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Beauty ana Beast ・目撃・
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翌日、アルフィーネは昼間の内に睡眠を取り、日没後に現れたガイヤルドに夜間ピクニックを持ちかけた。
ガイヤルドは寝耳に水だったが、既に弁当も用意しているアルフィーネに反対もできず、付き合う事にする。
厚い雲に覆われた夜空の下、アルフィーネはガイヤルドの腕に抱えられて樹海の上を進む。
アルフィーネは最初、歩きたいと言ったが、ガイヤルドがアルフィーネの手を引くのを照れたのと、徒歩では目的地まで遠すぎるという理由で、かくの如き次第となったのである。
ガイヤルドは極力ゆっくりとした速度で翔んでくれたので、闇夜とはいえアルフィーネは夜間飛行を楽しめた。
「目的地」は、樹海の端にある崖下。
洞窟以外を知らないアルフィーネが一度足を踏み外した事のある場所である。
そこには広い海が広がっていた。
「わぁ…」
アルフィーネは身を乗り出して海面を見つめ、感嘆の声を上げる。
暗黒の海の中では夜光虫が輝いていた。
「綺麗…」
ガイヤルドは『綺麗』という言葉は彼女の為にこそあると思っている。
淡く光を放つ琥珀色の巻き毛も、エメラルドのような瞳も、陶磁の如き肌も、何もかも───
「まるでガイヤルドの瞳のようね」
不意に聞こえたアルフィーネの声がガイヤルドを現実に引き戻した。
「まるで宝石みたい」
振り向いたアルフィーネには当惑するガイヤルドの姿が見えない。
「…俺ハ魔物ダゾ」
夜光虫の話をしていたのが突然ガイヤルドに話が移り、不思議そうな表情をしていたアルフィーネは、やがて彼の言わんとする事に気付く。
『魔物』のガイヤルドの目を綺麗と言った事を訝しんでいるのだ。
「だって私は貴方の目しか知らないもの」
アルフィーネはきわめて自然に、真実 作為なく言い放つ。
「遠くから貴方の目を見た時、この夜光虫のようにキラキラして見えたわ。近くで見たらもっと…黄水晶という宝石によく似てて、とても綺麗だと思ったのよ。───嘘じゃないわ」
視線を外さず見つめるアルフィーネに、ガイヤルドはどこか居心地が悪くなる。
「…俺ハ化物ダ」
「ガイヤルド…」
「化物ダ」
「そんな事…」
拗ねたように繰り返すガイヤルドに、アルフィーネは思わず手を差し伸べる。
次の瞬間、地響きと共に岸壁が崩れた。
「──きゃあ!?」
「!」
ガイヤルドは咄嗟にアルフィーネを腕に抱いて庇う。
今までよりも、いくらか大きな地震。アルフィーネはガイヤルドの胸にしがみつき、目を閉じて震える。
じきに揺れは収まったが、二人が居た岩は大きく割れていた。
幸い地滑りや崩落などの被害は無い。
「…アルフィーネ」
名を呼ばれ、アルフィーネはようやく目を開ける。
「モウ大丈夫ダ」
安堵した見上げたアルフィーネの瞳が緑色に輝く。
その美しさに、ガイヤルドは見惚れずにはいられない。
鮮やかに澄んだ宝石のような瞳。しかし大きく見開かれたその中に映る自分の姿を認めた瞬間、ガイヤルドは我に返った。
「!!」
暗天を覆っていた雲が途切れて月光が差し込んでいた。
人間の目にもハッキリと周囲を認識できる明るさで、当然アルフィーネにもガイヤルドの姿が見えている。
「ガイ…ヤルド…?」
そこには確かに『化物』がいた。
人間の成人の倍近くある体高。
僅かに盛り上がっただけの頭部と胴体の間には首が無い。
土塊色の荒れた皮膚一面に無数の目が見開き、その隙間に口らしき一筋の亀裂。
そこからのぞく肉食獣の如き二本の牙。
蝙蝠の羽を思わせる突き出た肩から伸びた異常に長い腕の中、アルフィーネは茫然と凝視した。
「───!」
一瞬の後、ガイヤルドの姿が疾風のようにその場から消える。
同時に雲が再び月を覆い隠し、暗闇の中、アルフィーネは一人 取り残されてしまった。
波の音が辺りを包み、眼下に淡く光る夜光虫の他は何も見えない。
しばし硬直していたアルフィーネは、脱力したようにその場に座り込む。
ガイヤルドは寝耳に水だったが、既に弁当も用意しているアルフィーネに反対もできず、付き合う事にする。
厚い雲に覆われた夜空の下、アルフィーネはガイヤルドの腕に抱えられて樹海の上を進む。
アルフィーネは最初、歩きたいと言ったが、ガイヤルドがアルフィーネの手を引くのを照れたのと、徒歩では目的地まで遠すぎるという理由で、かくの如き次第となったのである。
ガイヤルドは極力ゆっくりとした速度で翔んでくれたので、闇夜とはいえアルフィーネは夜間飛行を楽しめた。
「目的地」は、樹海の端にある崖下。
洞窟以外を知らないアルフィーネが一度足を踏み外した事のある場所である。
そこには広い海が広がっていた。
「わぁ…」
アルフィーネは身を乗り出して海面を見つめ、感嘆の声を上げる。
暗黒の海の中では夜光虫が輝いていた。
「綺麗…」
ガイヤルドは『綺麗』という言葉は彼女の為にこそあると思っている。
淡く光を放つ琥珀色の巻き毛も、エメラルドのような瞳も、陶磁の如き肌も、何もかも───
「まるでガイヤルドの瞳のようね」
不意に聞こえたアルフィーネの声がガイヤルドを現実に引き戻した。
「まるで宝石みたい」
振り向いたアルフィーネには当惑するガイヤルドの姿が見えない。
「…俺ハ魔物ダゾ」
夜光虫の話をしていたのが突然ガイヤルドに話が移り、不思議そうな表情をしていたアルフィーネは、やがて彼の言わんとする事に気付く。
『魔物』のガイヤルドの目を綺麗と言った事を訝しんでいるのだ。
「だって私は貴方の目しか知らないもの」
アルフィーネはきわめて自然に、真実 作為なく言い放つ。
「遠くから貴方の目を見た時、この夜光虫のようにキラキラして見えたわ。近くで見たらもっと…黄水晶という宝石によく似てて、とても綺麗だと思ったのよ。───嘘じゃないわ」
視線を外さず見つめるアルフィーネに、ガイヤルドはどこか居心地が悪くなる。
「…俺ハ化物ダ」
「ガイヤルド…」
「化物ダ」
「そんな事…」
拗ねたように繰り返すガイヤルドに、アルフィーネは思わず手を差し伸べる。
次の瞬間、地響きと共に岸壁が崩れた。
「──きゃあ!?」
「!」
ガイヤルドは咄嗟にアルフィーネを腕に抱いて庇う。
今までよりも、いくらか大きな地震。アルフィーネはガイヤルドの胸にしがみつき、目を閉じて震える。
じきに揺れは収まったが、二人が居た岩は大きく割れていた。
幸い地滑りや崩落などの被害は無い。
「…アルフィーネ」
名を呼ばれ、アルフィーネはようやく目を開ける。
「モウ大丈夫ダ」
安堵した見上げたアルフィーネの瞳が緑色に輝く。
その美しさに、ガイヤルドは見惚れずにはいられない。
鮮やかに澄んだ宝石のような瞳。しかし大きく見開かれたその中に映る自分の姿を認めた瞬間、ガイヤルドは我に返った。
「!!」
暗天を覆っていた雲が途切れて月光が差し込んでいた。
人間の目にもハッキリと周囲を認識できる明るさで、当然アルフィーネにもガイヤルドの姿が見えている。
「ガイ…ヤルド…?」
そこには確かに『化物』がいた。
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僅かに盛り上がっただけの頭部と胴体の間には首が無い。
土塊色の荒れた皮膚一面に無数の目が見開き、その隙間に口らしき一筋の亀裂。
そこからのぞく肉食獣の如き二本の牙。
蝙蝠の羽を思わせる突き出た肩から伸びた異常に長い腕の中、アルフィーネは茫然と凝視した。
「───!」
一瞬の後、ガイヤルドの姿が疾風のようにその場から消える。
同時に雲が再び月を覆い隠し、暗闇の中、アルフィーネは一人 取り残されてしまった。
波の音が辺りを包み、眼下に淡く光る夜光虫の他は何も見えない。
しばし硬直していたアルフィーネは、脱力したようにその場に座り込む。
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