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50.感謝の言葉、恐れずに
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「『景介がいいならそれでいい』親父もばあちゃんも口を揃えて言う。反対もしなければ叱りもしないんだ。……肝心なときはいっつも」
「信用してくれてるんだね」
「面倒なだけだろ」
悲しみと苛立ちで歪んだ声。湧き上がってきたのは切なさでも怒りでもない。使命感だった。
「それはちょっと違うんじゃないかな」
言いながら景介の左手を取り、袖を捲る。白い腕時計が照明を受けて輝き出す。
「どんな時でも味方だよって……そういう意味だったんじゃない?」
「……ポジティブ過ぎんだろ」
景介は依然険しい表情を浮かべている。
「ルー……」
そんな彼の手をそっと撫でていく。凝り固まった心を解きほぐすように。
「見守ってくれてるんだよ。ケイのことを」
目を伏せたまま唇を引き結ぶ。思い返しているのだろう。その時々のことを。
「……そうだな」
固く結ばれていた唇が綻んでいく。
「一理ある、のかもしれないな」
光が差し込んでくる。長い長いトンネルを抜けたようだ。ルーカスが歯を出して笑うと、景介も控えめに応えてくれる。
「……悪いな。面倒ばっかかけて」
「あっ……」
そうか。そうだったのか。景介は感謝を伝える場面で『悪い』と言う。思い返せばあの時も。ヤカンの写真を贈った時も。彼の祖母・結子に挨拶をした時もそうだった。厚意に対し距離を置くことで身を守っているのだろう。だが、もうそんな必要もない。失う時は終わりを迎えたのだから。
「『悪いな』、は今日でおしまいにしない?」
「は……?」
瞬きを繰り返す。無自覚であるようだ。
「オレはケイのことが大好きだから、優しくもするし頑張ったりもする。迷惑だなんて思う気持ちはこれっぽっちもないんだ」
「っ!」
察しがついたようだ。先の尖った丸い目が少しずつぼやけていく。
「悪いな~……なんて思ったり、言う必要もないんだよ」
景介は慌てて上を向いたが手遅れであったようだ。彼の頬に一筋の涙が伝う。
「オレだけじゃない。みんなもそう。ケイのことが大好き。力になりたいし、笑顔にもしたい」
皆の顔を一人一人思い浮かべ、そっと口を開く。
「だからさ、『悪いな』じゃなくて『ありがとう』って言ってもらいたいんだ」
小刻みに震える拳。深い孤独を感じる。この人を、白渡景介を幸せにしよう。思いが一層高まっていく。そわそわと落ち着きをもなくしてしまうほどに。
「……がと……」
景介と目が合う。その瞳は潤んでいたが、同時に晴れやかでもあった。
「……ありがとう」
景介は踏み出した。大きな、大きな一歩を。
「こちらこそ。ありがとう、ケイ」
――それから約30分後。玄関扉は何の抵抗もなく開いた。
「行くぞ」
「うっ、うん」
景介の後に続いて家の中へと入っていく――。
「信用してくれてるんだね」
「面倒なだけだろ」
悲しみと苛立ちで歪んだ声。湧き上がってきたのは切なさでも怒りでもない。使命感だった。
「それはちょっと違うんじゃないかな」
言いながら景介の左手を取り、袖を捲る。白い腕時計が照明を受けて輝き出す。
「どんな時でも味方だよって……そういう意味だったんじゃない?」
「……ポジティブ過ぎんだろ」
景介は依然険しい表情を浮かべている。
「ルー……」
そんな彼の手をそっと撫でていく。凝り固まった心を解きほぐすように。
「見守ってくれてるんだよ。ケイのことを」
目を伏せたまま唇を引き結ぶ。思い返しているのだろう。その時々のことを。
「……そうだな」
固く結ばれていた唇が綻んでいく。
「一理ある、のかもしれないな」
光が差し込んでくる。長い長いトンネルを抜けたようだ。ルーカスが歯を出して笑うと、景介も控えめに応えてくれる。
「……悪いな。面倒ばっかかけて」
「あっ……」
そうか。そうだったのか。景介は感謝を伝える場面で『悪い』と言う。思い返せばあの時も。ヤカンの写真を贈った時も。彼の祖母・結子に挨拶をした時もそうだった。厚意に対し距離を置くことで身を守っているのだろう。だが、もうそんな必要もない。失う時は終わりを迎えたのだから。
「『悪いな』、は今日でおしまいにしない?」
「は……?」
瞬きを繰り返す。無自覚であるようだ。
「オレはケイのことが大好きだから、優しくもするし頑張ったりもする。迷惑だなんて思う気持ちはこれっぽっちもないんだ」
「っ!」
察しがついたようだ。先の尖った丸い目が少しずつぼやけていく。
「悪いな~……なんて思ったり、言う必要もないんだよ」
景介は慌てて上を向いたが手遅れであったようだ。彼の頬に一筋の涙が伝う。
「オレだけじゃない。みんなもそう。ケイのことが大好き。力になりたいし、笑顔にもしたい」
皆の顔を一人一人思い浮かべ、そっと口を開く。
「だからさ、『悪いな』じゃなくて『ありがとう』って言ってもらいたいんだ」
小刻みに震える拳。深い孤独を感じる。この人を、白渡景介を幸せにしよう。思いが一層高まっていく。そわそわと落ち着きをもなくしてしまうほどに。
「……がと……」
景介と目が合う。その瞳は潤んでいたが、同時に晴れやかでもあった。
「……ありがとう」
景介は踏み出した。大きな、大きな一歩を。
「こちらこそ。ありがとう、ケイ」
――それから約30分後。玄関扉は何の抵抗もなく開いた。
「行くぞ」
「うっ、うん」
景介の後に続いて家の中へと入っていく――。
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