「リズ!」

父、ヴィルヘルム男爵は、珍しく切迫した表情をしていた。

「すぐに広間に来なさい」

理由を聞く必要はなかった。
この顔で呼びに来る時は、決まって想定外の事態だ。

「分かりました」

私は立ち上がり父の後について部屋を出る。
歩くたび、王宮の空気が張りつめていくのがわかった。

広間の扉が開いた、その瞬間。

――すでに来客がいた。

ヴァイスハイム王国第一王子、リヒト殿下。
隣には黒髪の側近――ノア。
そして、最低限の護衛のみ。

「……!」

(こんなに早い到着。まさか転移魔法の許可が下りたの?)

胸が一瞬、強く脈打つ。
けれど、それを表に出すほど未熟ではない。

私は一礼する。

「お久しぶりです、リヒト殿下」

殿下は私を見るなり、視線を細めた。

「久しいな、リズ嬢」

婚約者同士とは思えない緊張感のある挨拶をしてると、ノアが一歩前に出て淡々と説明する。

「急な来訪、失礼いたします。転移魔法の使用許可をいただけましたので、我々から伺いました」

迎えに来た、というより、状況を見極めに来た。そんな印象だった。

「怪我は?」
「ありません」

そう告げると、殿下は短く頷く。

「それは良かった」

視線が外れない。もうすべて把握している目だ。

「誘拐事件の件、報告は受けている」

父が、わずかに息を詰める。

「予定を変更する」

静かな声だったが、広間の空気が一変した。

「国内が不安定だ。君をここに留めておく理由は、今はない」

はっきりした物言いだった。

「ヴァイスハイムへ来てもらう。即時に、だ」

早い。でも予想の範囲内でもあった。
私は一歩前に出る。

「準備の時間はどれほどいただけますか」

「最低限で構わない」

「分かりました。すぐに用意します」

淡々と答えながら、胸の奥が静かに高鳴るのを感じていた。怖さはない。むしろ高揚感すらあった。

(やっぱりこの人の判断は早い)

リヒトの視線がわずかに柔らぐ。

「ずいぶん落ち着いている」
「今は動揺している時間などありませんので」

「君が表情を崩さないのは、想定内だ」

「……そうですね。ですが、内心まで読めると思わないでくださいませ」

そう言うと殿下がほんの少しだけ口元を緩めた、かのように見えた。

氷の王子の錯覚とも思えるその表情にぱちり、と目を
瞬かせる。しかしその瞬き一瞬にすぐに元の表情に戻ってしまった。

「相変わらずだな」

その言葉が、どこか楽しそうに聞こえたのは気のせいじゃないだろう。

こうして、出発は予定よりずっと早くなったのだった。



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