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ディナヴィア
セレネー・アスクレピオス4
しおりを挟む怯えた顔で後ずさるエミリー・ワイズを殺した。
マッドを殺した殺人犯であることがばれたから、騎士団から殺されそうになった。だから、私を殺そうとした奴らを殺した。そしたら、今度はもっと大群で押し寄せてきたから、もっと殺した。母は、娘が殺人犯になったことを苦痛に思い自殺をした。義理の父は、私を殺して自分も死のうとした。だから、殺される前に殺した。
気が付いたら、自分を殺そうとする人間はいなくなっていた。実の父親が死んでから地位は地に落ちていたが、アスクレピオス家の跡取りとして、堂々と白城に戻ることができた。
誰もが私を恐れるようになった。
死んだように生きていた。
エレボスは、そんな私を肯定した。
「君は君を否定した人間を殺す価値がある。神が君をそう創った」
彼は、そんな風に私の全てを肯定してくれた。魔力が強いものが、魔力を弱いものを支配して当然。そんな彼の価値観は、心地が良かった。
私には、誰よりも魔力があった。だから、支配する権利がある。
それだけのことだった。
ずっと支配される側でいい。
もう二度と誰かに心をあげるような弱い女にはならない。
私は、ずっと奪う側の人間でいたい……。
* *
そうやって生き続けていたが、ついに終わりが近づいている。
ついに私も、もうすぐ死ぬ。
ハデスのもとにたどり着いたエリュシオンの姿が目に入る。
ああ……。
なんて眩しいんだろう……。
羨ましい……。あんな風に守ってほしかった……。
マッド……。
私ね……あなたが私を必要としてくれたら、他に何もいらなかったのよ……。
誰からも必要とされたことがなかったから、必要とされることがうれしかったのよ。
私のことを愛してくれないあなたが憎かった。殺してしまうほど、愛してしまっていた。ただのエゴの塊だった。
たまにあなたのことを考えたの。私があなたの役に立ちたいとか考えないで、あなたと対等な関係を望んでいたら……。あなたに魔力なんて与えないで、楽しいことや辛いことを相談するただの友達でいられたら……今頃、私たちは笑いあえていたのかなって。
確かに、あなたは私を殺そうとした。だけど、あなたを追い詰めたのは、私の存在だった。あなたに偽りの評判を被せ、苦しめ続けていた。そのことに気が付かず、あなたに嘘ばかりつかせ続けた。
ごめんなさい、お母さん。女手一つで育ててくれたお母さんのことが大好きだった。魔力がある私を疎んでいたことは気が付いていたけれども、お母さんはそれでも優しかった。
再婚したときに、自分が邪魔になった気がして、怖かった。お父さんが私のことをよく思っていないのは、気が付いていた。エレボスと私に対する扱いが違うことに気が付くたびに、胸が痛くなったの。それを見て見ぬふりをされて、心が痛くてたまらなかった。
お母さん……。私なんかが、生まれてきてごめんなさい。
あんな風にお母さんを悲しませて、自殺させるつもりなんてなかったの。ただ、何もかもむちゃくちゃにしたかっただけだった。小さい頃、癇癪なんて一度も起こしたことがなかった。だから、自分の中で爆発してしまったの。ずっといい子でい続けたから、疲れていた。生まれて初めてわがままを覚えた子供みたいに、好きなようにふるまいたかった。
エレボス……。
私ね……夢を見るのよ……。
私は、今とは全然違う人生を歩んで、毎日、幸せそうに笑っているの。私には、友達ができて、お母さんもお父さんも健康で長生きするの。もちろん、エレボスともたくさん遊ぶの。私は、かわいいあなたをたくさん甘やかすの。
いつか私のことを愛してくれる人に出会って、私もその人を好きになって結婚をするのよ……。
私は好きな人の隣にいて、毎日、彼のためにご飯を作るの。そのうち、子供が生まれて、二人で一緒に名前を考えるの。子供は大きくなって、結婚式をする。
そして、よぼよぼのおばあさんになって、愛する人達に手をつながれ、人生を振り返って幸せだったと思いながら、死んでいくのよ。
そんな人生を歩みたかったなぁ……。
ずっと、後悔していた。
けれども、引き返すことができなかった。
壊す側にいられることに、安心していた。
ハデスを見つめるエリュシオンが眩しく思える。
光のある温かい世界に憧れていた。あまりにも憧れすぎて、嫉妬して、悔しくて……そんな世界を壊すことしかできなかった。
ねえ、エレボス……。あまりにも愚かな生き方だったわ……
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