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奴隷ベリアル
ムーレの奴隷
しおりを挟む人生は、不公平だ。
金持ちの人間は一生遊んで笑って暮らし、奴隷に生まれた人間は奴隷として休む間もなく働きながら死んでいく。
おいしいものを食べることもなく、温かい湯船につかることも、人並に恋することも、おもしろい本を読むこともできずに死んでいく。
与えられるのは、鞭と暴言ばかり。地獄で生まれた人間は、地獄で死んでいく。
この世界で美しいといわれているものに触れることもないだろう。
おもちゃを買い与えられた子供も、温かいご飯を食べている人間も、スポーツをしている人間も、綺麗な服を着ている奴らも……何もかもが憎い。そういう奴らは、きっとこの下水道のようにぬめりきった汚くどす黒い感情を知ることなく死んでいくのだろう。
こんな悲しくて、息がつまりそうになるくらい苦しくて、どんな生ゴミよりも醜くおぞましい感情とは無縁の人生を送り続けるのだろう。
ベリアル・カラドボルグは、生まれた時から奴隷だった。本当の名前よりも、1028番と連呼されることの方が多かった。ロタンから更に西に位置するムーレという場所の収容所で管理されて、朝から晩まで肉体労働をしていた。5歳になった時から、休みなんて一日もなかった。
「さぼるなっ!!永遠に働き続けろ!!」
毎日、指揮官のピートに八つ当たりのように鞭で打たれた。
それをバカにするように1044番が笑っている。くそっ。そう思っていると、更に鞭で打たれる。
「相変わらず反抗的な目をしているな」
容姿は黒目黒髪という目立たないものであったが、鋭い目をしていたベリアルはそれを殴る理由にされることが多かった。
「うぐっ」
鞭でビシッと背中を打たれた。
あまりの痛さに地面に崩れ落ちると、罰だというように更に鞭で打たれる。
「お前みたいな奴の命は石ころ同然なんだよ。反抗なんてするなっつ」
「あっ。ぐっ……。うぐっ……」
ひゅんひゅんと容赦のない鞭の雨が降り注ぐ。
痛い。痛くてたまらない。だけど、ピートはストレス発散するように更に鞭を打ち続ける。
「うっ……」
皮膚が張り裂け血が流れていく。赤い血が辺りに飛び散る。
痛みをこらえるため、必死に手に爪を突き立てた。
世界が憎かった。
痛みをグッとこらえながら、呪うようにこころで呟く。
こいつら全員、殺してやりたい。いつか……絶対に奪う側になってやる。俺に屈辱を与えた人間に、何倍にもして復讐してやる……。
食事の時間は弱肉強食である。
力のあるものは、力のないものからご飯を奪う。力のないものは、泣き寝入りするしかない。中には餓死するものも、当然現れる。
俺は、いつも自分の食べ物を何とか確保して壁際で、一人で食べる。
「お願いします。僕にもご飯をください」
他の人間に奪われて飯にありつけなかった小さな乞食共は、汚い手を伸ばしながら、泣きそうな声を出す。
「汚い手で触るなっ!!!これは俺のものだ!!」
大事なのは自分だけだ。 こいつらは、蛆虫だ。人のものを横取りしようとする寄生虫だ。
他人に優しくしたところで自分に返ってこない。むしり取られていくだけだ。
いつかお腹いっぱいにご飯を食べたい。
それが俺の抱いたちっぽけな夢だった。
部屋に戻る途中に、黒猫に話しかけられたが、無視して歩き出した。ロキは、3か月前からこの近くにやってきた黒猫だ。俺と仲良くなりたがっているが、俺は、猫をかわいがる余裕なんてなかった。
5人部屋に戻り、寝ようとするが、床に横たわっているとどこからが子供みたいな泣き声が聞こえる。
『うわああああああああんんんんんん。僕を助けてえええええええ』
くそうるさい……。
『早くおうちに帰りたいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。姫様ああああああああああああああああああああああ!!!こんな汚いところはいやだよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
今日は本当についていない……。
鞭で打たれて身体じゅうジンジンして早く寝たい……。だけど、うるさくてたまらない。
こんなに疲れているのに、これじゃあ一睡もすることができないかもしれない。
声の聞こえる便所の方へ行ってみると、灰色の毛並みをした小さい狼みたいな生物がうずくまって泣いていた。
「ピーピーギャーギャーうるさいんだよ!!!てめぇのせいで眠れないから黙れっ!!じゃないとお前を丸焼きにして食ってやるっ!!!」
『僕の言葉がわかるの?』
動物は涙で濡れた青い目をキラキラとさせながら、聞いてきた。
「ああ」
小さい頃から、動物や聖獣の喋る言葉がわかった。おかげで、他の人間には聞こえないような声まで聞こえてきて眠れない。
『お願いっ。僕を姫様のところに連れていって』
「姫様って誰だよ。そもそもお前どっから来たんだよ」
『……姫様は、秘密だ。お前が敵かもしれないから。僕は、ルジアから逃げていたんだ。追いかけられて、川から落ちて流れ着いたんだ』
「だったら、川を上って戻ればいいだろう」
『鬼畜!!鬼、悪魔!!』
「うっせぇな。そもそも俺は、奴隷だしここから出られない」
『私が出してやろうか』
その怪しげな声と共に窓辺に一匹の黒猫が窓から現れた。
「ロキ……」
俺によく話しかけてくる猫だ。
ロキは、俺のことを何かと勘違いしているのか、『お前はこんなところでくすぶっている人間じゃない』とか『カリロスの血が流れている』『ドラゴンだって操れる』など怪しげなことを言ってくる不気味な奴だ。当然、相手にしなかった。そのうち、俺に飽きたのかどっかに行ったと思っていたが、また不意に現れた。
『私なら、お前をここから出せる』
「ふんっ。猫のくせに。やれるものなら、やってみろ」
たかが猫に何ができる?せいぜい門番につかまって終わるだろう。
『ああ、わかった』
ロキは、得意げにゴロゴロと喉を鳴らした。
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