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湯けむり女子大生・秘湯の密談

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「あ~あ、いい気持ちだわ~♪」
露天風呂に身を浸し、大きく伸びをしなら感慨を込めた声が響く。
「本当ねー。やっぱり露天風呂っていいわよねぇ。感謝しなくちゃ、こんな素敵な所に誘ってくれてホントーにありがと♡」
「気にしないで。抽選に当たっただけだし、元はタダなんだから」
感謝の意を告げられた友人・瑛子は、にっこりと笑った。
ここは有名な温泉地。
ベストシーズンを迎えた今、千客万来の賑わいの中、和の風情漂う老舗旅館の露天風呂に女子大生御一行の姿がある。
私と三人の友人は、一人の友達が当てた四名様御招待のレディス温泉ツアーに来ていた。
昼過ぎに到着した一行は夕食をすませた後、二度目の温泉を堪能している。
時刻は夜。
街の喧騒から離れ、気候も良く、澄んだ空気に白く昇る湯煙の露天風呂。
気心の知れた友人同士は、解放感に満たされ、おしゃべりも弾む。
そんな中、私だけは口数が少ない。
湯船に浸かりながら、正面にいる瑛子の、90のDはあろうかという豊満な胸を羨望のまなざしで密かに見つめる。
私は皆の中では標準よりもかなり華奢─── と言えば聞こえの良い、要するに貧乳を晒すのが恥ずかしかった。
このコンプレックスばかりは、男には理解できないだろう。
白っぽく濁った湯が体を隠してくれるのがありがたい。
「ねぇ、あんた肌キレイねぇ」
「え?」
不意に名指しされ、私は驚いて発言者の美衣を見る。
「うん、本当。美白だし、細くってうらやましいわあ」
同意する椎菜とうなずき合い、湯から出ている私の肩と腕を、しげしげと眺められた。
「本当、すべすべつるつるよ。ホクロも傷も全然無いし、お手入れとかはどうしてるの?」
「特に何もしていないけど…」
私の返答に、一同は改めて息をつく。
「この柔肌を好きにできる彼は果報者よねー」
「!!!(///)」
思いがけない言葉に、私は真っ赤になって絶句した。
「それにさー、なんか女っぽくなった感じしない?」
「するする。入学当初は子供っぽかったのに、ここまで色気つけるなんて、彼もやるわねえ♪」
「愛されてるのねぇ、うらやましいわー」
「……………(///)」
友人たちの賛辞は、からかい目的のひやかしだとわかっていたが、私は頭の中まで熱くなるような気がする。
彼氏との仲は公認だが、なぜか親密度までバレているらしく、引き合いに出されると恥ずかしくて仕方なかった。
「か、からかうのはやめてよ」
「あら本当よ。ねぇ、そう思うわよねぇ?」
友人たちは同意を求め合う。
だが一人だけ、いつのまにか明後日の方を見つめ、誰の声も届いていないらしい友人がいた。
「どうかしたの?」
改めて呼ばれ、ようやく瑛子は振り返る。
「あぁ、ゴメン。ちょっと元カレ思い出しちゃってたのよ」
つい先日、束縛の強い彼氏に嫌気がさして別れたそうだが、彼女は男が途切れた事が無く、性格的にも後々未練を引くとは思えない。
そんな疑問を抱いた友人達の胸中を察したように瑛子は悪戯っぽく微笑し、妖艶な流し目を送った。
男を一撃でオトすその表情は、同性であってもドキッとする。
「このコがね、ヤツと同じくらいだったから♡」
そう言って露天風呂の淵に設置してある、背に子ガメ孫ガメを乗せた親ガメの石像(の一部)を指差した。
年頃の女子大生たちは、即座にピンと来る。
「やっだ、なんてコト言うのよ~!」
皆は(一応)恥じらいの声を上げ、声高らかに笑った。
そして次には石のカメに注目する。
「…こんなだったの?元カレ。スゴ…」
「どーして別れちゃったのよー。もったいなーい」
「だって、ソレだけが良くってもねぇ」
意味深な会話と無邪気な笑い声が露天風呂に流れる。
しかし私だけは絶句したままだった。
目を見開き、硬直した姿勢で石のカメを凝視してしまう。
「どうしたの?もしかして彼氏、このコに負けてるとか?(笑)」
からかい半分の問いかけだったが、ようやく私は我に返る。
そして、真っ赤に染まった顔をひきつらせながら返答した。
「い、いや、あの、そんなコトは…ない…と思うわ。……多分」
「…?『多分』??」
「だ、だって………見たことないし」
「えー!?」
その途端、異口同音に驚きの声が上がる。
そして次には静まり返った。
「な、何がおかしいの?」
「だって、あんたたち……する事してるのに?」
「本当ーに見たことないの?」
あまりにも不思議そうに言われ、動揺してしまう。
「そんなに変な事なの?普通は皆、見るものなの?」
「─── て言うか……ねぇ?」
「うん。……ねぇ?」
「まぁ……ねぇ」
見るどころか、あんな事やこんな事もしているなどとは言えず、一同は言葉を濁す。
私は困惑した。
今まで何の問題も不都合も無く、平和に幸せに過ごしてきたが、それは普通ではなかったのだろうか。
そもそも交際開始から初Hに至るまで半年以上かかっており、彼が心身ともにかなり耐えていたであろう事は私も理解している。
なのに、彼はまだ何か我慢をしていたのだろうか。
「…………」
私は考え込んでしまった。


風呂から上がり、旅館の座敷に戻っても、私はまだ思案している。
そんな様子に、友人一同は困っていた。
「余計なコト言っちゃったかしらねぇ」
「いっそ説明しちゃおっか?」
「でもショック受けてHできなくなったりしたら、彼に悪いしねー…」
3人はその後もいろいろ相談し合ったが名案は浮かばず、結局、

「教えていない彼が悪い」

という結論に落ちついて、責任転嫁してしまった。


「ねぇ」
皆から離れた窓際で、一人 星空を眺めている私に椎菜が声をかける。
「さっきの事だけど、あまり考えない方が良いわよ」
そう言いながら、彼女は私の対面の椅子へ腰掛けた。
「第三者が口出しする事じゃないしね。それに、あなたたち今でも充分幸せなんでしょう?」
「それは…そうだけど」
「だったら何も問題無いわよ」
「そう……かな……」
椎菜の優しく穏やかな、心に染み込むような声で言われると、なんだかその通りのような気がする。
けれどまだ少しばかり怪訝な表情で、私は問いかけた。
「…椎菜はどうなの?皆と同じなの?」
グループの中で一番親しい友人は、誰の心も癒すような優しい微笑みを浮かべる。
「ご想像におまかせするわ」
そして、笑ってごまかした。


後日。
旅から帰った私は、早速彼に疑問をぶつける。
「ねえ、あなた私に何か不満があるんじゃないの?」
「はァ?」
照れ隠しの睨み目で追求するかの如く問われ彼は、かじりかけの温泉饅頭を手にしたまま目をパチクリさせた。
「何のことだよ?お前に不満なんかあるわけないだろ?」
「隠さずにハッキリ言って!何でもするとは言えないけど、……見、見る、くらいはできると思うから!」
「へ?見るって何を……」
「それが普通なら、貴方に我慢させる気はないわ!しましょ!」
「えっ?…えっ!? ちょっ、何を!?」
いきなり押し倒され、Gパンを引き摺り下ろされた彼は、意味不明の言動にパニックになる

「お前、旅先で一体何を教わって来た─── !?」

    END
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