未来で処刑さけれるはずだった令嬢は、氷の王子を選びました~ 巻き戻り令嬢の婚約から始まる逆転人生〜

あんこ

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謁見

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翌朝の朝餉は、どこか落ち着かない空気だった。
昨夜のことを意識しないようにしても、どうしても頭の片隅に残ってしまう。

「リズ」

先に口を開いたのは、リヒト殿下だった。

「アーデルリヒ王国からの書状だが」

カップを置き、こちらを見る。

「丁重にお断りする形で、すでに送り返した」

「……!」

思わず目を見開く。

「は、早くないですか……?」

「結論は出ていた」

淡々とした声。

「お前が戻らないと決めた以上、引き延ばす理由もない」

そう言われると、何も返せなくなる。

「文面には、同盟への感謝と当面はヴァイスハイムに留まる旨を書いた」

少し間を置いて、続けられる。

「そして」

視線が、こちらに戻る。

「現国王――俺の父が、お前に会いたいそうだ」

「国王陛下、ですか?」

声が、少しだけ上ずる。

「国として、婚約者を迎える以上、一度は顔を合わせておいた方がいいだろう、とのことだ」

その言葉は、今までの“保護する”よりもずっと重くて、でも温かかった。

「形式ばった場ではない」

リヒトはそう付け加える。

「挨拶と意思確認が主だろう」

つまり。

「私がここに残ると決めたことを?」

「ああ」

短い肯定。

「国として迎え入れる前に、本人の意思を直接聞きたいのだろう」

胸の奥が、きゅっと引き締まる。
でも、不思議と怖くはなかった。

「……分かりました」

そう答えると、リヒトは小さく頷いた。

「では、食べ終えたら準備をしろ」

「そんなにすぐですか!?」

「すぐだ」

当然のように言われる。

「覚悟は早い方がいい」

……容赦ない。

でも。

「行ってきます」

そう言うと、リヒトは短く答えた。

「俺も一緒だ」

その一言が、今の私には何より心強かった。


謁見の場は、思っていたよりも静かだった。
豪奢な玉座の間ではない。日差しの入る、小さな広間。説明を受ける前に、すでに分かってしまった。

――ああ、似ている。

同じ髪の色。同じ目の色。
けれど、表情はずっと穏やかで。

「よく来たね」

そう言って、王は立ち上がった。

「ヴァイスハイム国王、アルノルトだ」

威厳よりも、柔らかさが先に来る声。

「そんなに緊張しなくていい。今日は“国王”としてではなく、“父親”として会っている」

その一言で、肩の力が少し抜けた。

「こちらは私の息子だ」

そう言って隣を見る。

「紹介は不要だな」

リヒトは小さく頷くだけ。

「さて」

王――アルノルトは、私へ視線を戻す。

「婚約者として、この国に残ると決めたそうだね」

逃げ場のない問い。でも、責める響きはない。

「はい」

そう答えると、王は嬉しそうに微笑んだ。

「そうか」

ただ、それだけ。

「理由を聞いても?」

試すような声音ではない。
知りたい、という純粋な響き。
私は少し考えてから、正直に答えた。

「この国を、まだ何も知りません。人も、土地も、価値観も。それを知らないまま去るのは違うと思いました」

王は、静かに聞いていた。

「……そしてそれを」

言葉を選びながら、最後を告げる。

「殿下のそばで、学びたいです」

一瞬、空気が止まる。
次の瞬間。

「はは」

王が、声を出して笑った。

「なるほど」

楽しそうに息子を見る。

「これは、強いな」

「……父上」

「いい」

王は手を振った。

「隠す必要はない。その顔は、もう全部書いてある」

リヒトは、珍しく視線を逸らした。

「安心しなさい」

王は、私へ向き直る。

「君をもう“守る存在”として置くつもりはない」

「だが」

声が、少しだけ低くなる。

「“迎え入れる存在”としては、歓迎しよう」

その言葉は、国王の判断であり、同時に――父親の許可だった。

「この国で学びなさい」

「この国を見なさい」

「そして」

柔らかく、けれど確かに言い切る。

「息子の隣に立つ覚悟があるなら、私はそれを止めない」

胸の奥が、じんと熱くなる。

「ありがとうございます」

深く頭を下げると、王は満足そうに頷いた。

「よろしい」

「では、改めて」

一歩、近づいて言う。

「ようこそ、ヴァイスハイムへ」

その言葉を隣で聞いていたリヒトが、ほんのわずかに肩の力を抜いたのを私は見逃さなかった。

これで私は正式にここにいる。
国にも、そして彼の隣にも。



「では、話はこれで終わりだ」

王はそう言って踵を返す。
……が、ほんの少しだけ足を止める。

「――ああ、そうだ」

何気ない調子で振り返り、視線をこちらに向けた。

「一つだけ、個人的な質問をしてもいいかな」

空気が、ふっと緩む。

「リズ嬢」

柔らかな笑みのまま、王は言う。

「君は――息子の、どんなところが好きなんだい?」

「……え?」

完全に想定外で、思考が止まる。

隣を見ると、リヒトは一瞬だけ眉を動かした。
それだけ。

「父上。場を考えてください」

「おや」

王は楽しそうに肩をすくめる。

「冷静だね。そこがリヒトのいいところでもある」

逃がす気はなさそうだ。視線が再び私に戻る。

「さあ、どうだい?」

逃げられない。

「……えっと」

頬が、じわじわ熱くなる。

「ちゃんと……話を聞いてくれるところ、です」

声は小さいけれど、嘘はない。

「私の言葉を、軽く扱わなくて。必要なら、待ってくれるところ」

そこまで言って、ちらりと隣を見る。
リヒトは何も言わない。けれど、視線を逸らしもしない。

「あと」

覚悟を決めて、続ける。

「優しいところ、です」

沈黙。
次の瞬間。

「ふふ」

王が、満足そうに微笑んだ。

「なるほど」

一度だけ頷き、息子を見る。

「聞いたか?」

「はい」

短く答える。
声は平静そのものだが、ほんのわずかに間があった。

「……もう十分では?」

王はそれを見逃さなかったらしく、楽しそうに笑う。

「安心したよ」

去り際にひと言。

「君にならリヒトを任せられそうだ」

扉が閉まる。
残されたのは静かな空間と、少しだけ温度の上がった空気。私の頬はまだ熱いままだった。



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