こころのみちしるべ

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アーケルシア編

024.『闇』1

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 リヒトは修練場で剣を振るっていた。その剣戟の一振り一振りには自らの弱さへの呵責が宿っていた。その思いはフラマリオンの陥落から月日が流れても変わらず、むしろ強まる一方だった。なぜ神楽様を救えなかったのか。なぜフラマリオンの街の人々を救えなかったのか。なぜマリアを慣れない土地に身を寄せるような境遇に追いやってしまったのか。すべては自身の弱さのためにほかならない、それがリヒトの揺るがぬ結論だった。
 リヒトのその様にはあまりにも鬼気迫るものがあり、名ばかりの修練しかしていないアーケルシアの兵士たちはそれを見て唖然とするばかりだった。ユスティファでさえその剣戟を見て息を呑んだ。
「リヒト殿」
 そう後ろから呼び掛けてくる声がしてリヒトは振り返った。そこには柔和な笑みを浮かべて立つケーニッヒの姿があった。その顔は笑っていたがその奥には隠しきれない怒りが滲んでおり、それを見たリヒトは目を眇めて伺った。
「ケーニッヒ殿…どうなされましたか」
 ケーニッヒは一拍置いてから答えた。その声音もまた柔和だった。
「アストラ殿から通達があった。騎士王の任命についてだ」
 リヒトは慎重にケーニッヒの言葉を待った。次のケーニッヒの言葉は自然と気色ばんだ。
「新しい騎士王はそなただそうだ」
 リヒトは耳を疑った。
「え…?」
 ケーニッヒの顔と声に滲む怒気は一層強くなった。
「私ではなく…リヒト…貴様が新しい騎士王だそうだ」
 馬鹿な、と嘲笑したくなったが、それが冗談ではないことはケーニッヒの目と佇まいを見れば明らかだった。ケーニッヒは鼻に皺を寄せて低い声でリヒトに問うた。
「どうやってアストラ殿をたぶらかした?」
 ケーニッヒに投げられた問いの唐突さにリヒトは愕然とした。
「馬鹿言わないでください! とんでもない! 俺はそんなことしてません!」
 ケーニッヒは間髪入れずに怒鳴った。
「嘘つくな!」
 修練場の兵士たちはみなその光景を呆然と眺めることしかできなかった。
「ほんとです! 俺は俺が騎士王に相応しいとは思いません。ケーニッヒ殿こそ相応しい!」
 ケーニッヒは鼻で笑って呆れたように言った。
「そんなの当たり前だろ」
 取り付く島もないケーニッヒだが、リヒトにできることは弁解を続けることだけだった。
「アストラ殿のお考えは俺にはわかりません。俺自ら辞退の旨をアストラ殿に申し出ます。さすがにそれならばご納得くださるでしょう」
 それを聞いてやや冷静さを取り戻したケーニッヒはリヒトの目の奥を見た。
「本当か?」
「当たり前です。アストラ殿にはアストラ殿のお考えがおありでしょう。でも俺は余所者ですしこの国のことも知りません。俺に騎士王は務まりません」
「いつ」
 そう問うケーニッヒの声はあまりにも小さく、短く、その顔はあまりにも平坦だったのでリヒトは彼が何と言ったのか理解するのに時間を要した。
「?」
 ケーニッヒは怒気を孕んだ声で問い直した。
「いつ行くんだよ」
「明日の朝い——
 ケーニッヒは押しかぶせて怒鳴った。
「遅ぇよ! 今すぐ行って来い!」
 リヒトもさすがにそれには抗議した。
「それはあまりにもアストラ殿に対する不敬に——
「うるせえ今すぐ行け!」
 リヒトは少し逡巡したがこれ以上ケーニッヒを憤慨させることは得策ではないと判断した。
「…わかりました」
 ケーニッヒはそれを聞いて声と表情に先刻の柔和さをにわかに取り戻した。
「そうか。行ってくれるか」
「ええ、王への不敬は深く詫びて償います」
 ケーニッヒはにわかに目を鋭くしてさらに念を押した。
「絶対に行けよ」
 リヒトはこの段に及んでさすがに苛立ちを覚えた。
「わかってますよ。いい加減に信じてください」
 ケーニッヒは淡々と言った。
「行かなかったらマリアを殺すからな」
 リヒトは再び耳を疑った。彼は全身の神経を逆撫でされるのを感じた。ケーニッヒは視線を上げ、リヒトにもそちらを見るよう顎で促した。リヒトは恐ろしい予感とともにその視線を追った。修練場を囲うように巡らされた階上のキャットウォークに大きな影が現れた。その影はリヒトのよく見知った女を羽交い絞めにしていた。彼女は恐怖に顔を歪めており、その首筋にはダガーが突き付けられていた。影の主はケーニッヒの側近のタルカスだった。彼は平坦で冷たい目をケーニッヒともリヒトともつかないどこか一点に落としていた。ケーニッヒが殺せと言えば誰の命もためらわずに奪うような無機質さがそこにはあった。リヒトはにわかに気色ばんでケーニッヒを睨んだ。
「…おい!」
 ケーニッヒは憎しみに目を大きく開いてリヒトに命令した。
「早く行けよ」
 その目は「早くしないとマリアを殺すぞ」と言っていた。しかしリヒトにはマリアの安全こそ最優先だった。
「マリアを放せ!」
 リヒトのその言葉を予期していたケーニッヒは淡々と言った。
「アストラ殿の任命を撤回出来たら解放してやる」
 先ほどはそれを果たすことを固く約束したリヒトだったが、しかし実のところそれはアストラの考えや機嫌にも左右されることであり、絶対に成功できるとはいえない不確かさを孕んでいた。「わかった」と言ってアストラの邸に向かうことよりも、ひとまずマリアの安全を確保することをリヒトの心は選んだ。リヒトの声にも怒りが滲んだ。
「マリアを放せ」
 それを聞いたケーニッヒは眉を顰めた。
「何だその物の言い方は」
 リヒトもすでに怒りを抑えきれなくなっていた。だがケーニッヒの次の言葉はリヒトの肝を冷やした。
「マリアを殺すぞ?」
 リヒトは歯噛みした。彼はこの状況を打開する方法について必死に考えを巡らせた。その方法は彼の脳裏に二つ浮かんだ。一つはケーニッヒの要求をのむこと。任命を辞退する旨をアストラに伝える。それをどうにか了承していただく。いや、それだけではだめだ。邸での会話。あれを聞く限りではアストラはあまりケーニッヒを認めていないような印象を受けた。リヒトの辞退が了承されたとして、次の騎士王が仮にケーニッヒ以外の誰かになった場合、ケーニッヒはマリアとリヒトを許すだろうか。いや、その保証はどこにもない。むしろケーニッヒの怒りは倍増し、それに駆られたケーニッヒが衝動的にマリア殺害を命じる可能性の方が高いだろう。何が何でもケーニッヒを騎士王にする必要がある。そこへ来てリヒトの思索はぴたりと止まった。
「何をしている」
 うつむいて考えていたリヒトは、ケーニッヒのその声を聞いて、鋭い目を彼に向けた。
「早く行け」
 リヒトは考えた。そうだ。なぜこんな男を騎士王にしなくてはならない? こんな男を。リヒトの脳裏にはにわかにフラマリオンを襲ったオーガの灰色の巨体がよぎった。それに歪められた人々の暮らしが、命が、その理不尽さが。そして、それに屈した自身の弱さが。今もなおフラマリオンの人々はルクレティウスの圧政に苦しんでいるという。自分の願いはそういった理不尽から人々を救うことにあったはずだ。そのために傭兵になった。そのために今日まで恥を忍んで生きながらえた。今目の前のマリアを救わずしてどうする。こんな男を騎士王に祭り上げるような理不尽を許してどうする。こんな男が騎士王になったとしても、長らく戦争に苦しむアーケルシアの人々の不幸は続くだろう。
 この段に及んでリヒトの心は、この状況を解決するための方法の二つ目をとることを選んだ。ケーニッヒ、タルカスを制圧し、マリアを救い出す。彼はケーニッヒを真っ直ぐに睨んだまま、胸に左手を当て、呟いた。
「新月の瞬き」
 リヒトの胸が白く光り、それは修練場の壁や天井を白く染め上げた。それはケーニッヒもユスティファも含めたその場に居合わせるほぼ全員が初めて目にする現象であり、彼らを一様に唖然とさせた。何事にも動じない気質の持ち主であるタルカスでさえそれに刮目し、唯一その力を目撃したことのあるマリアだけが首を後ろから締めあげられる苦しみと死の恐怖に顔を歪めるばかりで驚いてはいなかった。リヒトの胸の輝きは彼がかざした手の先にある虚空に投影され、それは細長い形を成した。それはやがて光を失い、鈍色の日本刀となって姿を定着させた。リヒトはそれを右手で掴んだ。ケーニッヒは眼前に対峙する男が剣を現出せしめたことに激しい畏怖と警戒を覚えたじろいだ。
「何のつもりだ!」
 ケーニッヒのその言葉を意に介さず、リヒトは低く鋭い声で言った。
「お前は騎士王になるべきではない」
 ケーニッヒは自身がリヒトの強気も覆せる最強のカードを持っていることを確かめるように言った。
「マリアはどうなってもいいのか!」
 リヒトは一拍置いて答えた。
「マリアには傷一つ付けさせない」
 ケーニッヒはそれを聞いて顔をひきつらせつつもにわかに笑みを浮かべた。
「どうやってそんなことが——
 リヒトが表情を微塵も崩さず剣を片手で中段に構えるとケーニッヒは言葉を失った。リヒトは柄を逆手で握り直し呟くように言った。
「妖魔刀術・潜牙」
 リヒトの足元の床には黒い円いシミのようなものができた。はじめそれはコインほどの大きさしかなかったが、一瞬にして直径が人の頭の幅ほどもある円に広がった。ケーニッヒもタルカスも含めたその場にいるアーケルシア兵全員が息を呑んだ。リヒトは剣を握る手に力を込め、腰を落とし、剣をその黒い円に深く突き刺した。するとタルカスの右斜め上の中空に、リヒトが剣を刺した地面と同じような黒い円が生じた。円はやはり最初コインのように小さかったが、すぐに人の顔ほどの大きさに広がった。その中心から鈍色の光が閃いた。光の発信源はやがて黒い円からはっきりとその姿を覗かせた。それは日本刀の切っ先であった。タルカスがその鋭利な刃の気配に気付いたときにはすでにその切っ先はダガーを握るタルカスの右の手首を刺し貫いていた。タルカスはダガーを地に落とし痛みに呻いた。マリアを拘束していた左腕からも力が抜け、拍子にマリアは短く悲鳴をあげ、恐怖にうずくまった。ケーニッヒはタルカスの方を見上げて唖然とした。リヒトが地から刃を引き抜くと、その切っ先にまとわりつく鮮血が宙に巻き上げられた。
 ダガーを落としてしまったタルカスは咄嗟の判断で左手で腰に携えた長剣を抜き、リヒトを見下ろした。彼は戸惑う思考の中で、しかし自身の手首への攻撃がリヒトの仕業であることを本能的に理解していた。リヒトはタルカスの方へと体ごと向き直り、右肘を引いて半身になり、上段で刺突の構えをとった。その目と切っ先は真っ直ぐにタルカスを向いていた。タルカスは顔に恐怖を滲ませた。
 しかしケーニッヒの右腕として様々な「汚れ仕事」に身を投じ場数を踏んできた彼は、すでにある程度冷静さを取り戻し、思考を巡らせていた。自身を守るには再びマリアを人質にとるしかない。先刻はリヒトの剣『新月の瞬き』が初見であったため遅れをとったが、次は最大限の警戒を払えば同じ攻撃は受けない。リヒトは所詮余所者だ。今は自分だけがマリアを人質とし、リヒトに相対しているが、ケーニッヒの指示で複数の部下がことに当たればリヒトの能力をもってしてもその戦力差は覆せないだろう。右腕の出血も誰かが止めてくれる。
 タルカスは地面にうずくまるマリアの小さな背中を目がけて左手の長剣を派手に振り上げた。見開かれたタルカスの目は「この剣を振り下ろせばマリアの命はないぞ」とリヒトを脅していた。その刹那、リヒトは呟いた。
「妖魔刀術・這影」
 次の瞬間『新月の瞬き』の刀身は一気に伸長した。その切っ先は数十メートルに及ぶ距離を一瞬にして詰めてタルカスの左腕の手首を刺し貫いていた。タルカスの長剣が地に落ちる音がした。『新月の瞬き』の刀身は縮まり、やはり一瞬にして元の長さに戻った。タルカスの手首から血が派手に噴き出し、痛みと呻き声は遅れてやってきた。
「ぐあぁっ…!」
 タルカスは膝をつき、痛みのあまり固く閉じた目を何とか薄く開きリヒトに向けた。その視界が捉えたリヒトの姿は上段刺突の構えを崩しておらず、その冷徹な視線はタルカスに据えられたままだった。リヒトは今の攻撃を再び放つことをためらわないだろう。そして次もまた寸分たがわず狙い通りにこちらの急所を穿つであろう。その次の狙いが頭か喉であれば自分は死ぬ。そうでなくても止血をしなければ数分以内に自分は死ぬ。それを瞬時に悟ったタルカスにできることはただただうずくまり腕を押さえることだけだった。
 リヒトはタルカスを無力化したことを確かめると、次に同じ目をケーニッヒに向けた。目が合ったケーニッヒはタルカスが見せた以上の畏怖に表情を歪めた。いつしか彼の顔にはべったりと冷や汗がまとわりついていた。リヒトは呟くような小さな声音で、しかし噛んで含めるように丁寧に言い聞かせた。
「マリアを俺のところまで連れて来い。上のデブを止血してやれ。二度とマリアに手を出すな。二度と俺に逆らうな」
 ケーニッヒの頭は真っ白になっていたため、その四つの単純な命令を咀嚼するのに時間を要した。リヒトの言葉は続いた。
「これは騎士王としてお前に下す最初の命令だ。逆らったら殺す。わかったら返事をしろケーニッヒ」
 ケーニッヒの頭はその段に及んでようやく置かれた状況とリヒトの言葉の意味を理解し、彼は小刻みに何度も何度も頷いた。修練場に静寂が戻った。その場の誰もが、真に騎士王になるべき力の持ち主が誰であるかを理解していた。



 その後リヒトはマリアとともに帰路に就いた。彼女には怪我は一つもなかった。ケーニッヒは部下とともにタルカスの治療を行い、両者はリヒトとマリアに思いつく限りの丁寧な謝罪をした。
 翌日からリヒトは騎士王としての職務に就いた。先代騎士王が勇退して以来誰も使っていなかった騎士王の執務室の片付けを命じることがリヒトの最初の仕事になった。次にリヒトが行ったのはケーニッヒの息のかかっていない貧民街出身の青年・ユスティファを自身の補佐に任命することだった。リヒトにとってユスティファは心を許せる騎士団唯一の人物であった。
 さらにリヒトはユスティファと親しい腕の立つ騎士約五名をマリアの護衛に付けた。騎士王とはいえ自身の身内の警護にそれだけの人数を割くのは本来職権濫用との謗りを受けかねない行為ではあったが、実際に副団長の指示のもとその側近によって誘拐事件が起こされたとあって異を唱える者はなかった。
 昼過ぎにケーニッヒがリヒトの元を訪れ、辞表を提出した。リヒトは彼の騎士としての潔さに感心しつつも、ケーニッヒが今まで築き上げた人脈や知識に鑑み、また彼ほどの影響力の持ち主であり昨日あのような凶行に及んだ人物を監視下に置きたいという思惑もあり、彼を半年の無給処分とし、退団は認めなかった。リヒトの説得の末ケーニッヒはこれを承諾した。タルカスも同様に半年無給とした。
 騎士王としてアーケルシアを統べるにあたって、アーケルシアの知識自体に乏しいリヒトは、まずアーケルシアのことを知り、騎士団のことを知るためにユスティファに色々と尋ねることにした。
「そもそも何でアーケルシアはルクレティウスと戦争してるんだ?」
 そのあまりにも突飛で根本的な質問に驚きつつもユスティファは答えた。
「俺も貧民街出身なんで完璧にはわかりませんが、もともとはアーケルシアがすごい強かったんで、大陸をまとめる国になるんじゃないかって思われてたって感じだったんですけど、ルクレティウスが意外と強かったんですよ。アーケルシアが従わせようとしても反発するくらいに。そこで戦争になりましたね。何でもそうじゃないですか。一位と二位って仲が悪いんですよ。張り合うから」
「何で勝てないんだと思う?」
 またもおおざっぱな質問ではあったがユスティファはもう驚かなかった。リヒトの中にも漠然とその問いへの答えはあったが、彼は貧民街出身で出自の違うユスティファの答えを聞いてみたかった。
「ルクレティウスが意外と強いからなんですけど、何で強いんだろ。多分弱いからじゃないですか? 矛盾してるけど。弱いと頑張るじゃないですか。意地張るし。逆に強い側の方が戦いにくいですよね。気持ちの持ち方として。弱い方のが力発揮するんですよ。アーケルシアの慢心もありますよね。ケーニッヒとか」
 リヒトは忌憚なく話す貧民出身の若者との会話が楽しくなった。騎士団に来てからケーニッヒとばかり話し、昨日はあのようなことがあったためちょうど騎士団のしがらみに嫌気がさしているところだった。
「でも国力は倍だろ? それさえひっくり返す力がルクレティウスにあるとして、それは何だと思う?」
 ユスティファの答えは少しリヒトにとって意外なものだった。
「倍だから勝てないんですよ。デカいと一枚岩になれないでしょ。アーケルシアは一番デカい国だから、犯罪組織の数と規模も一番デカいんですよ。ルクレティウスはかなり治安いいって聞きますし。国外はルクレティウス。国内は犯罪組織。だから大変なんですよ」
 フラマリオンから落ちのびて以来郊外に住み、傭兵として最前線で働き続け、中央に行く機会をほとんどもたなかったリヒトは国内の犯罪組織についてあまり知らなかった。
「虎狼会だっけ?」
 少ない知識の中で彼が唯一認知する犯罪組織の名が「虎狼会」だった。ユスティファの顔が少し曇った。
「デカい組織が二つあって、一つは虎狼会ですね。殺し、放火、賭博、売春の斡旋、何でもやりますよ。絵に描いたような極悪集団です。首領の名はゼロア。強欲な男です。もう一つは流星団です。ただ、流星団はすごく謎の多い組織なんです」
 リヒトは目を眇めた。
「謎?」
「はい、まずアジトの場所がわかってないんです。あとはどうやって資金を得ているかも」
 ここへきてリヒトは驚きを見せた。
「ちょっと待て。逆に虎狼会はアジトの場所がわかってるのか?」
 ユスティファは少し唖然とした。
「はい」
 ユスティファが当たり前のように話すので今度はリヒトが唖然とした。
「じゃあ何で潰さないんだ?」
 ユスティファは笑った。
「潰せないからですよ。強すぎて」
 リヒトは頭を抱えたくなった。一体この国の騎士団はどうなっている。
「すまん。流星団について続けてくれ」
「あ、はい。アジトの場所もわかってませんし、あとリーダーの名もわかりませんし、その姿も知られてません。構成員の顔もほとんど知られてないんです」
「何だそれ。ほとんど存在しないようなもんじゃねえか。ほんとに犯罪してんのか?」
「流星団は盗みと武器の密造を主な活動としてると聞きます。窃盗団として有名で、商人が襲われたり、貴族が留守の間に高価なものを盗まれたりしてるらしいですよ」
「襲われてるのに名前も顔も割れてないのか?」
「そりゃあもうすごい手際みたいです」
「そうか…」
「あと、シェイドの名前は覚えておいた方がいいです」
「どんな組織なんだ?」
「組織じゃないです。個人なんです」
「シェイドって人の名前か」
「はい、暗殺家です」
「人殺しだろ? 珍しくもない」
「世界最強の暗殺家といわれています。貴族が私兵ごと皆殺しにされたこともあります。国内三位の犯罪組織はこいつ一人に一晩で壊滅させられたそうです」
 リヒトは神妙な顔をして呟いた。
「虎狼会、流星団、シェイドか…。大変だな」
「はい。その上ルクレティウスとも戦わなきゃいけない。だからアーケルシア騎士はみんなやる気がないんです」
「…なるほどな」
 騎士王になってまだ初日、リヒトは先が思いやられて少しアストラとケーニッヒの気持ちが理解できた。
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