2 / 28
Beauty and Beast ・逃走・
しおりを挟む
次に目覚めた時、既に夜は明けており、アルフィーネは自分の居場所をはっきりと認識できた。
そこは広く大きな洞窟の中で、どこからか陽の光が差し込み、清浄な空気も流れ込んで来ている。
地面そのものが高い地熱を持っているらしく、洞窟内は快適に暖かい。更にアルフィーネの寝ていたスペースには毛皮が敷かれ、身体の上にも掛け布がかぶせられていた。
閉ざされた空間内にいるにも関わらず、重苦しさを感じないのは、微かに漂う植物の匂いの所為だろう。
ふと、アルフィーネはそばに置かれた器に気づいた。明らかに人口加工物のそれには清水が汲まれ、その脇にはいくつかの木の実や果実が添えられている。
───食べろという事なのだろうか?
魔導士の端くれとして植物の知識に長けたアルフィーネには、それらが無害の食物だとわかったが、困惑した末、あえて手をつけずに洞窟を出た。
外は樹海だったが、洞窟の周辺だけは少し開けた平地になっている。
木々は清々しい空気を放出し、すぐ近くには清らかな湧水をたたえた泉もある。太陽の位置からして、時刻は正午前後らしい。
周囲を見回すが誰の気配も無く、アルフィーネは百目の魔物が昼間と月夜には現れないと聞いたのを思い出した。
夜行性ならば、今は眠っているはず。
かといって、鬱蒼たる樹海の中では下手に逃げても迷うのはわかりきっていた。
星が見えれば方角くらいはわかるが、夜には魔物が起きだして来る。
何の為に自分をさらったのかわからないが、一刻も早く逃げ出したい衝動にかられた。
アルフィーネはかたわらの岩の上に腰かけ、ため息をつく。
その時、上空から高く尾を引く鳴き声が響き、はっとして見上げたアルフィーネの目に見覚えのある青い色が飛び込んだ。
「……ソロの…ブルー!?」
それはセレナーデ国1の剣士・ソロが常に肩に乗せている愛鳥だった。
フーガ国の国境を囲む『風の刃』は、空間を隔てているわけではない。人間には高すぎる『壁』だが、飛翔能力を持つ魔物は自在に越えて国内外に出没している。同様に空中を翔ける鳥にも、越える事は可能なのだ。
素直に感情を表さない主とは裏腹に、アルフィーネに懐いているブルーは嬉しそうに擦り寄り、青い翼をはばたかせる。
救われたように、アルフィーネは表情を輝かせた。
「ブルー、帰り道わかるのね?」
ブルーは肯定するように一声鳴き、身を翻す。アルフィーネは迷わず、後を追って駆け出した。
そこは広く大きな洞窟の中で、どこからか陽の光が差し込み、清浄な空気も流れ込んで来ている。
地面そのものが高い地熱を持っているらしく、洞窟内は快適に暖かい。更にアルフィーネの寝ていたスペースには毛皮が敷かれ、身体の上にも掛け布がかぶせられていた。
閉ざされた空間内にいるにも関わらず、重苦しさを感じないのは、微かに漂う植物の匂いの所為だろう。
ふと、アルフィーネはそばに置かれた器に気づいた。明らかに人口加工物のそれには清水が汲まれ、その脇にはいくつかの木の実や果実が添えられている。
───食べろという事なのだろうか?
魔導士の端くれとして植物の知識に長けたアルフィーネには、それらが無害の食物だとわかったが、困惑した末、あえて手をつけずに洞窟を出た。
外は樹海だったが、洞窟の周辺だけは少し開けた平地になっている。
木々は清々しい空気を放出し、すぐ近くには清らかな湧水をたたえた泉もある。太陽の位置からして、時刻は正午前後らしい。
周囲を見回すが誰の気配も無く、アルフィーネは百目の魔物が昼間と月夜には現れないと聞いたのを思い出した。
夜行性ならば、今は眠っているはず。
かといって、鬱蒼たる樹海の中では下手に逃げても迷うのはわかりきっていた。
星が見えれば方角くらいはわかるが、夜には魔物が起きだして来る。
何の為に自分をさらったのかわからないが、一刻も早く逃げ出したい衝動にかられた。
アルフィーネはかたわらの岩の上に腰かけ、ため息をつく。
その時、上空から高く尾を引く鳴き声が響き、はっとして見上げたアルフィーネの目に見覚えのある青い色が飛び込んだ。
「……ソロの…ブルー!?」
それはセレナーデ国1の剣士・ソロが常に肩に乗せている愛鳥だった。
フーガ国の国境を囲む『風の刃』は、空間を隔てているわけではない。人間には高すぎる『壁』だが、飛翔能力を持つ魔物は自在に越えて国内外に出没している。同様に空中を翔ける鳥にも、越える事は可能なのだ。
素直に感情を表さない主とは裏腹に、アルフィーネに懐いているブルーは嬉しそうに擦り寄り、青い翼をはばたかせる。
救われたように、アルフィーネは表情を輝かせた。
「ブルー、帰り道わかるのね?」
ブルーは肯定するように一声鳴き、身を翻す。アルフィーネは迷わず、後を追って駆け出した。
0
あなたにおすすめの小説
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
女王ララの再建録 〜前世は主婦、今は王国の希望〜
香樹 詩
ファンタジー
13歳で“前世の記憶”を思い出したララ。
――前世の彼女は、家庭を守る“お母さん”だった。
そして今、王女として目の前にあるのは、
火の車の国家予算、癖者ぞろいの王宮、そして資源不足の魔鉱石《ビス》。
「これ……完全に、家計の立て直し案件よね」
頼れない兄王太子に代わって、
家計感覚と前世の知恵を武器に、ララは“王国の再建”に乗り出す!
まだ魔法が当たり前ではないこの国で、
新たな時代を切り拓く、小さな勇気と現実的な戦略の物語。
怒れば母、語れば姉、決断すれば君主。
異色の“王女ララの再建録”、いま幕を開けます!
*カクヨムにも投稿しています。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる