Beauty and Beast

高端麻羽

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Beauty and Beast ・逃走・

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次に目覚めた時、既に夜は明けており、アルフィーネは自分の居場所をはっきりと認識できた。
そこは広く大きな洞窟の中で、どこからか陽の光が差し込み、清浄な空気も流れ込んで来ている。
地面そのものが高い地熱を持っているらしく、洞窟内は快適に暖かい。更にアルフィーネの寝ていたスペースには毛皮が敷かれ、身体の上にも掛け布がかぶせられていた。
閉ざされた空間内にいるにも関わらず、重苦しさを感じないのは、微かに漂う植物の匂いの所為だろう。
ふと、アルフィーネはそばに置かれた器に気づいた。明らかに人口加工物のそれには清水が汲まれ、その脇にはいくつかの木の実や果実が添えられている。
───食べろという事なのだろうか?
魔導士の端くれとして植物の知識に長けたアルフィーネには、それらが無害の食物だとわかったが、困惑した末、あえて手をつけずに洞窟を出た。

外は樹海だったが、洞窟の周辺だけは少し開けた平地になっている。
木々は清々しい空気を放出し、すぐ近くには清らかな湧水をたたえた泉もある。太陽の位置からして、時刻は正午前後らしい。
周囲を見回すが誰の気配も無く、アルフィーネは百目の魔物が昼間と月夜には現れないと聞いたのを思い出した。
夜行性ならば、今は眠っているはず。
かといって、鬱蒼たる樹海の中では下手に逃げても迷うのはわかりきっていた。
星が見えれば方角くらいはわかるが、夜には魔物が起きだして来る。
何の為に自分をさらったのかわからないが、一刻も早く逃げ出したい衝動にかられた。
アルフィーネはかたわらの岩の上に腰かけ、ため息をつく。
その時、上空から高く尾を引く鳴き声が響き、はっとして見上げたアルフィーネの目に見覚えのある青い色が飛び込んだ。
「……ソロの…ブルー!?」
それはセレナーデ国1の剣士・ソロが常に肩に乗せている愛鳥だった。
フーガ国の国境を囲む『風の刃』は、空間を隔てているわけではない。人間には高すぎる『壁』だが、飛翔能力を持つ魔物は自在に越えて国内外に出没している。同様に空中を翔ける鳥にも、越える事は可能なのだ。
素直に感情を表さない主とは裏腹に、アルフィーネに懐いているブルーは嬉しそうに擦り寄り、青い翼をはばたかせる。
救われたように、アルフィーネは表情を輝かせた。
「ブルー、帰り道わかるのね?」
ブルーは肯定するように一声鳴き、身を翻す。アルフィーネは迷わず、後を追って駆け出した。
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