ヴァンパイア・ハンター

高端麻羽

文字の大きさ
11 / 14

ヴァンパイア・ハンター ~第十一夜~

しおりを挟む
二人がかりで繰り返される攻撃を、伯爵はまるで踊るかの如く躱す。
アンバーが鍛えた剣技もアズライトの短剣も、一度として伯爵の身に触れる事はない。
ヴァンパイアの驚異的な力は人間がいかに修練を積んでも得られる物ではないだろう。
(それでも───)
自分の剣に全てを賭ける。それしか出来る事は無いから。
気合いと共に振り下ろされた一撃は、しかし伯爵の手の一旋で弾き返された。
父の形見でもある業物の剣で無ければ、折れるか刃こぼれしていたかも知れない。
「まだまだ甘いな」
伯爵は薄笑いを浮かべながら囁く。
そして悠然とした足取りで歩き出し、アンバーへと手を差し出した。
「アンバーに近づくな───!!」
「貴様こそ私に寄るな、人間」
そう言って一瞥した伯爵は、軽々とアズライトの短剣をかわす。声には、明らかな侮蔑が含まれていた。
やはり……とアンバーは思った。彼女が考える通りならば、伯爵が彼を『たかが人間』と侮っているのは火を見るより明らか。
───その『たかが人間』を花嫁にしようと付け狙っているくせに。
憤りに睨むアンバーの視線を感じ、伯爵は嗤った。
「来るがいい、ラピリズの娘。悪い虫がつく前にな」
応える代わりに、アンバーは剣を向ける。
「貴様の花嫁になるくらいなら死んだ方がマシだ!」
叫ぶや否や、アンバーは駆け出した。二刀一対の剣を十字型に構えて伯爵の心臓を狙う。
たとえ通用しなくても、攻撃せずにはいられない。
「アンバー!」
伯爵の背後から、アズライトも同時に攻撃を繰り出す。
「無駄な事を……」
冷たく嘲笑し、伯爵は再び手をかざす。
手加減しているアンバーとは違い、アズライトは直撃を受けたら確実に死んでしまう。
それでも彼は引かなかった。大切な存在を、好きになった少女を、失うのは絶対に嫌だから。
「くらいやがれ───!!」
前後から挟まれた伯爵は、双方同時に跳ね返す。アンバーは廃墟の壁に、アズライトは大樹に叩きつけられた。
「!」
鈍い音を立て、ダメージを負っていたアンバーの右手の剣が折れる。静かに歩み寄る伯爵の顔には、変わらぬ薄笑いが浮かんでいた。
「だから無駄だと言っただろう」
「…………」
アンバーの瞳に絶望の色は無く、無事だった方の剣を伯爵に向ける。
「そんな物が役に立たない事くらい理解したと思うが?」
一歩一歩、近づく伯爵にアンバーの心臓の音が高く響いた。
憎い。一族を滅ぼしたヴァンパイアが。───アズライトを傷つけた伯爵が。
アンバーはカウンターの覚悟で剣を構える。
伯爵のマントが夜風に翻る。
「───さあ参ろう、我が花嫁よ」
「アンバ───!!」
二人の男の声が同時に響く。
初めてアンバーの剣が伯爵のマントをかすめた。
その口元からこぼれる哄笑が、アンバーとアズライトの背筋を凍らせる。
アンバーはもうわかっている。この男には勝てないという事を。
だがアズライトだけは……この命にかけて守りたい。
失った血族の代わりなどではなく、たった一人 運命に導かれるようにして出会った相手だから。 
(彼さえ無事なら私は───…)
震えの止まった手で剣を握りしめる。刃こぼれをしたそれでは、きっと最後の一撃。
「アンバーっ!」
伯爵が伸ばした手をアズライトの短剣が弾いた。
「アズライト…!!」
「諦めるな、アンバー!」
決して自分より軽くない傷を負いながら、それでもアズライトは叫んだ。
「オレがいる!オレが必ずお前を守る!!」
アンバーは瞠目する。
アズライトを守ろうなどという思いは増長だったのかも知れない。それでもアンバーは、彼を見捨てるのも楯にするのも嫌だった。
彼の言う通り、絶対に諦めてはならない。
彼を犠牲になどしたくないから。
彼を失いたくないから。

───彼が好きだから。

恋の自覚は、再びアンバーに立ち上がる力を与え始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

金の羊亭へようこそ! 〝元〟聖女様の宿屋経営物語

紗々置 遼嘉
ファンタジー
アルシャインは真面目な聖女だった。 しかし、神聖力が枯渇して〝偽聖女〟と罵られて国を追い出された。 郊外に館を貰ったアルシャインは、護衛騎士を付けられた。  そして、そこが酒場兼宿屋だと分かると、復活させようと決意した。 そこには戦争孤児もいて、アルシャインはその子達を養うと決める。 アルシャインの食事処兼、宿屋経営の夢がどんどん形になっていく。 そして、孤児達の成長と日常、たまに恋愛がある物語である。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...