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ロタン
役立たず
しおりを挟む娼館ヘブンにたどり着いたギャレットは、2階の南側にある隅っこの部屋に石を軽く投げた。
すると、窓を開けてアイラが顔を出した。
「誰?」
「俺だ」
「すぐ行くわ」
そう返事をしたアイラは、急いで降りてきた。
「……ミゲルを殺した」
「ミゲルは死んだのね。ざまあみろっ!!ヤグルを殺したから罰が当たったのよ」
ヤグル?ヤグルとは、ヤグル・ディルバードのことだろうか?10年以上も前に行方不明になった人物である。いや、ヤグルなんて大勢いるし、人違いかもしれない。
「ハデスとエリュシオンは?」
「……去っていったよ。もうロタンにはいないだろう。俺には、二人を殺せなかった」
「違うわ!!!あなたは、殺せなかったんじゃない。殺さなかったのよ!!」
「どうしてあの二人をそんなに憎んでいるんだ?」
「あいつらは、弟を殺したのよ!!!あたしですら見捨てたかわいそうな弟だった!!!ずっと家畜のようにひどく扱われてきたの!!だから、ろくでもない人間になってしまったけど……私にとっては、ただの弟なの。だから、せめて仇だけはとってあげたかった……」
「ノーチは、生きているじゃないか」
「……彼は、実の弟じゃないわ。血の繋がった本当の弟を殺されたの」
アイラ・フォティアが、ノクト・フォティアの実の娘でないことには気が付いていた。彼女が7歳の時、ノクトが自分の隠し子だとある日、突然フォティア家に連れて来た。アイラに対する情報を探ってみたが、手がかりは掴めなかった。噂によると、ディナヴィアの奴隷商人が似たような容姿と背丈の女を扱っていたらしいが、アイラに関連する名前かどうかわからない。
「君の実の名前はなんていうんだ?」
「……けがれた名前よ。だけど、貴方がエリュシオンを殺したら教えてあげる」
世の中には、どうにもならないことがある。
長いため息をついてから、アイラに謝ることにした。
「悪いな。あいつ、俺の友達なんだ」
「この役立たずっ!!!私のためにどんな人間でも殺せるっていったじゃないっ!!!」
そう罵られながら、平手打ちされる。
そして、カツカツと足音を立てながら、彼女は去っていった。
「悪いな、アイラ……。何事も例外はあるんだ」
自分にとってエリュシオン・リジルとは何なのだろうか。
初めて会った時、俺は、あいつを殺そうとしていた。だけど、殺せなかった。
これじゃあ、やばいと焦りだした。依頼に失敗したら、処分されるのが自分の方だ。
2回目は、もっと念入りに準備してきた。けれども、殺すことはできず、殺されかけて逃げた。
3回目は、あいつの過去を徹底的に調べ上げてから挑むことにした。すると、驚くべき真実が次々とわかり、同情心すら生まれていた。そうせいだろうか。殺そうとしたけれど、本気でやろうとすることすらできなくなっていた。そして、殺せなかったあいつに『友達に
なろう』と提案したのだ。
自分が本気で殺そうとして殺せなかった人間は、エリュシオンが初めてだった。彼は、他の人間とは全然違う。他の人は、紙細工みたいに脆い存在だ。殺そうと思えばいつでも殺せてしまう。自分の周りで家族以外の人間は次々と消えていく。だけど、エリュシオンだけは違う。その存在を失いたくなかった。
アイラだって特別な存在だ。彼女がエリュシオン以外の名前を言ったなら、叶えてあげたかった。だって自分には、人を殺すことしか取り柄がないのだから。
俺みたいな人間は、どこにもいない。
人を殺す才能がある、ろくでなし。
人を殺すためだけに生まれてきた死神。
自分は他の誰もが追いつけないくらいダメな奴で……だから、こんなに孤独だ。
「酒でも飲んでから行こう」
ジンジンとする頬を抑えながら、夜の街へと歩き出した。
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