支配の王冠~余命一年の悪役転生から始まるバトルロワイアル~

夜刀神さつき

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番外編  ソリト編

彼がオタクになった理由

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 その夜は、ノーチとその場で別れたが、ノーチは僕に会いに、しょっちゅう居酒屋を訪れた。最近は、僕の仕事が終わるのを待ってから、一緒にご飯を食べたり、作ったりするようになっていった。

 彼は、絵姿を持ってきたり、ソリトの武勇伝なんかを聞かせてくれたりしたが、一向に興味は持てなかった。しかし、僕がソリトについて詳しいとわかると、水を得た魚みたいにしょっちゅう店に押しかけてソリトの話ばかりしてきた。

 僕がノーチと仲良くなっていったせいか、ノーチのことを狙っていたが全く相手にされていないタチヤーナからは恨まれ嫌がらせをされるようになった。

 牢屋で一人監禁されていたこともあり、人付き合いが苦手であった僕は、ソリトという幻想なんかに憧れるノーチのことを恐れながらも、彼と過ごす時間がどんな時間よりも貴重な瞬間に思えた。

 ずっと誰かと過ごす時間に飢えていただろうか。ノーチと一緒に食べるご飯はいつもよりもずっと美味しく感じられた。ノーチのくだらない話が、どんなに面白い小説よりも価値のあるものに思えた。ノーチと過ごすと心に花が咲いたような気分になった。

 その日も、近くのご飯屋でソリトのことを話し出した。

「ああ。もうすぐ6月21日!ソリト様が生まれた記念日だ」

「いやいや、まだ一か月以上先じゃないか」

「俺は、3か月くらい前からこのことを考え続けていたけれど……」

 重すぎる……。

「そうだ。もうすぐ、俺はコロセウス剣大会に出場するんだ。応援に来てくれないか」

 赤の騎士団のみの大会は毎年開催されるが、コロセウス剣大会は不定期に開催され商品や名誉を求めて他国からも参加者がやって来る。しかし、死者も多く出るため、実力がある人間しか参加するべきではないと言われている。

 ノーチなら、騎士団の大会で優勝したノーチなら、死ぬことはないと思うが、少しだけ不安になる。

「お昼時は忙しいから無理だと思う」

「そっか。ちなみに今年の商品は、やばい。宝刀紅華だ」

 驚きあまり食べようとしていたミートボールをポトリと落とした。
 宝刀紅華!!本来なら僕が継承するはずだった伝説の剣だ。

「俺は、それを手に入れて、いつかソリト様に捧げようと思う」

「……ソリトは、もうそんなものいらないんじゃないかな」

「あれは、ソリトにこそ相応しい。俺は、必ずあれを手に入れてみせる」

「どうして、そこまでソリトが好きなんだ?」

「うまく言えないけれど、きっかけはソリト様に助けられたことだった」

 ノーチは、照れくさそうに頭をかきながら話し出した。

「幼い頃、俺は、スリの達人だった。俺以外の男兄弟はみんな大きくなると売られたが、俺は、スリが得意だったから、売られなかったんだ」

 明るい彼にそんな過去があったことは予想外だった。

「ある日、スリをしようとしたが、ばれて捕まった。殺されそうになったが、偶然、その場にいたソリト様が助けてくれたんだ。それだけじゃなくて、彼は自分の耳についていた赤いイヤリングを外して、『これで美味しいものを食べろ。自分と同じくらいの年だから、助けてあげたい』と声をかけたんだ」

 あの時の少年は、彼だったのか。ウォルダー将軍が一人の少年を殺そうとしていたのを見つけて、かわいそうに思って彼を助けたのだ。

 彼の右耳には、あの時のイヤリングがまだついている。ソリトが好きだから、売ることができなかったのだろう。
 あれは……ほんの気まぐれだったのに……。
 ノーチは愛おしむように、イヤリングに触れた。僕が持っていたもう片方のイヤリングは、きっと誰かに奪われたか、ゴミにでもなっただろう。

「いつか、ソリト様に追いつきたい。がっかりされたくなんかない。彼に出会えた時に、彼から認められる存在になりたい。だから家を出て、騎士団に入った」

 がっかりされるのは僕の方だ。
 どうか彼に一生正体がばれませんように……。彼の美しい幻想がいつまでも消えませんように……。
 心の奥でそう願った。
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