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ヴァンパイア・ハンター ~第七夜~
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「……よく…今まで無事だったな…」
アズライトは言葉を選びながら、素朴な疑問をつぶやく。
「ヴァンパイアが花嫁を娶るには、いくつかの掟があり、それを遵守しなくては
ならないそうだ」
再び目を逸らしたアンバーは、忌々しそうに話を続けた。
「まず相手が女である事。これは当然だが、更に相手が健康体である事。病持ち
では子を為せないからな。そして、満16歳の誕生日を迎えている事───」
くだらない、とアンバーは吐き捨てる。
聞きながら、アズライトの胸に宿った不可解な痛みは熱い怒りへと変わり始めて
いた。
「私は現在15歳だ。だから今までは見逃されてきたと思う。しかし次の誕生日で
……16歳になる」
「……!」
切迫した危機感を感じているのか、アンバーは身を竦ませた。
しかし次の瞬間には、すぐにいつもの凛とした態度に戻る。
「だが私はヴァンパイアの手に落ちる気など毛頭無い。…私の家族を……一族を
皆殺しにした魔物の花嫁になど、誰がなるものか」
キッと顔を上げたアンバーの瞳には決意が満ちている。
一族郎党を皆殺しにされた憎悪と憤怒が、天涯孤独になっても、少女を強く
誇り高く生きさせたのだろう。
それは同時に、痛々しいほど美しくもあった。
アンバーは扉の前で立ち尽くしているアズライトに歩み寄る。
「……こういう事情だ。わかったら、そこを退け」
「アンバー…!」
アズライトの胸の痛みが次第に大きくなってゆく。
「君にも……村の皆にも感謝している。だから、少しでも遠く離れておきたい」
「アンバー!!」
「これ以上……私にかまうな!!」
叫ぶようなアンバーの声が病室に響く。
彼女はアズライトを押しのけ、制止を振り切って教会を飛び出した。
「おや、君は─── ?」
アンバーは玄関先で、一人の男とぶつかりそうになりながらすれ違う。
「待てよ、アンバ───!」
「どうしました?アズライト」
アンバーを追って来たアズライトに声をかけたのは、教会の本来の主である
神父のロード・クロサイト。
彼は山向こうの町へ出向いていたが、今日が帰宅の日だった。
「どいてくれ!あいつが行っちまう!!」
「落ちつきなさい。一体、何があったんですか」
動転したアズライトの頭に、神父の冷静な声音が静かに響く。
視界の遠くに駆け去ってゆくアンバーの後ろ姿に、アズライトの心は一つの
結論を打ち出していた。
まもなく、空を覆っていた暗い雲から雨が落ち始める。
日中だというのに辺りは翳り、遠雷が聞こえてきた。
ベリル村を飛び出したアンバーは、山に入ったところで雷雨に遭遇し、
やむなく雨露をしのぐ場所を探した。
ほどなく、廃屋のような建物を発見する。
石造りの屋根は、かろうじてその役目を果たしており、アンバーは一時の
雨宿りにと中へ入った。
内部は埃にまみれ、瓦礫同然の壁は、なかば崩れかけている。
「……!」
アンバーはハッとした。暗さと雨粒に遮られて外からは気付かなかったが
前方に祭壇らしき部分がある。
既に人から見捨てられて久しいらしく、荒れ果ててはいるが、どうやら
ここは教会らしい。
─── 教会を飛び出して来たのに、また教会へ来てしまったのか。
アンバーに自嘲のような笑みが薄く浮かぶ。それでも再び雨の中へ出て
行く気にはなれず、身を潜める場所を求めて周辺を見まわす。
そして地下室へ続く階段を見つけた。
地下は瓦礫に埋まっており、中へは入れない。そこでアンバーは階段の
一番下の段に腰を下ろした。
身体が震えるのは、気温が低下している為。
雷雨に怯えているわけではない。あの憎いヴァンパイアや魔物さえ、
恐れた事などない。
なのに、引き裂くような痛みが胸を締めつけている。
アンバーにはそれが『寂しさ』だとわかっていた。
わずか数日間、滞在した村の居心地が良かったから。
人のあたたかさに触れてしまったから。
─── アズライトと一緒にいたから……
よぎった面影を振り切るように、アンバーは頭を振る。
自分はヴァンパイアに狙われている身、他人と関われば危険に巻き込んで
しまう可能性が高い。だからこそ
4年前、もう誰とも親しくなるまいと誓った。
一つ所に留まらず、誰の好意も受け入れず、誰も愛さない……
瞬間、胸の奥がズキリと痛んだ。
己に課した誓約を苦しく思った事など、この4年間一度も無かったのに。
胸が痛くて、重苦しくて、瞳の奥がチリチリする。
名前を呼んでしまいそうで、ぐっと声を飲み込んだ。
アンバーは腕に力を込めて膝をかかえ、顔を押し付ける。
激しい雨は、アンバーの代わりに慟哭しているかのようだった。
アズライトは言葉を選びながら、素朴な疑問をつぶやく。
「ヴァンパイアが花嫁を娶るには、いくつかの掟があり、それを遵守しなくては
ならないそうだ」
再び目を逸らしたアンバーは、忌々しそうに話を続けた。
「まず相手が女である事。これは当然だが、更に相手が健康体である事。病持ち
では子を為せないからな。そして、満16歳の誕生日を迎えている事───」
くだらない、とアンバーは吐き捨てる。
聞きながら、アズライトの胸に宿った不可解な痛みは熱い怒りへと変わり始めて
いた。
「私は現在15歳だ。だから今までは見逃されてきたと思う。しかし次の誕生日で
……16歳になる」
「……!」
切迫した危機感を感じているのか、アンバーは身を竦ませた。
しかし次の瞬間には、すぐにいつもの凛とした態度に戻る。
「だが私はヴァンパイアの手に落ちる気など毛頭無い。…私の家族を……一族を
皆殺しにした魔物の花嫁になど、誰がなるものか」
キッと顔を上げたアンバーの瞳には決意が満ちている。
一族郎党を皆殺しにされた憎悪と憤怒が、天涯孤独になっても、少女を強く
誇り高く生きさせたのだろう。
それは同時に、痛々しいほど美しくもあった。
アンバーは扉の前で立ち尽くしているアズライトに歩み寄る。
「……こういう事情だ。わかったら、そこを退け」
「アンバー…!」
アズライトの胸の痛みが次第に大きくなってゆく。
「君にも……村の皆にも感謝している。だから、少しでも遠く離れておきたい」
「アンバー!!」
「これ以上……私にかまうな!!」
叫ぶようなアンバーの声が病室に響く。
彼女はアズライトを押しのけ、制止を振り切って教会を飛び出した。
「おや、君は─── ?」
アンバーは玄関先で、一人の男とぶつかりそうになりながらすれ違う。
「待てよ、アンバ───!」
「どうしました?アズライト」
アンバーを追って来たアズライトに声をかけたのは、教会の本来の主である
神父のロード・クロサイト。
彼は山向こうの町へ出向いていたが、今日が帰宅の日だった。
「どいてくれ!あいつが行っちまう!!」
「落ちつきなさい。一体、何があったんですか」
動転したアズライトの頭に、神父の冷静な声音が静かに響く。
視界の遠くに駆け去ってゆくアンバーの後ろ姿に、アズライトの心は一つの
結論を打ち出していた。
まもなく、空を覆っていた暗い雲から雨が落ち始める。
日中だというのに辺りは翳り、遠雷が聞こえてきた。
ベリル村を飛び出したアンバーは、山に入ったところで雷雨に遭遇し、
やむなく雨露をしのぐ場所を探した。
ほどなく、廃屋のような建物を発見する。
石造りの屋根は、かろうじてその役目を果たしており、アンバーは一時の
雨宿りにと中へ入った。
内部は埃にまみれ、瓦礫同然の壁は、なかば崩れかけている。
「……!」
アンバーはハッとした。暗さと雨粒に遮られて外からは気付かなかったが
前方に祭壇らしき部分がある。
既に人から見捨てられて久しいらしく、荒れ果ててはいるが、どうやら
ここは教会らしい。
─── 教会を飛び出して来たのに、また教会へ来てしまったのか。
アンバーに自嘲のような笑みが薄く浮かぶ。それでも再び雨の中へ出て
行く気にはなれず、身を潜める場所を求めて周辺を見まわす。
そして地下室へ続く階段を見つけた。
地下は瓦礫に埋まっており、中へは入れない。そこでアンバーは階段の
一番下の段に腰を下ろした。
身体が震えるのは、気温が低下している為。
雷雨に怯えているわけではない。あの憎いヴァンパイアや魔物さえ、
恐れた事などない。
なのに、引き裂くような痛みが胸を締めつけている。
アンバーにはそれが『寂しさ』だとわかっていた。
わずか数日間、滞在した村の居心地が良かったから。
人のあたたかさに触れてしまったから。
─── アズライトと一緒にいたから……
よぎった面影を振り切るように、アンバーは頭を振る。
自分はヴァンパイアに狙われている身、他人と関われば危険に巻き込んで
しまう可能性が高い。だからこそ
4年前、もう誰とも親しくなるまいと誓った。
一つ所に留まらず、誰の好意も受け入れず、誰も愛さない……
瞬間、胸の奥がズキリと痛んだ。
己に課した誓約を苦しく思った事など、この4年間一度も無かったのに。
胸が痛くて、重苦しくて、瞳の奥がチリチリする。
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アンバーは腕に力を込めて膝をかかえ、顔を押し付ける。
激しい雨は、アンバーの代わりに慟哭しているかのようだった。
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