ヴァンパイア・ハンター

高端麻羽

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ヴァンパイア・ハンター ~第九夜~

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アンバー、本名アンバー・カーネリア・ラピリズの一族は、かつて戦と自然災害で亡国となった王家の末裔である。
シトリーン地方の奥地に逃れた先祖はそこを新たな故郷として、細々と血を繋ぎ平穏に歴史を重ねていた。
ところが、突如として終焉の日が訪れる。
ある夜、ヴァンパイアのディアモンド伯爵率いる魔物に襲撃されたのだ。
ラピリズの民は戦士のみならず老若男女が剣を取って戦い、必死の反撃を試みたが、人外の力には及ばず、次々と命を落としてゆく。
敗北を悟った一族の長は、せめて幼い者だけでも守らんと子供達に避難を命じた。
村には歴代ラピリズの神事が執り行われた小さな祈祷所があり、その社は長年真摯な祈りを捧げていた為か、魔物が立ち入れぬ結界にも等しい聖域だったのである。
当時11歳だったアンバーは王族の娘として、また剣技を学ぶ身として最後まで大人達と共に戦う事を望んだが、父に『次代を生み育てる事のできる女は一人でも多く生き延びよ』と説得され、他の子供たちと共に社へ向かう。
だが途中で魔物に襲われ、交戦しつつ逃走したが、大半の子供が深手を負い、次第に人数が減り、祈祷所へ到着できたのは、わずか数名だった。
魔物は社の門や外壁を破壊したが内部の聖域へは入れず、アンバーは息を潜めて夜明けを待つ。
太陽さえ昇れば魔物たちは去ってゆくのだから。
この時、社の中には複数の子供がいたが、呼吸をしているのが自分一人だという事にアンバーはまだ気付いていなかった。

ふいに魔物の攻撃音が止まり、アンバーは固く閉じていた目を開ける。壊された扉の隙間から、村の家々が焼ける様子が見えた。
そして───
(─── ……!!)
アンバーの視界に、空間を切り取ったような黒い影。
それは初めて目にするヴァンパイアの姿。そして生涯、忘れられないであろう仇敵の姿。

地獄絵図の惨劇を指揮したとは思えぬ優雅な佇まいでヴァンパイア───ディアモンド伯爵は聖域の中を見つめ、硬直したままのアンバーと視線が合う。
その時アンバーは、生まれて初めて『殺意』という感情を抱いた。
恐怖にも勝る怒りがあるのだと、身をもって知った。
ところが伯爵は、暫しアンバーに注視していたかと思えば、嬉しそうに笑って告げたのである。
「お前が気に入った。オレの花嫁にする」
─── と。

アンバーは最初、言われた意味が理解できず、緊張のあまり凍り付いていた。
しかし轟いた咆哮で我に返る。
それは魔物たちの勝鬨の雄叫びで、アンバーは一族の滅亡を直感した。

求婚を宣言したものの、聖域にはヴァンパイアさえも入る事ができない。強引に引きずり出す事は不可能で、また夜明け間近でもあり、伯爵は即時の拉致を諦め、狂宴を終えた魔物たちと共に立ち去ってゆく。
「お前が16の歳になる頃、迎えに来よう」
そう言い残して背を向けた伯爵にアンバーは一太刀だけでも浴びせたかったが、叶わなかった。
膝の上で冷たくなっていた弟を振り払って立ち上がる事ができなかったから。

恐怖の一夜の後は、無限の悲しみ。
結局、生存者はアンバーだけだった。
涙も枯れ果てた彼女は、同胞たちの無残な遺骸を一人で埋葬し、墓標を建て焼け残った衣類や道具を拾い集めて旅に出た。
弔いを終えるまでは聖域の社で寝起きをしたが、焦土と化した地で少女が単身生きてゆくのは不可能だし、世を儚んだり修道院へ逃げ込んだりするには、あまりにも憎悪と怒りが深すぎる。
アンバーの胸には復讐の炎が燃えたっていた。
─── ヴァンパイアと魔物たちを絶対に許さない。必ず報いを受けさせてやる。
その為には、もっともっと剣技を磨き、体を鍛え、男より、戦士より、魔物より強くならなければ。
幸いというか旅の途中で師を得る事もでき、アンバーは剣術の他にも戦闘の技を習得した。
やがて腕に自信もつき、師の元を離れたアンバーは伯爵の居所を探し始める。仇敵に『見逃されて生きている』などというのは、彼女の誇りが許せなかったのだ。

対して伯爵側も、花嫁候補の動向に無関心ではない。
太陽光の苦手な魔物は常に監視する事はできないが、夜毎にアンバーの捜索を続けていた。
彼女が16歳になる夜、伯爵が迎えに行けるように。

そんな中、最初にアンバーを発見したのはワーウルフだった。
短慮で好戦的な彼はアンバーの挑発にあっさり乗り、主に止められていた彼女との戦いを始め、激闘の果てに思わぬ敗北を喫した。
だがアンバーの方も負傷し、安全な休息地を求めてさまよう中、ゼパル村の灯りを見つけたのだ。
それでも村内に入るか否か迷い、近くの林道で逡巡する内、一人の男と出会う。
─── 彼が後にアンバーの人生を変える運命の相手だとは、まだ知る由も無かった。

そして16歳の誕生日まで、あと数ヶ月となった今宵、アンバーはディアモンド伯爵と再会したのである。
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