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奴隷ベリアル
世界を変える出会い
しおりを挟むロキは、音を立てずに収容所の入り口にいる二人の護衛に近づいた。そして、空中で高速回転しながら二人に体当たりをした。
「おぐっ……」
「あがっ……」
ロキにパンチされた護衛は、吹き飛び気絶してしまった。
「まじかよ……」
ロキは、澄ました顔をしながら顔を搔いた。
「これくらい大したことじゃない」
ロキのおかげであっけなく、外の世界に出ることができた。
外の世界に出るのは、3か月ぶりのことだった。3か月前は、橋の建設のため、収容所から出て街外れの場所で働かされていたのだ。外にいる人間は自由で……、子供は遊びまわり、美味しそうな匂いがする屋台がたくさん並んでいた。食べたことのないお菓子、楽しそうなおもちゃ……そんなものがたくさん見えて、羨ましかったことを覚えている。
今は真夜中だから人通りはないが、美しい街並みが街灯の灯りに照らされている光景だけで、感動しそうだった。
まるで夢みたいだ。こんな光景、一生見ることはないだろう。
そう嚙み締めるように、姫様の匂いをたどっているスノーの後を歩き続ける。
30分ほど歩き続けると、あっという間にスノーの飼い主の場所を特定することができた。
古い宿屋のドアをノックしてから開けると、いきなり剣を喉元に突き付けられた。
「うわっ。何するんだよっ」
剣は冷たくひんやりとしている。その感覚で恐怖が呼び起され、パニックになりそうだった。
「何者だ?答えろっ!!!」
剣を持っているのは、少し跳ねている赤茶色の髪にはちみつ色の目をした少し目つきの悪い男だった。年は、20歳くらいだろうか。長袖の白いシャツを着ていても、鍛え抜かれた体をしていることがわかった。その気になれば、すぐに俺は殺されるだろう。
「待って、バルドル。スノーよ!!!」
その時、泉のように透明感のある声がした。
声のする方を見ると、透き通る神秘的な水色のショートボブの髪に、青い宝石みたいな瞳をした神の祝福を受けたように美しい少女が目を輝かせて駆け寄ってきた。
頭につけている青い宝石がついた簪がキラリと光っている。
彼女は、襟の付いた白いワンピースに白いブーツを履いている。高そうなものを着ているし、貴族かもしれない。
まるで人形みたいにパッチリとした瞳をしていて、ショートヘアのためか、瞳が大きく見える。唇は艶のあるピンク色で、頬はほんのりとバラ色に染まっていた。
こんなにかわいい子は初めて見た。思わず見とれてしまう。
「スノー!!」
スノーも嬉しそうに、彼女の腕に飛び込んだ。
「あなたがスノーを見つけてくれたの!?」
泉のように透明感のある声が弾んでいる。
「ああ、そうだ」
「ありがとう」
彼女は、天使みたいな笑顔を浮かべた。
か、かわいい。
こんな風に誰かからお礼を言われたことなんて今までなかったから、ドキドキする。
「姫様。危険です。この男に不必要に近づかないでください」
赤茶色の髪の男は、苛立ちを隠そうともせず声を荒げた。
「スノーを運んできてくれたのよ。勝手に危険だなんて決めつけないで。でも、どうしてここがわかったの?」
「別に……。そいつについていっただけだ」
スノーと会話ができるなんて言ったら、頭がおかしい男と思われるだけだからごまかした。
「バルドル。剣を下ろして。聖獣がなつく人間に悪い人はいないはずよ」
どうやら、赤茶色の髪の奴は、バルドルというらしい。いかにも貴族についてそうないい名前だ。
「ふん。どうだか。世の中には、死んだ人間を操れる極悪人だっているだろう」
「でも、彼はスノーを運んできてくれたのよ」
「そうだ。俺に感謝するなら、飯でもくれ」
「おいお前、無礼だぞ。だいたい姫様と話すときは、膝をついて頭を下げるか、土下座しろ。……城にいたら百回は投獄されていたぞ」
そう言いながらも、喉元に突きつけた剣は下ろしてもらえた。
「いいのよ。ごめんなさい。ご飯は今、手持ちがないの。代わりに、これをあげるわ」
そう少女は、簪を取って渡してきた。
「姫様っ!!そんな大事なものをあげるべきではありません」
「いいのよ」
宝石のついた簪を見ていると、不愉快な気分になる。こんなものを貰ったところで、何になる?どうせ他の人間に奪われるだけだ。そうかと言って、これを売り飛ばしたところで、一週間くらい食いつなげるかもしれないが、その後、行き場を失う。人身売買され、今度は、臓器でも売られるかもしれない。売り飛ばそうとしても、俺が盗んだと疑われるかもしれない。
飯をよこせと言っているのに、それすら持っていないなんて……。
「そのガラクタは一応もらっておく。ただ飯をよこせって言っているのに……。使えないやつらだ」
ただ、これでもう、こんな奴らに関わらなくてすむ。うるさい聖獣とも関わりを持たずにすむ。
「貴様っ!!姫様になんてことをいうんだ!!!」
赤茶の男を無視して帰ろうとするが、スノーが足元にしがみついてきた。
「おい、お前、離せよ。汚いだろうが」
『嫌だ。ベリアルも僕たちと旅をして。僕にはあなたが必要なの』
「ふざけるな!お前が、話し相手が欲しいだけだろうがっ!!」
必死でしがみつかれた右足をガシガシと空中を蹴るように動かすが、スノーは張り付いてしまったように離れない。
『それもある。だけど、それだけじゃない。あなたは、特別な人間だ。きっと彼らの役に立つ』
「でたらめなことを言っているんじゃねぇ。いいから、汚い口を離せ!!」
『嫌だ!』
「このクソがっつ」
「もしかして……あなた、スノーの言葉がわかるの?だから、スノーとここまでこられたのね!」
少女は、頬に手を当てながら瞳を丸くさせキラキラと輝かせた。
「……違う」
どうせ頭がおかしいと信じてもらえないに違いない。
「だけど、人見知りのスノーがこんなになつくなんて珍しいわ。ねぇ。あなたも一緒に私と来て欲しい」
「どこに?」
「世界へ。きっと長い旅になるわ」
少女は、姿勢を正し胸に手を当てながら、ハープみたいに歌うように滑らかに言葉を奏でていく。
「私は、ネプト・オルトロス。この世界を支配するオルトロス家の人間よ。貴方をこの私の専属護衛に任命してあげるわ」
ピシッと俺を指しながらそんな突飛なことを言った。
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