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第三章 エルフの里

第六話 世界樹聖剣

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「……ううん……朝、じゃなくて夕方か……」

 俺は、夕方になってようやく目を覚ますと、起き上がろう――としたのだが、左腕がつかまれている感触がした為、俺は起き上がる前に顔を右に向けた。すると、そこにいたのは、俺の腕を抱き枕にして寝ているクリスだった。

「ちょ、クリス!? 何してんのー!」

 俺は思わず飛び上がると、叫んだ。
 すると、クリスが目を擦りながら起き上がった。そして、数秒ボーっとしてから、今の状況に気づき、顔を真っ赤にすると、視線をそらした。

「えっと……その……あと、これって私の案じゃないですからね」

 クリスは、視線をそらしたままそう言った。

「いや、怒ってはないんだけどさ。流石に男女が一緒に寝るのはまずくないか?あと、一つ聞きたいんだが、『私の案じゃない』ってどういうことだ?」

 クリスの言葉から推測するに、誰かがクリスに、俺が寝ているベッドに忍び込むよう言ったのだろう、それは、元の世界でやれば、パトカーの無料乗車券がゲットできてしまう案件だ。
 俺の質問にクリスが答えようとした時、部屋のドアが開き、トリエストさんとディーネさんが入ってきた。何故だか知らないが、トリエストさんはディーネさんによって、襟首をつかまれ、引きずられている。

(な、何があったんだ……)

 俺はその様子を見て、思わずフリーズしてしまった。だが、ディーネさんがトリエストさんを前に放り投げたことで、フリーズは解除された。

「ディーネさんとトリエストさん!? な、何があったんですか?」

 すると、ディーネさんはトリエストさんを冷たい目で見ながら答えた。

「そこに転がっている馬鹿がクリスの素直さを利用して、クリスにユート様が寝ているベッドに忍び込むよう言ったのですよ」

 なるほど、大体理解した。つまり、この事件はトリエストさんの悪ふざけが原因ということだ。

(何だろう。トリエストさんは悪いことをしたはずなのに、出てくるのは怒りではなく、感謝なんだけど……)

 美しいという言葉が似あう女性と一緒に寝ることが出来て、今更ながら心臓の鼓動が速くなるのを感じた。なので、そんな素晴らしいいけないことをしてくれたトリエストさんに怒りなんて向けられるわけがない。

「ま、まあ、俺は気にしていませんよ」

 俺は放り投げられ、床に倒れているトリエストさんを立たせながら、そう言った。

「そう……それは良かった。では、私の部屋に来ていただけませんか? 家宝をお渡ししますので」

「分かった」

 俺は頷くと、みんなと一緒にディーネさん(と、トリエストさん)の部屋に向かった。
 部屋に入ると、そこにはクリスの家族が勢ぞろいしていた。そして、ドーラさんの手に、木製のさやに収められた剣があった。

(お、これが家宝の剣なのか?)

 俺は、ドーラさんの手にある剣をまじまじと見つめながら、そう思った。

「お、気になるか。これこそが、我が家の家宝、世界ワールド樹聖剣エクスカリバーだ」

 世界樹聖剣とは……これはまた随分と凄そうな剣だと思った。
 俺が、名前だけで「凄そうだな~」と思っていると、ドーラさんがさやから剣を抜いた。

「おお……なんかスゲー」

 世界樹聖剣は全体の長さが百二十センチほど、剣の幅が十センチほどある。俺が今使っている白輝の剣は全体の長さが百センチほど、剣の幅が五センチほどだったので、かなり大きい。
 他に俺が気になったのは、世界樹聖剣の材質だ。持ち手はどう見ても世界樹で作られている。だが、刃の部分がよく分からなかった。色は銀色で、見た感じは鉄なのだが、切れ味が違いすぎる。試しに〈アイテムボックス〉から取り出した木材を切ってみたのだが、……いや、あれは切ったとは言わない。ただ、木材と剣を密着させただけだ。
 因みにこの木材は、マリノの森でテントを建てる際にどかした木を、ダンジョン攻略の休憩中に、暇つぶしできれいに切って、作ったものだ。

「すげぇ……まじですげぇ……」

 ゲームの最後で手に入るような、最高クラスの剣を手に入れられたことで、俺は新しいおもちゃを貰った小学生のように興奮した。そして、そんな俺のことを、みんなは誕生日プレゼントを貰って喜ぶ子供を見るかのような目で見てきた。



「ふぅ……ところで、もう一つの家宝とは一体何なのですか?」

 興奮が収まった俺は、世界樹聖剣を〈アイテムボックス〉にしまうと、トリエストさんにそう訊ねた。

「ああ、それはな。私の孫、クリスティーナだ」
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