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第2章:馴れ初め
10.根性と労いと
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「椿もニンゲンに命令してみたいですニャ!」
催促してくる。待ちきれないと言わんばかりに。正直キツい。でも、応えてあげたい。嬉しかったから。こうして絡んできてくれたこと、それ自体が。
「また別の機会にしようか。優太はこの通りもうヘロヘロだから」
「いえ! その……簡単な命令なら何とか」
「優太……」
「やったー!! じゃあ、早速! 側転、側転、宙返りニャ!」
意気揚々と命令してきた。けど、俺の体はぴくりとも動かない。リカさんから支配権をもらう or 代わりに命令してもらう必要があるんだろうな。でも、当のリカさんには応える気がない。俺の体を気遣ってのことだ。凄くありがたい。ありがたいんだけど、やっぱ俺は……。
「まったく、アイツは何をやっとるんじゃ」
「ん?」
話声。これは……他の妖さん達の声か。
「六花様のお手を煩わせるなんて」
「あんなんだから、いつまで経っても半人前なのよね」
里中がじっとりとした重たい空気に包まれていく。嘲り嗤う声がやたらと大きく聞こえて。ああ、凄く嫌だ。
「優太?」
俺は空色のブレザーを脱ぎ捨てて、赤いネクタイを外した。そしてそのまま勢いよく上体を傾けて。
「う゛ぐ……!」
側転をした……つもりだけど、ちゃんと出来てたかな? 大分怪しい。やっぱ自力じゃ無理か。
「っ!」
椿ちゃんが笑ってる。驚いてるけど、笑ってて。
「うおぉぉおおお!!!」
力任せにもう一回転。そして。
「ぐっ! いっけええぇえ!!」
ガムシャラに地面を蹴って跳んだ。宙に浮いたところでぐっと体を丸める。
「う゛っ!? ~~っ、くお~~っ」
着地と同時に足裏に凄まじい衝撃&激痛が。こん棒か何かで殴られたみたいだ。でも、何とか倒れずに済んだぞ。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」
肩を叩かれた。リカさんだ。苦笑いだけど凄く嬉しそうで。
「えっ? あっ……」
汗を拭ってくれる。使っているのは例の肉球柄の手拭いだ。
「もっ、もういいですから」
「いいから、いいから」
「……っ」
恥ずかしくて、嬉しくて、俺は……何も言えなくなる。
「ありがとニャ」
「椿ちゃん……」
ははっ、バレてら。居た堪れないけど、誇らしくもある。頑張った甲斐があったな、なんて。
「わたくしからも、心より感謝申し上げます」
「わたくし? あっ!」
糸目の三毛猫だ。椿ちゃんと同じ桃色の着物+前掛け姿。背の高さも同じぐらいだ。たぶん90センチ前後だろうと思う。ただ、年齢には大分差が。この猫さんの方がずっと年上に見える。体もどっしり&ふっくらとしていて中々の貫禄だ。
「お初にお目にかかります。わたくし家事全般を統括しております梅と申します」
「こっ、これはどうもご丁寧に……。なっ、仲里 優太でございまする」
「ほっほっほっ、ほんに可愛らしいお方ですね」
「うん。三つ目兎みたいだよね」
「うっ、うさ?」
「お食事とお風呂の準備が出来ております。どうぞこちらへ」
「っ! ありがとうございます!」
大五郎さんは……来ないみたいだ。俺にひと睨み浴びせると、車輪の体をゴロゴロと転がして何処かに行ってしまった。
「そのうち仲良くなれるよ。焦らず、ゆっくりいこう」
「……そうですね」
リカさんからブレザーとネクタイを受け取って、梅さんの後についていく。
「お給仕は我々猫股が、農業は主に河童達が担っておりまして」
「…………」
道中、梅さんが色々と説明してくれたけどまるで頭に入ってこなかった。目の前でふよふよと揺れるそれに、梅さんの尻尾に目を奪われてしまって。
「さっ、3本♡♡♡」
そう。黒×オレンジのマーブルな尻尾が3本も。夢か!? って疑っちゃうレベルで幸福な、それでいて物凄く悩ましい光景だ。
「うぐ……ふぅ……うぅ……!!」
耐えろ、俺!!!! 耐えるんだ、俺!!!!
「ほっほっほっ、優太様はほんに尻尾がお好きなのですね~」
「っ!!?」
「……梅」
「すみません! その……俺には尻尾がないもんですから」
我ながら苦しい言い訳だ。ああ゛っ、穴があったら入りたい……。
「着きましてございます」
「っ! ここが」
目の前に立つ家を見て、俺は思わず息を呑んだ。
催促してくる。待ちきれないと言わんばかりに。正直キツい。でも、応えてあげたい。嬉しかったから。こうして絡んできてくれたこと、それ自体が。
「また別の機会にしようか。優太はこの通りもうヘロヘロだから」
「いえ! その……簡単な命令なら何とか」
「優太……」
「やったー!! じゃあ、早速! 側転、側転、宙返りニャ!」
意気揚々と命令してきた。けど、俺の体はぴくりとも動かない。リカさんから支配権をもらう or 代わりに命令してもらう必要があるんだろうな。でも、当のリカさんには応える気がない。俺の体を気遣ってのことだ。凄くありがたい。ありがたいんだけど、やっぱ俺は……。
「まったく、アイツは何をやっとるんじゃ」
「ん?」
話声。これは……他の妖さん達の声か。
「六花様のお手を煩わせるなんて」
「あんなんだから、いつまで経っても半人前なのよね」
里中がじっとりとした重たい空気に包まれていく。嘲り嗤う声がやたらと大きく聞こえて。ああ、凄く嫌だ。
「優太?」
俺は空色のブレザーを脱ぎ捨てて、赤いネクタイを外した。そしてそのまま勢いよく上体を傾けて。
「う゛ぐ……!」
側転をした……つもりだけど、ちゃんと出来てたかな? 大分怪しい。やっぱ自力じゃ無理か。
「っ!」
椿ちゃんが笑ってる。驚いてるけど、笑ってて。
「うおぉぉおおお!!!」
力任せにもう一回転。そして。
「ぐっ! いっけええぇえ!!」
ガムシャラに地面を蹴って跳んだ。宙に浮いたところでぐっと体を丸める。
「う゛っ!? ~~っ、くお~~っ」
着地と同時に足裏に凄まじい衝撃&激痛が。こん棒か何かで殴られたみたいだ。でも、何とか倒れずに済んだぞ。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」
肩を叩かれた。リカさんだ。苦笑いだけど凄く嬉しそうで。
「えっ? あっ……」
汗を拭ってくれる。使っているのは例の肉球柄の手拭いだ。
「もっ、もういいですから」
「いいから、いいから」
「……っ」
恥ずかしくて、嬉しくて、俺は……何も言えなくなる。
「ありがとニャ」
「椿ちゃん……」
ははっ、バレてら。居た堪れないけど、誇らしくもある。頑張った甲斐があったな、なんて。
「わたくしからも、心より感謝申し上げます」
「わたくし? あっ!」
糸目の三毛猫だ。椿ちゃんと同じ桃色の着物+前掛け姿。背の高さも同じぐらいだ。たぶん90センチ前後だろうと思う。ただ、年齢には大分差が。この猫さんの方がずっと年上に見える。体もどっしり&ふっくらとしていて中々の貫禄だ。
「お初にお目にかかります。わたくし家事全般を統括しております梅と申します」
「こっ、これはどうもご丁寧に……。なっ、仲里 優太でございまする」
「ほっほっほっ、ほんに可愛らしいお方ですね」
「うん。三つ目兎みたいだよね」
「うっ、うさ?」
「お食事とお風呂の準備が出来ております。どうぞこちらへ」
「っ! ありがとうございます!」
大五郎さんは……来ないみたいだ。俺にひと睨み浴びせると、車輪の体をゴロゴロと転がして何処かに行ってしまった。
「そのうち仲良くなれるよ。焦らず、ゆっくりいこう」
「……そうですね」
リカさんからブレザーとネクタイを受け取って、梅さんの後についていく。
「お給仕は我々猫股が、農業は主に河童達が担っておりまして」
「…………」
道中、梅さんが色々と説明してくれたけどまるで頭に入ってこなかった。目の前でふよふよと揺れるそれに、梅さんの尻尾に目を奪われてしまって。
「さっ、3本♡♡♡」
そう。黒×オレンジのマーブルな尻尾が3本も。夢か!? って疑っちゃうレベルで幸福な、それでいて物凄く悩ましい光景だ。
「うぐ……ふぅ……うぅ……!!」
耐えろ、俺!!!! 耐えるんだ、俺!!!!
「ほっほっほっ、優太様はほんに尻尾がお好きなのですね~」
「っ!!?」
「……梅」
「すみません! その……俺には尻尾がないもんですから」
我ながら苦しい言い訳だ。ああ゛っ、穴があったら入りたい……。
「着きましてございます」
「っ! ここが」
目の前に立つ家を見て、俺は思わず息を呑んだ。
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