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悪役転生
炎の道
しおりを挟む風を切るようにすごい速度で落下していく。
恐怖のあまり涙と鼻水が混ざり合う。
もうダメだ……。人生、終わりだああああああああああああ。
全てを覚悟してギュッと目を閉じると、緩やかな衝撃が訪れた。
「え?」
そして、その後、ゆっくりと地面に降ろされた。地に足がつく!?
もしかして、先に落下したエリュシオンがすぐにバランスを取って衝撃を受け止めてくれたのか。こいつは、天才的な運動神経をしているのか!!
呆然としていると、匂いを嗅ぎつけた百体ほどの死鬼が、一斉に押し寄せてきた。
「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル」
「ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ」
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「ウガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ」
「ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ」
「キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキ」
ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい。今日が命日かもしれない。だけど……僕には無敵のエリュシオンがいる。諦めるには、まだ早いんじゃないか……。
「ふ、フローガ!!!」
叫んだ途端に、炎の道が生まれた。ここからベラル川まで一直線に進めば港に着くだろう。
けれども、思っていたよりも威力が弱い。ハデスが一人で一つの村を焼き払った噂まで聞いたことがある。ハデス・ダインスレイブにしては、魔力が少なくないか?もしかして、あの死の呪いのせいか……。死の呪いは、持ち主の魔力も蝕んでいくと聞いたことがある。
くそっ。
炎の道の隙間から、死鬼が中に入り込もうとしている。けれども、次の瞬間、炎の通路に入ろうとしていた死鬼5体が一瞬で、首や胴体をスパッとエリュシオンに切り落とされていた。
すごいっ。
早すぎて心臓が喉から飛び出すかと思った。
これなら、川まで行けるかもしれない。
エリュシオンに道を切り開かせ、背後から襲ってくる死鬼には自分も剣で対抗していく。僕は、赤の騎士団の一員だった人間だ。剣を持たない死鬼はなんとか倒すことができた。
けれども、倒しても、倒してもきりがない。
ちゃんと首や胴体を切り離した死鬼は回復が遅いが、そうじゃない死鬼は次々と再生していく。焼けこげた死鬼も生命に憧れるように、必死で燃やされた手を伸ばしてくる。
「はあ、はあ……」
汗をかきながら、必死で剣を振るうが、エリュシオンは涼しい顔で死鬼を倒していく。
こいつ、本当に強いな。体力も無限にあるんじゃないか……。
それに比べてハデスは、人並みにしか体力がない。死鬼は、倒しても、倒してもきりがない。だけど、力尽きたら、死んでしまう。
くそっ。こんなところで死んでしまうか。
手からは皮がむけて、額からは滝のような汗が流れ落ちる。剣も重たく感じるようになっていった。
「はあ、はあ、はあ……」
襲ってくる奴らを、必死で切っていく。止まったら、死ぬことがわかっていた。
どれほど時間が経っただろうか。
必死で前に進み続けると、キラキラ光る川が見えてきた。
川には、小舟がいくつかくくりつけられて置いてある。近くの小舟を押してロープを切り離す。エリュシオンが片手で取っ手を掴み船に華麗に飛び乗ると、僕が乗り込めるためのスペースを開けた。
船に乗り込もうとすると、足首をガシっと死鬼に捕まれすごい力で後ろに引っ張られていく。
「ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ」
ひいいいいい。食われるううううううう。嫌だああああああああああああ。
そう泣き叫んでいると、エリュシオンが電光石火のスピードでそいつの手首を切り落とした後、頭をボールみたいに左足で蹴飛ばした。飛ばされた頭は、何十メートルもぶっ飛んでどこかの木にぶつかった。
「はあ……。助かった……」
必死で船に乗り込み一息をつくが、船に乗り込もうとした数体の死鬼がやってくる。彼らは、小舟の縁を手首でガシッと掴んだ。それとエリュシオンが、スパッと人参でも切るかのように華麗に切り落としていく。
「早く漕いでください。俺が死鬼の相手をするので」
こいつ……生意気だ……。
しかし、エリュシオンが死鬼の相手をしてくれた方が、効率がいい。
「はあ、はあ、はあ……」
疲れ果てた手を動かし死ぬ気でオールを漕ぎ出した。滝のような汗が肌を伝っていく。
小舟は少しずつ進んで、沖から離れると死鬼の群れはようやく離れた。
「はあ、はあ、はあ……。死ぬかと思った」
肩で必死に息をして、青空を見上げる。
力尽きた僕を見かねたのか、エリュシオンは無言でオールを奪い取り、代わりにこぎ続けた。
「これからどうするおつもりですか」
「そうだな。セレネーのところにいって、助けてでも求めようかな」
先ほどのセレネーからの手紙を思い出す。実は、絶世の美少女と言われた彼女を見てみたい気持ちもある。ああ、彼女はどんな顔をしているのだろうか。美しすぎて、僕の魂まで凍り付いてしまうかもしれない。一目でいいから、彼女を見てみたい。
「新手の自殺でもするおつもりですか?」
エリュシオンの反応から、実は、セレネーってハデスの恋人であるという予想は砕け散った。冗談言うなら死んでからにしてくださいという彼の気持ちが顔から伝わった。
「貴方は、彼女の父親を殺した人間ですよ」
「……」
オーマイガー!
ハデス……お前やらかしすぎている……。
どうやら、僕が思っているよりも人生は厳しいらしい。いや、だいぶ厳しいぞ。こんな人生だったら、裸で雪山に放り投げられた方がましだったかもしれない。
「……貴方はまだ生きるつもりなんですか」
「ああ」
そう返事をすると、彼の唇が何かを言いたげに開かれたが、言いかけた言葉を飲み込むようにギュッと結ばれた。
僕は、ここから脱出する。そして、ナサニエルを助けにいく。セレネーの手紙に書いてある通りなら、ナサニエルはセレネーのところにいるかもしれない。
ずっと彼の手がかりを探していたが、今まで何も得られなかった。それが今日、唯一得られたのだ。だから、どんなに最悪な状況でも行かなければいけない。
ナサニエルが今頃どうしているだろうか。最悪な主人に、ボロボロになるまで殴られているかもしれない。
絶対にナサニエルを助ける。
そのために、僕は蘇ったのだろう。
オールを漕いでいたエリュシオンは、不意に漕ぐのをやめて眉をひそめた。
「どうしたんだ?」
「どうやらこの船は崖に繋がっているみたいですね」
ハッとして辺りを見ると、死をイメージするような高さ百メートルくらいありそうな高い崖が見えてきた。このまま流れていけば、あそこに到達するだろう。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。死ぬ、死ぬうううううううううううううう」
こんなの死ぬのも時間の問題だろう。
ああ、もう。エリュシオンに出会ってからろくなことがない。こいつは、疫病神か死神に違いない。
それでも、僕一人なら絶対に助からないだろう。頼れるのは、こいつだけだ。
エリュシオンっ。お願いだ。助けてくれえええええええ!!
パニックに陥りそうになりながら目の前の男を見るが、僕の不幸を楽しむかのように唇を歪め鼻で笑われただけだった。
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