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ロタン
失礼な友達
しおりを挟む「本当にこんな格好をする必要があるのか」
エリュシオンの顔色を伺うように恐る恐る問いかけると「あります」と自信満々に言い切られた。
「でも……」
「また、虫の大群に狙われてもいいんですか」
迫力のある目でギロリと睨まれる。
ロタンまであと、2キロほどの通り道、ハデス・ダインスレイブに転生した僕は、女装しながら馬車に揺られている。馬車は、格安の荷馬車で車輪が石につまずくたびに振動が伝わってくる。
勘違いしないでくれ。僕に女装癖があるわけじゃない。
虫の大群に暗殺されかけた僕は、エリュシオンから変装することを提案された。宿屋で待っていると、エリュシオンが持ってきたのは女装用のセットアップだった。新手の嫌がらせに間違いない。そして、言葉巧みに説得されて、女装したのち、ロタンまで馬車で移動している最中である。
「おねーさん。綺麗だね」
不意に声が聞こえた方を見ると、木に寄りかかってタバコを吸っている一人の青年が目に入った。
彼は、癖のあるピンク色の髪に血のように赤い瞳をした派手な男だった。耳には、ギラギラと輝くピアスが何個もついている。黒いワイシャツに黒いズボンをしていて、ワイシャツのボタンは外されている。
全身からフェロモンでも出てそうなくらい、色気が漂っている。
獰猛な肉食獣を思わせるようにギラギラとした目をしながら、値踏みするように、僕らを見つめている。
何だ?こいつ……。カツアゲでもしてくるのか。
だけど、殺気が感じられない。
「よっ、親友。逢いたかったぜ」
何とピンク頭の男は、エリュシオンに向かって手を挙げた。
え?え?え?
お、お、お、お前の友達、そんな奴だったのか!?
お前、友達いないと思っていたのに……。
お前がそいつと友達になるまでに何が起こったの?どんな弱みが握られたんだ?
え?まさか、実はこういう人間に憧れていたとか?
「俺は、全然会いたくなかった」
エリュシオンは、苦虫を嚙み潰したような顔をしながらそう言った。
「そんな連れないことを言うなよ。お前に会えなくて寂しかったんだぜ」
そう言いながら、男は荷馬車の後ろに飛び込んで、馴れ馴れしそうに背後からエリュシオンの肩を抱いた。
「暑苦しい。離れろ」
「またまた~。照れちゃって~」
「照れていない。お前に寂しいなんて感情があるとは思えないんだけど」
エリュシオンは無理やり男を引き外し、汚いものが身体に触れてしまったかのように服をはたいた。
「そうだ……久しぶりに会った親友に頼みがあるんだけど」
ピンク頭は、懲りないでまたエリュシオンに話しかける。
「お前のこと友達と思ったこと一度もないから」
氷点下の声で、ぴしゃりと告げるエリュシオン。
ひどっ。お前、どんだけ冷たい奴なんだよ。さすがに、友達がかわいそうだろう。
「そんな冷たいことを言わずに、お金を貸してくれよ~」
……どうやら、悪いのは、エリュシオンではなく、このくそ友達だったらしい。
「お前に貸したお金が帰ってきた試しがないんだが」
「安心しろ。いつか倍返しにしてやるから」
ギャレットは、バシバシとエリュシオンの肩をバシバシと叩きながらそう言った。
「ていうか、隣にいる女って誰?え?まさか、彼女?お前?彼女?あのお前に?」
「ああ、そうだ」
きっと、エリュシオンは説明するのが面倒になり適当に答えたのだろう。
「ええええええええええええええええええええええええ!!!お前……仕事と結婚するんだと思っていたのに……。恋愛に興味ない無性愛者だと思っていたのに……」
「そんなことない」
そうエリュシオンが否定するが、僕は未だにエリュシオンのことをそんな冷血漢だと思っている。
「あ、この子ちょっとハデスに似ていない?ハデスにいじめられている間に、お前、あんな奴を組み敷きたいとか特殊な感情が芽生えちゃった?愛と憎しみの狭間に……みたいに」
なんて失礼な男だ……。デリカシーのかけらもない。
「まあ、そんなわけないよな。あのゴミくずハデスだもん。お前もライオンの餌にしてやるとか言っていたしな。安心しろよ。お前がハデス、大嫌いであることは俺も知っているから」
そのハデスがここにいるんだが。本来のハデスだったら、こいつを骨すら残らないレベルで消し炭にしていただろう。
「……お前、頼むから黙ってくれ」
「嫌だね。こんな楽しいことはもっと追求しなくちゃ。どうして二人だけで旅をしているんだ」
「……」
助けを求めて、エリュシオンをちらりと見る。
「……駆け落ちだ」
答えにつまったエリュシオンが適当にでっち上げやがった!!!!
あああああああああああ。こいつがしゃべればしゃべるほど、首に縄が閉まっていく感じがする。辛い。辛いいいいいいいいいいいいいいいいい。
「お、お、お、お前が駆け落ちいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!」
ギュレットの顔が噴火したように顔面崩壊した。
「あははははははははははははははははははははははははっ。うひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!!ぷははははははっはははははははは!!!!あひゃひゃひゃひゃはははははは!!!!ダメだ。笑いすぎて、お腹が痛いっ!!!!」
彼は、お腹を抱えて笑い苦しくなったのか、やがて咳き込み出した。笑いすぎたせいか、彼の瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる。
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