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ダンジョン・ウォーカー

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 寄ってくるモンスターをレーザーで貫き、穴をあける作業を続ける。

「あ、レベル7になった」

 ぴこんとレベルアップの表示が視界の端で浮かび上がる。

 レベルが上がるごとに使える魔力がどんどんと増えていく。やっぱり成長期っていいなぁ。

 適度に休憩も挟めるし、消耗も少ないしで、かなり長期的に戦えるな。この調子だと少なくとも魔力切れは心配しないで良さそう。

 とにかくやるべきことと言えばレベルを上げる事なので、バンバン上げていく。運が良ければごく稀にスキルを覚えることもあるので、それも狙いたい。

 俺は消費した分のスフィアを生成し直し、歩き出した。スフィアは浮遊して俺の周囲を囲んでついてくる。

 魔力が最大まで回復したら、スフィアにして溜めておけるのもこの魔法のいい所だ。

「練り歩くだけでレベルが上がるとは、なんとも気分のいい話ではないか……フフフ」

 これから毎日この生活を続けることになる。俺は悪い顔をしながら前世の老年期のテンションで笑い、モンスターを見つけ次第貫き続ける作業に没頭した。






「なあ、知ってるか? ダンジョン・ウォーカーの話」
「なんだそれ、知らんぞ俺は」

 次の日になって、俺は阿笠から噂話を聞いていた。

「なんでもダンジョンを練り歩く怪人で、一目見ただけでモンスターを消し飛ばしちまうらしい」
「こわっ。くわばらくわばら、俺も間違えて消し飛ばされないよう気を付けとこう」
「はは、そうした方がいいぜ」

 昼休みの廊下でそんなバカ話をしていると、ふと話しかけたそうにこちらをちらちら見つめている竜胆さんの姿が目の端に映った。どうやら教師の手伝いに駆り出されているらしく、偶然通りがかったようだ。

「おい、行かないのか?」

 阿笠が咎めるようにそう言ってくる。どうやら同じく気づいていたようだ。俺は黙ってうなずき、そして立ち上がった。阿笠がびっくりした表情でこちらを見上げているが、それよりも竜胆さんだ。

 俺は竜胆さんの方へ行って話しかけた。

「竜胆さん」
「えっ、な、なに? 何かな?」
「この間は悪かった」
「……」

 俺が謝って、竜胆さんは困惑した表情を浮かべた。

「そんな、謝るのは私の方だよ。最後塩対応しちゃってごめん」
「いや、違う。竜胆さんは純粋に応援してくれた。それなのにひねくれた事言って気まずい空気作ったのは俺の方だ。悪かった」
「……ふふっ……分かった。じゃあお相子ってことにしよう? お互い悪かったってことで」

 俺は顔を上げて、そこに笑顔の竜胆さんがいることに安堵した。

「分かった。じゃあ、その……これからも話しかけてくれると嬉しい」
「はいはい。それじゃ私手伝いがあるから、じゃあね」

 竜胆さんは手に持った薄めのプリントの束を腕に抱いて、踵を返して歩き出した。そして遠くまで行っていた中年の女性教諭に話しかける。

 その後ろ姿を見送って、俺も踵を返して阿笠の所に戻った。

「へー……意外。俺はてっきり意地を張っていかないもんかと思ってた」
「俺にどういうイメージ持ってんだ」
「ひねくれた石頭陰キャ」
「ドスケベ鳥頭陰キャに言われたくねえなおい。……まあ色々思う所があったんだよ」
「男子三日合わざれば刮目して見よ、とはいうが、大した変化だ」
「上から」

 腕を組んでうんうんと頷く阿笠の顔に、俺は柔らかいパンチを繰り出した。

 その後特に何もなく、いつもの学校生活が戻ってきて数日が経過した。

 竜胆さんは相変わらず学校でちょくちょく話しかけてくるようになった。それを見た宮島がそれはもうお怒りだったが、俺にとってはもはやどうでもいい事だ。全て無視した。

 当然、放課後はダンジョンに費やした。ダンジョンを練り歩き、モンスターを見つけてはレーザーで消し飛ばす作業。

 階層も2から3、そして4階へと足を踏み入れた。現れるのはレッサーナーガもどきや鉄鋼ムカデなどの強敵ぞろいだが、レーザーの前には無力だった。

 レベルもどんどんと上がって現在12。魔力炉心もメキメキと成長し、魔力量も増え、一度に待機させられるスフィアも数を増やしている。

 今は6個のスフィアを待機状態にできている。いつでもレーザーとしてぶっ放せる。レーザーの火力も増えている為、中々の成長速度だと我ながら褒めてやりたい。

 ついでに、魔法の開発も進んでいる。

 新しく作ったのは無属性防御魔法『バリア』。前方だけでなく、自分自身を球形のバリアでぐるりと囲む防御魔法だ。その内実は複数の小型『シールド』をハニカム構造にして溶接しているもので、硬さは4階層のモンスター、鋼鉄ムカデの顎に挟まれても傷がつく程度で済む程固い。

 お陰で武器や防具を変えるための出費を節約しつつ前に進めている。お金も結構稼げている。このペースでいけばサラリーマンの月収くらいは稼げるだろう。

 確か宮島の奴もこの階層を攻略中だったか。鉢合わせたくはないが、どうしてもメインストリートは行き帰りで通ることになる。祈るしかない。

 という訳で延々と狩りを続けていると。

「……? 今何か聞こえたような」

 ふと何か嫌な音が耳に入り、俺は足を止めて耳を澄ませた。

「……―――!」
「……人の叫び声か?」

 俺は声のする方へと駆けだした。

 走っていると、人影が小さな穴から出てきてこちらへと走っているのが見えた。思わず身構える……が、その人の顔に見覚えがあって俺は思わず目をぱちくりとさせた。

「竜胆さん?」
「はあっ、はあっ……えっ!? なんでここに……だめっ、逃げて!」

 鬼気迫る表情でそう叫ばれた、次の瞬間だった。

「キシャアアアアア!」

 竜胆さんの背中の壁が突如として砕かれ、ぬるりと細長くトゲトゲした影が現れたではないか。その姿を見て俺は思わずその名前を呟く。

「イビルムカデ!」

 滅多に出現することがない、いわゆるレアモンスター。だがその存在は、ゲーマー的に喜ばれるような存在ではない。

 イビルムカデは浅い層に現れることが多く、過去に浅い層を中心に潜っていたルーキー探索者を大勢屠ったことがある。

 初心者殺し(ルーキーマーダー)に数えられる、絶望そのものの存在だ。

「っ!」
「きゃっ」

 俺は咄嗟に駆け出し、竜胆さんを後ろに隠した。そして全力でバリアを展開する。ハニカム構造の魔力による壁が俺と竜胆さんを包み込んだ。

「キシャアアア!」

 巨大な顎が迫り、激突する。俺と竜胆さんは一緒になってバリアごと持ち上げられ、そして思いっきり放り投げられ壁に叩きつけられた。

 バリアに罅が入るが、壊されてはいない。俺はすぐさまスフィアを浮かび上がらせ、レーザーを放つ。

 奴の甲殻にレーザーが当たるが、弾かれている。長く当てればその部位が赤くなりそれなりに傷をつけられるが、攻撃されているというのに大人しくする理由が奴にはない。痛みで暴れ回り、尻尾部分による薙ぎ払いをしてきて、俺達はまたバリアごと吹き飛ばされた。

「舐めるなよ!」

 俺はカッと頭に来て、特大のスフィアを作り出した。圧縮を何度も何度も繰り返し、そして固定して安定化させる。

「キシャッ」

 イビルムカデがそれを見て警戒するように睨みつけてくる。注目された。そこが狙いだった。

「アホが」
「キシャー!?」

 密かに奴の頭上に作っていたいくつかのスフィアを、爆発させた。スフィアバーストにより消滅の爆発に巻き込まれたイビルムカデは、爆発の勢いで地面に縫い付けられ、動きを止める。

 そこに、特大のレーザーを打ち込んだ。奴の身体に大穴を開けて両断、イビルムカデは沈んだ。

「ふう……っ、何とか勝てた」

 バクバクと心臓が鳴っている。死に近づく経験は何度やっても慣れない。

「……」
「……あ」

 そう言えば竜胆さんがいるんだった。すっかり忘れていた俺は、口を噤む。

「……えっと、竜胆さん。なんでここに?」
「……わ、私も、実は探索者してるんだ。ネームは『りゅうたん』だから、ダンジョン内ではそっちで呼んで?」
「わ、分かった」

 知らなかった。竜胆さんも探索者だったなんて、彼女は一言もそんな事を俺に言わなかった。

 あまりの事態に固まっている俺に、竜胆さんは何度か口を開こうとしたが何も言わず、最終的にはっと思い出したかのように慌てだした。

「そ、そう言えばまだ放送切ってない! ちょ、ちょっと待っててね!」

 そう言うと、竜胆さんは背後に浮かんでいた何かを手に取った。

「り……りゅうたんさん? それは一体……?」

 嫌な予感がして、思わず尋ねる。

「……えっと、生放送用の魔法アイテムで、自動追尾するカメラ。私、その……配信者なんだ」

 俺は喉を鳴らした。

「つまり?」
「……ごめん。戦ってるところ、がっつり乗ってた」

 俺はどうやら、はからずともライブデビューしてしまったらしい。
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