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Beauty and Beast ・休息・
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ある朝、洞窟から出たアルフィーネは地面に点々と小石が並べられているのに気付いた。
明らかに人為的なそれは、洞窟の入口から一定の方向に向かって続いている。
アルフィーネは不思議に思いながらも小石を辿り、今まで進んだ事の無い道を歩いて行った。
しばらく行くと、樹木の間に小さな滝が現れた。透明で澄んでいたが、水面に漂う湯気でそれが温水だとわかる。
そっと手を入れてみると、程よい適温だった。
「どうしてこんな所に…?」
アルフィーネはフーガ国の地盤が火山帯の上に在るという事実を思い出す。
火山自体は何百年も前に海底に没しているが、フーガ国の特殊な地形や洞窟内の地熱の高さはその名残なのだろう。
温泉が湧き出ていても、おかしくはない。
洞窟から続いていたあの小石は、滝の傍の岩の上で終わっている。
その上には一揃いの衣類が置かれていた。
この樹海の中で作為するにもされるにも相手は一人しかいない。
しばし立ち尽くしていたアルフィーネは、やがて察した。
───つまり、この温泉に入れと。
考えてみれば、捕らわれて以来 入浴はしていない。その上、片道とはいえ毎日徒歩で街に通っている。
泉で軽く体を拭いたりはしていたが、気休め程度の清拭だった。
改めて着衣を見ると、汗や砂埃、草の汁などでかなり汚れている。
毎晩洞窟に戻る際、彼女を腕に抱いていた魔物はそれに気づき、こんな配慮をしたのだろう。
アルフィーネは魔物にそんな気遣いをする心があった事に驚き、またそんな状態に甘んじていた自分が急に恥ずかしくなった。
突然、己の汗臭さが気持ち悪くなる。
誰もいないのはわかっていたが、アルフィーネは一応 周囲を見回してから衣服を脱ぎ、滝壺に身を浸した。
適温の湯が心地よく、アルフィーネは浅瀬に腰を下ろすと、空を見上げて一息つく。
魔物に捕らわれている身だというのに、随分と穏やかな心境になっている自分が
不思議だった。
恐怖心はほとんど消えている。魔物に与えられる食物を口にし、魔物の前で眠りにつき、一晩中一緒にいる。
考えてみれば充分に危険な状態だ。
もしかしたら、肥え太らせて喰い殺すつもりかも知れないのに。
安心させておいて、油断したところをパックリと……
「……ふふ」
アルフィーネは自分の思考に失笑する。他の魔物はともかく、百目の魔物が人肉を食しない事くらいわかっていた。
彼が食人の魔物なら、フーガ国の人間を殺して放置などしないはず。
連日、遺体の還元を続けながらアルフィーネは確信した。
その事が安心感に繋がっているのだろう。
不意に、近くの茂みがガサガサと動く。
ハッとして岩陰に身を隠すアルフィーネの前に一匹の仔栗鼠が飛び出して来た。
アルフィーネは安堵して手招きする。
「おいで」
仔栗鼠は当初、キョトンとした瞳を向けていたが、すぐに駆け寄り小さな岩の窪みに溜まった湯で水浴を始めた。
アルフィーネはその愛らしい仕草に微笑を浮かべる。
樹海には大型の肉食獣はいないが栗鼠や兎、小型の鳥などが生息していた。
時折アルフィーネとも遭遇するが、彼らは人間を恐れる事もなく近寄って来る。
野生の動物にしては珍しい事だった。
(この仔たちは魔物と共存しているのね……)
差し伸べた手の上に乗り、腕を駆け登る仔栗鼠を目で追い、アルフィーネはふと気づく。
ソロの飼い鳥であるブルーは魔物を恐れたのに、自然の獣たちは恐れない。
(どうしてかしら…?)
その疑問は、小さな欠片となってアルフィーネの心の底に埋もれていった。
丹念に髪と体を洗い、充分に温まった後、アルフィーネは湯から上がる。
用意されていた衣類は質素な修道女の服だったが、今まで着ていた旅装よりずっとアルフィーネに映えた。
水面に姿を映して見ると、身体がさっぱりしたせいか、嬉しそうな表情をしている自分が見返している。
不謹慎さを自重し、アルフィーネは服を洗濯して洞窟に引き返す。
陽当たりの良い岩場に洗濯物を広げ、石で固定する。今日の天気なら、夕方までには乾くだろう。
昼前の太陽を仰ぎ、アルフィーネはいつものように街へ向かって行った。
明らかに人為的なそれは、洞窟の入口から一定の方向に向かって続いている。
アルフィーネは不思議に思いながらも小石を辿り、今まで進んだ事の無い道を歩いて行った。
しばらく行くと、樹木の間に小さな滝が現れた。透明で澄んでいたが、水面に漂う湯気でそれが温水だとわかる。
そっと手を入れてみると、程よい適温だった。
「どうしてこんな所に…?」
アルフィーネはフーガ国の地盤が火山帯の上に在るという事実を思い出す。
火山自体は何百年も前に海底に没しているが、フーガ国の特殊な地形や洞窟内の地熱の高さはその名残なのだろう。
温泉が湧き出ていても、おかしくはない。
洞窟から続いていたあの小石は、滝の傍の岩の上で終わっている。
その上には一揃いの衣類が置かれていた。
この樹海の中で作為するにもされるにも相手は一人しかいない。
しばし立ち尽くしていたアルフィーネは、やがて察した。
───つまり、この温泉に入れと。
考えてみれば、捕らわれて以来 入浴はしていない。その上、片道とはいえ毎日徒歩で街に通っている。
泉で軽く体を拭いたりはしていたが、気休め程度の清拭だった。
改めて着衣を見ると、汗や砂埃、草の汁などでかなり汚れている。
毎晩洞窟に戻る際、彼女を腕に抱いていた魔物はそれに気づき、こんな配慮をしたのだろう。
アルフィーネは魔物にそんな気遣いをする心があった事に驚き、またそんな状態に甘んじていた自分が急に恥ずかしくなった。
突然、己の汗臭さが気持ち悪くなる。
誰もいないのはわかっていたが、アルフィーネは一応 周囲を見回してから衣服を脱ぎ、滝壺に身を浸した。
適温の湯が心地よく、アルフィーネは浅瀬に腰を下ろすと、空を見上げて一息つく。
魔物に捕らわれている身だというのに、随分と穏やかな心境になっている自分が
不思議だった。
恐怖心はほとんど消えている。魔物に与えられる食物を口にし、魔物の前で眠りにつき、一晩中一緒にいる。
考えてみれば充分に危険な状態だ。
もしかしたら、肥え太らせて喰い殺すつもりかも知れないのに。
安心させておいて、油断したところをパックリと……
「……ふふ」
アルフィーネは自分の思考に失笑する。他の魔物はともかく、百目の魔物が人肉を食しない事くらいわかっていた。
彼が食人の魔物なら、フーガ国の人間を殺して放置などしないはず。
連日、遺体の還元を続けながらアルフィーネは確信した。
その事が安心感に繋がっているのだろう。
不意に、近くの茂みがガサガサと動く。
ハッとして岩陰に身を隠すアルフィーネの前に一匹の仔栗鼠が飛び出して来た。
アルフィーネは安堵して手招きする。
「おいで」
仔栗鼠は当初、キョトンとした瞳を向けていたが、すぐに駆け寄り小さな岩の窪みに溜まった湯で水浴を始めた。
アルフィーネはその愛らしい仕草に微笑を浮かべる。
樹海には大型の肉食獣はいないが栗鼠や兎、小型の鳥などが生息していた。
時折アルフィーネとも遭遇するが、彼らは人間を恐れる事もなく近寄って来る。
野生の動物にしては珍しい事だった。
(この仔たちは魔物と共存しているのね……)
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(どうしてかしら…?)
その疑問は、小さな欠片となってアルフィーネの心の底に埋もれていった。
丹念に髪と体を洗い、充分に温まった後、アルフィーネは湯から上がる。
用意されていた衣類は質素な修道女の服だったが、今まで着ていた旅装よりずっとアルフィーネに映えた。
水面に姿を映して見ると、身体がさっぱりしたせいか、嬉しそうな表情をしている自分が見返している。
不謹慎さを自重し、アルフィーネは服を洗濯して洞窟に引き返す。
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