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26.新しい君と、古いオレ
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「タケちゃん、推薦で来たんじゃないんですか?」
「おぉ~、君も知らんのかぁ~」
あれだけの強さだ。謙遜や自信のなさから推薦を辞退したとは考えにくい。一体なぜ。
「まぁ、結果的にウチにきてくれてるからいーんだけどねぇ」
「赤、武澤の勝ち」
再び歓声が上がる。決着がついたらしい。頼人が景介に話しかける。朗らかな態度。見慣れつつある彼の姿だ。けれど、そんな彼を見てもほっとすることはない。むしろ疑惑を深めていく。
――今の彼の方が『ニセモノ』なのではないかと。
そんなはずはない。否定の声は元友人達の嘲笑によって掻き消されてしまう。
「やっぱ白渡もいいなぁ。ぐふふっ、こりゃ団体も好い線いくかもなぁ」
最上は景介にも期待を寄せているようだ。当然か。全国3位の頼人にあれだけ食らいついたのだから。この部での景介の未来は明るい。喜ぶべきところであるのにもかかわらず心は沈んだままぴくりとも動かない。
「んじゃ、おじちゃんはこれで」
軽やかな足取りで景介達のもとへと向かっていく。二人は最上の顔を見るなり頭を下げた。肩を抱かれる二人。頼人は満面の笑みを浮かべたが、景介は顔を俯かせたまま唇を噛み締めている。
悔しさを拭いきれずにいるのだろうか。直ぐにでも駆け寄りたいところではあるが、ぐっと堪える。景介はまだあの枠の中にいる。近付くことは許されない。
「……っ」
痛みに耐えかね、手元のカメラに目を向ける。失敗作しかない。いずれも1/500のシャッタースピードで撮影をした。動性のある被写体を正確に捉えるためだ。しかし、それが良くなかった。時が止まっている。一言でいえば、何の面白味もない写真だ。やるせなくなり、横に立つ照磨のプレビューを覗く。
「うっ、うわぁ……!」
対照的だ。突き出した拳、脚、背景が大きくブレている。
「流し撮りにしてみたんだ」
『流し撮り』
背景や動きのある部分を故意にブレさせることによりスピード感を出す技法。被写体を追うようにカメラを動かして撮影するためこの名がついた。一見すると初心者向けであるように思われるが実際はその逆。上級者向けのテクニックだ。対象に合わせたシャッタースピードの見極め。横以外のブレを生じさせない安定した構え。その両方を迅速かつ正確に行わなければならない。かく言うルーカスもこの技術を習得出来ずにいた。
「見直した?」
「はいッ!! すごく!!! ……あっ!?」
勢いのまま肯定してしまった。
「ご、ごめんなさい! オレ――」
「ふふっ、素直でよろしい」
照磨はおかしそうに笑いながらルーカスの頭を撫でた。華美な見た目とは裏腹に骨ばった逞しい手をしている。あの情熱、腕前を見るに照磨も相当に鍛えているのだろう。
――心躍る瞬間を捉えるために。
「でも意外だったな。キミ、人も撮るんだね」
「あっ、いえ! オレは風景がメインです。人はケイだけで」
「へぇー……?」
「へっ、変な意味じゃないですよ!」
照磨の口元に三日月が浮かぶ。
「どうやら僕らの利害は一致しているらしい」
「え? ……っ!? ちょっ、先輩――っ!?」
腕を引かれ、あれよあれよという間に外に連れ出されてしまう。
「や、止めてくださ……っ!」
背が冷たい。出入口横の壁だ。中からは見えない。おまけに頭上近くに手をつかれ追い詰められてしまった。
「怖がらないで。キミにとっても悪い話ではないはずだよ」
とてもそうは思えない。唇を噛み締め視線だけを床に向ける。
「景介はね、頼人を身代わりにしているんだよ」
「おぉ~、君も知らんのかぁ~」
あれだけの強さだ。謙遜や自信のなさから推薦を辞退したとは考えにくい。一体なぜ。
「まぁ、結果的にウチにきてくれてるからいーんだけどねぇ」
「赤、武澤の勝ち」
再び歓声が上がる。決着がついたらしい。頼人が景介に話しかける。朗らかな態度。見慣れつつある彼の姿だ。けれど、そんな彼を見てもほっとすることはない。むしろ疑惑を深めていく。
――今の彼の方が『ニセモノ』なのではないかと。
そんなはずはない。否定の声は元友人達の嘲笑によって掻き消されてしまう。
「やっぱ白渡もいいなぁ。ぐふふっ、こりゃ団体も好い線いくかもなぁ」
最上は景介にも期待を寄せているようだ。当然か。全国3位の頼人にあれだけ食らいついたのだから。この部での景介の未来は明るい。喜ぶべきところであるのにもかかわらず心は沈んだままぴくりとも動かない。
「んじゃ、おじちゃんはこれで」
軽やかな足取りで景介達のもとへと向かっていく。二人は最上の顔を見るなり頭を下げた。肩を抱かれる二人。頼人は満面の笑みを浮かべたが、景介は顔を俯かせたまま唇を噛み締めている。
悔しさを拭いきれずにいるのだろうか。直ぐにでも駆け寄りたいところではあるが、ぐっと堪える。景介はまだあの枠の中にいる。近付くことは許されない。
「……っ」
痛みに耐えかね、手元のカメラに目を向ける。失敗作しかない。いずれも1/500のシャッタースピードで撮影をした。動性のある被写体を正確に捉えるためだ。しかし、それが良くなかった。時が止まっている。一言でいえば、何の面白味もない写真だ。やるせなくなり、横に立つ照磨のプレビューを覗く。
「うっ、うわぁ……!」
対照的だ。突き出した拳、脚、背景が大きくブレている。
「流し撮りにしてみたんだ」
『流し撮り』
背景や動きのある部分を故意にブレさせることによりスピード感を出す技法。被写体を追うようにカメラを動かして撮影するためこの名がついた。一見すると初心者向けであるように思われるが実際はその逆。上級者向けのテクニックだ。対象に合わせたシャッタースピードの見極め。横以外のブレを生じさせない安定した構え。その両方を迅速かつ正確に行わなければならない。かく言うルーカスもこの技術を習得出来ずにいた。
「見直した?」
「はいッ!! すごく!!! ……あっ!?」
勢いのまま肯定してしまった。
「ご、ごめんなさい! オレ――」
「ふふっ、素直でよろしい」
照磨はおかしそうに笑いながらルーカスの頭を撫でた。華美な見た目とは裏腹に骨ばった逞しい手をしている。あの情熱、腕前を見るに照磨も相当に鍛えているのだろう。
――心躍る瞬間を捉えるために。
「でも意外だったな。キミ、人も撮るんだね」
「あっ、いえ! オレは風景がメインです。人はケイだけで」
「へぇー……?」
「へっ、変な意味じゃないですよ!」
照磨の口元に三日月が浮かぶ。
「どうやら僕らの利害は一致しているらしい」
「え? ……っ!? ちょっ、先輩――っ!?」
腕を引かれ、あれよあれよという間に外に連れ出されてしまう。
「や、止めてくださ……っ!」
背が冷たい。出入口横の壁だ。中からは見えない。おまけに頭上近くに手をつかれ追い詰められてしまった。
「怖がらないで。キミにとっても悪い話ではないはずだよ」
とてもそうは思えない。唇を噛み締め視線だけを床に向ける。
「景介はね、頼人を身代わりにしているんだよ」
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