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ヴァンパイア・ハンター ~第十一夜~
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二人がかりで繰り返される攻撃を、伯爵はまるで踊るかの如く躱す。
アンバーが鍛えた剣技もアズライトの短剣も、一度として伯爵の身に触れる事はない。
ヴァンパイアの驚異的な力は人間がいかに修練を積んでも得られる物ではないだろう。
(それでも───)
自分の剣に全てを賭ける。それしか出来る事は無いから。
気合いと共に振り下ろされた一撃は、しかし伯爵の手の一旋で弾き返された。
父の形見でもある業物の剣で無ければ、折れるか刃こぼれしていたかも知れない。
「まだまだ甘いな」
伯爵は薄笑いを浮かべながら囁く。
そして悠然とした足取りで歩き出し、アンバーへと手を差し出した。
「アンバーに近づくな───!!」
「貴様こそ私に寄るな、人間」
そう言って一瞥した伯爵は、軽々とアズライトの短剣をかわす。声には、明らかな侮蔑が含まれていた。
やはり……とアンバーは思った。彼女が考える通りならば、伯爵が彼を『たかが人間』と侮っているのは火を見るより明らか。
───その『たかが人間』を花嫁にしようと付け狙っているくせに。
憤りに睨むアンバーの視線を感じ、伯爵は嗤った。
「来るがいい、ラピリズの娘。悪い虫がつく前にな」
応える代わりに、アンバーは剣を向ける。
「貴様の花嫁になるくらいなら死んだ方がマシだ!」
叫ぶや否や、アンバーは駆け出した。二刀一対の剣を十字型に構えて伯爵の心臓を狙う。
たとえ通用しなくても、攻撃せずにはいられない。
「アンバー!」
伯爵の背後から、アズライトも同時に攻撃を繰り出す。
「無駄な事を……」
冷たく嘲笑し、伯爵は再び手をかざす。
手加減しているアンバーとは違い、アズライトは直撃を受けたら確実に死んでしまう。
それでも彼は引かなかった。大切な存在を、好きになった少女を、失うのは絶対に嫌だから。
「くらいやがれ───!!」
前後から挟まれた伯爵は、双方同時に跳ね返す。アンバーは廃墟の壁に、アズライトは大樹に叩きつけられた。
「!」
鈍い音を立て、ダメージを負っていたアンバーの右手の剣が折れる。静かに歩み寄る伯爵の顔には、変わらぬ薄笑いが浮かんでいた。
「だから無駄だと言っただろう」
「…………」
アンバーの瞳に絶望の色は無く、無事だった方の剣を伯爵に向ける。
「そんな物が役に立たない事くらい理解したと思うが?」
一歩一歩、近づく伯爵にアンバーの心臓の音が高く響いた。
憎い。一族を滅ぼしたヴァンパイアが。───アズライトを傷つけた伯爵が。
アンバーはカウンターの覚悟で剣を構える。
伯爵のマントが夜風に翻る。
「───さあ参ろう、我が花嫁よ」
「アンバ───!!」
二人の男の声が同時に響く。
初めてアンバーの剣が伯爵のマントをかすめた。
その口元からこぼれる哄笑が、アンバーとアズライトの背筋を凍らせる。
アンバーはもうわかっている。この男には勝てないという事を。
だがアズライトだけは……この命にかけて守りたい。
失った血族の代わりなどではなく、たった一人 運命に導かれるようにして出会った相手だから。
(彼さえ無事なら私は───…)
震えの止まった手で剣を握りしめる。刃こぼれをしたそれでは、きっと最後の一撃。
「アンバーっ!」
伯爵が伸ばした手をアズライトの短剣が弾いた。
「アズライト…!!」
「諦めるな、アンバー!」
決して自分より軽くない傷を負いながら、それでもアズライトは叫んだ。
「オレがいる!オレが必ずお前を守る!!」
アンバーは瞠目する。
アズライトを守ろうなどという思いは増長だったのかも知れない。それでもアンバーは、彼を見捨てるのも楯にするのも嫌だった。
彼の言う通り、絶対に諦めてはならない。
彼を犠牲になどしたくないから。
彼を失いたくないから。
───彼が好きだから。
恋の自覚は、再びアンバーに立ち上がる力を与え始めていた。
アンバーが鍛えた剣技もアズライトの短剣も、一度として伯爵の身に触れる事はない。
ヴァンパイアの驚異的な力は人間がいかに修練を積んでも得られる物ではないだろう。
(それでも───)
自分の剣に全てを賭ける。それしか出来る事は無いから。
気合いと共に振り下ろされた一撃は、しかし伯爵の手の一旋で弾き返された。
父の形見でもある業物の剣で無ければ、折れるか刃こぼれしていたかも知れない。
「まだまだ甘いな」
伯爵は薄笑いを浮かべながら囁く。
そして悠然とした足取りで歩き出し、アンバーへと手を差し出した。
「アンバーに近づくな───!!」
「貴様こそ私に寄るな、人間」
そう言って一瞥した伯爵は、軽々とアズライトの短剣をかわす。声には、明らかな侮蔑が含まれていた。
やはり……とアンバーは思った。彼女が考える通りならば、伯爵が彼を『たかが人間』と侮っているのは火を見るより明らか。
───その『たかが人間』を花嫁にしようと付け狙っているくせに。
憤りに睨むアンバーの視線を感じ、伯爵は嗤った。
「来るがいい、ラピリズの娘。悪い虫がつく前にな」
応える代わりに、アンバーは剣を向ける。
「貴様の花嫁になるくらいなら死んだ方がマシだ!」
叫ぶや否や、アンバーは駆け出した。二刀一対の剣を十字型に構えて伯爵の心臓を狙う。
たとえ通用しなくても、攻撃せずにはいられない。
「アンバー!」
伯爵の背後から、アズライトも同時に攻撃を繰り出す。
「無駄な事を……」
冷たく嘲笑し、伯爵は再び手をかざす。
手加減しているアンバーとは違い、アズライトは直撃を受けたら確実に死んでしまう。
それでも彼は引かなかった。大切な存在を、好きになった少女を、失うのは絶対に嫌だから。
「くらいやがれ───!!」
前後から挟まれた伯爵は、双方同時に跳ね返す。アンバーは廃墟の壁に、アズライトは大樹に叩きつけられた。
「!」
鈍い音を立て、ダメージを負っていたアンバーの右手の剣が折れる。静かに歩み寄る伯爵の顔には、変わらぬ薄笑いが浮かんでいた。
「だから無駄だと言っただろう」
「…………」
アンバーの瞳に絶望の色は無く、無事だった方の剣を伯爵に向ける。
「そんな物が役に立たない事くらい理解したと思うが?」
一歩一歩、近づく伯爵にアンバーの心臓の音が高く響いた。
憎い。一族を滅ぼしたヴァンパイアが。───アズライトを傷つけた伯爵が。
アンバーはカウンターの覚悟で剣を構える。
伯爵のマントが夜風に翻る。
「───さあ参ろう、我が花嫁よ」
「アンバ───!!」
二人の男の声が同時に響く。
初めてアンバーの剣が伯爵のマントをかすめた。
その口元からこぼれる哄笑が、アンバーとアズライトの背筋を凍らせる。
アンバーはもうわかっている。この男には勝てないという事を。
だがアズライトだけは……この命にかけて守りたい。
失った血族の代わりなどではなく、たった一人 運命に導かれるようにして出会った相手だから。
(彼さえ無事なら私は───…)
震えの止まった手で剣を握りしめる。刃こぼれをしたそれでは、きっと最後の一撃。
「アンバーっ!」
伯爵が伸ばした手をアズライトの短剣が弾いた。
「アズライト…!!」
「諦めるな、アンバー!」
決して自分より軽くない傷を負いながら、それでもアズライトは叫んだ。
「オレがいる!オレが必ずお前を守る!!」
アンバーは瞠目する。
アズライトを守ろうなどという思いは増長だったのかも知れない。それでもアンバーは、彼を見捨てるのも楯にするのも嫌だった。
彼の言う通り、絶対に諦めてはならない。
彼を犠牲になどしたくないから。
彼を失いたくないから。
───彼が好きだから。
恋の自覚は、再びアンバーに立ち上がる力を与え始めていた。
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