未来で処刑さけれるはずだった令嬢は、氷の王子を選びました~ 巻き戻り令嬢の婚約から始まる逆転人生〜

あんこ

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閑話⑤ リヒトside

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夜は嫌いではない。

音が減り、余計なものが削ぎ落とされる。
思考だけが静かに残る。

客間の扉の前に椅子を置き、腰を下ろしたままリヒトは一晩を過ごしていた。中では、規則正しい寝息が聞こえる。

リズだ。

医官の診立てでは、もう危険はない。
魔力の暴走も鎮まり後は休養あるのみ。
それでも目を離す気にはなれなかった。

(無茶をする)

小さな体で、抱えきれないほどの魔力を持ち、それを当然のように制御しようとする。

そして、限界まで黙っている。

自分でどうにかしようとする癖は、美徳でもあるが同時に最も危険だ。

椅子の背にもたれ、天井を仰ぐ。

あのとき。
呼ばれるまで手を出さないと決めていた。

残酷だと分かっていた。
だが、それでも必要だった。

彼女がこの国で生きるなら、誰に、いつ、助けを求めるべきかを知る必要がある。

結果は――

(合格だな)

声に出すことはない。

リズは、巻き込みたくない相手を守り、その上で、正しく“呼んだ”。

たすけて、と。
あの小さな声は、今も耳に残っている。

扉の向こうで、寝返りを打つ気配がした。
リヒトは立ち上がり、音を立てぬよう静かに扉を開ける。

室内は、ランプの灯りだけが柔らかく揺れていた。

ベッドの上で、リズは眠っている。
眉間には、まだわずかに力が残っていた。

無意識に何かと戦っているような顔。

(……夢、か)

そっと、掛け布の端を整える。
触れれば起きるだろう距離で、しかし触れない。

それが今の最適解だった。

「守られるのが下手だな」

小さく呟いて、自嘲する。
だが、それを責める気はなかった。

彼女は選んだのだ。
逃げず、他人に押し付けず、自分の足で立つ道を。

ならば。

(支える役は、俺が引き受ける)

眠る少女の傍で、リヒトは再び椅子に腰を下ろす。

剣も、書類も、政務もない夜。
ただ、呼ばれれば応えると決めたまま。

夜が明けるまで、彼は一度もその場を離れなかった。


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