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Beauty and Beast ・過去・
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産みの母が亡くなった時、アルフィーネは10歳になったばかり。
父も早世しており、孤児となった彼女はその聡明さと魔法力を見込まれ、魔導士マドリガルの養い子となった。
マドリガルは優しく、時に厳しく育て、それに応えるようにアルフィーネも優秀な魔導士に成長した。
だがある日、突然病に倒れたのである。
アルフィーネの献身的な看護も虚しく、病は日に日に進行してゆく。
そして万策つきた時、アルフィーネはマドリガルと懇意のロンド王から思わぬ話を聞かされた。
フーガ国には他国に無い効能の高い薬草が多く自生しているという。
その中にはマドリガルの病を治癒させるものも存在すると───
知るや否や、アルフィーネは採取行を希望した。
恩師であり育ての親でもあるマドリガルの為なら魔物など怖くない。
それにロンド王の話では自分はかつて百目の魔物を御した巫女・ミヌエットに瓜二つだという。
ならば自分も殺される可能性は低いのではないか?
幸い国一番の剣士であるソロが護衛についてくれると言ってくれたし、充分に心強い。
危険な賭けである事は承知の上だったが、アルフィーネはすべてを計算してフーガ国に赴いたのである。
フーガ国の惨状を目前にした時は、魔物の非道さを許せないと実感したが、無残な姿のフーガ国民達を放置できず、ソロのブルーに暫しの滞在を報告した。
だけど、再びブルーが現れた時にはすっかりその事を忘れていた。
計算ずくでガイヤルドに近づいたのに、当初の目的を忘れるほど心を許してしまっていた。
多くの命を奪い、一国を滅ぼした魔物だけど、思っていたよりずっと人間的な心の持ち主で。
───優しかった。
傍にいて楽しかった。
薄れてゆく意識の中、不思議なほど自然に口をついて出た言葉。
───『好き』───
ああ、そうだ。
ガイヤルドの好意が嬉しかったのも、騙していた後悔も罪悪感も、怒らせた哀しさも、すべては───…
彼に嫌われたくなかったからだ───
(………?)
船に揺られているかのような感覚に、アルフィーネの意識が覚醒する。
最初に、うっすらと岩肌が目に映った。
そして、覆いかぶさるような黒い影。
小さな地震が大地を揺らしていた。
「……ガイヤルド…?」
揺れがおさまり、アルフィーネは彼の姿を認識する。
名を呼ばれ、ガイヤルドはアルフィーネに視線を移した。
「…気ガ…ツイタカ」
相変わらず低い、静かな声を漏らし、ガイヤルドはゆっくりと身を離す。
彼の背からはパラパラと砂粒が落ち、アルフィーネはここが樹海の洞窟であると気付いた。
視界の明るさから昼間だとわかる。
体を起こそうとすると、胸に痛みが走った。
「イキナリ動クナ。三日間、意識ガ無カッタンダゾ」
その言葉にアルフィーネは、あの夜の経緯を思い出す。
途端にソロの剣がガイヤルドの頭部に刺さっていた光景が鮮明に脳裏に蘇った。
「ガイヤルド!貴方ケガは!?」
ガイヤルドの頭部には無造作に包帯が巻かれている。
「アノクライデハ俺ハ死ナナイ。オ前コソ無茶ナ真似ヲシタナ」
言われて自分の体を見ると、アルフィーネは上半身裸で、胸には幾重にも包帯が巻かれていた。
その上に上着を羽織らされ、住み慣れた洞窟に寝かされていたのである。
枕元には数種類の薬草が使用された痕跡。
「……どうして、殺さなかったの…?」
アルフィーネは不思議そうに問いかけた。
あの晩のガイヤルドの剣幕では絶対に許してもらえないと思っていたし、それだけの事をした自覚もあったから。
しかし、ガイヤルドはきわめて静かに告げた。
「───オ前ハ…死ナセタクナイ」
アルフィーネは思わず目を見開く。
「…ミヌエットノヨウニ死ナセハシナイ。オ前ダケガ俺ヲワカッテクレタノニ…」
ガイヤルドは改めてアルフィーネに向き直る。
「オ前、俺ヲ魔物デハナイト言ッタナ」
「……はい」
「本当ニ、ソウ思ウカ」
「思います。…もう貴方に嘘なんか言わない。貴方は人間と同じ心を持っていると思います」
「ソノ通リダ。俺ハ魔物ジャナイ」
「え?」
「意味をはかりかね、アルフィーネは聞き返した。
一泊置いて、ガイヤルドは言葉を続ける。
「俺ハ、人間ダ」
父も早世しており、孤児となった彼女はその聡明さと魔法力を見込まれ、魔導士マドリガルの養い子となった。
マドリガルは優しく、時に厳しく育て、それに応えるようにアルフィーネも優秀な魔導士に成長した。
だがある日、突然病に倒れたのである。
アルフィーネの献身的な看護も虚しく、病は日に日に進行してゆく。
そして万策つきた時、アルフィーネはマドリガルと懇意のロンド王から思わぬ話を聞かされた。
フーガ国には他国に無い効能の高い薬草が多く自生しているという。
その中にはマドリガルの病を治癒させるものも存在すると───
知るや否や、アルフィーネは採取行を希望した。
恩師であり育ての親でもあるマドリガルの為なら魔物など怖くない。
それにロンド王の話では自分はかつて百目の魔物を御した巫女・ミヌエットに瓜二つだという。
ならば自分も殺される可能性は低いのではないか?
幸い国一番の剣士であるソロが護衛についてくれると言ってくれたし、充分に心強い。
危険な賭けである事は承知の上だったが、アルフィーネはすべてを計算してフーガ国に赴いたのである。
フーガ国の惨状を目前にした時は、魔物の非道さを許せないと実感したが、無残な姿のフーガ国民達を放置できず、ソロのブルーに暫しの滞在を報告した。
だけど、再びブルーが現れた時にはすっかりその事を忘れていた。
計算ずくでガイヤルドに近づいたのに、当初の目的を忘れるほど心を許してしまっていた。
多くの命を奪い、一国を滅ぼした魔物だけど、思っていたよりずっと人間的な心の持ち主で。
───優しかった。
傍にいて楽しかった。
薄れてゆく意識の中、不思議なほど自然に口をついて出た言葉。
───『好き』───
ああ、そうだ。
ガイヤルドの好意が嬉しかったのも、騙していた後悔も罪悪感も、怒らせた哀しさも、すべては───…
彼に嫌われたくなかったからだ───
(………?)
船に揺られているかのような感覚に、アルフィーネの意識が覚醒する。
最初に、うっすらと岩肌が目に映った。
そして、覆いかぶさるような黒い影。
小さな地震が大地を揺らしていた。
「……ガイヤルド…?」
揺れがおさまり、アルフィーネは彼の姿を認識する。
名を呼ばれ、ガイヤルドはアルフィーネに視線を移した。
「…気ガ…ツイタカ」
相変わらず低い、静かな声を漏らし、ガイヤルドはゆっくりと身を離す。
彼の背からはパラパラと砂粒が落ち、アルフィーネはここが樹海の洞窟であると気付いた。
視界の明るさから昼間だとわかる。
体を起こそうとすると、胸に痛みが走った。
「イキナリ動クナ。三日間、意識ガ無カッタンダゾ」
その言葉にアルフィーネは、あの夜の経緯を思い出す。
途端にソロの剣がガイヤルドの頭部に刺さっていた光景が鮮明に脳裏に蘇った。
「ガイヤルド!貴方ケガは!?」
ガイヤルドの頭部には無造作に包帯が巻かれている。
「アノクライデハ俺ハ死ナナイ。オ前コソ無茶ナ真似ヲシタナ」
言われて自分の体を見ると、アルフィーネは上半身裸で、胸には幾重にも包帯が巻かれていた。
その上に上着を羽織らされ、住み慣れた洞窟に寝かされていたのである。
枕元には数種類の薬草が使用された痕跡。
「……どうして、殺さなかったの…?」
アルフィーネは不思議そうに問いかけた。
あの晩のガイヤルドの剣幕では絶対に許してもらえないと思っていたし、それだけの事をした自覚もあったから。
しかし、ガイヤルドはきわめて静かに告げた。
「───オ前ハ…死ナセタクナイ」
アルフィーネは思わず目を見開く。
「…ミヌエットノヨウニ死ナセハシナイ。オ前ダケガ俺ヲワカッテクレタノニ…」
ガイヤルドは改めてアルフィーネに向き直る。
「オ前、俺ヲ魔物デハナイト言ッタナ」
「……はい」
「本当ニ、ソウ思ウカ」
「思います。…もう貴方に嘘なんか言わない。貴方は人間と同じ心を持っていると思います」
「ソノ通リダ。俺ハ魔物ジャナイ」
「え?」
「意味をはかりかね、アルフィーネは聞き返した。
一泊置いて、ガイヤルドは言葉を続ける。
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